挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

狙われたゴレーヌ村

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

223/301

幼女のお姉ちゃん


 気まずい沈黙。
 ここはダメ押しするしかない……

「ふぅ。ミチルはなんて魅力的なんだ。俺は魅了されてしまった」
「ふぇ!?」

 ……うん、言っててないわーって思ったよ。
 だって魅了された演技とか、その、さすがに夢の中ではっちゃけてたネルのようになれる気が一切しない。

 こりゃ失敗したな。と、俺はそう思ったんだが、ミチルは「え、本当?」とチラチラ俺の様子を窺うように見てきた。

「かわいいなぁミチルちゃん」
「えへへ……」

 ダメ押しに褒めてみると、満更でもなさげに照れるミチル。
 いいのかよこんなので?

「わ、私のいう事、聞いてくれるんですか?」
「うんうん聞いちゃうよミチルちゃん可愛いからねー」

 俺が適当にそう言うと、ミチルはぱぁああっと笑顔になった。

「じゃ、じゃあ村長さん! くるっと回って手を振ってください」

 なんだそりゃと思いつつ、俺は言われた通り一回だけ回ってミチルに向かって手を振る。

「やった! なら次は逆立ちをしてください!」
「あっごめん。俺、逆立ちできないんだ」
「そこをどうにか!」
「……失敗してこけた瞬間にショックで魅了がとけちゃうかもなー」
「……できないならしかたないですね」

 いいのかよこんなので。
 自分で言っといてなんだが、魅了状態のハードル低いな。ネルのアレは明らかにやり過ぎだっただろ。俺は指輪(ネル)をちらりと見る。指輪の魔石が誤魔化すように淡く光った気がした。
 ま、過ぎたことはおいとこう。

「それで、俺はミチルちゃんに何をすればいいんだって? くすぐるか?」
「ぴ!? くすぐるのは無しですっ! お、襲っていいのは夢の中でだけなんですっ! あ、えっと。村長さんにちょっと一緒に来て欲しいところがありまして。……えっと、村の外なんですけど」
「よし、行こうか」
「あ、でもそのまえにお腹空いたので朝ごはんを要求します!」
「そうだな。サンドイッチで良いか?」
「はい!」

 にこっとまぶしい笑顔。なんかその、本当は魅了されてないんだけどごめんね?
 ……って、そう思うのは魅了入ってるんじゃなかろうか。気を引き締めてかからねば。


 俺が出したサンドイッチを平らげたのち、こっそりと宿を出て村の外へ向かう。
 ダンジョン領域からは外に出てしまうわけだが……布の服ゴーレムもあるし、【超変身】で自分に変身している状態なので残機も1あるわけで、かなり安全マージンは取っている。なんとかなるだろう。
 この状態だと【気絶耐性】も弱いのが玉に(きず)だが、指輪状態のネルも居るから気絶させられて夢の中で襲われても対抗できるだろう。
 最悪、俺に憑依してもらってサキュバスとなる可能性も……いや、考えないでおこう。

 森の中、少し開けた場所に出た。
 ここまで迷わずまっすぐ来たミチルがきょろきょろとあたりを見回す。迷子になった、という訳ではなく待ち合わせ相手が居るかどうかを気にしているようだ。
 ミチルは口に指を咥え、ぷふー! と勢いよく息を吹いた。

「あれ、お姉さまはこうやって音出してたのに」
「……もしかして、指笛のつもりか?」
「え、えっと。気にしないでください」
「あー、可憐なミチルちゃんの可愛い姿が見れたが気にしないでおくよ。大人しく声を出して呼んだ方が良いんじゃないか?」
「そうですね。……お姉さまー! ミチルです、成功しましたー!」

 結構大きな声でミチルが叫ぶ。ちょっと耳に痛い。
 しばらくして茂みからガサガサと音がして、そこからミチルと同じピンク髪の、ただしこちらはスタイルの良い大人の女性が現れた。……ほう、すばらしい脚だ。足もさぞかし……ごくり。

「お姉さま! 私、やりましたよ!」
「しー! 声が大きいわ。けどミチル、良くやったわね」

 明らかにサキュバスな布地が少なく煽情(せんじょう)的な衣装に身を包んだ女性が、ミチルの頭を撫でる。ミチルは嬉しそうに抱き着き、子犬みたく女性のお腹にすりすりと頬ずりしていた。
 こいつが『お姉さま』か。ミチルが言うにはサキュバスということだったか。うん、この格好はサキュバスだわ。

「その人が村長? ……噂には聞いてたけど、若いわね。じゅるり」
「はじめまして。『お姉さま』さん? 名前をお伺いしても?」
「その前に。ミチル、本当に村長は魅了かかってるのよね?」
「はいっ!」
「そうね……じゃあ、私の足を舐めたいってドゲザさせる命令はできるかしら?」
「もちろんです! 村長さ」
「はい、足を舐めさせてくださいお姉さま! できれば靴を脱いで直に!」

 俺は食い気味で土下座した。これは演技だから仕方ない。あー演技ツラいわー、ドゲザもしなきゃなんねーもんなー。っかー。

「……なるほど、好みじゃない女性を相手にこんな屈辱的な命令にも積極的に応じる。これは間違いなく魅了されてるわね」
「でしょ! ふふふん」

 俺の迫真の演技にお姉さまもすっかり騙されたようだ。
 で、足は? ……あ、いや、なんでもない。

「では、村長さんにこの契約書にサインするように命令してもらえるかしら?」
「はいっ! 村長さん、この契約書にサインをしてください」

 俺は土下座をやめてミチル経由で契約書とペンを受け取る。
 ……ほうほう、羊皮紙とはこれまた本格的な。えーっと?

「はやくサインしてくださいよ、お姉さまの前ですよ?」
「まぁ待て、俺は契約書にサインするときは内容をしっかり読むタイプなんだ。無理に普段と違う事させてうっかり魅了がとけたら困るんじゃないか? ミチルの魅了だぞ?」
「あっ、なるほど」
「魅了されてもそれが習慣で染み付いてるなんて、案外まともに村長してたのねこの人」
「お飾りの村長でも、気付いたら借金まみれでポイとかされたら嫌だからなー」

 ミチル達も納得したようなので契約書を読み込む。
 ……内容は、ふむ。あれ? これ前にウォズマが持ってきた書類と同じ内容だぞ? 普通に娼館の建築許可を求めるだけの書類だ。違うのは娼館の責任者の名前が『スイラ』と明記されてるくらいだ。

「この責任者のスイラというのはどなたで?」
「私よ」

 お前だったのか。ミチルの姉はスイラという名前らしい。

「ふーむ、スイラさんの目的は何かな? 快くサインするためにお伺いしたい」
「……ミチル。早くサインするように命令しなさい」
「はい! 村長さん、サインしてください」
「まぁまぁ。えーっと、このサイズの娼館だと働くにはミチルちゃんとスイラさんだけじゃ足りないよなぁ。他の従業員もサキュバスでそろえるのか? なんでわざわざこの村に? ツィーアの方が人も居るし儲かるのでは?」
「ちょ、ちょっと待って。本当に魅了されてるのよね? なんでそんな細かい所を……」
「ふむ? これくらい当然聞いとくことだろ? 当然。あたりまえ。息をする程度にね。せっかく作っても従業員が居なきゃ運営できなくて潰れる、従業員が村民として増えるなら食料の確保も必要だ、そこに種族ごとの違いだってある。そもそもツィーアにいけばこっちはその心配する必要が無いから前提も確認する。な? 当然だろ」

 口から出まかせをそれっぽくスラスラ喋る俺に、なんかミチルが疑いの眼差しを向けてきた。なので思い出したように魅了アピールをする。

「あー、疑う顔のミチルちゃんは可愛いなー」
「魅了されてるわね……」
「ですね? やっぱり私が半人前だから……?」
「そんな! ミチルは立派なサキュバスよ、私が保証するわ!」
「お姉さま……!」

 ひしっと抱き合う2人。これはいいものだ。これでいいのかとは問いかけたいが。

「……まぁ、そうね。従業員は他に8人ほどサキュバスと、人間が1人居るわ。サキュバスの食事は主に精気だから、普通の食事はカモフラージュできる程度に食べれば十分ね。……ツィーアに行かないのは、ツィーアで開業するお金が無いからよ」

 俺が魅了されていると信じたスイラはあっさり答えてくれた。
 なるほど、他にサキュバスが8人、人間が1人と。

「って、サキュバスの中に人間が1人いるので?」
「ええ。娼婦の仲間よ。ほぼサキュバスといっていいくらいの好き者でね……って、それはもういいじゃない、これでサインしてくれるのよね?」

 あー、どうすっかな。
 とりあえず聞きたいことは聞けたし、もう魅了されてるフリはいいかな。

「ウチにいる子供の教育に悪いので却下で」
「……は?」

 スイラは、唖然とした顔をしていた。
 ミチルは慌てて俺の服を引っ張った。

「ちょ、ちょっと村長さん!? 話が違いますっ、言ったらサインしてくれるって……そもそも可愛い私のためにサインしてくださいよっ!」
「あー、ミチルは可愛い可愛い。じゃ、俺は帰る。あ、ウェイトレスのバイトでよければ2、3人くらい雇ってもいいぞ。なんか事情ありそうだし、さすがに11人だと多いから時給で交代制として……」
「待ちなさい! あなた、魅了されてないわね!?」

 スイラが手を前に突き出すように構える。魔法スキルの予備動作だ。

「私達がサキュバスだと知られたからには、生かしてはおけないわ」
「ほう。……なら、こちらも戦うしかないな」

 俺も構える。先日来たワタルがセツナに柔道技を教えていたのを見たから新しい技が増えてるんだ。折角だ、試させてもらおう。

 俺は、スイラの腕を捕まえ、引っ張りながら足を払う。そして、寝技をかけた。

「きゃあっ! お、起きれない……っ」

 服の布地が少ないからこぼれたりちぎれやしないか心配だったが、あっさりと決まったぜ。腕ひしぎ十字固め。

 ……あっ、良い匂い。しかも女性特有のぷにぷにした柔らかさが気持ちいい。

 そして俺の頭はほんわか(・・・・)した。
(うーん、サキュバスの名前紛らわしいですか。変えるかなぁ?)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ