お誘い
というわけで、セツナについては落とし穴か何かでダミーコアまで案内してみることにしよう。
……ナユタの方は、んー、切り離しておきたいところだが。さて、どうしたもんか。
ちなみにナユタに売ったお米については、パヴェーラにあるというワコーク商会から使いが来て、金貨40枚の頭金と引き換えに現物を持って行った。
持ち逃げが無いことが確定だ。そのことをワタルに告げたところ「ええ、分かってましたよ」といいつつもほっとした顔になったのは、俺でなくても見逃さないね。
「……ところでワタル、今回滞在長くないか? 普段2、3日で帰るだろ」
「ああ、ハク様から少し多めに休暇を頂けまして。先月は忙しくてこれなかったもんですからね。もう少し滞在しますよ?」
そういえばダンジョンバトルに合わせて仕事詰め込まれてたんだったなコイツ。
折角だから手伝ってもらおうかな。
ダンジョンに行くとして、ワタルの誘いならセツナとナユタも一緒に行くだろう。
「そんなら、ちょっとあの姉妹をダンジョンに連れてってやってくれないか? ほら、このダンジョン日本のモノがよく出てくるし、そういうの勇者であるワタルのほうが詳しいだろ」
「いいですけど、それ言ったらケーマさんも勇者じゃ……」
「おいおい何寝ぼけてるんだワタル。俺は今まで自分が勇者だなんて一言も言っていないぞ? 両親は日本人だが」
「ソーデスネ」
なんか棒読みで返された。もう絶対こいつ俺を勇者として見てるよな。
でも以前超スキルがあるようにほのめかしたから、その線かもしれない。そのあたりの誤解を解いておこうか。
「そういえば、勇者って神様から普通よりすごいスキルを貰ってるんだろ?」
「え? そうですね。ケーマさんもスキル持ってるんじゃないですか? 仲間を守るために発動するカッコイイ条件付きの奴」
「ああ、あれ嘘だから。親は除いて勇者と会うの初めてだったからハッタリかましただけ。今だから言うけど、俺はそんなスキル持ってないよ」
「え……そ、そうだったんですか?」
ワタルはあからさまに動揺した。
ちなみに親は除くが、その親が勇者だとは言っていない。仲間を守るためにしか使えない制約のあるスキルだって持っていないから嘘は一切ない。俺ってばなんて誠実なんだ。
「あれはもっと単純にイカサマしただけだからな。それこそ、種を知ったらこの前の模擬戦よりよっぽど笑えるくらいのな」
「……なんで今、それを僕に話したんです?」
「もうただの手品だったなら無効だ、とかいって借金踏み倒そうとは思ってないだろ?」
「むむむ……おっしゃる通りです。ケーマさんの仲間を賭けた対価ですからね」
ワタルは肩をすくめて肯定した。まったく、律儀すぎる奴だ。
「ちなみにその種は教えてくれるんですか?」
「馬鹿言え、一応俺の飯の種なんだぞ。誰が教えるか」
「ですね。……ちなみに今の僕なら【超幸運】もLv2に上がってますし、3回ダイス転がして3回とも6、なんてのもできるかもしれません。あとネズミレースで僕が適当に賭けたのが悉く当たる始末で、イチカさんから泣きながら遊戯室出禁を言い渡されました」
「おう、酒場のスロットも回すんじゃないぞ、村規模の庶民の市場を荒らすなよ勇者」
「はーい。まぁこれの儲け分はプリン奢って還元しておきましたから」
【超幸運】、Lv2になったのか。
……つまりどこかのダンジョンを攻略させたのか、ハクさん。
というかワタルはスキルについてペラペラしゃべりすぎだぞ、こっちに都合良いけどさ。
と、ワタルにあの姉妹をダンジョンに連れて行ってもらう話に戻す。
単にワタルと一緒に、ってだけじゃむしろワタルが邪魔になる。そこで、この一手だ。
「あ、そうだ。セツナたち姉妹と、ついでにネルネを連れて行ってやって欲しいんだが」
「ネルネさんをですか?」
セツナたちを誘導するため、かつワタルが余計なことを言わないようにするために、ネルネを連れて行かせる。1粒で2度おいしい手だ。
「ああ。実は最近新しい施設が発見されてな。ネルネはそこを調べたいらしいんだ」
「新しい施設ですか?」
「なんか小さい部屋があって、12時間その中に入ってるとアイテムが貰えるそうだ。基本は金らしいけど、運が良ければノーリスクで魔剣が貰えるらしい」
「へぇ。『運が良ければ』ですか」
「そうだ。『運が良ければ』だ。試してみる価値はあるだろ?」
運の良さで言えば、ワタルは他の追随を許さない【超幸運】の持ち主だ。
実際に配置してる側の俺からは何が出るか丸分かりだが、ワタルを誘うには良い文句だった。
「ネルネについては別に俺が連れて行っても良いんだが、折角ワタルが居るんだしな」
「……つまり勇者である僕を良いように使おうと? 本当は高いんですよ僕の仕事って」
「なんだ、ネルネのいないところで女性2人とイチャイチャする方が良いのか」
「お任せください、ネルネさんの身の安全は勇者の名にかけて保証させていただきます」
その態度、分かりやすくて好きだよ、俺は。
「あれ? でも冒険者でしたっけネルネさんって」
「なったんだよ。すぐそこにダンジョンがあって、正面に冒険者ギルドの出張所もある。ランク低くても冒険者になっといた方が色々都合がいいからな。ランクはEだけど」
「そこは勇者の僕と一緒にダンジョンに潜るために、とか言ってくださいよケーマさん」
「……まぁそれも間違っちゃいないな」
「やっほう!」
ちなみに3人娘は全員Eランクだ。宿の仕事をギルド経由にして無理矢理依頼達成数を上げ、戦闘テストもダンジョン内のゴーレムをうまいこと操作して勝たせた。
さて、あとはネルネがうまいことやってくれればセツナだけをダミーコアの前までご案内できるぞ。その前にあの施設を少しだけ改装しておかなきゃな。人が入ってるからできることも少ないからなー。
*
というわけで、早速翌日にワタルに連れられた3人がダンジョンに潜っていった。
セツナとナユタは冒険者として慣れたものだし、素人同然であるはずのネルネにはむしろホームなので全く緊張感が無い。
「やっぱりー、勇者さんと一緒だとー、安心できますねー?」
「あっはっは! 任せてくださいよネルネさん! あ、そこトラップあります気を付け」
「えー?」
「危ないッ! あたっ、ふぅ、ただの石矢でしたか」
……ホームだけど罠にかかるネルネ。それを身を挺してかばって無傷のワタル。
ネルネ、それ演技だよな? ガチで引っかかってないよな?
あとワタルの方も二の腕の鎧つけてないところに当たったと思ったんだけどなんで無傷なの? 初心者向けの石の鏃だけどさ。
「勇者様には矢は効かないのね……」
「はっはっは、これでも鍛えまくってますから! ハク様から人間辞めてるレベルとお墨付きもらってますよ」
「すごいの! ちょっとナイフ刺してみていい?」
「やめてください、前に修行の一環で刺されまくった記憶が蘇っちゃうので……」
うん、人間辞めてるわお前。
「あらー、ゴブリンさんだー。あははー」
「のわっ! 出たなゴブリン、ってなんで普通に手を振り返してるの!?」
「そうだネルネさん、ゴブリンは錬金術で肥料の材料になるんですよ。そうじゃなくても畑に埋めるだけで十分肥料になりますが」
「そうなんですかナユタさんー。ほへー、勉強になりますねー……あ、逃げたー」
「ま、まぁゴブリンくらい無視しても良いでしょう。目的地に向かいましょうか?」
と、そんなこんなで無事迷路を抜けて目的のエリアまでやってきた。
(あ、書籍化作業でまた投稿ペース乱れるやもです。年末進行って怖い……)