魔道具ショッピング
その日は、良い天気だった。
そして、ナユタとセツナが俺とロクコに頼みがあるということで、軽く会っていた。
この2人と会うときには一応【超変身】してる俺。我ながらかなりのチキンだとは思うが仕方ない。命大事に。死んだらもう寝られないのだから。永眠は睡眠とは認めないから。
ロクコは無防備なので、いざとなれば俺が肉壁になる所存だ。俺は【超変身】で残機1ある状態だからな。
「ロクコ様、村長さん。ボクらの仕事がオフの日なんだけど、食堂で冒険者相手にモノ売ってもいいかな!?」
セツナが元気な声で言った。今は仕事時間ではないので私服の体操着だ。たゆん。
「うん? 別に構わないわよね、ケーマ」
「まてまてロクコ。モノを見てからだ。で、何を売るんだ?」
「ナユタが錬金術で作った物を売るの。勇者に情報料渡すことも考えて、小銭を稼いでおきたいんだって」
ナユタの錬金術か。魔法陣を刻んだ道具こと、魔道具を作るのがこの世界でいう錬金術だ。魔道具は売ればそれなりに金になる。
「この前の銃なら金貨1枚で買ってもいいぞ?」
「ん? アレ? どーするナユタ、売っちゃう?」
「それだとトントンね……うーん、未完成な品を売りたくないのよ、私としては」
「おもちゃとしてなら十分な出来だろう?」
「……考えさせて頂戴。今回の売り上げが少なかったら売るわ」
別段買わなくても良いし、買っても実際オモチャにしかならない完成度だ。それに金貨1枚出すのは道楽以外の何物でもない。が、たまにはいいだろう。なんか金貨余ってるし。
「そんなことより具体的には何を売るのよ? 見せて見せて」
「色々ですよ、オーナー。たとえばコレ、煙玉。地面にぶつけると煙が巻き上がって視界を塞ぎます。いわゆる煙幕ですね。お値段は良心価格、銀貨1枚!」
おう、煙幕使い捨て1発1万円か。ピンポン玉サイズなのは携帯によさそうだけど。
というか、そんな丁寧な物言いできるのかナユタ。え、あれか。雇用主専用の丁寧語? もしかして俺の事は雇用主と認識してないのか?
「使い捨てに銀貨1枚か、ちょっと高いかな?」
「……その、うまい具合に煙幕にするための配合が中々シビアなのよこれ。お姉ちゃんに作って貰ったら10個に1個上手くできればいい所ね。煙幕を展開させる風の魔法陣が難しいのよ。でもこれは敵から逃げるときには有用よ、命を銀貨1枚で買えるなら安いものでしょ?」
まぁ命を銀貨1枚で買えるなら、確かに安いけど。
「で、それってゴーレムに効くのか?」
「有効よ。ゴーレムもだけど魔法で視界を確保しているモンスターに対応するため、この煙玉は魔力を含んだ骨粉を配合してるわ。臭いについても消臭効果が働くから、大概のケースには使えるわね」
チャフのようになるわけか。なるほど、いろんな場面で使えるなら便利そうだ。
「あと、水玉。まぁ水を補充してくれる水差しの魔道具みたいなものね。ボタンを押すと穴から水が出るの。コップに入れても良いし、なんならそのまま飲んでも良いわ」
「ねぇ、気になるお値段は?」
「はい……銀貨5枚でございます!」
ちなみに水差しの魔道具は銀貨3枚くらいだ。そしてやっぱりロクコに対してはそのくっそ丁寧な敬語になるのな。
「結構高いな」
「小さい方が作るの難しいからね。でも小さいと荷物の邪魔にならなくて便利よ。水筒型もあるけど、こっちは銀貨4枚ね」
大きさはこれまたピンポン玉サイズ。確かにコンパクトではあるかな? 水筒型も用途に合ってて便利か。
「攻撃用の火玉もあるわ。ボタンを押して3秒後に火の玉になるの。これは3個で銀貨1枚ね。魔法の火だからゴースト系にも有効よ」
時限発火装置……。これは便利だなマジで。魔法使えない戦士系の切り札になりえる。
魔法使えるから俺には意味ないけど、買っとこうかな?
「マッサージに使える震玉もあるわ。ボタンを押すとぶるぶる震えるから肩に当てたりすると気持ちいいわ。ここのマッサージ椅子に着想を得て作ったのよ」
「へぇ、ピンク色でかわいいわね!」
「お気に召していただき幸いですオーナー。あ、こちらは銀貨3枚となります」
これもピンポン玉サイズだ。というか、なんでピンポン玉サイズのばっかりなんだろう。
俺がそのことに疑問を抱いていると、ナユタはにやりと嬉しそうに笑った。
「ふふふ、気づいた? これは規格という概念で、同じサイズに固定することによって使い勝手を良くするというものよ。この別売りのボールホルダーに好きな玉を5個ずつ装着できるわ! 色違いなのは見分けやすくするためね。今なら10玉買えばホルダーを1つおまけに付けちゃうわよ!」
「ほお。考えたな」
まるで通信販売のオマケ商法である。
「ささ、他にもあるわよ。砂玉、これは白黒の色付きの砂が出せるわ。謎解きの考えをするときに床にメモを取るのに使うといいわね。息玉、これは水中で息がしたいときに使えるわ。空気の薄い高い山とかでも使えるわよ。さらに甘玉、これは舐めたら甘いわ。もっとも、お腹にたまるわけじゃないからあくまで非常食の味の補助程度、もしくは太りたくない貴族のお口の恋人って感じかしら? 結構な自信作よ」
と、いろんな色違いの玉をごろごろ転がして来た。
面白かったので、一通り買うことにした。このくらいの買い物を道楽でできる程度には稼いでいるのだ。オマケのホルダーも2個貰った。
「まぁ、そこそこ売れそうだな。特に甘玉は、他にも味の種類があると面白いんだが」
「これは魔法陣の研究をしてて偶然見つけた私のオリジナルだからね。お姉ちゃんが魔法陣を刻んだ板をぺろぺろ舐めてた時はついに頭がおかしくなったかと思ったものよ……」
「失敬な! ボクのおかげで見つけた大発見でしょ!」
「実際、コレの売れ行きが一番いいのよね。感謝してるわお姉ちゃん」
試しに舐めてみると、ほんのりとだが、確かに甘かった。
甘味が貴重なこの世界では売れ行きがいいのも納得だ。
「ケーマ、私にもそれちょうだい」
「おう、ほら」
ぽいっと舐めてた甘玉を投げて渡す。……あ、ロクコが真っ赤に。そうか、間接キスか。
「よし、拭くからちょっと返せ」
「断る! これは私のよ」
「買ったの俺だろうに……」
「宿のお金で買ったんだから私のに決まってるじゃないの」
そうきたか。……まぁ、なんか嬉しそうだしいいか。
「ふふふ、オーナーは村長さんと実に仲良しでいらっしゃる。ではオーナーにだけ特別にお見せしたい商品が……」
「ほう。……見せてもらおうじゃないの」
「おい、1人で見るなよ」
「大丈夫よ、ナユタは信用できるわ。というわけだからケーマは出てっていいわよ」
なんかロクコがすっかり篭絡されてる。なぜだ……
「だけど、一応俺だってロクコの護衛でもあるからな。さすがにロクコを無防備にするわけにはいかないぞ」
「雇い主が信用できると言ってるならいいでしょうに……。一応私もオーナーに雇われてる冒険者よ。なら私が居るんだから良いでしょう?」
「店員と護衛は役割が違うだろ」
「ふふん、パートナーが気になるのは分かるけど、女には女の話があるのよ。遠慮してもらえないかしら? さぁ、このケースの中にですね……」
「こ、これは……! うん、ケーマ大丈夫よ。なんならイチカでも呼んでよ?」
「……しかたないな」
俺はイチカを呼び、ロクコの護衛を頼んだ。
「……イチカ。お前は篭絡されるんじゃないぞ?」
「ご主人様。それはフリっちゅーやつか?」
「命令だよ命令」
尚、後日ナユタの販売した魔道具は十分に売れたらしい。
……でもロクコにだけ売った商品の正体はなんだったのだろうか? 結局何か買ってたらしいけど。しかも金貨3枚で。
「ご主人様。ちゃんとロクコ様に『綺麗になったね』とか言うんやで?」
あ、美容品ね。うん、わかった。