神の掛布団 (裏)
私は、父様からのプレゼントを確認しておこうとパーティーを抜け出した。
ちらり、とケーマを見る。……ケーマにも貸してあげてもいいけど、先に私が使ってからね! 父様も私へのプレゼントって言ってたし。
寝室に戻ると、父様から頂いた『神の掛布団』を呼び出した。メニューからぽんっと。
「へぇ、これが神の掛布団……良い手触りねー。でも、それほどでもない感じ?」
ぽとり、と、封筒と箱が落ちた。
……箱? 封筒は父様の言ってた説明書よね。
とりあえず神の掛布団をおいといて、封筒を開ける。中には父様の書いた説明書が入っていた。
「えーっと、なになに?」
名称:神の掛布団(所有者:ロクコ)
効果:願った相手と一緒に寝ることができます。
因果律を操作し、朝まで邪魔は入りません。
(物理的に会えない場合は夢で会うのみとなります)
※この効果は8760時間(365日)に1回使用できます。
※願った相手を強引に呼び寄せるため、多少頭が混乱することがありますが
朝には治ります。
一緒に寝た相手と夢を共有します。
夢の内容は自由に設定できます。所有者が優先権を持ちます。
※また、所有者は見た夢を記憶できるかどうか指定できます。
この布団を使用して1時間以上眠ると、体力魔力共に全回復します。
1時間に満たない場合でも消耗が少なければ全回復します。
(怪我は治りません)
※所有者が許可しない相手の場合、逆に体力と魔力を枯渇させます。
また、所持者にとって都合のいい事が起こりやすくなります。
事の程度は運次第です。
※お父さんからの補足※
ロクコへお父さんからのプレゼントだよ! あ、プレゼントボックスはオマケだからケーマ君に見せる前にはそっちに入れておくといいよ。
プレゼントボックスの蓋裏に偽の説明書を仕込んでおいたからケーマ君にはそっち見せてね。ロクコとその夫以外で使ったら天罰って書いといたから、後は頑張ってね。既成事実とか作っちゃえばいいよ。
尚、この手紙は自動的に消滅するから気を付けてね。
「こ、これは凄い効果ね。さすが神の掛布団……って、え、消滅?」
と、一通り読み終わったところで、パシュンと手紙が消えた。
……さすが父様。よく分からない感性ね!
早速神の掛布団を使ってみよう。
私は掛布団にぽふっと手を置いて、……願うってどうすればいいんだろう?
とりあえず言葉にしてみる。
「……おふとんさま、おふとんさま。私はケーマと寝たいです」
改めて口にするとなんかすごく恥ずかしい。
けど、掛布団がきらっと光った。これでいいみたいだ。
「っと、これでケーマが来るのよね? 今のうちにプレゼントボックスに仕舞って……」
プレゼントボックスに掛布団をあてがうと、しゅるりと入っていった。
あとは蓋をして準備完了。……あ、一応プレゼントボックスは【収納】にいれとこ。
って、私まだ着替えてなかった! 準備完了してなかった! ケーマが来る前に着替えとかなきゃ。
ええっと、いつものジャージはダメよね。ケーマとお揃いにしてるとかバレたら恥ずかしいし。ハク姉様が用意してくれたねぐりじぇ?って寝間着があったから、それに着替えてっと、よっ、はっ、ぽんっと。完了!
あれ、これちょっとスケてない? んー……まぁ大丈夫ね! 下着はつけてるし。
そうだ、ケーマ相手なんだから可愛い靴下にしなきゃ。ああー、早くしなきゃケーマきちゃう、や、もう裸足でいいかしら? むしろ寝るんだから裸足の方が良いかしら! イチカも足を見せつけるのが良いって言ってたし!
私は準備万端でベッドに腰かけた。そわそわしつつケーマが来るのを待つ。
しばらくすると、コンコンと扉がノックされる。
「誰?」
「俺だ」
来た! 本当にケーマ来た!
私は扉を開けた。
「き、来たわねケーマ! 待ってたわ」
「ああ。来たぞ」
す、と私の前に傅くケーマ。そして――
「ってなわけで、神の寝具を、見せてくださいお願いしますッッ!」
見事なドゲザを決めるのであった。
これ、ケーマだと素なのか混乱してるのか分からないわね。
*
夢の中だ。
神の掛布団の効果なのか、夢の中にいるという事がハッキリと分かる。
マスタールームのような白い部屋。というか、マスタールームね。私とケーマの思い出深い場所っていえばここだし、そういうのが反映されてるのかしら。
そして目の前にはいつも愛用してるオフトンにくるまったケーマ。姿は私に変身していない、素のままのケーマだった。
……これ、ケーマよね? 本人よね? 夢を共有してるってわけだし。
とりあえずは、恥ずかしいからケーマは夢を忘れてもらうことにしてと。
ていうかなんでケーマは夢の中でも寝てるの!?
どんだけ寝るのが好きなのよまったく。ニンゲンは寿命が短いんだから寝て過ごしてばっかりじゃ勿体ないと思うんだけど。
「ケーマ、起きなさいケーマ」
「……すやぁ」
起きないの!? まぁいいわ、朝まで時間はたっぷりあるんだから!
「ねー、ケーマ? 起きてー。起きてよー」
「んん……なんだよ、寝てるところ起こすなって前に言ったろ……」
「大丈夫よ、ここは夢の中だから起きても起きたことにならないわ」
「なんだそりゃ。……え、夢の中なのここ? あー、ホントだ、そんな感じ。明晰夢か」
ケーマは上半身を起こしてくるくると肩を回す。
そしておもむろに手をかざし、何の脈絡もなく光線を放った。
ぱひゅん、ちゅどーん。
「うん、出た出た」
「え、ナニ今の。魔法?」
「はっはっは、ロクコ。夢の中なんだからなんだってできるんだぞ、コツはいるけどな」
といいつつ、ケーマは布団ごと浮いた。
「空飛ぶ布団。なんつってな」
「コツってなによ、面白そう、私にも教えなさいよ」
「簡単だ。夢だからできるのが当然、と思うだけさ」
「なるほど! ……難しいわよ!?」
「はぁ、これだから素人は……いや、そういう風に見えてる夢だったか。このロクコも俺の夢が産んだ幻……なら、好きにしていいよな?」
ケーマがぶつぶつと何か言ってる。
あ、そうか。夢の中だってことは分かってるけど、共有してる、ってのは知らないのよね。……え? じゃあ私、ケーマの好きにされちゃうの? どんなことされるのか興味あるわ! ケーマが私にしたいことって何かしら!
「ロクコ」
「な、なぁに、ケーマ? 私になにしてもいいのよ?」
「……そうか。よし、布団に入れ」
「うん」
私はケーマの言うとおりに浮いたままの布団に入り込む。あ、ケーマのニオイ。
……少しニクのニオイもするわね。
「それで?」
「……ぐぅ」
寝たわね……。だからなんで夢の中でさらに何で寝れるのよ!
「起きなさいケーマ! ちょっと! ねぇってば」
「ううーん、うるさいぞロクコ。寝かせてくれ」
「だからここは夢の中だってば、もうとっくに寝てるわよ!」
「だが寝る」
だめだ、話にならない。というかなんで私を布団に入れたの?
え、深い意味はないって?
「もういいわよ、ケーマがその気なら、こっちだって好き勝手にさせてもらうんだから!」
「え、何する気だオイ」
「オフトン没収!」
私がそう叫ぶと、オフトンが消えた。これが優先権の力か。
「なん……だと……おいロクコ。俺のオフトンが消えたんだが」
「奇遇ね。私が消したのよ」
「……おう、ロクコ。ちょっとOHANASHIしようや……」
「望むところよ」
OHANASHIという名の殴り合いが始まった。
ここは夢の中。ゴーレムアシストもない。純粋なガチ殴り合いだ。ケーマは多少手加減してくれたようだが……いや、わりと本気だった。やっぱりオフトン消すのはマズかった。
でも、私が勝った。
「いたた……納得いかない、俺の方が夢力は上のはず。それがなぜ……」
「ケーマの敗因はひとつ。……夢の中だから痛くない! を信じられなかった事、よ」
「ハッ……想像力故の敗北か。俺の負けだな。好きにするがいい」
ケーマは大の字になって倒れた。
……好きにしていいのね?
「よーし。じゃあまずはこの服に着替えさせてあげるわ!」
「おいまて、なんだその服は」
「え? 帝都の服屋で売ってたヤツじゃないの」
「いやそれ女性用だろ!?」
「私は、これを着たケーマがどう反応するかを見たいのよ! 大丈夫、私も一緒に着てあげるから!」
「や、やめろおおぉお!?」
・・・(ロクコ好き勝手中)・・・
数時間後。
ケーマ相手に好き勝手してたら、唐突にケーマが消えてしまった。
「もうお嫁に行けない……」とか言いつつ遠い目をして色々ぐったりしてたけど、まさか死……はないわよね。
「そうか、朝ね。……バニーケーマ、可愛かったわねー」
まだまだ不満だったけど、今回はこれで満足としよう。うん、堪能したわ。
とりあえず、私も起きよっと。
(『父』「正式な持ち主でない上に嵌める対象のケーマ君に正しい効果を教える必要があるかい? 全く無いね」)