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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

闘いを終えて

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忘れかけていた約束

 ニクを今後も抱き枕にするかどうかの選択にかられつつ、とりあえず日本人らしく問題を先送りにする現状維持でいこうと決めて、とりあえずウチのダンジョンに戻る――前に、せっかくなのでちょっと帝都をブラつくことにした。
 『父』の作ったゲートがあと1回だけ通れるようになっているので帰るのは一瞬だが、また今度来るときは今回作ったダンジョンに『配置』で飛んでからゴーレム馬車をノンストップ全力でカッ飛ばして半日かかるからな。普通の馬車なら1日がかりだ。
 ……もっとも、派生ダンジョンがなかったら定期便の馬車を乗り継いで何週間って単位でかかる。それに比べたら気軽に遊びに来れるようになった、というわけだ。

 ちなみに本来派生ダンジョンはあまり離れたところに設置できないらしく、今回が特別仕様だ。そうでなければハクさんはツィーア山の近くにダンジョンを作っていただろう。


 で、俺は、ニクとイチカを連れて冒険者ギルド本部にやってきていた。
 ロクコは宮殿でハクさんとお茶会だ。優雅なもんだね。
 帝都ではどんな依頼があるのかというのをあんまりチェックしていなかったので見ておこうと思ったのだ。前に来たときは結局ミーシャに会っただけだったしな。
 帝都だからさぞかし良い依頼があるんだろうな、と思ってたけど、あまり良い依頼がない、せいぜいダンジョン内の間引きくらいか。

「朝ラッシュの後だからってのもあるやろな。配達とか仕事の手伝いや、収入が良い仕事なんかは当然持ってかれてるはずやで?」
「それもそうか、良い依頼なんて、そりゃ他の奴だってやりたいに決まってるもんな」
「そういうこっちゃなー。『冒険者は自分だけじゃない』っちゅー名言もあるしな」

 かといって依頼を見るためだけに朝のラッシュにわざわざ来るようなことはしたくない。チェックは諦めようかな……あ、高ランク依頼はどうだろう?
 掲示板に残っているのはせいぜいCランクまで。一部のCランク以上の依頼と、Bランク以上の依頼は高ランク依頼ということで掲示板には張り出されない。カウンターで直接聞くしかなく、ランクや実績などで制限される。
 今の俺は一応Bランクなわけだし、一通りのチェックは可能だろう。大きな場所なだけあって高ランク依頼もそれなりにありそうなもんだが、少なくとも1日で片付けられるような簡単な依頼は無いだろう。高ランク依頼でも割の良い依頼なんてあれば他の冒険者がこなしてるはずだ。
 まぁ見るだけ見てみようかなと、カウンターに向かおうとした時だった。

「あれ、ケーマさんじゃないですか? 何でこんなところに」
「ん? 誰だ?」

 話しかけられて振り向くと、そこには二人組の冒険者が居た。
 誰だよ、いやマジで。

「ウゾーです! ケーマさんに命を救っていただいた!」
「ムゾーです! 魔剣を探してくるって約束の!」
「……おお。いたなそんなの」
「俺たちはケーマさんに助けてもらった恩を1日たりと忘れたこと無いぞ! なぁムゾー」
「しかしケーマさんともあれば俺たちを助けるくらい日常茶飯事か。忘れてても仕方ないさ、ウゾー」

 1年前に1回会ったきりだからなー。
 ウゾームゾー兄弟。ウチの宿『踊る人形亭』の初めてのお客様にして俺がダンジョンで命を助けたCランク冒険者コンビだ。お試し部屋で想定外のハマりかたをしてDPをたくさんくれたっけ。

「ところで何でケーマさんが帝都に? ツィーアから拠点を移したんで?」
「ちょっとした依頼でな。依頼を達成したからそろそろゴレーヌ村に戻るところだ」
「ゴレーヌ村? 近くにそんな村あったっけ……」
「あ、分からないよな。あの宿があるとこ、今は村になってるんだよ。なんか発展しちゃってな。で、そこの名前がゴレーヌ村だ」
「なるほど」

 あんまり名前使わないもんだから俺も村の名前を忘れかけてたよ。

「ちなみに俺が村長だ」
「そりゃすごいというか、大変そうだな。なぁムゾー」
「だがケーマさんならなんとかなるだろうな、ウゾー」

 どういう評価だ。悪く言われるよりはマシだが、過大評価はそれはそれで困るぞ。

「……そういえばあれからもう1年近くになるのか」
「ああ――その、ケーマさん。ひとつ謝らなければならないことがある」
「1年で魔剣を手に入れて返す、と言ってたんだが、その、な……」

 言葉を濁すウゾームゾー。これはアレか。自分で1年と言っといて魔剣が手に入らなかったからバツが悪い、と。そういうことなんだろうな。

「なんだ、魔剣のことか。気にしなくていいぞ、別に俺はもう1年待っても」

 俺がそういうと、ウゾームゾーは慌てて首を横に振った。

「いや、手に入れるには手に入れられたんだぞ! だが、その……」
「デメリットのある魔剣でな……命の恩人に渡すにはちょっとふさわしくないんだ」
「デメリット? どんな魔剣だ?」
「それが、どうにも眠りをばらまく魔剣のようでな。敵を眠らせるだけならいいんだが、無差別に眠気をばらまき、装備者すらも眠くなってしまうんだ」
「むしろ魔剣に一番近い分、装備者が真っ先に眠くなるんだ。買い取ってもらうことも考えたんだが、どうもそれで足元を見られてしまっていてな……」
「それは……」

 眠りをばらまく魔剣……だと?
 それが本当なら、とんでもない効果だぞ。

「よし見せろ。その魔剣を、ほら、はよう。はよう!」
「え? ああ、まぁ見せるには別に構わないが」

 ウゾーが袋から鞘に入った魔剣を取りだす。シンプルな鞘に入っている短剣(ダガー)で、大きな装飾は無い。しいて言えば柄の中央にくりんとした黒く丸い闇属性の魔石があるくらいだ。ペットボトルの蓋くらいの大きさの魔石は、吸い込まれそうなほどに真っ黒だった。

「ふむ……どうやって使うんだ?」
「鞘から抜けば、込めた魔力に応じて眠気をばらまく」
「ちょっと抜いてみていいか?」
「少しだけな、周りの迷惑になるから」

 鞘から魔剣を抜いてみる。……おっ、おっ……あ、いいまどろみ感。
 ……素晴らしい。このまま眠気に身を任せたくなる。うっとりしちゃうね。

「ケーマさん、すまん、しまってくれ。もう眠い」

 眠そうなウゾーの声に、俺は魔剣を仕舞う。
 いい剣だ。最高だ。これがあればまた一段と睡眠が(はかど)る。

「本当にいいのか? これ、貰っちゃって」
「……ん、すまんケーマさん。寝ぼけてたかな、この魔剣を欲しいと聞こえたんだが」
「ああ、貰うならこの魔剣がいい」
「ほ、本気で、そう言ってるのか?」
「ケーマさん、その魔剣を売ったら貯蓄と合わせてなんとか別の魔剣を買うことだってできなくはないし、どうせならそっちの方が」

 ウゾーもムゾーも何言ってるんだ。

「こんな素晴らしい魔剣、他に見たこと無い。これでいい、いや、これがいいんだ!」
「お、おう」
「ケーマさん……!」

 おいなんだ、なんで涙を浮かべて俺を見る。可哀そうなものを見るような生暖かい目で俺を見るなよ。いいじゃないか、戦いに使うわけじゃないんだし。

「この魔剣、何て名前だ?」
「名前は無い。魔剣の名前ってのは最初の使い手が付けるもんだからな。本当にケーマさんがその魔剣を使うなら、付けるといいんじゃないか」

 そうか、と、俺は剣の名前を考える。
 ……レム睡眠から、レムブレードとか? いや、たしかレムは眼球運動って意味だったからあんまりよくないな。睡眠、なんかいい感じの名前はないかな。あ、そうだ。

「シエスタにしよう。シエスタソード。昼寝剣だ」
「はは、昼寝剣か。気の抜けそうな名前だが、この魔剣にはピッタリの良い名前じゃないか? なぁウゾー」
「そうだな、昼寝剣シエスタ。いいセンスだな、ムゾー」

 昼寝剣シエスタ。俺は最高の魔剣を手に入れてしまったようだ。
 しかし貸しを返してもらっただけとはいえ、こんな良い剣を貰ってしまってはいくら何でもおつりが必要だろう。俺は腰に差していたゴーレムブレードを鞘ごと外し、ウゾームゾー兄弟に渡した。

「中古で悪いが、おつりだ。持ってけ」
「ケーマ殿、これは……」
「お前らがハマってた『強欲の罠』のところの魔剣と同じ奴な。特に名前は付けてないから好きに付けてくれ」

 特に名前は付けてないし、そんなに使ってないからほぼ新品だ。
 自分用には今度オリハルコンを使った新型ゴーレムブレードでも作ろうかと思ってたし、今やこの昼寝剣シエスタもある。古いのをあげてもいいだろう。

「ん、まてよ。2人に1本じゃアレだな。……もう1本やろう」

 と、カバンから出すフリをして【収納】から予備のゴーレムブレードを取り出した。こっちはニクの予備として作っておいたナイフタイプだが、ウゾームゾー兄弟も剣士と斥候の組み合わせでちょうどいいだろ。ニクの方も新しく作り直すしな。

「い、いいのか?」
「ああ、約束を守ってくれた礼だとでも思っとけ」
「ありがたく貰っておく……!」

 どうせ作るのはタダだしな。
 と、ウゾームゾー兄弟はぺこぺこ頭を下げつつギルドから出て行った。これから依頼だそうだ、働き者だねぇ。

「ご主人様、アレってば魔剣なんやし、そうポンポン渡さん方がええんちゃう?」
「このくらいはいいだろ。この昼寝剣シエスタにはそれだけの価値がある」
「……まぁ、ご主人様がええっちゅーなら、ええんやけど」

 ん? 今気づいたけどこれ【気絶耐性】と組み合わせれば戦闘でも相当強いんじゃ?
 ……今度ウチの宿に来たらAランク飯でも奢ってやるか。


(ケーマにとっては相性抜群ですが、普通の人にとっては「戦闘中に眠くなるとか馬鹿なの? 死ぬの?」レベルです。そして実際死ねます)
+注意+
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