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勝利者の歓喜


 リビングアーマーの頭がもげても動くのは想定内だった。

 なので油断なく、容赦なく攻め立ててやった。君が完全に動かなくなるまで攻撃をやめないってやつだ。


 オリハルコンワイヤーだが、両端に錘がついていて、こればっかりは隠せない。

 だから逆にその錘を囮にすることで、避けたと思ったら食らっていた、という状況に陥れてみた。


 具体的に言うと、最後に黒鎧が避けようとしたオリハルコンワイヤーは、サハギンが錘部分を抱えて隠していた「2つ分の」セットだった。見せてた錘と錘の間はスカスカだったので、避けなきゃ当たらなかった。

 周囲の魔物たちの動きとか、多少速度が遅いとか実は左右に障害物が無かったとかそういう違和感はあったかもしれないが、初見で完璧に対応しろというのは無茶だろう。いわゆる初見殺しだ。せめて縦に避けるべきだったな。


 昔、漫画で読んだんだよな。夜、ヘッドライトが片方ずつの「2台」の車で突っ込んで、被害者が「1台」の車が突っ込んできたと思い込んで避けたら車に跳ねられるってヤツ。その漫画の主人公である凄腕スナイパーはエンジン音が2つあることに気付いて見抜いたけど。


 で、破壊した黒い鎧からダミーコアを確保したので666番コアをわざわざ殺す必要もなくなった。やっぱり鎧の中に入ってたんだな。


『決着がついたね。おめでとう帝王チーム! 君達の優勝だ!』


 『父』の宣言。どうやら、本当に勝利したようだ。最後があっさり倒せてしまったのですこし疑っていたけど、審判の判定が出たなら確定だ。

 666番コアが光に包まれて消えていく。おそらく『父』に戻されたのだろう。

 ……残ってる鎧の残骸は貰ってもいいんだよな? コレ。


「やったわケーマ! 私たちが勝者よ! わーい!」


 嬉しさのあまりぴょんぴょんと跳ねて喜ぶロクコ。子供かコイツ。


「嬉しいのは分かったから少し落ち着け」

「ふふっふっふふふふ、これは私の勝利であるとともに、ハク姉様の勝利でもあるのよ。つまり2倍嬉しい! 落ち着いてなんていられない!」

「じゃあ2倍落ち着け」


 とりあえず頭を押さえつけるように撫でて跳ねるのだけは止めといた。

 だってスカートの中がチラチラ見えるんだもの。さすがにはしたない。足フェチな俺だけど、足以外は嫌いという訳じゃないんだぞ。ふとももとか良いよね。


「ニクもイチカもお疲れ」

「さすがに疲れました……」

「こりゃボーナスに期待やなぁー」


 ゴーレムを操作し、サハギンやガーゴイルたちに細かい指示を飛ばしていた二人は、ぐったりと横になっていた。

 と、そこに勝利が確定し、にこにこと笑顔のハクさん。


「あっさりとカタを付けましたねケーマさん。てっきりあそこから666番にトドメでも刺すのかと」

「ハッハッハ、勝利という目的を達成するのに不要でしょうそれは」


 本当はダンジョンコアを破壊したら勇者?兼ダンジョンマスターの俺がどうなるか、っていうのも気になってはいたが、魔王派閥のコアを殺してわざわざ余計な面倒を増やす必要もない。そもそもモンスター使っての間接破壊になるし、効果なさそうだけど。

 ……いや、寝て起きたら適用されるって可能性もあるな。まだ油断はできないぞ。


 魔王チームから通信が入ってきた。

 承認して回線を繋げると、全身が映る鏡のようなモニターが空中に広がって666番コアの姿が映る。つい先程ダンジョンから消えた時の赤いドレスのままだ。


『負けたわ』

「勝ったわ」


 ふふん、とロクコが自慢げに胸を張る。

 それをみて、嬉しそうに微笑む666番コア。


『695番。次こそは1対1で決闘しましょうね』

「いやよ、私は勝ち逃げするわ!」

『あら。それは寂しいわ。折角ダンジョンバトルを通して仇敵(しんゆう)になったというのに』

「親友? う、その、親友?」

『ええ、仇敵(しんゆう)よ。私たちもう友達でしょう? 今度模擬戦(あそび)にでもいらっしゃいな。(じじ)様と89番様のように遠慮しない関係で仲良くしましょう?』

「え、ええと、友達は嬉しいけど……なんかニュアンスおかしくない?」


 おいロクコ、いいのか? その友達、笑顔で背中から斬りつけてくるタイプの戦闘狂だぞ。

 と、666番コアとモニター越しに目が合った。……こっちも同じように見えてるのかコレ。まぁ通信なんだし当然か?


『あなたが私の仇敵(しんゆう)のマスターかしら』

「そうだ。俺がロクコのマスターだ」

『そう。695番はマスターにロクコって呼ばれているのね。……私もロクコって呼んでいいかしら? お友達なのだし』

「あら、いいわよ。お友達だものね!」

『ふふ、ありがとうロクコ。なら私の事もアイディと呼んでいいわ、私のマスターからはそう呼ばれているの。ああ、ロクコのマスターさんもそれでいいわよ? ニンゲンはそっちの方が呼びやすいでしょう』


 そう言って666番コア、アイディは改めて俺に向かって話す。


『あのダンジョンの仕掛けは貴方が?』

「……………いや、ハクさん……先輩コアの仕込みだよ」

『そ、貴方が作ったのね。やはりロクコが急成長した原因はマスターにあったようね』


 少し考えて誤魔化そうとしたが、見抜かれてしまった。


『またやりましょうね?』

御免被(ごめんこうむ)る」

『今回もほぼ1対1だったけれど、次はゴミが入らないようにしたいわ』

「断るっていってるんですが? 耳がお悪いようですねぇ」

『次はそれを弱点とみて攻めてくるの? 耳を攻められるなんて、楽しみだわ』


 うわ、話が通じない。厄介だな……


『それにしても、あと目と鼻の先だったのに、惜しかったわね』

「ん?」

『あのモンスターがたんまりいた部屋、その先はコアルームだったのでしょう?』

「少なくともあの部屋を突破されたところで負ける気はしなかったぞ」

『へぇ……それは、どういう意味かしら? まだ先があったの? 私にはアレがなりふり構わない決戦戦力に見えたのだけれど』


 ……結構鋭いな。実際、あの奥にはもうコアルームくらいしかなかった。


「答えてもいいが、代わりに1つ聞きたいことがある。どうやってあの剣はオリハルコンを防いだ? 素材が良いのか?」

『ふむ。いいでしょう。素材は自分で言うのもなんだけど、ただの魔鉄よ。オリハルコンを防げたのは魔剣としての『不壊』という能力によるもの――こんなことを聞くなんて、もしかしてニンゲン型のコアはメニューに『強化』が無いとでも言うのかしら?』


 強化……そんなのがあるのか。解放されていないのか、そもそも無いのか。


『少なくとも魔剣型のコアには『強化』の項目があって、DPを使って強くなるの。『不壊』を得るために今回のDPをほぼつぎ込んだわ――と、勝者へのご褒美(サービス)はこのくらいで良いかしら。次はそちらの回答の番よ』

「ああ、いいだろう。……まさか同じ発想されるとは思わなかったからな」

『同じ発想?』

「ああ、うちのコアも移動式だ。こっちはダンジョンの中を逃げ回ってたけどな」


 アンモナイトの殻にくっつけて、いつでも水中に逃げられるようにしていた。

 実際、モンスターハウスに666番コアが入ってきた時には水攻め用の部屋からダンジョンの外側(ただし領域内)を通らせ、下の階層に退避させていた。


『……なるほど。そんな手を』

「しかし、ダミーコアを移動させるっていうのはアリなんだが、お前、馬鹿だろ」

『? 我ながら良い構想だと思ったけれど? あなたも使っていたようだし、馬鹿ということはないのでは?』

「ダンジョンコアがどこにあろうと、お前を倒せば勝ちだったろ? そんなお前がウチのダンジョンに乗り込んで来たら意味ないじゃないか」

『…………はっ?!』

『いや、『不壊』がついていたからな。いざとなれば魔剣の姿で耐えればいい……それなら最悪ダンジョンバトル終了まで拘束されるだけだ――って、ダンジョンバトル前に言ったよな?』

『ああ、そうだったわね』


 アイディの後ろから、ちらりと黒に近い赤髪の少年が見える。アイディが鮮血としたら、こっちは時間が経った暗い血の色だ。……これがあっちのマスターか。人間だとしたら、俺よりも年下っぽいな。


「そっちのマスターか? ……人間か?」

『ああ。お前もか。人間のマスターを見るのは初めてだ。……その恰好、異世界人か』


 そういえばジャージ着っぱなしだった。余計な情報を与えちゃったかな。


「ああ、俺の世界の寝間着だ」

『寝間着、なのか。珍妙な奴だな……寝間着でダンジョンバトルしたのか』

「うむ。寝やすいぞ。リラックスできる状態で勝負に挑むのは大事だろう?」

『……まぁいい。今後関わることもない、か。……切るぞ』

「お」


 おう、またなー。とか言おうとしたら、あっちのマスターが腰に差していた剣が一閃。鏡のようなモニターがパリーンと割れて消えた。……切るってそうやるのが正解なのか?


 人間マスター同士、もうちょっと交流を深めてみたくもあったけど……

 あ、でもそういやダンジョンバトル中にアイツのこと殺そうかとちょっと考えてたんだよな。「パートナーのコアを壊す=マスターの死」だから。

 まいっか。これで顔見知りになった程度だし。この世界じゃこの殺伐(サツバツ)感で普通普通。


「あ、ちょっとケーマ。龍王チームに通信入れていい?」

「ん? 何か話すことあるのか?」

「ちょっとね」


 特に断る理由もないので、どうぞどうぞと許可を出す。

 あちらも承認したらしく、再び鏡が現れた。あ、でっけぇ蛇。カエルとナメクジも並んでるな。


『なによ! 695番、笑いに来たの!?』

「ねぇねぇ今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち? いっつもいつも馬鹿にしてた私なんかに完封勝利されちゃって、あ、そっちからだと完全敗北ね。で、どんな気持ち? 3コアがかりで私達に手も足も出ないで悔しい? 涙出ちゃう? ほらほらなんか言ってみなさいよ!」

『ちょ、本当に笑いに来たの!?』

「当たり前でしょ! 勝った私が偉いのよ、無様(ぶざま)ね! じゃっ!」

『あ、こら、言い逃げ』


 プツン、と今度はテレビの電源モニターが消えるように鏡は消えた。

 やっぱさっきの切り方は間違ってたよな?


「……ふぅー……スッキリした!」

「お、おう。よかったな」

「これもみんなケーマのおかげよ! ありがとう、ケーマ!」


 ロクコは胸のつっかえが取れた感じの、今日一番の開放的な笑顔を浮かべていた。

 そんなロクコに、俺は何も言えない。なので、ただ頭を撫でてやった。


『では、改めて優勝おめでとう89番、695番。それではご褒美だ』


 『父』からの通信が入る。……来たか、ご褒美タイム。


(まだ書籍化作業が終わってないので低速です。 あ、グラボを買ってしまいました。)

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