第三次ダンジョンバトル:戦い(11)
「というかダミーコア、666番コアが持ってる可能性が高い」
「……移動式ってこと?」
どうやってダミーコアを持ち運んでいるかはわからない。が、魔王チームのダンジョンの様子を見る限り、十中八九そうだろう。
新しいトラップは出ない、モンスターすら出ない、ついでに壊した扉や壁も直らない。
完全にダンジョンとしては死んでる状態に近い。これ、下手したら崩壊するんじゃないか? と不安になる。
「ああ。たとえばあの黒鎧の中身に666番コアが居たとして、さらに身長がニクくらいだとする。そうすれば頭のとことかに置いておけるだろ?」
「なるほど」
ダミーコアの大きさはダンジョンコアと同じ、バスケットボール大サイズだ。ちなみにハクさんのはもっとデカイらしいから、個人差はあるとのこと。
……あの鎧の頭ではちょっとサイズが足りない、666番コアの本体が小さくないとすれば、胴体に入れているかもしれない。
もしかすれば666番コアの体は霧状や液状で、鎧の中に充満しているのかもしれない。俺の予想では、666番コアの体は鎧で、一回り大きい黒鎧のリビングアーマーをさらに外側に着込んでる、っていう可能性が高いかな。某超人のオーバーボディってな感じで。
しかし、ダミーコアがダンジョン内に無くていいのか。
が、審判兼ルールの『父』が何も言ってない以上こちらが何を言っても無駄だ。
発想自体は悪くない。666番コアがあらゆる逆境を跳ね返す天下無双の武士だとしたら、この上ない一手だ。
先の【クリムゾンロード】のような理不尽な技をノーリスクノーコストで乱発できるならそりゃ無敵だよ。1人だけ別ゲーになる。
だが現実はモンスター集団と泥仕合の様相だ。一応勢いできったはったの大暴れをしてはいる。疲労は見られないようだが、無双というほどの実力まではなさそうだ。
「にしても、コアをダンジョン外に持ち出しなんてできたのね。……ハク姉様、これって当然デメリットありますよね。どういうデメリットがあるんですか?」
「良い質問ね、さすがロクコちゃん! ええ、まず場合によってはダンジョンが崩壊するわね。今回の魔王チームダンジョンはコアがなくても崩壊しないような構造になってるわ。壁と小部屋が多く、階層間が厚めになって掘られてるわね。こういうダンジョンはコアを壊しても形が残りやすいの。でも、いくら形が残ってもコアが無くなったら崩壊しなくてもそこはもうダンジョンではなくなるわ。再度持ち込んでも1からやり直しね」
つまり、コアが無くなるのでそれによる崩壊、それがなくてもダンジョン領域がリセットされて作り直し、ということ。1フロア指定5000DPとかもやり直しか。かなりのデメリットだな。
さらにハクさんは続ける。
「ダンジョンじゃなくなるわけだから、まず新規のトラップやモンスターが出せなくなるわね。既存のトラップも発動しなくなるのが殆どで……モンスターはすぐに消えるわけではないけど、例外として『スポーンモンスター』で出したモンスターはすぐ死に絶えるわ。あれのモンスターはダンジョン内でないと生息できない仕組みだからね」
モンスターの餌のひとつは、ダンジョン内に満ちる魔力だ。食い物が無ければいずれ飢え死にするのは当然だろう。逆に、生態系を構築しておけば、そのまま野生化する例もあるらしい。
こういう例を知ってるとか、さすがいくつものダンジョンコアを破壊した経験のあるハクさんだ。
「それ、サモン系の魔法で呼び出したモンスターは?」
「それは呼び出した人の魔力で動くから、ダンジョンとは関係ないわね。呼び出したのがダンジョンのモンスターだったら、ってくらいかしら」
サモン系なら召喚者が消えれば消えるし、クリエイト系は与えた命令をそのままに残る。
ダンジョンコアを破壊された後まで考えればクリエイト系は優秀かもだけど、本人が死ぬこと前提に考えるのは、ハクさんには評価外の項目だ。
例を挙げるなら、俺が死んだ後も宿はそのまま残るけど、そこに俺は居ない。そういうことだ。子孫に財産として遺す用途くらいにしか使えない。
『へぇ、そんな風になるのかい。89番は偉いね、知らなかったよ』
「あら。お父様ならこの程度のこと、ご存じだと思いましたが」
『僕だって何でもかんでも覗いてるわけじゃないんだよ? それに、コアの居なくなった後のダンジョンなんて特にね』
「まぁ! それはそれは、お役に立てて光栄ですわ、お父様」
――えっと、長々とハクさんの話を聞いてしまったが、今はそんなことはどうでもいい。
今の最優先事項は、目の前の666番コアを破壊……じゃなくて、うっかり破壊……でもなくて、倒すことだ。名目は大事だ。あくまでダンジョンバトルに本気で取り組んだが故の不幸な事故なのだ。
状況を確認する。
モニターとマップを見ると、俺の用意したモンスターハウス状態の部屋に1体の敵性リビングアーマーが残っている形だ。
取り巻きのスケルトンは、既に全滅。テンタクルスライムさんが悉くを骨粉に作り替えた。いくら動きが良いのが混じっていても所詮はスケルトン、物理無効特性の前には何もできないザコだ。
が、666番コアは炎の魔剣を持っている。スケルトンを削っている間に666番コアからかなりの攻撃を受け、触手は何本も切り落とされ、満身創痍となっていた。
「よし、テンタクルスライムさん……長いな、もうテンさんでいいか。テンさんは一旦引け、黒鎧は炎の魔剣を使うからな、いったん戻って体力回復しとけ」
あ、しまった。これ命名になるのか? ちらっと見たら、ばっちり「テン」でネームドモンスターの一覧に登録されていた。てへっ。まぁ今更一つ増えたところで別にいいか。一番活躍してるしな。
テンさんが666番コアに傷つけられた粘体を修復するため退く。回復にはため込んだテンさん汁が有効だ。そのままスライムの体にとりこむことでポーション以上の効果を発揮する。
テンさんの離脱した穴を埋めるようにガーゴイルが魔法で攻め続ける。
隙間のない絨毯爆撃のようなガーゴイルの【ストーンボルト】。石の鏃がカンカンと黒鎧に当たる。……が、あんまり効果ない! 相手が硬すぎるぞこれ!
これではマズイ。テンさんの抜けた穴はデカすぎた。
俺はサハギン部隊に指示を出す。そうして持ち出したのは、分銅つきの鉄の鎖だ。それも、何本、いや、何十本も。これは、ついさっきDPで交換した。
倒せないなら、まず拘束してしまおう。そういうことだ。質は圧倒的にあちらが上だが、数はこちらの方が圧倒的だ。ならばそれを利用しない手はない。
鉄くらいなら切れるだろうが、あくまで「炎の魔剣で切ることができなくもない」という程度。
そして、サハギン部隊は一斉に分銅つき鎖を投げつけた。
数個は弾かれたが、無数ともいえる量の鎖を捌ききれず、全身を鎖にからめとられて身動きが取れなくなる黒い鎧……よしこれで身動きは封じた!
あとはトドメを刺すだけだ、そう思った矢先のことだった。
「ケーマ! まだよ!」
身動きが取れず倒れる黒い鎧。
――その傍らに、この場に似つかわしくない、可憐な赤髪の少女が現れた。
(しまった、このままだと締め切りに間に合わないぞ?
というわけで、ちょっと遅れるか、あるいは現実逃避に週2更新ペース維持のどちらかになると思います。へぶぁ)