第三次ダンジョンバトル:戦い(6)
完全水没フロアで水流を発生させる。とはいっても上のフロアから水を流すだけだ。
水をドバドバ上から流せば排水口トラップに水を流し込むがごとく下へ水は流れていく。
水中では踏ん張りがききにくいのか、スケルトンたちがぶわっとまとめて浮かび上がりトコロテンのようにオリハルコンワイヤーで細切れになった。
……ふっふっふ、『持ち込み』だぜ? 効果抜群だろ、このワイヤーはよぉ……!
「オリハルコンの糸……よくまぁあれだけ極細の糸を用意できましたね」
「ええ、腕のいい鍛冶師が居るんですよ、うちの村には」
という事にしておこう。まぁ、作ったのは勿論俺だ。
ロクコが1000DPガチャで出したオリハルコンコイン4枚を一旦持ち帰り、グラスファイバーを作る要領でめっちゃ細い糸にしてみた。トロッとしたところを垂らして作るアレだ。昔TVで見た。
【クリエイトゴーレム】でオリハルコンを操作する分には鉄より遥かに加工しやすい分、自由自在だったぜ。
細すぎて強度は心配だったが、持ち上げようとして危うく指がスパッと切れるところだった。むしろアイアンゴーレムくらいならうっかり細切れになるレベルだった。
髪の毛よりも細いのに。オリハルコンヤバイ。
長さ1mのオリハルコンワイヤーの両端に取っ手を付けた上でゴーレムの全力ならなんとか曲げることができる。ヤバいレベルのワイヤーができてしまった。
(取っ手については鉄で安上がりに作って、オリハルコンを癒着させる感じで作った)
「今度うちも何か作ってもらおうかしら」
「その時は俺を通してくださいね、その方がスムーズにいくんで。直接職人に話に行っても、『作れない』と言い張るように言いつけてあります」
「そうなの? まぁ有能な職人の囲い込みは大事だものね。注文の時はケーマさんに任せますね」
オリハルコンの加工技術については、指輪で一応みせてるからな。
いやまぁ、指輪と髪の毛より細いワイヤーだと難易度段違いだろうけど。
「ねぇケーマ。この水没してるフロアで中層なのよね?」
「そうだな、そんな感じだ」
「ということは、こっちは折り返しってことよね。敵の方はどうなの?」
「まずは龍王チームダンジョンの進捗を聞こうか。ニク」
「……まず、龍王チームダンジョンは7Fに到達しました。7Fなのですが、こちらはボス部屋ではないかと睨んでいます。中ボスじゃなくて、ダンジョンのラスボスの」
……せいぜい迷路で、ロクなギミックもない。思い出したかのようにあるトラップは人間用で、魚たちにはほぼ影響なし。魔王チームの黒い鎧もその鎧の強度で無傷。串刺しトラップくらいしか有効なのはなかったが、普通に弾いてた。
まさかここまで単純な作りになっているとは思わなかった。
あとはダンジョンボスに期待するしかないが、黒い鎧がヤル気満々でぶんぶんと黒い剣を振り回してる。こちらの出番、無いんじゃないの?
戦いの邪魔したら黒い鎧も即敵になる可能性がある。
どうせだし張り切ってやってもらおう。
「魔王チームダンジョンの攻略進捗は?」
「んー、こっちは5Fでまたボス部屋っぽいな。中ボスっぽい感じやで」
こっちは大きめのスケルトンが奥へ続く扉を守っていた。
2階で出た骨魚と違い、おそらく最初から用意していたボスモンスターだろう。
あからさまに水没見てから用意しましたっていう感じの骨魚と違って、元々のこのダンジョンに合っている感じだ。
もっとも、このダンジョンもトラップについては普通に足の高さに貼られた縄と落とし穴だったり、糸に引っかかると弓矢が飛んできたりと言う、言っては何だがチャチな罠しかなかった。
『ボス部屋』を利用して水を止めたのがファインプレーってとこか?
この先はどうなってるか分からないけど、油断はできそうにないな。
おそらくダンジョンボスとしては黒鎧相当以上のモンスターが出てくるはずだ。
「! ケーマ! 魔王チームダンジョンの入口部屋に居た黒鎧がウチのダンジョンにきたわよ!」
マジか。ついに本腰入れて攻略しようってことだな。見ると、多数のスケルトンを伴って黒鎧がウチのダンジョンを歩いていた。周囲をスケルトンで囲い、罠を警戒しているようだ。
「とりあえず一発水流食らわせてみるか。1番水門開けー」
「はーい」
ついでに樽ガーゴイルも用意した。さて、どう対処する?
答えはすぐに出た。
先頭数体のスケルトンが樽に当たりに行って、中から出てきたガーゴイルを黒鎧が一刀両断。そして、おそらくサモン系のスキル、【サモンスケルトン】を使って失ったスケルトンを補充した。
魔王チームダンジョンの入口での戦闘中もしばしば使っていたが、こうしてみるとやっぱり強いな、サモン系スキル。何のコストもなしに手駒補充できるんだぜ?
俺も見習って、【サモンガーゴイル】を使いまくる。樽ガーゴイル、1体ならダメでも、5体なら? 10体なら? まぁ、あまり効果は無いかもしれないが、ガーゴイル君。頼むよ。
……捨て駒にして恨まれそうな感じはするから、生き残っても帰ってこないでね!
あー、そう考えると【サモンスケルトン】の方が気は楽かもしれない。最初から死んでるし。あ、でも怨念が怖い感じはあるか。どっちもどっちだな。
「どうする? 水、もう流しっぱなしにしちゃう?」
「いや、常に流しとくより短くても間隔あけた方がいいな。水流は、先頭をぶつけるのが一番威力があるから。それと――『大玉』、出せ。ここが使いどころだろ」
「ついに来たわね! いくわよ『大玉』!」
ロクコが嬉々としてモニターを操作すると、『大玉』を格納した部屋――天井に設置してあった――のロックが解除された。
そして、下層のスロープのような坂に、『大玉』……巨大な鉄球が落ちる。某冒険映画でもおなじみのアレだ。
『重力+坂道+球』という分かり切った法則にしたがい、『大玉』はゆっくり転がり落ちていく。
いわば、巨大なボウリングの玉。ピンは敵。
ちなみにこいつ、わりと通路ギリギリの幅で作ってある。部屋でなければ避けることはできない。仮に真っ二つに切ったとしても質量と慣性はそのままだぞ!
最初はゆっくりだった『大玉』だが、徐々にスピードをあげている。黒鎧と遭遇する頃には、ぶつかったら思わず転生してしまうくらいの威力にはなってるんじゃないかな?
なに、通路の幅ギリギリといっても若干の余裕はある。詰まることは無いので安心して轢かれてくれたまえ。今ぐしゃっと赤いシミになった蛇の残党みたくな!
尚、このトラップはハクさんの発案である。せっかくスロープ状の通路なのだから活用すべきだということだ。確かに、水流よりよっぽど威力あるもんな。
「ふふふ、私の発案したトラップとロクコちゃんのダンジョンの融合……これは素晴らしいですね」
「そ、そうですね」
「いっけぇ! 『大玉』! 私とハク姉様の力、思い知るが良いわー!」
そして、最高潮に勢いを増した鉄球が、黒い鎧率いるスケルトン集団と遭遇した。
(ロクコ「重い汁が良いわー!」 って誤変換してちょっと咳き込んだ。まだ夏風邪長引いてるんだよなぁ……
あ、7月25日に2巻発売しました)