ダンジョンの作成
まずは、ダンジョンを掘る。
少しでもDPを節約するため、ゴーレムをDPで呼び出したのち、ツルハシやスコップを用いて穴掘りをしてもらっている。
ここはダミーコア内の仮設マスタールーム。今回のダンジョンバトルのために『父』が特別に支給したダミーコアには、先輩と後輩の憩いの場として仮設マスタールームが用意されていたのだ。(俺には仮設じゃないマスタールームとの違いが分からないけど、ロクコやハクさん曰く、『そういう感じ』がするそうだ)
で、俺はそこに籠ってゴーレムに命令を出し、穴を掘らせていた。
とにかく、穴掘りだ。ひたすらガンガン掘るのだ。
「セコいですね」
「セコくてもいいじゃないですか、時間がないわけじゃないんですから」
俺がダンジョンを作っていると、ハクさんがそう言ってきた。
掘った土についてはどんどん回収し、順次領域を広げていく。たまに回収した土に魔石をぽいっと放り投げ、【クリエイトゴーレム】でゴーレムにして作業員を増やす。
「で、この掘った土はどうするのですか?」
「後々壁を作るのに使ったり、埋め立てるのに使いますよ。あとは見ての通りゴーレムにしたりも使えます」
「ふぅん。ま、使えるものを使うのは基本ですからね……しかし、こうやって節約してたのですか。掘った後の土を【クリエイトゴーレム】の素材にするのは有用ですね」
「ええまぁ」
こうした節約術は微妙な点だけど、このくらいなら手の内を晒してもいい。ただの節約だし、ハクさんには意味がない。国家予算を運用する際に1円単位でケチケチするような話だからな。
ま、【クリエイトゴーレム】を主とする俺の魔法改変チートがバレなければいいのだ。
「ハクさんには今更参考にするまでも無いことでしょう、節約しなくても潤沢にDPがあるわけですし」
「そうね。……前にケーマさんとした時や今回みたいにDPを制限するルールでは有用でしょうけど、めったにそういうダンジョンバトルはしませんから。やるときは大体制限なしです」
まぁ、俺の場合は今回を含めて3戦中2戦がDP制限ルールなわけだが。
「ふふん、DPをせせこましく節約するのが得意なのよケーマは」
「せせこましい言うなし」
「運用が上手いのは認めざるを得ない事実ですけどね」
「ええ、ケーマはDP条件が同じならハク姉様にも勝てちゃう卑怯者なんですから!」
「なぁ、褒めるのか貶すのかどっちかにしてくれない?」
「えっ、褒めてるじゃないの。卑怯者って」
卑怯は褒め言葉なのか。恐るべしダンジョンコア文化。
あ、そういえばハクさんはついに書類を持ち出し、外で仕事をしつつロクコと居るという離れ技を使い始めた。なのでゴーレムの働きを監督しているロクコの隣で、書類や手紙をさらさらと書き上げていたりする。
「……クロウェさん。ハクさんじゃなきゃ処理できないような書類を外に持ち出していいんですか?」
「あまり良くないですが、この程度でハク様に気持ちよく仕事していただけるのであれば問題ありません。何かあった場合はハク様が責任を負うだけですし」
あ、そうか。最高責任者が自分で責任を負うって言ってるんだから良いも悪いも全て無視して持ち出せるんだな。
「ケーマは村長の仕事とかないの?」
「うん? 俺の方は全部下に丸投げしてるからな。まぁ何か問題があったら顔だして解決するくらいだけど、今のところ順調だよ」
むしろ俺が顔出さないから順調に回ってるのかもしれない。
「それは羨ましいですね。そうだケーマさん、ちょっとこの書類手伝ってくださいな、収支が合わないのですが、どこが原因か分かりませんか?」
「不正とかで私腹を肥やしてる貴族でもいるんじゃないですか? つーかそんな帝国の機密書類見せないでください、命狙われたらどうするんですか」
「あら? ケーマさんは既に私がダンジョンコアであるという帝国の最高機密をご存じじゃないですか。何を今更」
そういえばそうでしたね?!
「えっ、となるとケーマってばハク姉様に命狙われてるの?! だめよ姉様! ケーマは私のパートナーなんだからっ」
「あらあら。大丈夫よ、命までは狙ってないから」
「あ、よかった。なら大丈夫ですね」
それって命にかかわらない程度に何かする気満々ってことなんじゃないですかね?
受け取りかけた書類は中身を見ないようにして丁重にお返しした。
と、とりあえずダンジョン作りの方に集中しよう……
とはいえ、あらかじめ決めた通りにゴーレムに穴を掘らせて拡張していくだけなので、しばらく暇だ。穴掘り要員のゴーレムももう十分作ったし、ゴーレムもダンジョンのマナを吸収するから止まらないし。
……あ、そういえばロクコも【クリエイトゴーレム】覚えてたよな。いつのまにか。
どうせ暇ならダンジョンに貼り付かせるのはロクコに任せればいいじゃないか。むしろ【クリエイトゴーレム】は俺のよりよっぽど自然にやってくれるはずだ。
「ロクコ、しばらく任せておいていいか?」
「いいけど、ケーマはどうするの? 寝るの?」
「俺はどの罠をどう使うか考えとくよ」
普段なら寝ると言いたいところだが、ハクさんが付き添っている以上ロクコを残して寝ることなどできない。くそっ、最近かなり起きてる気がするぞ?!
まぁそれはさておき、罠についてどういうものを採用するか考える。
……水没させるわけだし、電撃は欲しいよなぁ。毒流すのもアリか?
でも無生物系相手だとどうするかな。……やはりハクさんのアドバイスに沿って質量で押し潰すのが一番か。ああ、【クリエイトゴーレム】使えればタダで色々使い放題なんだけど、いちいちDP使って作らにゃならんのか。
「岩落としに、針での串刺し辺りがいいか」
ちなみにこちらが用意する手勢は「イワシの群れ」「サメ」「半魚人」がメインとなる予定だ。半魚人は陸上でも戦えるので相手ダンジョンへの水攻めに失敗しても使える。
さすがハクさんってチョイスだ。……そうだ、タコも入れとくかな。海のニンジャ、タコ。煙幕に擬態、閉所への侵入とかなり優秀な斥候だ。
で、罠だけど、こちらに影響が出ないようになるべく配慮して設置しないといけない。
調整にはかなり気を使いそうだな。
「あの、ケーマ様。このダゴンというのは何ですか? 私の知るカタログにはないのですが……」
俺がカタログを見ていると、クロウェが体を寄せてカタログを覗いてきた。
別段隠していなかったのだが……あ、ふんわりといい匂いがした。そういえば男装してるけどサキュバスなんだよな。
しかし、そうか。ハクさんの、少なくともクロウェが扱えるDPカタログにはこの神話生物は無いのか。
「……ああ、これは異世界の神話生物です。極力名前を口に出さないでください。カタログでも見ないようにしてください。SAN値が削れますから」
「見るだけで正気を失う、ですか。恐ろしいですね」
「ええ。触れてはいけないものです」
俺はそっとダゴンを非表示にした。ハクさんのカタログにないのであれば、異世界人の俺の特性に依るものなのだろう。モンスターでもあるのか、そういうのが。なら使うモンスターにも多少気を配った方が良いのかなこれは。
とりあえずはハクさんの挙げた無難なモンスターを使うことにしよう、そうしよう。