帝都観光(5)
今日は山だ。そして引率はラミアのアメリアさんである。
ハクさんは残念ながら仕事が終わらず今日も缶詰状態だ。ああ気楽だ。
「ご協力お願いできますかロクコ様」
「ええと、何をすればいいの?」
「『お仕事ができるお姉さまって、カッコ良くて素敵』でお願いします」
「わかったわ」
かくしてハクさんは今日も元気に仕事に励んでいる。
それではこちらは視察という名の森林浴を楽しもう。具体的には昼寝する方針で。
「……ハク様も普段はとてもすごい人なんですよ? その、あなた方がかかわったときはなんというか、その。気が緩むというか、ハメを外しておられるといいますか……」
「あ、はい。その、ええ。お察しします」
「すみません……」
アメリアさんは悪くないよ。うん。
さて、改めて。今日はギリギリ帝都で魔王領の境目付近にある山に来ていた。
森林が豊富で、そよ風で葉の擦れる音がさらさらと耳に心地よい。
早速DPカタログを開く。
……ふむ、大体ツィーア山と同じくらいの消費で、大体同じ事ができるようだ。ハクさんのおススメは伊達じゃないな。確かにここなら今までとほぼ同じ感覚でダンジョンを作れるだろう。
『欲望の洞窟』と全く同じダンジョンを作ることすら可能だ。ただ、手の内を見せることになるけどな。
……ハクさんが居ないといっても、ハクさんの支配するダンジョン領域内ならメニューさんの力で監視し放題だもんな。迂闊なことはできない。
「……さて、ハクさんに666番コアのことを聞きたかったんだけど、いないんじゃ仕方ないよな」
「ねぇケーマ? なにその網。猪でも捕まえるの?」
「いんや、これはハンモックと言ってな、寝具だ!」
ちなみに寝るところが網になっているものの他に、タペストリーのように布になっているのも用意している。どちらの方が寝やすいか試すのだ。
「へぇ、面白そうですね、それ」
と、アメリアさんが絡んできた。ちなみに山についてからは人化を解除しており、下半身はばっちり蛇である。さすがラミア。全長7m。
「いつもは私、外で寝るときは木に絡みついて寝るんですよ」
「ほう、ラミアならではの眠りテクですね。それはそれでよさそうだ」
「ええ、こうしゅるしゅるーっと木にまきついて、太めの枝の上に上半身のっけて。で、そのハンモックという寝具、どう使うんですか?」
「これはですね」
言うよりも見せたほうが早いか、と、俺は適当な木を探す。
丁度いいことに、木は豊富だった。
ニクに頼んで適当な間隔の木にぐっさりとフックを備え付けさせ、そこにハンモックを設置する。体重をがっつりかけても落ちなそうだということを確認して、ひょいっとハンモックの上に寝ころぶ。
若干、ネットに包まれるミカンの気持ちになるな。
「こうです。結構快適ですよ」
「ふむふむ。……これ、もっと長いのはありますか? 7mくらいの」
「あいにく手持ちにはないですね。ただ、構造は単純なので作れば良いかと」
「なるほどなるほど。これだと足を伸ばして寝れる寝具が安上がりにできそうです」
あ、そこ『足』なんだ。蛇下半身。
…………
なんだろう、そう考えたら急にエロく感じてきたぞ? なんてこった。
と、ロクコがつんつんとハンモックごと俺をつついてきた。揺れる。
「ねぇケーマ。そんなの、ウチのダンジョンでもできるじゃないの」
「それはそれ、これはこれだ」
「ふぅむ。私はせっかくだから色々周りを見てきたいわ」
そういえば、ロクコは普段からあんまり外出とかしないもんな。ずっとダンジョン内に居た癖がついてるというか、基本的に引きこもりだ。
かといって性格的には結構アクティブなんだよな。ロクコはインドア派かアウトドア派か分からないぜ。
「見て来たらどうだ? アメリアさんも一緒なら危険はそんなないだろうし」
「いいの? その間ケーマは無防備になるわよ、山の動物に襲われるかも?」
あ、それは確かに困る。熊とか出るかもしれないことを失念してたわ。
「ご主人様の護衛なら、わたしが」
「あー、奴隷ちゃん奴隷ちゃん。非常に言いにくいのですが、このあたりは結構ヤバいのもでるので、私がついてないと実はとても危なかったりします。ハイオークの集落もありますし……あ、私が居れば襲われませんよ? こうみえて強いですから」
ハイオークは、オークの上位種族で、わりと強い。ドラゴンよりは弱いが、俺よりは確実に強い。集落ともなれば騎士団2、3個であたる代物だとか。
ちなみにその集落はハクさんの管理下にあるうちの一つで、魔王軍との戦時下での予備戦力でもあるらしい。……それをアメリアさんから交渉してこちらを襲わないように言うのは『上位コアからの譲渡』に含まれてしまう可能性もあるし、今は避けておきたいところだ。傭兵との交渉は自分でやれ、とハクさんも言ってたしな。
となれば、まぁ、別行動するのはやめておいた方がいいだろう。
「……ふむ、まぁモンスターや動物にかぎらず、普通に虫とか鬱陶しいし、海ほど寝れる環境じゃぁないな……しかたない。山菜取りなりなんなり、付き合ってやろう」
「やった! じゃあいくわよケーマ」
にっこりと笑顔を浮かべるロクコを先頭に、体をぐっと伸ばして、付いていくことにした。……別に、ロクコが散策に行きたいオーラを出してたからじゃない。ハンモックが俺に合わなくて、あんまり眠くなかっただけだ。
「ケーマ、このキノコ食べられるかしら?! すっごい青いわ!」
「こら、迂闊に触るんじゃない。世の中には触るだけでヤバイキノコもあるんだぞ、というかそれ明らかに毒キノコだろ。捨てとけ」
「あ、たべられますよ」
「マジか?!」
「あ、すみませんラミアなら、でした。普通の人間には毒です」
「……ダンジョンコアにはいけるかしら」
「ハク様は食べない方がいいと仰っていましたね」
「アメリア様、こちらは?」
「お、奴隷ちゃんそれは人間でも食べられる美味しい奴です。後で鍋にして食べましょう」
そんな感じで、ロクコがちょいちょい毒キノコやら毒草を拾ってきたり、ニクが食べられる野草を見つけてきたりで、割と楽しく散策した。
ロクコのおかげでこのあたりでとれる毒に詳しくなったよ。はっはっは、これって何かに使えるかね? ここでダンジョン作るとしたら役立ちそうだな。
(すでに帝都ではない気がしなくもない。まぁいいか)