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リンの置き土産

(新章、2年目春です)

 春になった。

 雪は解け、ほんのり温かい空気が周囲を包み込む。

 春は出会いと別れの季節というが、ここ「欲望の洞窟」でもひとつ、別れがあった。


「行くのか、リン」

『ああ。世話に、なったな。ケーマ』


 春になったら出て行く、という約束だった黒い狼――謎の黒いスライム(狼型)、リンが、冬篭りを終えてダンジョンを出て行くことになった。

 もういっそ「ずっと冬ですよ?」と騙して居つかせる案もあったが、さすがにバレたら危ないし、そこまでしてダンジョンに爆弾を抱え込む気もなかった。


『おお、そうだ。これを作った。やる』

「ん? これって?」


 リンから、ぽいっと玉を渡された。メッセンジャーゴーレムの手で受け止める。 

 光を吸い込むような、野球ボールくらいの黒い玉だ。なんだこれ。


『グラヴィティボムだ。ぶつければ、だいたいの相手は、爆死する』

「おい、そんなの投げてくるなよ。俺が爆死するだろ」

『くっくっく、驚いた、か。大丈夫だ、キーワードを、設定している。手に持って、それを言ってから、投げろ。キーワードは、『黒い皿』だ』


 そんな安全装置を……結局正体不明なままだったな、コイツ。


「黒い……っと、今言ったらマズイよな」

『くっくっく! ひっかからなかったか! やはり、かしこいな、ケーマは』

「はっはっは。もう一個くれないか? ちゃんと使えるか試したい。親分相手に」

『いいだろう、いくつか、やる。手作りだから、数に限度はあるが。……あと、わたしには、効かないぞ?』


 そう言って、黒い毛皮の中からごとごとと5個の黒い玉を落とし、前足で転がしてくるリン。お前は火薬庫か何かか。存在自体が爆弾みたいなヤツだけどさ。


『これで限度だ。うまく使え。それじゃ、またな』

「おう……また来るのか。来年とかか?」

『わからんが、それまで、勝手に死ぬなよ? ……ああ、ケーマは、死なないから良いのか? まぁいい。またな』


 くっくっく、とリンは笑って洞窟を出て行った。

 この日、真昼間に堂々と洞窟から出て行ったリンは白い皿をお守りにした冒険者たちにばっちり目撃された。オヤツ代わりにと白い皿をガリガリ齧っていったらしい。


「……行ったか」

「あー、なんか重い荷物を下ろした気分ね」


 ふぅー、と、大きく息を吐く。

 やはりリンという理不尽な爆弾がダンジョンにいたことでストレスになっていたのか。今は、奥歯につっかえてた食べかすがぽろっと取れたような、微妙に清々しい気分だ。

 リンが居なくなったことでダンジョンのDP収入も落ちるわけだが、それはそれだ。この冬の間でかなりの稼ぎを提供してくれたし、まぁいいだろう。

 グラヴィティボムとかいう、使えそうな危険物をくれたし……どのくらい威力あるんだろ。ダンジョン崩壊するレベルとか無いよな? どこに置いとくかも地味に困るぞ。


 ……あと、リンがいる間に、ダンジョンの奥も開発を進めることができた。

 倉庫エリアの次に、作りかけだった新・謎解きエリア、さらにその奥に闘技場エリアを作った。

 闘技場エリアはいわゆる中ボス戦だ。ハニワゴーレムがお相手する。

 観客は居ないので少し寂しいが。

 そして闘技場エリアの次はいわゆる普通のダンジョンエリア。ここで一息して、その次フロアがボス部屋、最奥コア部屋となっている。


 ……ちなみに最奥コア部屋は二重構造になっており、手前にダミーコア、奥の隠し部屋にもダミーコアになっている。なぜ無駄にこんな構造にしたかって? それは、本物のダンジョンコアをどこに置くか困ったからだ。

 聖女の使った【トリィティ】のように、ダンジョンコアの移動を封じるスキルがある以上、なるべく安全なところに置くようにしたい。

 かといって、最奥にそのまま置くのはあまりよくない。ダンジョンコア=最奥、というイメージが既に冒険者たちの意識にあるからだ。

 そこで二重構造にして、ダミーコア、本物のコア、という形にしようと思ったのだが……これを見破るやつがいるんだろうな、と作ってから思って、ここにもダミーコアを置くことにしたのだ。


 そして本体のダンジョンコアは闘技場エリアの天井照明に隠している。光る玉を隠すなら光の魔道具の中ってな。


 まぁ、今のところはこれでいいだろう。謎解きエリアを突破してくるようなのがきたら、すぐに対応する必要があるだろうけど。


「あ、そうだケーマ。私、少しダンジョンを留守にするけど、いいかしら?」

「少し留守にする? 出かけるのか……どこに?」


 こいつが出かける先、って、どこかあるんだろうか。

 ツィーアやパヴェーラに用事でもあるのか?


「ダンジョンコアの集会があるのよ」


 ……そういえばそんなのがあるって言ってたっけか。


「それって俺は一緒に行けないのか?」

「マスター連れてきてるのは、見たことないわね。たぶん行けないと思うわ。2、3日で戻ると思うから留守番お願い。去年は山賊のせいで行けなかったから」


 つまり、やることはいつもと変わらないんだな。


「わかった。それで、いつ行くんだ?」

「あ、今日よ」


 ロクコの体が薄く光り出した。


「なぁそれ」

「うん。行ってくるわね。……気は進まないけど」


 一瞬、ロクコを包むように魔法陣が出て、ぱしゅん、とロクコが消えた。

 ……もっと早く言えよオイ。



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