実験開始
ニクにカッコよく「後は任せろ(キリッ」とかしたのに、普通に食われてしまった。
ご主人様としてこれでは示しがつかないぞ。
「……どうしたもんかなー」
俺は食堂でオニギリを食べつつ考え事にふけっていた。キヌエさんが作ってくれたお昼ごはんだ。はぐっと白いごはんを齧ると、その中身は卵焼きだった。何入れてるんだよ、嫌いじゃないけど。
というか、あの狼……リンを倒す方法はいくつか考えている。だが、それが有効かどうかはさっぱりわからない。もう少し探りを入れたいところだ。よし、次から実験するとしよう。
尚、リンが居ることでDP収入がドンと跳ね上がっているのもあり、今のところは「できれば仲間にしたい」に傾いてはいる。あんまりこのまま長居されているとそれはそれで気に食わないというか安眠できないけど……うん、倒すにしても仲間にするにしても早くしたいぜ。
……あいつ、今は別にダンジョンコア(ダミーだけど)に手を出してるわけでもないんだよな。このまま手を出さないって確約してもらえるんならいいのに。
リンが来てからずっとロクコの部屋にコア本体がある状態で、それなりに怖いんだぞ。例えば強盗が入ってきたらヤバい――まぁ、無いと思うけど。
うーん、ロクコの部屋の防犯機能を強化しとくかな。
そんなことを適当に考えていたら、食堂にゴゾーが入ってきた。
「おう、ケーマ」
「ん? ああ、ゴゾーか。久しぶりだな。ここのとこ姿を見なかったが」
「酒場に入り浸ってるからな! ……と、一応調査依頼の話があったから受けとくかと思ったんだが、どうだ。一緒に受けないか?」
「それ依頼出したの村だろ? 俺村長なんだが」
つーか、村長に何かあったらどうするつもりだ。いや、酒場のマスターこと副村長が正式に村長になるんだけどさ。
「自分で出した依頼を受けちゃだめだって話はないさ。ギルドが依頼と認めて、それを冒険者が受けるだけだからな」
いいのかそれ。金さえ払えば依頼こなし放題じゃないか、すぐランク上がるだろ。……きっと貴族の子供とかが自分のランク上げに使う手じゃないのかな。ランク高くなれば貴族として爵位が貰えるらしいし。
「さすがにこれで上がるのはCが限度だぞ。ギルドの方でも適切な依頼かどうかってのは判断してるから、あんまり楽な依頼じゃ低ランクさ。B以上は推薦も要るし、そもそも試験に受からなきゃ意味ないしな」
「そんなもんか。……でもCにはなれるんだな」
「その分だけ希少なアイテムの入手、とかになるから手数料でかなりの金がかかるらしいぞ」
でも、Cか。
今はこのダンジョンに限定してCランク扱い、ってことになってるけど、どこ行ってもCランクっていう権利が買えると考えれば……値段によってはやってもいいかもな。あ、でもCより上は筆記試験があるって話だっけ。規格外に強かったりすれば免除されることもあるらしいけど。
「それで、依頼内容はどんなんだ?」
「おう、調査依頼の内容は……『欲望の洞窟』、第2、第3階層の迷宮に脅威となる魔物がいるかどうかの調査だ」
居ねぇよ、とは答えられないな。
「脅威になる魔物がいるかどうか、っていうのはどうやって探すんだ?」
「人海戦術だ。正直ここ数日で確認されていないし、脅威は奥へ帰ったと見られてる。ちなみに転換期の調査も兼ねてるから、これに参加しないなら見張りの方に強制参加だとよ」
「わかった、参加しよう。ニ……クロとイチカも連れて行っていいんだよな?」
何も無いと分かっていてずっと見張りをするってのは非常に苦なんだよ、しかも今の時期寒いだろうし。
働くのは非常に面倒だが
「おう。俺とロップもこっちに参加するからな。仲良くやろうぜ、迷宮ではパーティーごと別れることになるけどな」
「ワタルもいれば安心なんだろうけど」
……ワタルをリンにぶつければどうにかなるんだろうなぁ。あいつ、勇者だし。DP的には勝ってるし。魔法とかもバンバン使えるんだろうか、サンダーストームとか。
「で、何を悩んでたんだ?」
ゴゾーが俺の隣に座りつつ、酒の入った水筒に口を付ける。ダンジョン産の高性能な水筒で、保温機能があるやつだ。中には熱燗が入ってるとか。
「ああ、ちょっと……ジョブっていうのかな。テイマーって、どう思う?」
「テイマーか。モンスターを手懐けるってヤツだろ? まずモンスターと意思疎通できなきゃいけねぇって話だが、転向するのか?」
「転向、っていうか、いや、まぁそうだな。そういうのもアリかなぁと」
「まずモンスターの言葉を覚えるのが大変だぞ。スキルで買うとして、弱いモンスターの言葉でもひとつ金貨10枚は……ああ、そうか。そのくらいケーマなら余裕で出せんのか。ならいいんじゃねぇか?」
え、モンスター言語とかスキルであるもんなの? 確認してなかったわ。
ゴゾーには分からないようにこっそりスキルを確認するが……うーん、無いな。これも何か解放条件とかがあるのかな?
「なんかこう、スライムとかってどうだろうな?」
「スライム? ああ、あれは強いな、打撃が効かねぇし。けど魔法には弱いぞ」
「そんなもんか。あとなんか、スライムは狼の形になるように調教するのが普通って聞いたけど」
「だな。あと筒に入れて飼うってのもいる。持ち運びに便利だからな」
「へー。……それ、小さいスライムを筒状にした剣の柄に入れてから魔法使わせれば魔剣、ってことになったりすんの?」
「ははは、そりゃおめぇそんなんで魔剣が……ん? あれ、できる? んん?! ちょ、ちょっとカンタラに話してくる!」
と、ゴゾーは酒の入った水筒をテーブルに置いたまま食堂を出て行った。
あれ、なんか技術のブレイクスルーしてしまった気がする。まぁ、魔剣ができるのに越したことはないしいいか。
とりあえずは依頼のことをニクとイチカにも伝えておこう。
……あと、念のため俺からもギルドの方に依頼参加の話をしといた方が良いな。ゴゾーが酒を忘れるほどだし。
で、2階層と3階層に脅威になる魔物が居るわけもなく、ギルドから提供された地図もあってさっくりと依頼は片付いた。
しかし、あれほど正確な地図を作られていたとは……動く壁と動かない壁の情報がほとんど見抜かれていた。依頼が簡単に済んだのはいいけど、迷宮エリアの内装を変える必要があるかもな。壁と壁ゴーレムの位置をいくつか変えるか。
*
地味に村側の進展があったところで、ダンジョン側に戻る。
前回の交渉で『変わった味がすると思ったのに』って言ってたし、ちょっとゴーレムに味付けでもしてみるかね。
というわけで、次のハニワゴーレムはマグマ入りにしてみた。体内でグツグツしている。これをリンに食わせてみよう。
マグマは直接触れると火傷どころか手が消し炭になりそうだったが、空洞を作ったゴーレムに自分で入れてもらって、最後にマグマに触らないように気を付けて蓋をした。
「おーいリン。ご飯の時間だ」
『くぁぁ! やはり、生きていたか、けーま!』
丁度寝起きのリンに対し、マグマ入りメッセンジャーゴーレムをけしかける。
「さあ、俺を食え」
『……けーま、頭、大丈夫か? 普通、食べられたがる奴は、いないぞ』
いいから早く食ってくれ。冷めるだろ、マグマが。
「腹減ってるんじゃないか? 減ってるだろ? それに俺が食われても死なないってことは分かってるだろ」
『ああ、まぁ、じゃあ、一思いに食ってやる、けど……けーま、マズイしなぁ』
「そう言うと思って、今日は味付けを変えてみたんだ。さあ、さあ!」
『わ、わかった。食ってやるから……いただきます!』
ぱくっと、一口で食べられた。モニター越しに反応を窺うが、特にこれといてダメージがあるわけでもなかったようだ。
……マグマ、弱点ってわけじゃないのか。アテがひとつ外れたか。それとも量が少なかったのかな?
まぁいい、まだまだ候補はあるさ。
次は硫酸、その次は強アルカリ水溶液、そして睡眠薬等々、こいつが食えないモノ、影響があるものを探していく。もしこいつが仲間になったとしても、このまま敵であったとしても、弱点を知っておくのは無駄にならないからな。
(勘違いしてた人が居たけど、冬の童話祭に参加したのは別枠でアップした短編だよ!)