村
(今回から新章です)
冬になった。
ついこの間まで夏だったと思ったらいつの間にか秋で、もうすっかり冬になっている。
で、村ができた。
そう、村ができた。
何が起きたかよくわからないのだが、キッカケは宿に泊まるのをケチってテントを張ってた冒険者が「もうテントじゃ寒いしいっそ小屋建てるかー」ってのを黙認してしまったのが切っ掛けだったかもしれない。
そしてそのまま定住しやがった。「おっす、ケーマさんおはようございます!」じゃねぇよ。小屋って言ってたのに十分まともな家おっ建てやがって!
しかも他の冒険者にも「おっ、いいねそれ。俺も建てよ……あれ、これどーすんの?」「見てらんねぇよ、俺にまかせろ!」ってノリでポンポン家を建てていく始末。何だお前、大工の息子のクーサンだって? よーし名前覚えたからなお前!
それと並行して宿の近くに酒場もできたし、ギルドの出張所にも受付嬢さんの後輩が入って2人体制になった。
さらに商売の匂いを感じたのか商店まで建った。おかげでウチで売ってるポーションとかが売れにくくなったが別に問題ない。元々それほどアテにしてなかったし。なにより、商人が常駐する分DP貢いでくれてる上にみかじめ料を払ってくれるとなれば断る理由も無い。
と、そんなこんなで勝手に村ができていった。
誰か裏から手を回してるんじゃないかコレ、ってくらいに順調だ。冒険者ギルドが怪しいな。クーサンとかギルド長の回し者なんだろ? なぁ。
家も建ってきたし、宿は客来なくなるんじゃないかな? とおもったけど、そんなことも無く。むしろ商人が増えた。
道のなかった森にも大工が木材にすべく森を伐採したおかげである程度の道ができて、それなりに歩きやすくなっていたので、ツィーア・パヴェーラ間の流通が増えて、トンネルの使用料とDP収入もあわさって増えていた。ゴーレム馬車は使いにくくなったけど。
(尚、ギルド経由で木材伐採のクエストが出てたのでニクとイチカに任せて達成依頼数を増やしたりもした)
「やっぱ酒場があるといいなぁ! なっワタル!」
「いやー、借金返すまでは禁酒なんで! 酒場できたのはうれしいですが禁酒中なんで!」
「大丈夫だ、これはただのリンゴジュースだ」
「えっ、それなら大丈夫ですね……ってこれ酒じゃないですか!?」
「ああん? なにいってんだワタル。これはジュースだ、少し酒っぽい味だけどジュース以外の何物でもない。だろ?」
「なーんだ、ジュースかー。ゴゾーさんがそういうならジュースですね、あっはっはっは」
という茶番もあった。
まぁ俺は別に酒飲んでもいいんだけどね。借金ちゃんと返してくれてるから。
とはいえ、代わりにハクさんが最近来ていないのだ。ロクコに指輪を渡してから来てない。
勇者からの情報だけど、ハクさんは忙しくてこちらに来る余裕がないそうだが、……死刑執行を待つ死刑囚の気分である。
尚、酒場にカードとダイスを売り、それとスロットを貸出ししてやった。
やっぱりこういうお手軽なギャンブルは酒場で飲み代を賭けてするのが丁度いいもんな。こちらはスロットのレンタル代で儲かるし、設定は甘めだ。レンタル代を含めてギリギリ店に利益が出る程度だ。
で、カードとダイス、そしてスロットまで外に出してしまった遊戯室が閑古鳥になったかというと、そんなことは無かった。
「うぉおおおお! いけっ、いけっ! 3番! ユメノクニ! ああ、そこで止まるんじゃない!」
今、遊戯室ではネズミレースを開催しているのだ。
住人になった奴らと宿の客がこぞって参加している。
「1番アオノテンテキ! 進め! 進むんだ! 頼む行ってくれぇえ!」
「チャンスだ4番! いけっナズナズー! お前に賭けてるんだ、って何か探してないでさっさと進めぇ?!」
「おおっとここでオンソクが駆け抜けた! 一着、5番オンソク! さすがの貫禄、ド本命! 払い戻しはこちらでーす」
囲んでいた観客から悲喜交々の声が上がり、ハズレ賭券が遊戯室内に舞った。
決められたコースをどのネズミが一番に走り抜けるかを賭けるのだ。計算が面倒くさいので2着とかは一切見ない。
「次のレースは1時間後! 本日最後のレースでーす、選手の一覧はあちらでーす」
「おぉ、デッパが出るのか。コイツは一発で勝負を決めることがあるからな、油断できないぜ」
「エレキマウスが本命だろ、こいつの電光石火はまさに雷の如しだぜ!」
「まてまて、ファイトの根性もすごい、これは面白いレースになりそうだ」
「オラニハサンポは堅実で賢いが力強さはないからなー。大穴だ。よし、10口買うぞ! 銀貨1枚だ!」
客が次のレースに賭けている頃、前レースの選手になっていたネズミたちは報酬のチーズをおいしそうに齧っていた。
こいつらは森に住んでた配下、ハクさんとのダンジョンバトルで活躍したネズミたちだ。
尚、レースのために名前付けたらうっかりネームドモンスター扱いになっちゃって、だいぶ賢くなった。
俺の指示に忠実に従い順位を意図的に決めたり、レースを盛り上げるための演出も可能だ。フフフ、それにこいつらにかかれば潜入調査もお手の物だぜ……? 誤算だったけど。誤算だったけど。
というわけで、宿というかダンジョンを中心に村が出来上がってしまったのだ。
そんな冬のある日、俺はゴゾーに酒場に呼び出された。酒盛りでもするのかと料理を差し入れに行ったんだが、そういう空気ではなく、そこには冒険者代表のゴゾーと鍛冶屋のカンタラ、ここらの家を建てまくったクーサン、酒場のマスター、商店の店主、ギルドの受付嬢……出張所の責任者がいた。
要するに、ここら一帯で権力を持ってる者が集まっている形だ。俺も含めて。
「でだ、今日ケーマにここに来てもらったのは他でもない。この『欲望の洞窟』前の村について大事な話があってな」
「ほう、っていうか本気で村になってるのか……。あ、これ差し入れ。で、何の話だ?」
「おお! うまそうだな! よし村長はケーマだ! 異論はないな?!」
は?
「ケーマ殿なら納得でしょう」とカンタラ。
「ああ、ケーマさんなら信用できるな!」とクーサン。
「ありませんな。おお、これはカラアゲ。私これが大好物でしてな」と酒場のマスター。
「良いと思うで! 儲けさせてくれるしなぁ」と商店の店主。
「……私もないですね」と受付嬢さん。……誰か止めないの? 何なのこの流れ。
「ってちょっとまて。おいゴゾー、なんで俺が村長っていう話になってるんだ?」
「一番暇そうだからだな! 他の奴は仕事がある……なぁに、村長なんてただの調停役、いままでケーマがやっていたことと変わんないだろ」
「ロクコでもいいじゃねーか……アイツも大概暇だぞ」
「……ケーマ。ロクコちゃんに村長任せられると思ってんのか?」
いや、すまん。変なこと言ったな。
「だが俺に頼むってことはお飾りだろ?」
「そうだなぁ。ま、基本いつも通り。何かあったら村長として決めてくれってだけだ。周りもサポートするしな」
「うん? そうか……まぁ、なら……」
それくらいならいいか、と、俺は村長になることを了承した。
乗せられた気もするが、下手にここで他の奴に任せても面倒くさくなるだけだしな。
「で、さっそくなんだけど村長に相談があるんだが?」
知ってた。
(今回で記念すべき108話目! いえーい!
ネズミレースの選手の元ネタは分かるかな?)