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死神を食べた少女 作者:七沢またり
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第二十四話 元帥閣下との昼食は妙に騒がしいが美味しい

 王国軍がマドロスで帝国軍を打ち破った戦いから一ヶ月後。
 マドロス城の謁見の間にて、第5軍指揮官にして城主であるケリーと、招かれざる客が円卓を挟んで向き合っていた。
ケリーの背後には重装備に身を固めた親衛隊が控えており、目の前の男が妙な真似をしたら即座に動ける態勢を取っている。
 横には年若い士官一人が付き従うのみで、周囲の敵意を受けながらも男は笑みを崩していない。
 ケリーは軽く咳払いをした後、いつもの口調で話しかけた。

「よう。よく来たなと言いたいところだが、生憎俺とお前んとこは敵同士ってことになってる。それを承知でお前はこの城に来たって事で良いんだよな?」

 問答無用で首を刎ねられても文句は言えねぇぞと吐き捨てながら、杯に口を付ける。
 ディーナーと名乗ったその男は、平然とした口調で返答する。

「これは手厳しい。私は平和を愛する人間の一人として、この城にやってきたのです。それを閣下にはご理解頂きたいものです」

「ぬけぬけと良くもぬかしやがるぜ。あまりこっちを舐めるなよ? お前が裏で何をやっているかぐらい、ウチの諜報隊がつかんでるんだ。反吐が出るような下衆野郎じゃねぇか。てめぇには畜生という表現が誰よりも相応しい」

 ケリーが不快そうに吐き捨てる。マドロス諜報隊は帝国だけでなく、王国、解放軍にも密偵を放っている。勿論、迫り来る危機を予め察知する為である。確証はないが、例のテナン虐殺は解放軍の手による者の可能性が非常に高いという報告が入っている。
 国家や軍隊というのは、必ず表にでない汚い面が存在する。綺麗事だけで人を動かし、人を殺す事など出来はしない。

「民衆は耳に聞こえの良い事しか、頭に入れようとはしません。王国が今更綺麗事を並べたところで、信じる者など一人もいませんよ。解放軍が王国軍のフリをして略奪を働いているなど、笑い話にもならない」

 表情を崩しながら、ディーナーが告げる。目は笑っていない。一つ間違えれば己の首はない。
 それを覚悟の上で、ディーナーは王国北東部のこのマドロスへとやってきた。

「お前の言う通りだ。今更王国がどう否定しようがただの言い訳だ。王国への罵詈雑言ならこっちも幾らでも挙げることは出来るが、悪いが俺は忙しい。てめぇの御託や、夢見がちな馬鹿女の綺麗事に付き合ってる時間はねぇんだ。用件があるなら今すぐに言え」

 杯を乱暴に卓上に叩きつけると、殺気を篭めながらディーナーを睨みつける。ディーナーは軽く肩を竦めると、静かに話し始めた。

「話は簡単です。我々が王都を攻略するまで、第5軍はこのマドロスから動かないで頂きたいのです」

「自分が何を言っているかは分かっているよな? 一度口から出た物は戻せねぇぞ?」

 ケリーが右手を挙げると、親衛隊が剣を抜き放つ。その手が振り下ろされた時、この部屋には屍が2つ作られることだろう。

「勿論です。現状、解放軍の戦力は多く見積もって15万程度。士気が高いとはいえ、北部、南部、そしてカナン地帯の3方向から侵攻されるのは流石に厳しい物があります。賢明な貴方が動くとは思えませんが、マドロスを放って全兵力をこちらに向けられては、我々としても堪らないと言う訳です」

「……それをわざわざ俺に教える理由は何だ? 脅しのつもりか?」

「マドロスから兵力を動かした瞬間、帝国軍がこの地に総攻撃を仕掛けます。これはアラン皇子を通じた確かな情報ですよ。私としても、帝国にこれ以上介入してもらうのは好ましくない。故に、釘を刺しに来たのですよ。決してここから兵を動かさないようにとね」

 ディーナーが卓上を指で軽く叩きながら述べる。

「こっちには皇太子アレクという人質がいる。再侵攻して来たら、奴の命はないぞ」

「皇子一人の命を領土拡張に優先させるほど、皇帝アルフは甘くはないですよ。交渉に応じているのも、軍備を整える為です」

 事実と嘘を交えながら、ディーナーは話す。実際にはアレクの命を優先させるだろうとディーナーは見ている。
 その帝国が交渉で簡単に是と言わないのは、一度受け入れれば要求がエスカレートしていくのを嫌というほど理解しているからだ。当然人質は解放されない。
 本当は、何としてでも我が子を救い出したいというのが皇帝アルフの本音である。

「……成る程、話は分かった。だが、お前の要求は完全に拒否する。分かったらとっとと帰れ。目障りだ」

「それは残念です。ですが、閣下と直接お話できて良かったですよ。機会があれば、また御会いしましょう。きっとそう遠くない時期ですよ」

「ふん、俺は会いたくはないがな。おい、客人がお帰りだ。外まで案内してやれ!」

「はっ!」

 ケリーはこれ以上話すことはないと席を立ち、部屋を後にする。ディーナーと付き従っていた士官、ヴァンダー大尉は兵士に促されて、強制的に退室させられた。そのまま外へと連行され、厄介者を追い払うように城門から締め出される。

 

 
「……ディーナー様。不味いことになりましたね」

 馬に跨りながら、ヴァンダーが上司に話しかける。交渉は失敗、最悪の結果となってしまった。

「何が不味いのか理解に苦しむな。交渉は大成功ではないか。そもそも、ケリー殿に会えた時点で今回の目的は達成したようなものだ」

「し、しかし」

「あの男は絶対にここから動かんよ。王国に対する忠誠よりも、マドロス領を如何にして守り抜くか。それがあの男の行動理念だ。私が交渉しようがしまいが、それは変わらなかっただろう」

「それが分かっていながら、何故ディーナー様直々に?」

「王都解放後の布石だ。彼らには今後も帝国の拡張を防いでもらわねばならぬ。マドロスは対帝国の前哨地帯なのだから。その任を全うする事が出来るのは彼らマドロス人だけだ。その為にも、今回の交渉で顔を合わせておく必要があった。王都解放後、帝国の傀儡政権と思われて独立でもされたら目も当てられんからな」

 ディーナーは淡々とした口調で己の考えを述べる。彼の中では現王政の打倒は既に確定事項である。
 肝心なのはその後。帝国は間違いなく新政権に介入してこようとするだろう。それが皇帝アルフの狙いなのだから。ディーナーとしては帝国の介入をを最小限に抑える必要があった。
 そもそも、今回の帝国の躓きは想定外の出来事だったのだ。王国が勢いを盛り返すのは頂けないが、帝国の勢いを一時的に抑えることができたのは不幸中の幸いである。そして何よりも、皇太子の身柄が押さえられたのは僥倖とも言える。
 交渉において、対帝国に対する最強のカードを手に入れたも同然だ。帝国軍はこれで動けない。

 同時に、王国の勝利は日和見領主達の動揺を招き、ディーナーの調略活動は難航していた。王国がこのままもつとは思えないが、解放軍が無事に勝利を収めるというのも信じ難い。今は様子を見るのが最善であると、再び甲羅の中に引っ込んでしまったのだ。
 南東部の諸国連合との緩衝地帯は王国軍、解放軍、諸国連合の3ツ巴の様相を呈しており、誰も身動きできない膠着状態と化してしまった。
 今の解放軍に求められている事は、王国軍の主力を打ち破り、カナンを攻略して王都へ突入する。ただそれだけである。
この時点で戦の趨勢は決まり、日和見達はこぞって解放軍傘下に降って来るだろう。
 解放戦争の鍵を握るのは次の戦い。恐らく、カナン・ベルタ間で起こるであろう会戦で全てが決まる。

「……ヴァンダー。次の戦いは、絶対に負けられないものとなるだろう。お前もそのつもりで全力を尽くせ。挙げた功には必ず報いる」

 ディーナーはヴァンダーの能力を買っている。王国元帥シャーロフが更迭された原因である、クーデター未遂事件は彼が仕組んだものである。当然ながら全てが偽りであり、シャーロフに叛心などはなかった。宰相ファルザームとの不仲を衝き、煙を大火事へと強引に発展させたのだ。

「――はっ、心得ております!」

「私はこれからベルタへと帰還し戦の前準備を始める。お前は資金を持って手筈通りに『コロン牛』の調達に向かえ。次の戦いでの切り札となるものだ。出来る限り大量に揃えろ。最低でも1000頭だ。質は問わん」

「了解です。……しかし、食用牛など一体何に使うのですか?」

「兵士達に上手い肉を振舞う。今はそういうことにしておけ。いずれ、分かる」

 口元を歪めて返答すると、ディーナーは馬を走らせ始める。護衛たちもそれに遅れじと慌てて続いていく。
 ヴァンダーは軽く顎を擦った後、今は言われた命令を遂行する方が大事であると思い直し、コロン牛の調達へと向かう。

 コロン牛とは、大陸北部のみに棲息する鋭利な角を生やした大型の牛である。一見大人しそうな獣だが、一度危害を加えられたと判断すると、その相手をどこまでも追いつづけるという獰猛な気性を備えている。
 その肉は美味であり、捕獲の難しさと相まって市場では高値で取引される。狩人はコロン牛を狙って狩猟を行うが、返り討ちに遭い殺されるという事故も多発していた。








 大佐に昇進したシェラは、とある任務を命じられて騎兵100程を引き連れてのんびりと行軍していた。口には細長いニンジンのスティックを咥えながら。たまに馬の前方に放り投げ、餌代わりにくれてやっている。何しろ腰の皮袋には嫌と言うほどの野菜のスティックが詰め込まれているのだ。数本プレゼントしてやるぐらいは何でもなかった。

「大佐、ご機嫌ですね」

「ええ、出発前にこの野菜袋をプレゼントしてもらったからね。大佐に昇進したお祝いにってくれたのよ。昇進して良かったわ」

 英雄シェラに何か贈り物をしたいと言って来た子供がいたのだ。食べられる物ならば何でも良いと答えると、次の日にこの野菜袋を頂いたと言う訳だ。小難しい言葉の感謝状やら勲章を貰った時よりも、シェラは嬉しそうに受け取った。

「それは良かったですね。我々からも後ほど昇進祝いをさせて頂きます」

「無理しなくて良いわよ。それより、貴方もいる?」

「ありがたく頂きます!」

 シェラが緑のスティックを放り投げると、嬉しそうにとびつく騎兵。まるで躾けられた犬みたいだと思いながら、シェラは再びボリボリと食べ始めた。

 ちなみに、中尉に昇進したカタリナは現在別の任務に就いている。戦死した騎兵隊員の代わりに配属された兵士達の訓練係である。シェラの騎兵隊は3000程割当てられていた。ヤルダーは彼女に1万騎与えれば、賊将の首を確実に持ち帰ると豪語したが、個人の武勇は認めるが、指揮能力には疑問が残ると判断された為、これ以上の増強は見送られることとなった。
 出自が怪しいシェラを、これ以上重用するつもりのない宰相ファルザームの意見があったことも大きい。
 ヤルダーは再び大将に復帰したが、同時にバルボラも中将から大将へと昇進していた。
 カナン防衛の指揮を執るバルボラの権限の方が強い為、ヤルダーが強引に意見を押し通すことは出来なかった。
 犬猿の仲で有名ある両名だったが、出世欲が満たされたバルボラは冷静さを多少取り戻し、ヤルダーに対しても以前のように敵意剥きだしで接することはなかった。ヤルダーも激戦を潜りぬけた事で人間的に成長したらしく、我慢と忍耐の2つを身に着けたようだった。
 とはいえ、それは大将格2名だけの話で、王国史上最年少で大佐まで上り詰めたシェラへの風当たりは非常に強く、嫉妬、羨望、恐怖、憎悪といった粘つくような視線を嫌と言うほど浴びせられる事になる。

 特にそれが強かったのは、次にシェラが昇進した場合、同階級となってしまう少将格の人間達だ。平民出身の人間に追いつかれ、追い抜かれる恐怖は凄まじい物があった。散々見下してきた人種に、立場を取って代わられるなど、彼らにはとても耐えられない。
 その筆頭がバルボラの長年の腹心であるオクタビオ少将、次にブルボン少将である。事あるごとにシェラの非難を繰り返し、激怒したヤルダーに一喝されることも珍しくなかった。流石のバルボラも自分を棚に上げて、うんざりであると言った表情を浮かべる始末。
 ラルス少将のように、出世に興味がないという人間は、王国軍では希少だった。 


 腐った連中の視線から解放されたシェラはとてもご機嫌であり、うららかな昼下がり、鼻歌交じりに馬をのんびりと歩かせていたという訳だ。

 
「大佐、前方から馬車と騎兵の一団がやってきます。旗は第1軍のものです」

「よし、全員整列ッ! シャーロフ元帥閣下をお迎えする!! 失礼のないようにしろッ!」

「はっ!」

 シェラが号令すると、騎兵達は2列に分かれて一団を迎え入れる態勢を整える。シェラはその中心に位置し、正面から出迎えた。
一団の先頭を走る騎兵が、高らかな声で告げる。

「黒旗に白カラスの紋章、武勇の誉れ高いシェラ大佐とお見受けする! 我らは第1軍、カナン所属の騎兵隊である! シャーロフ元帥閣下の護衛任務の引継ぎをお願いする!」

「了解した! この旗印に賭けて、確実に元帥閣下を王都までお送りする!」

「宜しくお願いするッ! 我々は急ぎカナン防衛に戻らねばならない! それでは、これで失礼する!」


 必要な事だけを告げた後、馬首を返して駆け始める騎兵隊。偉そうな事を言ったが話は簡単。兵権を取り上げられたシャーロフ元帥閣下を、王都まで護送するだけである。護送まで1ヶ月も掛かったのはカナンでの混乱を抑えようとしたシャーロフの指示である。シャーロフに忠誠を誓う兵達が暴発する可能性があったのだ。彼らの説得にシャーロフ自らが乗り出し、時間は掛かったが見事に成功したのだ。
 シャーロフに引き立てられたラルス少将は、元帥が立つのならばそれに従うと公言していた程である。
 忠誠心篤いシャーロフ元帥閣下は、義憤に沸く兵士達を説得した功により王都に送還され、爵位、階級を剥奪された上、一族郎党誅殺されると言う訳である。
 世の中訳が分からないと、シェラは首を捻ったものだ。反乱軍を皆殺しにするならばシャーロフ体制を維持する方が効率が良いと思ったからだが、特に興味はなかったので抗議するような面倒な真似はしなかった。興味がない事を考えると腹が減るのだから仕方がない。食う、寝る、戦う。これ以外には余り興味が湧かないのだ。

 馬車から両脇を拘束されたシャーロフが降り立ち、ゆっくりとした動作で敬礼する。

「任務ご苦労。英雄と名高きシェラ大佐に見送ってもらえるとは、良い土産話が出来たものだ」

「光栄であります! この不肖シェラ、全身全霊を尽くし王都ブランカまで護衛させて頂きます!」

 シェラが素早く下馬して背筋を張って敬礼する。慣れない姿勢なので肩が凝る。お腹も空いた。

「ハハハッ、貴官程敬語が似合わぬ士官もそうはいないだろうな。全く似合っておらんぞ。共に戦う機会がなかったのが、実に残念だ。死神と評されるその武勇、儂もこの目で見たかった」

「――はっ、小官も残念であります!」

「それでは道中宜しく頼むぞ、シェラ大佐」

「了解しましたッ!」

 髭を擦りながら、シャーロフは穏やかに微笑む。シェラは腰の袋から野菜をプレゼントしてやろうかと考えたが、周りに怒られそうなので止めておいた。








 王都までの道中、バザロフ家の末娘が一党を引き連れて現れたりといった出来事はあったが、特に問題なく護送任務は進んだ。
 シェラは食事にするといってシャーロフに身内と話す機会をプレゼントしてやった。気を利かしたと言う訳ではなく、本当に腹が減ったのだった。

「……アンナか。無茶をするな。大佐が任務中だったならお前の首は既にないぞ。全く、不幸中の幸いだ」

「シャーロフお祖父様。私達と逃げましょう。このまま王都へ行ったら殺されます! あいつらは話を聞くつもりなどありません! 問答無用で処刑するつもりなんです! 父様も母様も、皆連れて行かれてしまいました!」

 シャーロフの孫に当る少女、アンナが声を張り上げる。シェラは聞かないフリをして弁当を頬張り始めた。食事中は食べる事だけに専念しなければならない。他の騎兵達も上官に倣ってワイワイ賑やかに食べ始めた。

「儂は何も悪いことをしていないのに、逃げる訳にはいかんだろう? 逃げるということは、後ろめたい事があると自ら認めることになる。仮にも元帥であるこの儂がそんな卑怯な真似をする訳にはいかぬ。陛下に直接御会いして、この身の潔白を証明しなければな」

「ですが!」

「良く聞きなさいアンナ。お前はこのまま諸国連合へと行きなさい。詳しいことはこの手紙に記してある。あそこには儂の友人も多くいる。きっと良くしてくれるはずだ」

「お祖父様が行かないのなら、私も王都へ!」

「老人の我が儘にお前を道連れにする訳にはいかん。王都にいる他の者も出来る限りそうしてやりたいのだがな。恐らく、我が身内は全員拘束されていることだろう」

「どうして、どうして身を粉にして働いてきたお祖父様が罪人扱いにッ!?」

「世の中、割り切れん事は多々あるという事だ。儂もこの年になって勉強になった。……代償は些か高かったようだがな」

 シャーロフは疲れきった表情で溜息を吐く。

「でもッ! こんな話はおかしいです! 私は納得できませんッ!」

「話は終りだ、アンナ。いつまでも大佐の厚意に甘える訳にはいかん。息災に過ごせよ。私達はお前の幸福をいつも祈っている」

 シャーロフが目で合図をすると、アンナと共にやってきた一団の兵士が強引に両脇を抱えて引き連れていく。
 彼らはバザロフ家に忠誠を誓っている兵士達で、誰よりも信頼がおける。最後までバザロフ家の為に仕えてくれるだろう。彼らの忠誠に報いてやれないのが残念だとシャーロフは思った。
 アンナは抵抗しようともがいたが、やがて諦めたのか声を押し殺して泣き始めた。彼らが今後どうなるかは、シェラの知る所ではない。途中で拘束されて死ぬかもしれないし、諸国連合に無事逃げるかもしれない。もしかしたら反乱軍に身を投じるのかもしれない。
 シェラは最後の肉を口に放り込むと、口についた汚れを落として満足そうに息を吐く。

 シャーロフはシェラに謝罪する為に声を掛ける。

「すまなかったな、大佐。身内の見苦しいところを――」

「小官は食事をしていたので、何の事か分かりかねます。閣下の準備が宜しければ、そろそろ出発しますが」

「……ああ、宜しく頼む」

「シェラ騎兵隊、出発するぞッ! 行軍開始!! 目的地、王都ブランカ!」

「行軍開始ッ! 旗を掲げろッ!」

 シェラは鎌を肩に構えながら再び馬を歩かせていく。無実の罪人を乗せて、死神の行列は王都目指してひたすら進んでいく。




 王都到着後、シェラは即座にカナンへ向かえと命令され、休む間もなく出立する羽目となる。王都のご馳走を楽しみにしていたシェラは軽く舌打ちした後、諦めた表情で了解した。王都にはどうも縁がないらしいと嘆息しながら。
 別れ際、シャーロフは『王国を頼む』とシェラの手を取り、静かに、だが力強く話しかけた。シェラが軽く頷くと、シャーロフは何度か頷き、無念で身体を震わせる。やがて、痺れを切らした王都の兵達に乱暴に連れて行かれていった。
 シェラはそれをただ無表情で眺めていた。特に感慨を抱くこともなく。
 王国に対する忠誠心など欠片もない。あるはずがない。あるのは反乱軍への憎悪だけ。それがシェラを突き動かす原動力の一つなのだから。

 

 

 
 シャーロフは爵位、領地、階級の全てを剥奪された上、反逆を企てた罪を着せられて投獄された。国王に弁明する機会は一切与えられなかった。
 1週間の後、シャーロフは獄中で死んだ。武人としての誇りが耐えられず自ら死を選んだとも、ファルザームの手による毒殺であるとも王都の人々に噂された。後者を信じる者が多かったのは宰相ファルザームの人望のなさの現れであろう。
 かつては王家の象徴とまで言われたバザロフ家は取り潰しとなり、一族の者は成人男子は死罪、未成年、及び女子は平民階級に落とされることで一連の騒動は一応の決着となった。
 だがこのクーデター未遂事件は武官達に、宰相と国王に対する疑心を植え付ける結果となり、その綻びは日に日に増していく事となる。またシャーロフの武名で押さえつけていた国内反乱分子達が、再び動き始めたのは皮肉とも言える。


 
連休中、試しに大陸地図を作成してみました。
地理が気になる方は、参考程度に見てやってください。
http://5954.mitemin.net/i48051/
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