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最果てのパラディン 作者:柳野かなた

〈第一章:死者の街の少年〉

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 ガスとの一件があってからの日々は、今までと変わることのないものだった。
 僕はいったんガスとともに出口に辿り着き、待っていたブラッドに合流しても、一言もガスとの戦いを口にしなかった。
 ガスがブラッドに打ち明けないというなら、打ち明けないだけの事情があると信じたのだ。

 無論、隠したわけだから、多少態度がおかしくなったかもしれない。
 が、そもそもあのマジキチな訓練によって、アンデッドの巣窟に放り込まれて半日かけて生還したばかりだ。
 いくらか挙動がおかしくなったところで、まだ恐怖と緊張が抜けていないのだろうとブラッドもマリーも判断せざるをえなかったようだ。

 加えて言えば、ヴラスクスのスケルトンというのは、実は割と厄介な存在だったらしい。
 ガスが訓練経過の報告で、「ウィルがヴラスクスと戦った」というと、ブラッドは仕方ないという調子で、「そりゃガス爺さんが助けに入っても仕方ないな」と慰めるように言ったのだ。
 僕が単独で勝利する可能性をまったく考慮していない声だった。

 単独で完勝じゃったぞ、とガスが言うと、ブラッドの顎が落ちた。
 文字通り、下顎骨がぽとっと。
 地面に。

 慌てて顎骨をはめ直すブラッドというのは中々シュールな光景だった。
 ……しかしそんなにヴラスクスというのは厄介なのだろうか。
 ブラッドよりも数段弱く思えたのだけれど、実はあれ、何かの理由で本来より弱体化していたとかなのだろうか。
 アンデッドはおしなべて、生前から技能や能力は成長しないと習ったはずなのだけれど。

「えっと、ヴラスクスって、ブラッドにとってはどのくらい面倒な相手なの?」
「ん、俺か? 俺ならまっすぐ進んでそのまま首刎ねて終わりだな!」

 ブラッドがふんぞり返って言った。
 ……なんだ。ヴラスクスって、やっぱりそんなに強くないじゃないか。
 単にブラッドが僕をちょっと過小評価しすぎか、あるいは実戦で実力を発揮できないんじゃと思ってただけのようだ。

「それじゃ、僕もヴラスクスに勝てたくらいじゃ、まだまだだよ」

 少し力を身につけたところで、のぼせあがれば高転びすると、むかしマリーも言っていた。身を慎まねば。
 そう考えて言うと、ブラッドとガスは二人して変な顔をした。そしてそれぞれに、

「お、おう」
「そ、そうじゃな」

 などともごもごと言った。
 ……? 何だろう。何か勘違いをしている気がするけどよく分からない。

 わからないまま話題は流れて、話題は戦利品のほうに移った。
 地下街では古い硬貨や装飾品なんかも見かけたけれど、荷物を増やす余裕はなかったので、戦利品といえるのはあの短槍一本だ。
 僕の初めての戦利品ということで、神殿に持ち帰ると3人も興味津々だ。

 穂先は直槍型で、刃渡り30センチほど。
 柄と合わせて僕の身長をいくらか越えるくらいの長さだ。
 刃紋は直刃で、刃自体に《ことば》の彫り込みが幾らか。
 切っ先大きく、鋼が明るく冴えている。
 根本のあたりで一度きゅっとくびれているが、その具合が艶めいていてなかなかいい、とはブラッドの弁だ。

 柄材の色はダークブラウンの渋い色合い。マリー曰くウォールナットという樹が材料らしい。
 《ことば》を刻まれた青銅のリングが穂先の根本に締まっていて、いいアクセントになっている。
 石突きの金具は小さくて、橋の欄干みたいなシンプルな造形。
 全体的にドワーフ造りらしい実用本位の短槍だけれど、それが逆に無駄を削ぎ落とした美しさと存在感を醸している。

 暗い色の柄に、光を照り返して白く冴え冴えと煌めく鋼の穂先。
 これが僕の武器なのだと思うと、ちょっとガラにも無くテンションが上がった。
 思わず握って、庭で何度か素振りとか型とかやってしまうくらいだ。
 ……いや、恥ずかしながら、男の子はいつだってこう、自分専用の武器とか乗り物とかを持ちたいのだ。
 多分、同じ男ならみんな分かってくれるだろう。

 効果についてはガスに鑑定の仕方を改めて教えてもらいつつ、一緒に詳しく調べてみたところ、これは『おぼろ月(ペイルムーン)』という銘の槍だと分かった。
 穂先と柄のそれぞれに、《創造のことば》による魔法効果が付与されている。
 穂先には、よくある貫通力や切断力の強化や、強度と品質保持の《ことば》がまずひとつ。
 更に例の《ルーメン》を基礎とした《ことば》たちが刻まれ、範囲や輝度を調整可能な照明となるようだ。
 目眩ましになるほど強い光は放てないようだけれど、暗中の照明にするには十分すぎる。松明いらずだ。

 そして柄には同じく強度と品質保持の《ことば》のほか、物体の伸縮に関する《ことば》が刻まれていた。
 四半刻、つまり30分ほどかければ、硬度や靱性を保ったまま1~4メートル程度の範囲で柄の長さを調節できるらしい。
 戦闘中にいきなりぎゅんと伸ばすとかはできないが、状況次第で長槍としても使えるし、閉所にも持ち込める。
 ……炎とか衝撃とか派手な効果ではないけれど、どちらの効果も地味に便利だ。
 何くれと使い道が思い浮かぶ。

 すごい。
 ホントに凄い。
 ホントに、魔法の武器だ! しかも自分のもの!

 更にテンション上がって思わず色んな長さを試しては槍を振り回したり、汚れてもいないのに繰り返し槍を磨く僕を、3人がすごく生暖かい目で見ていた。
 ……いや、しょうがないじゃない。自分で勝ち取った魔法の武器とかさ! 嬉しいでしょ!



 ◆



 それからは、平穏に日々が過ぎていった。
 ブラッドやガスの授業では、時々地下街に潜ることになったけれど、もう慣れたものだ。
 『おぼろ月(ペイルムーン)』や長剣を手にして、デーモン・アンデッドたちを相手に何度も何度も実戦を経験した。
 ヴラスクス級の個体に遭遇しても、前よりも手こずらない。

 最終的に地下街の構造もおおよそ覚えてしまったうえ、もう何が出ても相手にならなくなったので、ついに僕のほうにハンデが課せられた。
 衣類と短剣のみで地下街に侵入し、アンデッドから武器防具を奪うなりの現地調達で指定数を仕留めて帰る、という形だ。
 なかなか大変だったけれど、それもなんとかこなせるようになるまで、そう時間はかからなかった。

 ちなみにあれこれ保存状態のいい武器や装飾品も拾ったけれど、流石に『おぼろ月(ペイルムーン)』以上の銘品はなかった。
 でも質の悪い武器や数打ち、銘品、長いものから短いものまで、色々な武器防具を使ってみるのはとても良い経験になったと思う。

 ……それから、あれ以来、ガスの授業には変化があった。
 前までみたいな苛烈な詰め込みがなくなったのだ。
「おぬしの学識はもう十分じゃ」とガスは言った。「もっと別のことを覚える時期じゃな」と。

 そしてブラッドも誘うと、ガスは賭場を開帳した。
 サイコロ賭博だ。
 それぞれが地下街から拾い集めてきた金貨銀貨を賭け金にして、この世界でメジャーな色々な賭けを色々やって盛り上がっているところでマリーに発見されて全員こってり叱られた。

 賭博禁止を厳重に言い渡されたので、ガスは次には賭け抜きでボードゲームを色々教えてくれた。
 古い意味での双六や、バックギャモン、あるいはエジプトのセネトのようなサイコロと戦略で駒を進めて進行するゲーム。
 将棋やチェス、チェッカーのように駒を取り合うゲームや、リバーシや囲碁のように石を配置するゲーム。
 あるいは麻雀のように牌の模様を揃えて役を作るゲームもあった。

 一流の魔法使いとなれば、そのあたりの知的遊戯にも通じていることが嗜みのうちらしい。
 何故ならこのボードゲーム、時々は魔法使い同士の決闘にも使われるのだそうだ。
 魔法は威力が洒落にならず手加減もききずらいうえに、使い手はインドア派が多い。
 何かの拍子で揉めた憎い相手と、物理的に決闘すると、双方相討ちの不毛な結果が多発してしまう。
 そこで揉めた際は契約書を描いた上で、知的遊戯で決着をつけることが時折あったことに由来する教養らしい。

 思わず僕は前世のとあるカードゲーム漫画を思い浮かべたけれど、考えてみると時折ゲームが決闘裁判式に使われたのは前世のリアル古代でもだった。
 特に運要素が絡むものは、天意を問うのに使われたとかなんとか……おっと、閑話休題。

 それはそれとして勿論、真面目に二重や三重の魔法行使などの裏技も教わった。
 前世でも左右の手でそれぞれ別の文字を書く芸とか、楽器を演奏しながら別のパフォーマンスをしてみせる大道芸とかあったけれど、なんというか多重魔法はあれに近い。
 剣の技とかと同じで、よく使う組み合わせを、手と口に覚えさせて自動化するのがコツ……なのだと思う。
 そういうわけで、実用的な組み合わせを幾つかガスと検討して、体になじませた。

 が、二重はなんとか無理して真似できたものの、三重はあまりに難易度が高かった。
 ガスの長年の修練のたまものなのだろう。
 ガス自身も、流石にそこまで一年やそこらで真似されたらたまらんと言っていたけれど……
 僕も長年訓練すれば、いつかその域へ届く日が、くるのだろうか。



 ◆



 それからブラッドとも、授業のほかに色々遊んだ。
 ブラッドは基本的にアウトドア派で、狩猟とか採集とか、木登り崖登り。
 あるいは湖で水泳とか素潜りとか、罠や銛、釣りで魚を獲ったりといった、半分訓練的な内容が多かった。

 あと、他にもお酒を醸造したりした。
 やっぱりマリーにばれると叱られそうなので、こっそり山ぶどうを集めて、熱湯で消毒した壺に果汁を詰めて布で封して発酵させたのだ。
 ついでにアルコール度数を高めるために、二人でガハハと笑いながら蜂の巣いぶして、はちみつで加糖までした。
 おまけで蜂の子を美味しく頂いたのだけれど、考えてみると自分も前世にくらべて野性的になったもんだ。

 ……そして十日ほどおいて、ちゃんと発酵してお酒になっていることを確認してから、二人っきりで盃を交わした。
 といってもブラッドにはもちろん喉も舌もない。
 口に入れる端からぼたぼた落ちてしまっていて、多分味も分からなかっただろうし酔えなかっただろうけれど。
 でも、やけに美味しそうで、楽しそうだった。

 だからだろう。僕もついつい一緒になって飲み過ぎたのは。
 かなりの量を作ったはずなのに、ふたりで……というかブラッドはもったいないから地味に遠慮していたフシがあるので、大半を僕が干してしまったのだ。
 今生の体はお酒にも強いようだったけれど、大したつまみも無しに初めてのお酒をカパカパ飲んだ結果……当然、ものすごく酔った。

 だからだろう、あんなことをしてしまったのは。
 ……上機嫌になったブラッドと僕は、マリーに対する覗きを敢行したのだ。


 マリーの。

 ミイラの。

 着替えを。

 覗きに。


 何を言っているか分からないかもしれないが、自分も正直何を言っているのかわからない。
 完全に酔っぱらいのテンションだった。
 むろん、僕もブラッドもその気になれば、身ごなしも静粛性も相当のものだが、それはシラフの時だ。
 あっさり物音を立てて発覚し、平手打ちされたうえで賭場開帳事件の時以上にこっぴどく、こんこんと絞られた。
 泥酔したうえに女性の着替えを覗くとか、むしろよくマリーは平手打ちで許してくれたと思う。

 なおマリーの体そのものは、無論ミイラ化してほとんど骨と皮ばかりだったのでどうとも思わなかったし思えなかった。
 が、覗かれたことに恥じらうマリーには少しドキリとしてしまい、それがバレて更に説教を追加された。

 そして翌日目覚めたら、夢精していた。……そう、精通である。
 声変わりする時期だからそりゃ精通もするだろうけど、性の目覚めがミイラ。
 性の目覚めがミイラ……

 おまけにそれがブラッドにバレて指さして大爆笑されたので蹴りを入れた。
 そしてこの秘密はマリーに対しては墓まで持っていくことを誓い合ったのだった。
 汚れた下帯を洗いながら。


 ……今後、お酒は控えよう。ホントに控えよう。


 
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