81話 衝撃
書籍化します
発売日等くわしいことは活動報告にて
「キュアオール!」
魔法を使い、酔いから急回復。
これがあってよかったよ。まあ、なければ飲酒なんてする気にもなれないんだけどさ。
頭がスッキリしたら一緒に飲んでいたコルノたちにもかけて、チャットで緊急連絡。
『
フーマ>総員、第一種戦闘配置!
ゴータロー>ゴ!
レッド>ドリ!
アシュラ>にゃ!
クロスケ>カア!
バイカン>……はい
フーマ>訓練どおり、ゴータロー及び近くにいるゴーレムたちは巨大空間で敵と当たってくれ
ゴータロー>ゴ! ゴ!
フーマ>レッドたちは第2層より先へ敵モンスターの侵入を防ぎながら、妖精たちの避難を手伝ってくれ
レッド>ドリドリ!
フーマ>アシュラは第3層より先に妖精たちが迷い込んだら、第2層へ案内してやってくれ
アシュラ>なう
フーマ>第2層のトレントは妖精たちの面倒を見てやって
バイカン>了解ですじゃ
フーマ>クロスケは巨大空間で待機。すぐに行くから待ってるように
クロスケ>カァ!
』
「ハルコちゃんはコアルームに戻って監視システムで警戒と連絡を頼む」
「は、はいですだ」
緊張してるみたいだね。何度か訓練してるけど初めての実戦だもんな。
軽くハルコちゃんの頭をなでる。
「緊張しないでいい。訓練どおりやればいいから」
「わかっただ」
「それじゃ、巨大空間に転移するから残りはこっちきて」
「ニャンシーもなのかにゃ?」
「そう訓練で説明したろう」
それでもまだぶつぶつ言うニャンシーも連れて巨大空間に転移すると、リニアや妖精たちが常若の国の沈む湖をじっと見つめていた。
「アリは?」
無言で湖を指差すリニア。
そりゃそうか。邪神のダンジョンはティル・ナ・ノーグに発生したんだから、そこからわき出るモンスターも、湖から出てくることになるのは当然だ。
湖の表面には黒い絨毯のようにアリが浮いている。密着してそれぞれが浮きとなって沈まないようにしているようだ。
今はまだ湖岸に到達してはいないが、湖の中央らしき地点でコポッと泡が弾ける度にアリが増え、絨毯の上を歩いて端まで行くと着水、自らも絨毯の一部となって足場を広げていく。集団プレーがすぎる連中だ。
足場になっているアリの大きさは遠くてよく見えないがたぶん10センチぐらいだろうか。アリにしては大きいが、この島の巨大昆虫に慣れてしまった俺にはそれほどには思えない。問題は数だろう。
<感知>でも反応が多すぎて何匹いるか数える気にすらならない、
[【マイナーレギオンアント】
ランクN LV25
軍隊アリのモンスター
千を超える群れで行動する
働きアリであるマイナーは他のレギオンアントの足場になる]
ランクが低いからか、この距離でも<鑑定>できるな。
それにしても軍隊アリか、やっかいだ。シロアリじゃないのは救いだけどさ。だってシロアリってハチの仲間であるアリとは別系統で、Gの仲間なんだぜ。考えるだけで嫌だっつの。
「ニャンシー、妖精たちを第2層に避難させてくれ」
「フーマ様、ワシらも戦えますじゃ」
異変の確認のために大浴場から出ていたバーンニクがそう言ってくれたが、俺は首を横に振る。
「いらん。敵の数が多すぎる。乱戦になったら敵味方の区別ができずに巻き込んでしまう」
「そこまでワシらのことを……」
「フーマ様!」
そりゃDP源だし、無駄死にさせるわけにはいかないでしょ。最近では生産も手伝ってくれてるし、農作物の高速育成のための大事な素材の生産者でもある。
避難民妖精たちは俺を取り囲んで両手を合わせ、祈りのポーズ。
「拝む暇があったら、さっさと避難してくれ」
「足が遅い連中はダンプゴーレムに乗り込むにゃ」
妖精たちがダンプゴーレムに乗り込み、もしくはフェアリーたちのように飛びながら新たに作ってあるダンジョンの通路を通って、巨大空間から脱出していく。何度か避難訓練しておいてよかったよ。
「ミーア、あのアリたちに雷、届く?」
「届くけど、湖の中へも電気が流れるからそれは拒否したいよ、マスター」
ティル・ナ・ノーグへはダメージはいかないと思うけど、それを心配しているのか。
見れば、リニアもなにか言いたそうにこっちを見ている。
「聞いただけだ。あそこで倒したんじゃ、ゴーレムたちがレベルアップできないだろう?」
邪神のダンジョンからディーナ・シーの封印の隙間を通って出てくるモンスターとの戦いは想定済みである。
そのモンスターと戦って強くなってもらうために、巨大空間のパトロールにはレベルが高くて進化が近いゴーレムを配置していたのだ。
「ゴゴゴ!」
両手に持った二本の剣を掲げて力強く吼えるツートンカラーのゴーレム。
ゴータローである。一番進化が近いゴーレムだ。
「トレントたちは弓はひけるか? 無理なら石でも投げてくれればいい」
「やって……みます」
桜、桃、杏の満開トレントたちに弓と矢を渡す。これは未熟者のダンジョン第2層のボス、ゴブリンスナイパーが使っていた物だ。
人間用サイズだが、それでもトレントたちには小さい。
トレントたちの構えには不安を感じるが、戦闘中ならもしかすれば<弓>スキルを入手できるかもしれない。それに期待しよう。
「ボクも戦うからね!」
「……わかった。レヴィア、コルノを頼む」
「任せなさい。あなたこそ、夜に支障がないようにするのよ」
「当たり前だ」
レヴィアたん、もがれそうなフラグは勘弁してください。ヒュンてしちゃうから。
「動いた!」
リニアが剣を抜いた。
こちらが避難と準備をしてる間にやつらもどんどんと浮いてきて、絨毯の端が分離してこっちに流れてくる。その上にはアリ舟を構成しているマイナーの倍くらいの大きさのアリが何匹も乗っていた。
[【メディアレギオンアント】
ランクR LV50
軍隊アリのモンスター
千を超える群れで行動する
兵隊アリであるメディアは他のレギオンアントよりも大型
長く鋭い大顎を持ち、狩りを行う ]
あれが兵隊か。ここからでも見えるあの凶悪な顎なら妖精たちの手足ぐらい簡単に切断できそう。種族レベルも高いようだしあいつらを避難させて正解だった。
何艘かに分かれて中央から四方八方に湖岸を目指すアリ舟。
「考えたね、これでは一網打尽にしにくいよ」
「戦力の分散は悪手だと思うんだけど……俺たちの排除が目的じゃない? とにかく、第2層への通路へは通さないように!」
「ラット・キングのように地上に出て、戦力を整えてから戻ってくるつもりじゃないのか?」
「それはそれで面倒そうだ。ミーアとゴーレムたちは第2層への通路を死守、俺たちは地上への通路を防衛する!」
「了解だよマスター」
◇ ◇ ◇
練習して手に入れた<口笛>スキルでクロスケを呼んで、コルノを乗せて飛んでもらう。その横を俺とレヴィアが<飛行>して地上への通路へと急ぐ。
ダンジョン改装時にこっちもなんとかしておけばよかったか。
通路近くの湖岸にはすでにアリ舟が到着していて兵隊アリたちが上陸していた。
「ボクから行くよ!」
コルノが飛行中のクロスケの背中から飛び降りる。
なんだろう、今日のコルノはやけに好戦的なような?
そのまま跳び蹴りを行う彼女の台詞でその理由はすぐにわかってしまった。
「衝撃のォ……一番蹴りィ!」
ああ、こないだ見せたアニメの影響を受けてたのね。隣で飛ぶレヴィアが「ずるい」って呟いたのが聞こえてしまった。
なんか別の意味で不安になってきたな……。
現在のスキルレベル
<口笛LV1>
<飛行LV2>