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魔王の器 作者:月野文人

第二章 魔王編

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神教会の受難

 煌びやかな鎧に身を固めた騎士たちが、軍列を組んで街道を進んでいた。
 先頭を進む騎士が掲げているのは、至高を意味する青地の布に放射状に広がる黄色の太陽と交差する剣を描いた旗。
 レナトュス神教騎士団の軍旗だ。
 離れた位置から眺めていても、騎士たちの顔が強張っているのが見て取れる。この先に待ち受ける戦闘を考えて、怯えているのだろう。

「ざっと二千って所かな?」

 カムイは街道から少し離れた林の中で、その軍列を見つめていた。

「思っていたよりも奮発したな。さすがに百単位じゃあ、どうにもならねえと分かったか」

 そのすぐ後ろにはアルトもいる。

「だろうな。まあ、こっちとしても一度で終わった方が良い。これで、この辺りは終了だよな?」

「ああ。調べた限り、駐屯している騎士団員はこれで全部のはずだぜ」

 教会支部への襲撃とともに進めている神教騎士団への攻撃。強盗まがいの教会支部への襲撃と違って、こちらは戦争だ。各地の神教騎士団の駐屯地を片っ端から攻めていた。

「じゃあ、とっとと終わらせて、次に移ろう」

「油断するんじゃねえぞ」

「する訳ないだろ? 油断しているとしたら、向こうの方だ」

「してるようには見えねえけど」

「長ったらしい隊列組んだままだろ。戦場はまだ先だと思っている証拠だ」

「そう思わせるようにしたんだろ?」

「まあな。さて、準備は良いか?」

 この声に応える者はいない。それでもカムイは、林の中に隠れている魔族たちが、戦闘準備に入っている事が分かった。わずかに漂っていただけだった魔力の量が膨れ上がってきたからだ。

「殲滅しろ!」

 この日、ルースア王国の南方にある小国ブルトリア王国に駐屯していた神教騎士団十八師団は、壊滅した。

◇◇◇

 レナトゥス神教国。レナトゥス神教会の教皇庁がある街は、それ自体が一つの独立した国である。国家元首は神教会の教皇であるアウレリオ・ファニーニ。そして、教皇と枢機卿団の中から選ばれた三人の司教枢機卿によって統治されている。皇国でいう皇帝と三役のようなものだ。
 そのレントゥス神教会の最高権力者たちが、一同に会していた。

「では、リエル枢機卿。状況の報告をお願い出来ますか?」

「はい」

 司教枢機卿の筆頭に位置するヴィクトル・コンテに促されて、ジャン・リエル枢機卿が報告を始めた。

「まずは、教会支部の被害状況です。現時点までの報告を取りまとめた所、強奪の被害にあった教会支部は二十二か所、被害総額は不明です」

「それでは報告になっていないですよ」

「被害額を正しく報告してこないのです。報告があっても明らかにおかしな数字ばかりで、それをここでお伝えしても意味はないかと」

「そうですか」

「理由の説明は必要ですか?」

「いえ、不要です」

 強奪された財産は、教皇庁に報告せずに貯めこんでいた不正な蓄財。罪を恐れてまともな報告をしてくるはずがない。それは、ここにいる全員が分かっている話だ。

「では、先に進みます。強奪による死者は五名。ただこれは魔族によるものではなく、強奪後に民衆により殺されたものです」

「なんと!?」

 驚きの声を上げたのはファニーニ教皇だ。教会の聖職者が民衆によって殺害されたという事実が信じられなかったのであるが、声を上げたのが教皇ただ一人であるという事が、教会の腐敗の状況を良く表していた。

「……それだけ、民衆の怒りが酷かったという事かと」

「聖職者が民衆の怒りを買うとは、一体、何をしでかしたのだ?」

「それは……」

 教皇からの問いであっても、それにすぐにリエル枢機卿は答える事が出来なかった。彼は教会の腐敗の構図を理解しているのだ。この場で、詳細を告げづらかった。

「魔族に騙されたのでしょう? 民は正しい導きがなければ、間違いを犯す、愚かな存在ですから」

 教皇の問いにコンテ司教枢機卿が答える。その答えを真実だと思っているものなど、この場には誰もいない。

「民を愚かと言う、その心こそを愚かと言うのではないのか?」

「……教皇様、今はそういう議論をしている場合ではございません。報告を聞きましょう。続けてください」

「は、はい。今の死者には、護衛にあたっていた神教騎士団員は含まれておりません」

「それを含むとどれ位なのですか?」

「それは……、神教騎士団についてのご報告の時に申し上げます」

「そうですか……。分かりました。続けてください」

「被害にあった教会、教会支部の位置関係はばらばらです。複数のグループに分かれて、襲っていると考えて間違いありません。一つのグループは大体、十から三十の間。これは襲われた教会からの報告で分かっております」

「たったそれだけの人数で? 何も抵抗しなかったのですか?」

「いえ。司祭以上は、それなりの神聖魔法の使い手ですので、当然、戦っております。が、全く通用しなかったようです」

「そんな馬鹿な!?」

「通用しないというよりは、詠唱を唱える間がなかったようです。報告が真実であれば、ですが」

「……そうか。そうですね。集団戦闘であればともかく、個々の戦いで魔族に敵う訳がない。動揺した私が間違っていました」

「はい。現在の状況から言って、残念ですが襲撃を防ぐ事は困難です。魔族が止めるまで、被害は増えるでしょう」

「それでは全ての教会が襲われてしまうではありませんか」

「それはありません」

「……何故そう思うのですか?」

「魔族は襲う場所を選んでおります。襲われたのはいずれも教区内で、悪事を働いていた者がいる教会ばかり。しかも、同じ教会内でも、何も知らなかった者やそれを止めようとしていた者に対しては、罪はないと分かる様にされております」

「だから?」

「その……、魔族は悪事を働いている聖職者に罰を与えているのでは?」

 リエル枢機卿としてはかなり思い切った報告をしている。場合によっては、教会批判と取られてもおかしくない内容なのだが、滅多に会う事が出来ない教皇がいる前で、少しでも真実を明らかにしたいという気持ちがあった。
 案の定、その場にいる全員の顔色が変わった。

「魔族ごときが、罰だと! 思い上がりも良い加減にしろ!」

「わ、私に怒鳴られても……」

「そんなくだらない報告は必要ない! 推測など交えずに、事実だけを報告しなさい!」

「……では、事実を、報告いたします。強奪された財産の一部は、教会に戻ってきております」

「何ですって?」

「いくつかの救護院にカムイ・クロイツの名で寄付があったようです。これについて、ご判断を仰ぐべく、問い合わせがいくつも届いております。どうされますか? 受け取ってよろしいでしょうか?」

 叱責を受けて、却って、リエル枢機卿の腹は座ってしまった。教皇はともかくとして、三司教枢機卿に他人を責める資格などないという怒りもあっての事だ。

「ふ、ふざけた真似を……」

「ありがたく頂戴するように、各救護院に伝えるのだ」

「教皇様! ありがたくとは何ですか!? もとは教会の金です!」

「もとは信者の方たちの善意の寄付金だ!」

「……だとしても、ありがたくは無用でございます。相手は魔王ですよ?」

「その魔王だが、儂には全く話が分からなくなってきた。どう聞いても、正義は魔王にある。これはどういう事なのだ?」

「魔王を正義などと。いくら教皇様とはいえ、言葉にして良い事と悪い事があります」

「では、魔王は何をしているのか、儂にも分かる様に教えてくれるか?」

「それは……、悪質な策略です」

「今の話が策略というのか?」

「そうです。教会の権威を貶める為の策略です。ありもしない罪をでっち上げて、教会の多くの聖職者を貶める一方で、自分たちがまるで正義の味方のように振る舞っている。魔族らしい、姑息なやり方です」

「でっちあげ……。でっちあげで教会は民に命を奪われる程、憎まれておるのか。教会への民の信頼とは、随分と脆いものであるのだな」

「……それも魔族のせいです」

「ふむ……。たかが数か月、魔族が行動しただけで、崩れる権威とは何であるのかな。それをどうにも空しく感じてしまうのは、儂だけのようだ」

 コンテ司教枢機卿が嘘をついていると分かった上での、教皇の嫌味だ。

「……それだけ、魔族が卑怯だという事です。報告を続けなさい。先の話を聞けば、教皇様も魔族の残虐さがお分かりになるでしょう」

 だが、教皇の嫌味さえ、意に介さないでいられる程、コンテ司教枢機卿の心は腐っている。聖職者として教皇を敬う気持ちなど、すでに持ち合わせていないのだ。

「……では、話を進めます。次は神教騎士団に関する報告でございます。神教騎士団全二十師団のうち、残っておりますのは、八師団およそ二万です」

「は、八師団ですって?」

 話を打ち切らせたまでは良かったが、そこで司教枢機卿たちは驚愕に襲われる事になった。
 かなりの犠牲だとは聞いていたが、ここまでとは思っていなかったのだ。

「はい。もっともノルトエンデですでに四師団を失っておりましたので、それ以降でいうと半分になったという所です」

「半分……」

「ちょっと待て。それは少し大げさであろう? 怪我から復帰すれば、そこまでの数にはならないのではないか?」

 ここで口を挟んできたのは、もう一人の司教枢機卿のサムエレ・ビアンコだった。形式的とはいえ、彼が神教騎士団の統括役なのだ。

「それは既に見込んでいます」

「なっ!?」

「では、説明の仕方を変えます。魔族との戦闘での死者は三万でございます。もう一度言います。死傷者ではなく、死者が三万でございます」

「そ、そんな話は聞いておらん」

「それはそうでございましょう。報告しようにも各師団壊滅状態でございますから」

「……戦闘はまだ続いておるのか?」

「神教騎士団に対しては、魔族は容赦ございません。善悪問う事なく、全ての騎士団員を殺戮していっています。恐らく、全滅が目的ではないかと考えます。まさに残虐非道。魔族らしい、やり方でございます」

 リエル枢機卿の口調は、かなり皮肉めいたものになってきている。魔族が行っている事は、許せない事なのだが、それ以上に、報告に上がってくる神教支部の所業は非道といえるものだったのだ。
 司教枢機卿たちは、それを知っていながら黙認し、かつ、教皇に事実を隠している事が分かった。
 リエル枢機卿はそれに怒りを感じる、正しい心を宿していた。

「そんな馬鹿な……。魔族がそんな事をする訳がない」

「多くの仲間が殺され、それを直接的に行ったのは神教騎士団でございます。魔族側からすれば、復讐の動機になると思いますが?」

「だからと言って、ここまでの事をするなど。今の魔王は、何を考えておるのだ?」

「……あの、おっしゃっている意味が分かりません。語弊がありますが、私が魔王であっても、復讐は考えますけど?」

「魔族は人族を滅ぼすことなど、許されておらん!」

「滅ぼすは、おおげさでございます。……はい? 今、何をおっしゃいました?」

 許されていない、この言葉がリエル枢機卿の頭に引っかかった。

「な、何でもない」

「いえ、許されないとおっしゃいました。それは、どういう意味でございますか? 今の言葉は、まるで魔族との間に密約でもあるような」

「貴方の身分で、それを知る必要はありません」

 この言い方では密約があると認めているようなものだ。リエル枢機卿としては、こう言われたからといって大人しく引き下がる気にはなれない。

「どういう意味ですか!? 教皇様!?」

「……それを教える訳にはいかん」

「教皇様!?」

 コンテ司教枢機卿では真実を話さないと思って、問いを教皇に向けたが、返ってきた答えは同じだった。

「その事は教皇のみが知らされる教会の秘事。それを教える事は許されておらんのだ。それを、この者らが知ったのは儂の浅はかさ。魔族に対する教会のあり方を変えられるなどと思った儂の……」

「まさか? 脅されているのではございませんか!? そんな事が許される訳が」

「黙りなさい! これ以上、この件について問う事は許しません。それをすると
いうなら、貴方の身の保障は出来ませんよ?」

「……許されない? それはそうでしょう。私は許されない事をしてしまった」

「何を言って……」

「なんとなくですが、理解しました。貴方がたが原因なのですね? 貴方がたが神教騎士団員三万を死に追いやったのですね? そして私は……、そのきっかけを作る使者となった。私が皇国への、魔族討伐の使者になどなったせいで……」

「違う! お主が気に病むことはなにもないのだ。罪は、教皇である儂にある。神が与えたもうた」

「教皇様!」

「…………」

 今にも歯ぎしりが聞こえそうなくらいに、悔しそうに歯を食いしばる教皇。それだけの思いをしても、言葉に出来ない真実の重さをリエル枢機卿は思い知らされた。

「話はそこまでです。リエル枢機卿。報告はもう十分です。下がりなさい」

「しかし!」

「下がりなさい! 下がって、モディアーニ司教を部屋に。彼にも色々と聞くことがあります」

「……承知しました。が、それを私が教会で行う最後の仕事にさせてください。自分の為した事を知った以上、私は自分を聖職者であるとは言えません。教会を離れる事のお許しを」

「……かまいません」

「では、失礼します」

 部屋を出て行くリエル枢機卿の背中を見る教皇の顔は、悲しみに満ちていた。心あるものが教会を去って行く。それを引きとめる事も出来ない自分の無力さが、悲しかった。

 リエル枢機卿が部屋を出て、しばらくして、モディアーニ司教が現れた。何も始まる前から、その顔は不満げな様子を隠すことなく表している。

「モディアーニ司教、遠路はるばるご苦労様でした」

「いえ」

「さて、今回、教都に呼ばれた理由は分かっていますね?」

「いえ、見当もつきません」

「……そんなはずがないでしょう?」

「教皇様を始めとしたお偉い方々が何を考えられているのかなど、私のような身では理解出来ませぬ」

「魔王の事です」

「ああ、その事でございますか。しかし、そうなると尚の事、私が呼ばれた訳が分かりませぬ。魔王などという大事は、孤児院を預かる私めに何の関係がございますのか」

「惚けるのも良い加減にしたらどうですか? 魔王カムイが、貴方の孤児院で生活していた事は分かっているのですよ」

「魔王カムイではなく、カムイ・ホンフリート、もしくはカムイ・クロイツですね。その者であれば、確かに孤児院で過ごしていた事があります」

「同じ事ではないですか!」

「孤児院にいた頃のカムイは魔王ではありません。魔王と呼ばれるようになったのは近頃の事と認識しております」

 モディアーニ司教の話は事実だ。カムイは魔族の血を引いているという点に言及しない限り、責任を問う事は出来ない。仮にその事について、責任を追及しても法律上は何の罪には問えないが。

「……責任逃れのつもりですか?」

「責任? 私は孤児を引き取って養っただけです。それに何の責任があるのでしょう?」

「教会下にある孤児院にいて、何故、魔王になどなるのです? それとも貴方は孤児たちに魔王になる為の教育をしているとでも言うのですか?」

「まさか。孤児たちにも出来得る限り、神への信心を持ってもらう様に教えております」

「その結果が魔王ですか? よくもまあ、神の御許であるここで、そんな事が言えたものですね。やはり、貴方は神教会の司教として大いに問題があるようだ」

「分かりません。何を問題とされているのですか?」

「何度言わせるのです? 神への信仰を説いていて何故、魔王が生まれるのかと言っているのですよ」

「それはまるで、魔族には神への信心がないような仰り方ですね」

 言葉は変わらず丁寧ではあるが、その視線は、上位者に対するものではない、厳しさだ。
 モディアーニ司教は怒っていた。教会の愚かさは知っていたつもりだったが、今回の件で、自分の考えていた以上に教会が腐っている事が分かったのだ。

「……な、何を言っているのです? ある訳がないでしょう?」

「あります。それが今回の件ではっきりしました」

「分かりません。貴方は何を言っているのですか?」

「そうですか……。では、幾つか私が経験した事をお話し致しましょう。猊下がたが魔王と呼んでいるカムイ・クロイツがノルトエンデから戻り、シュッツレーレン学院に再入学した後での話です」

「……聞きましょう」

 好奇心がコンテ司教枢機卿にこれを許させた。もしくは、何かの力が働いての事か。

「ある日、私が孤児院の礼拝堂で、日課である神への祈りを捧げていた時の事です。カムイにこう聞かれました。何をわざわざ毎日、礼拝堂でそんな事をしているのだと」

「それこそ不信心である証拠ではないですか? 貴方はそんな発言を許したのですね?」

「いえ。強く叱責致しました。ところが、カムイにこう言われて、私は恥じる事になってしまった。神はわざわざ礼拝堂になど来なくても、話くらいは聞いてくれる。さらに聖職者である司教様は、決まった時間にしか神を意識しないのかとも言われました」

「な、何を言っているのですか?」

「カムイはこう言いました。神は常にある。それだけの事だと……」

「…………」

 コンテ司教枢機卿は何も言葉を発する事が出来なかった。真実の言葉は、どんな心にも、それを否定する事を許さない。

「それでも礼拝を止めなかった私に、又、別の日、カムイが問いかけてきました。そんなに熱心に何を祈っているのだと」

「……それで?」

「人々が平穏に暮らせるようにと祈っているのだと告げた私にカムイは……、それは神にお願いしているのか、それとも命令しているのかと、聞きました」

「…………」

「命令など恐れ多い、願っているのだという私にカムイは、どちらも同じ事だ、そうやって自らを正す事なく神に頼るばかりの人々を神はどう思うのだろう、と言いました」

「神の思いを推し量る事は許されません。やはり、魔族などというものは」

「では、我等はどうなのですか? 私は神の御声を聞いたことがありません。それなのに、私は、人々に神の思し召しだと、様々な事を告げてきました。それは罪にならないのでしょうか?」

「なんと!?」

「皆様方は神の御言葉を直接、お聞きになられた事がおありですかな?」

「貴方は何を……」

「私はこう思いました。実は魔族のほうが余程、神の事を理解しているのではないだろうかと。では、その魔族を排斥しようとする我等は一体、何に従ってそれを行っているのだろうかと。私などより、遥かに貴い身である皆様方にお聞きしたい。真実はどこにあるのですかな?」

「…………」

 すぐには誰もその問いに対して、口を開くことが出来なかった。真実を知らずに、真実に辿り着こうとしていたモディアーニ司教の問いに。

「それは……」

「異端だ! 今の発言は教会の教えに背くことです!」

 ようやく覚悟を決めて、口を開きかけた教皇を遮る様に、コンテ司教枢機卿が大声を張り上げた。

「誰か! モディアーニ司教を今すぐに拘束するのです!」

「ま、待て!」

「早くしなさい! 早く司教は拘束するのです!」

 教皇の制止の言葉にも一切構う事なく、コンテ司教枢機卿は叫び続ける。その声に応じて、外で待機していた教会騎士たちが部屋に雪崩れ込んできた。

「異端裁判にかけます! それまで、司教は監獄へ入れておくのです!」

「はっ!」

「待たんか! その必要はない!」

「は、はっ」

「早く拘束しなさい!」

「し、しかし!?」

「貴方も裁判にかけられたいのですか!?」

「ま、待て!」

「教皇様! 貴方も異端発言に同調されるおつもりですか!?」

「そうではない!」

「では、お黙りください! さっさと連れて行け! すぐにだ!」

「はっ!」

「待て!」

「教皇様……」

 必死の形相で枢機卿とやり合っている教皇に対して、モディアーニ司教が落ち着いた様子で声を掛けた。

「な、何だ。心配はいらん、お主が異端であるなどと儂は思っておらん」

「そうではないのです。異端か異端であるかと言われれば、私は異端なのでしょう」

「お主……」

「ですが私が異端なのは神教会に対してであって、神へ背信した訳ではないと私は信じております。しかし、私は過ちを犯しました。神教会を信じ、その教えを人々に広めたという罪を犯したのです。教皇様、私は教会に裁かれるのではなく、神に裁かれるのです」

「モディアーニ司教……」

「これで良いのです。私は私が信じる神の御許に召される事を望んでおります」

「…………」

「早く連れて行きなさい!」

「……はっ」

 教会騎士に腕を取られて、モンディーニ司教は連れ出されていった。

「……魔王カムイは危険です。速やかな討伐が必要ですね」

「しかし、どうするのですかな? 神教騎士団が全く歯が立たない状況では、手の打ちようがない」

「……勇者の選定を」

「「「なっ!?」」」

 コンテ司教枢機卿の言葉に、この場に居る全員が驚きの声をあげた。

「急ぎ、勇者の選定を行います! 魔王は全人族の敵、全人族が一丸となって倒すのです!」

「馬鹿な!? 前回の選定からまだ間もないと言うのに!」

「そんな事は言っていられません! これは神教会の存続の危機です! 勇者を、勇者に相応しい人族を急ぎ探し出すのです!」

「……愚かな」

 教皇の思いなど、一切関係なく、神教会は勇者選定に乗り出すことになる。勇者に相応しい者はすでに時代の表に現れている事に気が付かずに。
 神に選ばれし勇者は、人族だけのものではないという事を知らないままに。
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