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魔王の器 作者:月野文人

第一章 皇国学院編

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新たなる未来図

「ふう、さすがに疲れたわね」

 ソフィーリアは、実際に疲れた訳ではない。緊張するやり取りが続いたので、雰囲気を解そう考えての言葉だ。

「長話をし過ぎました。伺っても、よろしいですか?」

「何かしら?」

「どういう症状なのでしょう?」

「ずっと体がだるいの。微熱も続いているわね。でも、それだけよ。食事もちゃんと採れているし、ちょっと疲れやすいけど、生活は普通に出来ているわ」

 ソフィーリアの説明通りであれば、確かに、命に係わるような病気には思えない。だが、それが、カムイには、却って気になる。

「……医師はなんと?」

「原因は分からないけど、体の中に、ちょっとした異常があるようだと言われたわ。でも薬を飲んでいれば、悪化する事もないとも。だから、本当に大丈夫なのよ」

「……ちょっと調べさせて頂いてよろしいですか?」

 少し考えてカムイは、これを口にした。更に、もう一歩、カムイは踏み込もうとしている。

「調べる?」

「はい。ソフィーリア皇女殿下のお体を」

「おい、それは?」

 ゼンロックには、カムイの言葉の意味が分かる。

「何が出来るかは分かりませんし、何とか出来る自信もありません。それでも、やれる事は試してみたいと思います」

「やはり、使えるのだな?」

「はい。ただ出来れば内密に。クラウディア皇女殿下にも」

「それは分かっている」

 隠していたはずの力を、カムイは使おうとしている。それは、間違いなくソフィーリアへの好意からだ。ゼンロックは、その気持ちを裏切るような男ではない。

「何の話をしているの?」

「この者は神聖魔法が使えます。恐らくはソフィア殿と同等に。そうなのだな?」

「いえ、母上には、遠く及ばないと思います。それでも、クラウディア皇女殿下よりは、上だと思います」

「……そう。さすがはと言って良いのでしょうか?」

「まあ、その辺はどうでも良いことです。お体を触らせて頂きますが、よろしいですか?」

「……かまいません」

 皇族の女性の体に触れる。女性からすれば触れられる。家族や、それこそ医師以外となると、ちょっとした禁忌だ。
 それでも、ソフィーリア皇女は、許可を出した。

「では、お手を。目の前に、両手を挙げてください」

「ええ」

 カムイに言われた通りに、両手を目の前に差し出す。

「失礼します」

 その手を取ったカムイは、目を瞑って、小さな声で何かを呟いた。
 やがてカムイの手が光に包まれ、その光が、徐々にソフィーリアに移っていく。

「温かい……」

「少し魔力を流します。気分が悪くなったら言ってください」

「はい」

 光がソフィーリア皇女の全身を覆っていく。その様子を、驚きの目で見つめているゼンロック。神聖魔法については、ゼンロックも、それなりに見識がある。何と言っても、元近衛騎士団長なのだ。
 だが、カムイのようなやり方は見た事も、聞いた事もない。しかも、カムイは、ほとんど詠唱らしきものを唱えていないのだ。

「ふう」

 軽くため息をついて、カムイは、ソフィーリア皇女の手を離した。それと共に、ソフィーリアを包んでいた光も、徐々にその輝きを失っていく。

「どうだ?」

「異常は見つからない」

「そうか……」

 見た目に分かるほど、はっきりと落胆の色を表すゼンロック。

「それがおかしい」

「ん? どういう事だ?」

「医師は、体の中に異常があると言ったのですよね? でも、今、俺が探った感じでは、何の異常も感じられない」

「それは、つまり?」

「俺の調べが正しいのであれば、医師が嘘をついている事になる」

「……そんな馬鹿な?」

 ソフィーリアを診ているのは、皇家お抱えの医師だ。それが、虚偽の報告をするなど、ゼンロックには信じられない。

「悪意を持ってか、原因がつかめずに苦し紛れかは分かりません。いきなり責めるようなことはしないように。そんな事されたら俺が困ります」

 カムイの方は、自分の見立てに自信があるようで、医師が嘘をついた事を前提に話している。

「……そうだな。だが、それでは何の解決にもならん」

「ソフィーリア様、今も微熱は続いていますか?」

「ええ、微熱が下がることは、ほとんどないのよ」

「……では、いくつか試させてもらいます。少しでも体に変化があったら、教えて下さい」

「……ええ、分かったわ」

「では行きます。癒しの力、慈愛の力。その力を顕現せよ。アンチポイズン」

 カムイの手から放たれた光が、ソフィーリア皇女を包む。

「解毒だと?」

 ゼンロックが驚いたのは、カムイが、その魔法を使ったからではない。それを使ったカムイの意図だ。

「どうですか?」

 ゼンロックの反応を、気にする事なく、カムイはソフィーリアに、様子を尋ねている。

「あまり変わらないようです」

「そうですか。では次です。……顕、解、呪、ディスペル」

 またカムイの手から、光が伸びる。

「…………」

 それを受けたソフィーリアは、少し訝しげな表情を見せている。

「どうしました?」

「少し楽になったような? でも、気のせいかもしれません」

「……そうですか。最後のは、少しきついかもしれませんが、かまいませんか?」

「どうぞ、やってください」

「分かりました。……絶、対魔、アンチマジック」

 次に、カムイの手から伸びたのは、黒い光。その光が、ソフィーリアの全身を包んだ瞬間に、それを打ち消すような眩い光が弾けた。

「あっ……」

 小さな呻きがソフィーリアの口からこぼれる。ソフィーリアは、全身から力が抜けたように、ぐったりとベッドに倒れ込んだ。

「貴様! 何をした!」

 ソフィーリアの様子を見て、カムイに掴み掛るゼンロック。力任せに、カムイの首を締め付けている。

「ちょっ、ちょっと苦しい!」

「何をしたかと聞いているのだ!?」

「試すって言っただろ!? ソフィーリア皇女殿下の了承も得てる!」

 ゼンロックの両腕を、強引に引き離すと、敬語を使うのも忘れて、カムイは怒鳴った。

「だからと言って!」

「ゼンロック、大丈夫です。何ともありません」

 動揺しているゼンロックに、ソフィーリアが話し掛けてきた。

「ソフィア様!」

「何ともないは嘘ですね。全身がだるいはずです。それよりも微熱は感じま
すか?」

「……体がだるいだけです。微熱は感じません」

「そうですか。そうなると……、さて、どうするか」

 そのまま考え込むカムイ。それを、じっと待っていられないのがゼンロックだ。

「説明しろ! 何をした!? 何が分かったのだ!?」

「……体がだるいのは魔力切れです。休んでいれば、そのうち直ります」

 思考を邪魔するゼンロックに、うんざりした様子を見せて、カムイは説明した。

「魔力切れだと?」

「そうです。問題は、微熱が消えた事ですね」

「逆だろ? 微熱が消えた事は、良い事ではないか」

「今ので微熱が消えたという事は、微熱の原因が、魔法もしくは魔導にある可能性があります」

「……やはり、お前はそれを疑っているのだな?」

 カムイの説明を聞いて、ゼンロックは自分の考えが間違いでないと確信した。

「どういう事ですか? 私にも分かるように説明してください」

「最初に、こやつは解毒の魔法を唱えました。その次は、知らない魔法ですが、発した言葉から恐らく解呪、呪いの魔法の解除です。最後は全く分かりませんが」

「……つまり、カムイくんは、私が毒を盛られているか、呪いの魔法に掛けられていると疑っているのですね?」

「そうなります」

「最後のは何か、教えてもらえますか?」

「全ての魔法を解除しました。良いものも悪いものも全て」

「……そんな事が出来るのですね。微熱が消えたという事は?」

 カムイが言ったような神聖魔法は、ソフィーリアの知識にはない。カムイには、他にも隠している事があると分かったソフィーリアだが、深く追求する事は止めておいた。
 それをすれば、カムイとの関係が、うまくいかないと、何となく感じたからだ。

「さっき言ったとおりです。何らかの魔法か、魔導が作用している。それが何か分かれば良いのですが」

「それは分からないのですね?」

「具体的に何かが分からなければ、完全に解けたとは言い切れません」

「いずれにしろ、誰かが私を害しようとしているのは間違いない」

 冷静に会話を続けているが、ソフィーリアの内心は、大きく揺れ動いている。自分に害意を持った者が居ると分かったのだ。動揺しないはずがない。

「そういう事になります。心当たりがありますか?」

「それは」

「聞くまでもありませんね? ソフィーリア皇女殿下が、心を決める前に、相手はもう動いているという事です。皇子殿下は、そんな方なのですか?」

「兄自身が、こんな事をするとは思えません」

「周りの人間が、勝手にしている可能性もあります。随分と気が早いと思いますが、それだけ相手側が不利だという事でしょうか?」

「それは何とも」

「取り敢えずには、このまま様子見ですね」

「そんな訳にはいかないだろ? ソフィーリア様のお命が狙われているのだぞ?」

 ゼンロックがやや焦った様子で、カムイに異議を唱えてきた。動揺しているのは、ゼンロックもだ。

「命までは狙っていません。それであれば、俺がソフィーリア皇女殿下に会う事などなかったでしょう」

「しかしな」

「動いて何かが変わりますか? 確かな証拠はない、たとえそれが見つかったとしても、相手に止めを刺せる可能性は少ないでしょう。今は相手を油断させる時期です。ソフィーリア皇女殿下の準備が整うまでは」

「……カムイくん、貴方という人は」

「何ですか?」

「それで本当にクラウと同い年なの? 黄金の世代、やっぱり、貴方もその中の一人なのね? これは是が非でも力になってもらわないと」

「俺はあの四人とは違います。俺なんかより、味方にしなければいけない人が、その四人の中に居ます」

「あら、それは誰かしら?」

「ディーフリート・オッペンハイム。ソフィーリア皇女殿下の婚約者候補ですね」

「……ちょっと」

 皇家の権威を取り戻すのが目的のソフィーリアだ。カムイが、最大の敵である西方伯家のディーフリートを押す理由が分からない。

「西方伯家のディーフリート・オッペンハイムではなく、個人としてのディーフリートをです。彼こそは黄金の世代といわれる四人の中で、唯一、王の器を持つ者。俺はそう思います」

「……ディーフリートが」

「もしかして会った事がないのですか?」

「ええ。いえ、会ったことはあるわ。でもきちんと話をした事はないわね」

「余計なお世話かもしれませんが、逃がさないようにした方が良いですよ。政略結婚としては、ディーは相当に当たりですから」

「確かに余計なお世話ね。でも、覚えておくわ」

 ソフィーリアとの会話はこれで終わり。
 カムイは、孤児院まで送ると言うクラウディアの申し出を、丁重に断って、歩いて帰途についた。
 馬車で乗り付けるなんていう目立つ真似をしたくないという事もあるが、それよりも、じっくりと頭の中を整理したかったからだ。
 クラウディアと一緒では、それが出来ないのは分かっている。
 お菓子を要求しておきながらも、碌に会話を楽しむことなく、早々に引き揚げようとしたカムイに、表には出さなかったが、不満を持っている事が感じられたからだ。
 姉に会わせたいと言いながらも、クラウディア自身も、きちんとカムイと話をしてみたかったのだろう。だから、いつも一緒にいるテレーザを今日に限っては、同行させなかったのだ。
 カムイのほうは、そんなクラウディアの気持ちは分かっていても、それに対して、応えるつもりはない。
 クラウディアの、実力に見合わない気負い、視野の狭さなどに、なんとなく危うげな印象をカムイは持っている。
 あまり近づかないほうが良い人物。それがカムイのクラウディア評だ。
 だが、それを見直す必要があるかもしれない。クラウディアと言うよりも、ソフィーリア皇女の妹として。
 母の面影と重なるソフィーリアの印象は、カムイに衝撃を与えた。自他共に認めるマザコンであるカムイである。それだけでソフィーリアに対する気持ちは、好意というものになってしまっていた。
 そのせいで普段であれば、絶対にやらないような事までやるはめになった。やってしまった事を後悔しても仕方がない。問題はこれからの事だ。
 母に似た面影を持つという事実を除いた、ソフィーリアはどうだったか、信頼に足る人物だっただろうか。
 それをカムイは懸命に考えているのだが、かなり苦労している。
 カムイの思い出の中にある母親は、白いシーツの上で、優しく微笑む姿ばかり。それは今日見たソフィーリアの姿と同じだ。
 ソフィーリアの事を考えようとすると、母親のその姿がどうしても頭に浮かんでしまう。
 結局、考えをまとめられないままに孤児院に辿り着いてしまった。

「よう、どうだった?」

 部屋に入って、真っ先に声を掛けてきたのはアルトだ。

「ん、ああ」

 それに対して、カムイは曖昧な返事を返す。まだ、考え続けているのだ。

「何かあったのか?」

「……やっぱり無理だな。これはお前等に判断してもらおう」

「何を?」

「皇女様に会った。姉の方、ソフィーリア皇女だ」

「へえ、そんな事になってたのか。それでどうだった?」

 城に連れて行かれたのは、知っていたが、これは、アルトにも予想外の展開だった。

「母上に似てたな」

「はあっ!? 嘘だろ! いや、仮に似ていたとしても、カムイが、それを認めんのか?」

 常に、母親以上の美人は居ないと、断言し続けていたカムイだ。この発言は衝撃的だった。

「母上には、当然劣る。ただ雰囲気は似てた」

 母親が一番である事は、やはり揺るぎないようだ。

「……あっ、そう。それで?」

「人物を見極めたい」

「人を見る眼は、カムイの方があるだろうよ」

「客観的に判断できない」

「……そこまで似てんのか?」

 又、アルトは驚く事になった。こうなると、ソフィーリアの容姿が、どれ程のものか、アルトも気になってくる。

「雰囲気がだ。母上の方が、ずっと美人だからな」

「……それは良いから。でも、そう言い出すなんてえ事は、少しは見所はあるって事だな?」

 母親に似ているというだけであれば、人物を見極める必要はない。ソフィーリアには、それが必要な何かがあるのだと、アルトは考えた。

「ああ、偏見を持たない人物だと思う。それに弱いものへの見方も悪くない。同情の色は見えなかった」

「それで、もし思った通りの人物だったら、どうするんだよ?」

「場合によっては、継承争いで味方する」

「なっ!?」「嘘!?」

 驚いたのは、アルトだけではない。ルッツもだ。継承争いへの介入など、全く想定していない。これは、カムイも同じだったはずなのだ。

「まだ決めた訳じゃない。それをしても良い人物かを、まずは確かめたいって事だ」

「……ふむ。でも、どうやって? 城に居るんだろ?」

「それは同級生を使ってなんとか」

「あれに近づくのか……」

 クラウディアに近付きたくないという思いは、アルトも、カムイと同じに持っている。

「仕方ない。妹であるし、今現在、ソフィーリア皇女の味方を集めているのは、クラウディア皇女だからな」

「ロクな集まりとは思えねえけどな」

 アルトも、クラウディアの周囲に集まった者たちへの評価は低い。

「それはソフィーリア皇女も分かってるみたいだ」

「ん?」

「同級生を次々と会わせているみたいだ」

 アルトの疑問に直ぐにカムイは答えを返した。

「……やっぱり馬鹿だ。そんな事をしてたら、相手に警戒させるだけだろうが」

「まあな。子供のする事だと甘く見てくれる事を祈るしかない」

「相手だって子供だ」

「成人はしているだろ? それに実際に動くのは東方伯家だ」

「ヒルデガンドさんは政敵か」

 アルト本人が気にしている訳ではない。これを言って、カムイがどう反応するか確かめたいだけだ。

「元々は全員がそうだ。味方しても良いと思える人が居ただけマシだ」

 カムイの反応は、無い等しい。これで、アルトの懸念は一つ消えた。

「まあな。でも具体的には、何をするんだ?」

「大した事はしない。辺境領の生徒たちに、それとなくソフィーリア皇女の人柄や考えを知らせて、支持を集めるだけだ」

「それだけ?」

「それが大きい。西方伯家の力だけで、皇太子の地位についたら、辺境領の立場は変わらないだろ? 最高の結果は、辺境領の支持が決め手になる事だけど、そこまで行けるかは分からない」

「もう結論出てるじゃねえか」

 カムイの説明は、ソフィーリアの継承争いを支援する前提での話だ。

「これが冷静な判断なのかの自信がない。だから、それを確かめて欲しいんだ」

「そう考えられるって事は冷静だって事だ。一番の問題は、……勝ち目あんのか?」

「長子は、ちょっと問題があるみたいだ。どういう問題かまでは聞けていない。ただ、それが原因で、ソフィーリア皇女への評価は、かなり高いようだ。後は、クラウディア皇女がオスカーとうまく繋がって、皇国騎士団がつけば、行けるとは思うな」

「東西は互角と。あれ? もう勝ってるじゃねえか」

「さっきも言っただろ。その決め手に、辺境領の支持が絡むことが大切だって」

「そうだった」

 ソフィーリアを皇太子にすることが目的ではない。それを利用して、辺境領の影響力を高める事が目的なのだ。

「それに絶対と言えない理由が一つある」

「何だ?」

「もう相手は動いてる。アルト、出来るだけ早く、これを解析してくれ。難しければ実家に送っても良い」

 カムイは、ポケットから小さな紙包みを、いくつもテーブルに置いた。

「これは?」

「ソフィーリア様は病気だ。そして、これは医師が処方した薬」

「これを解析しろって事は、そういう事なのか?」

 薬どころか、その逆の効果を持つもの。敵が動いているの意味が、アルトには分かった。

「魔法、恐らく魔導の方だと思う。何らかの効果で、ソフィーリア皇女の体調を悪くさせているようだ。一番怪しいのがこの薬、あとは食事だけど、皇族だけあって、毒見は丁寧なもののようだ。可能性は低い」

「証拠を掴むってえ事か」

「いや、それが証拠になっても処分されるのは医師だけだろう。解析の後は、対抗薬の製造だ」

「泳がせる。いや、相手を油断させるためか」

「そう。今は体調を崩す程度のものだ。それだけでも継承には圧倒的に不利だからな。だが、それが失敗となれば、次の手を打ってくる可能性がある」

 そして、その次の手は、もっと苛烈なものになるはずだ。今の段階で、そこまで事を大きくしたくない。

「でも、いつかはだぞ。その時はどうする?」

「その頃には、俺たちは、辺境に戻ってるだろうから、何も出来ないな。ディーに期待って事になる」

 次期皇太子の正式選定は、当然、現皇太子が皇帝に即位した後の事だ。皇帝陛下は高齢とは言っても、数年で崩御という事はないはず。十年、二十年先の為に、今カムイたちは動こうとしているのだ。

「クラウディア皇女は?」

「期待できるか?」

「……まあ」

「この件は知らせてもいない。短気を起こして、へたな動きをされては困るからな」

「正しい判断だ」

「実際には、それ程やる事は変わらない。辺境領を守り、少しでも力を付けようと言うのはな。それにソフィーリア皇女を少し絡めるだけだ」

「少しね。まさか一目惚れじゃねえだろうな? なんたって母親の面影を持つ女だからな」

「母親に一目ぼれする息子がどこにいる?」

 心底、不思議そうな顔をして、カムイはアルトに返事をした。

「母親じゃねえ。というかそれ恋愛じゃねえ」

 それを受けるアルトも、同じ様に不思議そうな顔をしている。恋愛事に関するカムイの感覚は、アルトが理解出来ない、数少ないものの中の一つだ。

「恋愛なんてしている暇はない。人の恋愛をからかうのが精一杯だな」

「……カムイに惚れた女は可哀そうだ」

「そんな女いない。そもそも、そういう相手に惚れないようにすれば良いだろ?」

「それを恋愛とは言わねえよ。恋愛ってのはな、知らないうちに相手を……、何で俺がこんな話を?」

「嫌ならするなよ。取り敢えず今日の所はこんな感じだな。後は、実際に皆が会ってからだ」

「ああ、そうだな」

 後日、彼らはソフィーリアに面会する事になる。
 結果は当然、合格。会うまでもなく、カムイが望むなら初めから合格なのだ。彼らにとって、仕える相手はカムイ。ソフィーリアの為人など重要ではない。
 それでも会ったのは、そうしないとカムイが納得しないだろうという事と、ソフィーリアがどのような為人でもどうでも良いが、カムイに害を及ぼすような相手では困るからだ。
 その場合でも、彼らは利用するだけ利用して、邪魔になる前に破棄するだけだから、やはり合格となる。
 そんな彼らの思いをソフィーリアはもちろん、カムイも知らない。
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