最後の機会
ルースア帝国軍は大陸西方における戦力のほとんどを西部に集中させている。反乱の首謀者であり、もっともまとまった戦力を持つオッペンハイム王国とシドヴェスト王国連合の同盟軍を討つことが反乱鎮圧の早道だという戦略的な観点から行われたことになっているが、それはニコライ皇帝の許可を得たものではなく、実際は西部で活動しているカムイを討つ為にクラウディア、この場合はルキフェルと呼ぶべきだが、が勝手に行っていることだ。だが六万を超える大軍。それも何カ所かに分散して同盟軍と戦っている状況では軍全体の意思を制御することは困難。カムイを討つために動いているのは後方に下がった勇者たちと彼らが率いる部隊だけで、ルースア帝国軍全体は名目であるはずの戦略目標を達成する為に、同盟軍との戦いを激化させていた。
それによって厳しい状況に追い込まれるのは同盟軍。本来は各地で反乱に立ち上がらせルースア帝国軍を分散させて勝機を得るという戦略だったはずが、それとは真逆の状態に陥ってしまっている。大陸中央におけるニコライ皇帝率いる帝国本軍と中央諸国連合軍との戦いが、西部を除けば、唯一それなりの規模のもの。それさえも一カ所の砦を挟んでの攻防という形で戦場は限定的であり、戦場に投入されている軍勢も西部に比べれば半分程度だ。大陸西方西部の戦いは攻める側も守る側も本来の思惑を外れて戦っているというおかしな状況に陥っていた。
だが、そんな戦いも長く続けばいずれは終わる。戦況は佳境を迎えていた。同盟軍、とくにオッペンハイム王国にとって望まない形で。
「南部ヴェルビュールの砦が突破されました」
「……そうか。味方の被害は?」
臣下の報告を聞いて落ち込むディーフリート。だが戦いはまだ終わったわけではない。戦線を立て直す策を考えなくてはならない。
「まだ詳細は分かっておりませんが、かなりの数の兵士が離脱したようです」
「離脱? 戦場から逃げ出したということかな?」
「どうやらそのようです」
「……そこまでの被害を受けたってこと?」
戦いは同盟側にとってかなり厳しい状況ではある。だがディーフリートは兵士が逃げ出したという報告を受けたのは初めてだった。敵前逃亡は大罪だ。それが分かっていて逃げ出すというのはよほど酷い状況であったことが考えられる。
「実はその辺りの報告もまだ入っておりません」
「どうして? 細かなところは後にしても、おおよその被害状況の報告は届いているはずだよね?」
「それが届いておりません。まだはっきりとしたことは分かりませんが、報告すべき者が逃げ出したという情報も入ってきております」
「……指揮官がってこと? そんな馬鹿な」
指揮官も戦場から逃げだした。あまりに酷い状況であれば、それもあるかもしれない。その場合は逃げ出したというより部隊が崩壊したというべきであろう。南部の戦いでそこまでの惨敗を被ることになる状況がディーフリートには想像がつかない。砦を落とされたにしても殲滅覚悟で戦うはずはないのだ。後方には別の城砦があり、戦線を破られてもすぐに新たな防衛線を構築することは事前に決められている。指揮官はその為に、戦況がどうにもならない状態になる前に部隊をまとめて後方に下がる判断をするはずだった。
「南部は戦線の維持が困難かもしれません。その場合はどうなさいますか?」
「後方の城砦を守れるだけの軍勢が残っていないというのだね?」
「その可能性は高いと考えます」
城にこもっても守るだけの兵数がいなければ意味はない。時間稼ぎにはなるかもしれないが、その為に兵を犠牲にするような状況ではないのだ。今のところは、だが。
「南部の戦線を縮小して北に回そう。シドヴェスト王国連合からの増援の目処はたったのかな?」
兵数が足りなければ戦線を縮小して密度を高めるしかない。だが、それを行うだけでは追い込まれるだけだ。ディーフリートは別の臣下にシドヴェスト王国連合からの増援について尋ねた。わずかな数でもいい。それで後背を突ければ、現状を打開出来る可能性があると考えて増援依頼の使者を送っていたのだ。
「……今のところはまだ」
「セレはなんと言ってきている?」
実際に増援の手配を行っているのはセレネだ。戦場に出ていない人物の中で連合内の調整を行えるとすればそれはセレネしかいない。
「難しいとおっしゃっています」
「すでにかなりの軍役を課しているからね。そうであっても、ここは無理してもらいたいところなのだけどな」
無理を言っているのはディーフリートにも分かっている。現在、シドヴェスト王国連合の軍はオッペンハイム王国領内で行われているこの戦いに参加していて、南部には最低限の守りを残すだけの状態だ。その守りまで引き剥がせば、帝国が侵攻してきた場合に抗う術がなくなってしまう。
だが実際に帝国に南部侵攻を行う気配はない。そんな余力があれば本国に向かわせるだろう。
「それが……」
「どうした? 何かあるのかい?」
「……いえ、これについては後ほどご報告いたします」
「そう……分かったよ。じゃあ、戦場の報告に戻ろうか」
あまり良い知らせではない。そうであれば尚更早く知るべきだとは分かっているが、それは臣下も分かっているはず。それでいて報告を躊躇うからには、それだけの理由があるのだとディーフリートは理解した。
「では、これも良いご報告ではありません」
もともと報告をしていた者に発言は替わったのだが、その臣下の報告も良いものではない。同盟軍は確実に追い詰められていることをこれが示していた。
「どのような内容だろう?」
「北部の戦線もいつまで支えられるか分からないという報告が届いております」
「……理由は?」
「それが……貴族軍の一部が勝手に戦場から離脱していると」
「何だって!?」
明確な、しかも貴族家単位での敵前逃亡。味方まで同盟軍の負けだと判断したとなると、これはもう末期だ。
「大丈夫です。今のところそれほど数は多くありません」
大丈夫と言ってはいるが、今のところと付けている点が配下の不安を表している。
「そうだとしても自軍の情報が敵に漏れてしまうのは問題だ」
寝返りにはこういう危険もある。この先の作戦計画が敵に漏れるようなことになれば大事だ。
「敵に投降しているわけではないようです」
「……それはどういうことかな?」
敵に降伏しているのではないとなれば、離脱した貴族家はどこに向かっているのかという疑問が湧く。
「自領に戻っているようです」
「……自領。一体どうするつもりだろう」
自領に戻っただけでは意味はないとディーフリートは思う。同盟軍の負けを確信したのであれば、勝利者となるルースア帝国に自家の安堵を願わなければいけない。それが出来てはじめて保身が図れたと言えるはずだ。貴族たちの取る手段は、それを許すつもりはないが、寝返り。そこまででなくても戦いに協力を申し出なければ、ルースア帝国の信用は得られない。
「……王太子殿下」
さきほどシドヴェスト王国連合からの増援について報告した臣下がディーフリートに話しかけてきた。
「何かな?」
臣下が口にしようとしているのは、恐らくは先ほど話せないと言ったこと。それが分かっているディーフリートの表情には緊張の色が浮かんでいる。
「その戦場から離脱した貴族どもは、元西部辺境領主たちではありませんか?」
オッペンハイム王国は旧西部辺境領を制圧した上で建国している。オッペンハイム王国の貴族には西方伯の時からの従属貴族と元西部辺境領主がいるのだ。
「……そうだとしたら?」
これを聞くディーフリートの頭の中にはすでに一つの答えが浮かんでいる。元西部辺境領主であったオッペンハイム王国の貴族、そして元南部辺境領主であるシドヴェスト王国連合の各国王。辺境領主という共通点がその答えを導き出していた。
「王太子妃殿下からは、このような伝言が届いております。『もう誰も私の言うことなんて聞かない。きっと彼らは元の鞘に戻ろうとしているのよ』と」
「……裏で糸を引いているのはカムイか」
カムイの名をあえて出さないのは臣下とセレネのどちらが気を遣っているのか。セレネが気を遣ったのだとしたら、誰に気を遣ったのか。こんなことを思ってしまう自分がディーフリートは情けなかった。
「恐らくは……」
「なるほど。彼らは勝つ方に付いたわけだ。我が国でもなくルースア帝国でもなく、カムイが勝つと彼らは判断したのだね」
「どうなさいますか? このままではカムイ・クロイツに漁夫の利を攫われることになります」
「ではどんな手が打てるというのかな?」
「ルースア帝国との講和という手もございます」
三つ巴の状態で戦っていて、そのうちの一つに絶対に勝利を渡したくないと思えば、もう一つと手を結ぶのが最善だ。
「戦況はルースア帝国有利に働いている。そんな状況で帝国が我々を許すかな?」
「我らとカムイ・クロイツ。どちらを討つことを優先するかとなれば、帝国は間違いなくカムイ・クロイツを選びます。可能性はなくはないかと」
全てを理解しているわけではないだろうが、臣下の考えは正しい。今、オッペンハイム王国と戦っているルースア帝国軍、そのトップの目的はカムイを討つことだ。オッペンハイム王国と講和を結んで、それでカムイを討てるのであれば、喜んで講和を結ぶだろう。あくまでもニコライ皇帝の名によってであり、その契約は本人には関係ないこととして、長く守られることのない講和だろうが。
「……もし、それを行った時。カムイはどう出るか」
臣下の進言は正しい。あくまでもオッペンハイム王国大事という前提でだが、正しいとディーフリートも思える。だが、それを行った時、カムイは何をしてくるか。それ以前に講和の可能性をカムイが考えないはずがない。そうでありながら、このタイミングで周囲を動かした意味をディーフリートは考えている。
「これもカムイの試しなのだろうか? いや、それは甘いな。何度も機会を与えてくれるはずがない」
これでルースア帝国との講和を選べば、カムイとの関係修復はない。こんなことを思う自分の甘さにディーフリートは呆れてしまう。自分はすでにカムイには見放されている。敵として見られているはずで、その結果が今の状況なのだ。
「何かがあるはずだ。我が国と帝国が講和しても問題ないと思える何かが」
試しではなくても誘いである可能性は高い。二国を講和させることがカムイの利になる何かがあるのではないかとディーフリートは思っている。こんな風に頭を悩ませている時点でカムイの策に嵌まっているようなものだと思いながらも。
「王太子殿下。一つ気になることがございます」
「それは何!?」
今はどんな情報でも欲しい。それがカムイの思惑を見抜くきっかけになるかもしれない。
「かなり物資が不足してきております。調達が思うようにいかなくなりました」
「……それはこれだけ戦争が続いていれば」
「そうなのですが、カムイ・クロイツが敵に回るとなって急にあることを思い出したのです」
「あること?」
「はい。国内の商売を一手に引き受けているのは、カムイ・クロイツの息がかかった商家ではなかったかと」
「……しまった」
オッペンハイム王国の建国前。まだディーフリートが南部をまとめる以前にデト商会は西方伯家の御用商人の地位を得て、それを利用して西方伯領の流通を牛耳ろうとしていた。これはディーフリートも知っていたはずのことだったのが、父である西方伯はずっとディーフリートにとって敵であり、同盟を結んだ後も立て続けの激しい戦いの中でそれを思い出す機会がなかった。
「物資が尽きれば我が国は戦えなくなります。供給が滞り始めたのはそれを狙ったものではないでしょうか?」
「……急いで都市国家連合に使者を。物資は……いや、とっくに手が回っているか」
西の都市国家連合に対して、デト商会を通すことなく物資を供給するように伝えようと考えたディーフリートだったが、それは無駄だとすぐに思い直した。都市国家連合は侵略によって従属させた国々だ。その事実を利用しないカムイではない。
「ルースア帝国との講和を急ぎますか?」
物資が尽きれば勝ち目はない。そうであるならまだ力のあるうちに講和を申し込み、条件を少しでも良くするべきだ。あくまでも講和を行うのであれば。
「……僕たちがルースア帝国に対してとっている戦術は?」
「ルースア帝国軍の補給線の分断、物資集積所の襲撃などの後方攪乱です」
「そうだ。ずっとルースア帝国軍の物資補給の妨害をしていた。その成果は出ていないのかな?」
「……ルースア帝国軍の物資も、ですか」
オッペンハイム王国は遠征となるルースア帝国軍の補給を徹底して妨害してきた。大陸西方におけるルースア帝国軍の物資補給は中央部のディア王国もしくは本国からの輸送に頼るしかない。ディア王国の物資はそれほど多いものではなく、本国から大陸西方西部までの輸送路は長大だ。補給はルースア帝国軍の弱点なのだ。オッペンハイム王国はその弱点を突いて戦いを有利にしようとしてきた。
「自国の利を活かしたつもりだったけど、カムイの思惑にまんまと嵌まっていたかな」
「……しかし、弱点である補給路を責めるのは当然の策で」
「そうじゃない。グランツーデンが帝国に奪い返されたこと。そこにいた軍勢がオッペンハイム王国に向かったこと。これはきっと戦場を西部に移そうというカムイの策だ。グランツーデンは西部に比べればだけど帝国本国から近いからね」
「補給線を伸ばすためにですか」
「それだけじゃない。帝国軍を西に引きつけた上で東では東方諸国連合の侵攻。大陸の西端と東端で同時に帝国に戦わせた。これはルースア帝国に対する策だね。慌てて戻ったけど……帝国本国は今頃どうなっているのかな?」
魔族の協力を失ったディーフリートは得られる情報がかなり少なくなっている。魔族の協力があったとしても大陸東方にまで手を伸ばしてはいなかっただろうが、それでも大陸西方であれば各国の動きはかなり早い段階で把握出来る。それだけでカムイが何をしようとしているか分かる部分もあっただろう。
「しかし、カムイはどうやって……」
大陸全土で一斉に策略を動かす。魔族の協力があったとしても情報伝達にはどうしてもズレが生じるはずで、それは策略に影響を与えるはずだ。それをどうやってカムイが制御しているかがディーフリートには分からない。
実際には細かな制御などしていないのだから分かるはずがない。ただカムイとディーフリートに違いがあるとすれば、カムイには似たような思考で動ける仲間がいるということ。アルトとイグナーツ、そしてマリア。ルッツはちょっと不安なのでマリアと行動を共にさせられている。それにさらに戦場を全面的に任せられるヒルデガンドがいる。結局、人材の差ということだ。
「……どうなさいますか?」
「今言えるのは帝国との講和はないということだけだ。後は少し考える時間が欲しい」
「承知しました」
国と国との争いはカムイが勝つ。これはほぼ間違いないとディーフリートは考えている。ただその先がどうなるのかがディーフリートには分からない。カムイは世界の覇権を求めるのか、ルースア帝国が敗戦となった時に勇者たちはどう出るのか。戦いとなった時にどちらが勝つのか。
実際にはそんなことは関係ない。ルースア帝国との講和を否定したのは、ここでもう一度カムイに背く気持ちにはなれなかったから。その上で考える時間を求めたのは、自分はどんな終わりを迎えれば良いのか考えたかったからだ。
◇◇◇
その答えを持つかもしれない人たちが、大陸西方南部の街道を北に向かって馬車を駆けさせている。その周囲にいるのはなんとも柄の悪い男たち。盗賊の集団としか思えない。
だがそれはそう見せるためのカムフラージュだった。男たちの柄の悪さは元からだが。
「……ねえ、私やっぱりカムイには会えないわ」
「はあ? 何を言ってやがる?」
馬車の中で会話をしているのはセレネとアルト。セレネの隣には息子のディーもいる。
「だって……ディーが死ねばきっと私はカムイを恨んでしまう。そうなってどうしてカムイと一緒にいられるの?」
「……何か勘違いしているみてえだな」
「私が何を勘違いしているの?」
「お前、ただの人質だから」
「はい?」
「オッペンハイム王国王太子でエリクソン国王であるディーフリートの妃であるお前を人質にする為に俺は攫っているだけだから」
「……そんなの聞いてないから!?」
いきなり自分は人質だと言われてセレネは驚いている。アルトにはオッペンハイム王国の敗戦は目の前で、そうなれば息子であるディーは帝国に追われることになる。それを避ける為に安全な場所で保護すると言われて付いてきたのだ。
「これからお前を誘拐しますって言う誘拐犯がどこにいる?」
つまりアルトはセレネを騙して連れてきたのだ。
「……人質って。私はどうなるのよ?」
「他にも人質いるから、そいつらと一緒に暮らすことになるな」
「他の人質って?」
「ルースア帝国の皇太子、皇太子妃、皇后もいる。あとニコライ帝の妹の皇女も」
「……貴方たちって本当にやることがメチャクチャね」
ニコライ皇帝を除くルースア帝国の皇族が全て人質。あまりの状況にセレネは呆れている。
「一応は戦争を最小限に収めるためだ。ニコライ帝が降伏するとは思えねえが本国の抵抗は今はほとんどねえはずだな」
「……帝国の本国で何をしているの?」
「東方諸国連合が帝国の東を占領中。帝都も落ちたな」
「……ねえ、必死に戦っているディーたちが可哀想と思うのは私だけかしら?」
ディーフリートたちがルースア帝国に追い込まれているそれと同じ時に、ルースア帝国本国でカムイたちは帝都を攻め落としている。ディーフリートは何のために戦っているのか。そんな思いがセレネの胸に湧いてくる。
「全然思わねえな、俺たちは自分たちの為にやれることを全力でやっている。これだって何年掛けたと思ってんだ。何もしねえで果実だけを頂こうなんて甘えんだよ」
「そうだけど……」
身勝手なことは分かっている。だが、帝国を打ち倒すだけの力があるのであれば、その力でディーフリートを救って欲しいと思ってしまう。
「だから旦那を助けたければお前が必死に頑張るんだな」
「えっ?」
「土下座でも何でもしてディーフリートを助けて欲しいと懇願すればいい。さすがにお前にそんなことされればカムイも考えを改めるだろうよ」
「……アルト」
ただの人質だと言いながら、アルトはセレネを特別な存在として認めている。だがそれが自分やディーフリートの為だと思うほど、セレネは愚かではない。アルトやルッツはカムイが全て。カムイの為に行動することが自分の為なのだ。
「カムイはまだ自分で何もかも背負おうとしている。王なんて身分は結局カムイには関係ねえんだ。王であろうと平民であろうとカムイは変わらねえ」
「そうね……そういう奴だから」
「少しくらい我が儘言っても良いんだよ。お前の為にディーフリートは殺したくない。そうカムイが言えば誰も文句は言わねえのに、それが分かっているからカムイは決してそれを口にしようとしねえ」
「……そういう奴だからね」
「カムイに後悔させたくねえんだ。生かしたことの後悔はどうとでもなる、だが殺してしまってから後悔しても取り戻せねえだろ?」
アルトの行動はやはりカムイの為。セレネに懇願させることでディーフリートの命を助ける口実を作ろうとしているのだ。
「……ありがとう。アルト」
そうであってもセレネはアルトに感謝している。
「だからこれは」
「そうじゃないの。私にカムイの為に働く機会をくれてありがとうと言っているの。そしてディーを助ける機会も。アルトのおかげで私の後悔も少しは薄れるかもしれない」
アルトは諦めてしまったことをもう一度求めるきっかけを作ってくれた。このまま諦めてしまってはきっと後悔したことを手にする機会を作ってくれた。それがセレネには嬉しかった。
「……ああ、そうなると良いな。期待してるぜ、セレネさん」
「ええ、私に任せなさい」