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魔王の器 作者:月野文人

第四章 大陸大乱編

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お人好しの皇太子

 多くの貴族軍が離脱したからといってそれで戦いを放棄するわけにはいかない。ステファン皇太子は東方諸国連合と対峙するルースア帝国軍に合流し、帝都奪回を進めることにした。
 軍勢としてはおよそ四万ほど。東方諸国連合と真神教騎士団の軍勢を足しても数としてはルースア帝国軍が上回る。だが戦況としてはルースア帝国軍にとって厳しい状態が続いている。兵糧の不足、これは合流しても解消はしなかった。輸送部隊に対する襲撃は変わらず続いているが、それ以前に調達が思うように進んでいない。戦争状態が継続しているルースア帝国では慢性的に物資不足が続いていた。その状況でさらに強引な買い占めが行われており、その買い占められた物資が流通していないのだ。
 この状況を解決する方法は限られている。国民からの強制徴収がその一つだ。だが、大軍の大陸西方への派遣にあたって臨時徴収はすでに行われている。これ以上の徴収は国民をかなり苦しめることになる。それが分かっていて強制徴収を命じる勇気がステファン皇太子にはなかった。民を思う優しさだけが理由ではない。それを強いることで民衆の暴動がルースア帝国全土に広がる可能性を恐れているのだ。
 そうなると残る手は一つ。多くの物資が蓄えられている帝都を早急に奪回すること。もともと奪回するつもりの帝都だ。結局は何も変わらない、というわけにはいかなかった。東方諸国連合への警戒を緩めることなく、隙を見せないように慎重に帝都を攻める。従来の作戦はこうだったのだが、それは許されなくなった。兵糧不足が深刻な状況に陥る前に帝都を落とさなければならない。時間的な制約がルースア帝国軍に課せられたのだ。しかもルースア帝国の焦りを見透かしているかのように、これまで占領地の統治態勢の確立を優先してあまり動きを見せなかった東方諸国連合軍が積極的な攻勢に出始めた。実際に見透かしているのだ。ルースア帝国軍は完全にカムイたちの術中にはまっていた。
 それでもただやられっぱなしではいられない。ルースア帝国側も事態の打開に向けて手を打っていた。
 帝都の東。東方諸国連合の制圧地域からそれほど距離がない丘陵地帯。そこにルースア帝国軍は軍を展開させていた。街道脇にある林の中や小高い丘の陰に姿を隠すようにして。

「敵の陽動は成功。もう間もなく視認出来るはずです」

 本営にやってきた伝令が状況を伝えてきた。

「敵の数はどれくらいだ?」

 その伝令にステファン皇太子は敵の数を尋ねる。

「およそ一万が追撃してきています」

「一万か……まあ悪くない数だな。準備は問題ないか?」

「万端整っております。お任せください。かならずや敵を殲滅してみせます」

「ああ、期待している」

 自信満々の部下にステファン皇太子は素直に期待を口にした。これまで散々にやられてきた。今更思い上がりはないと思っている。それに今回の策は検討に検討を重ねてきたものだ。ステファン皇太子もそれなりの自信はある。

「陽動部隊が姿を見せました。もうすぐです」

 街道をルースア帝国軍の部隊が進んでくる。統制の取れたものではない。どう見ても敗軍が敵に追われて逃げているようにしか見えない。そう見えるということが、少なくとも敵を騙すという点では成功だ。
 ルースア帝国軍が考えた策は、敗走したふりをして敵を待ち伏せ地点まで引き寄せて包囲殲滅を図るというもの。いかに敵に偽装と見抜かれないように上手く負けてみせるかが作戦の肝であるのだが、どうやらそれは上手くいっている。陽動部隊の後ろには敵の追撃軍一万が付いてきているのが分かっている。あとは街道の左右に隠れている伏兵に気づかれないこと、その伏兵を良いタイミングで動かすことだ。

「敵が完全に姿を現したところで第一陣を動かします」

 徐々に敵の姿が見えてきた。敵のほうも隊列は乱れている。追撃を急ぐことを優先しているのだと思われた。
 作戦は順調。だが、まだ動き出すのは早い。動くのは追ってきた敵が完全に第一陣の伏兵の前を通り過ぎてからだ。そこで隠れている第一陣が敵の後背を塞ぎ、敵の退路を断ったところで第二陣が左右から挟撃。最終的には本営の部隊に陽動部隊が合流、反転させ完全包囲を完成させるという作戦だ。
 ただ勝つだけであれば敵を死に物狂いにさせる完全包囲は避けるべきだが、この作戦の目的は敵の殲滅。味方の犠牲をある程度覚悟した作戦となっている。

「動かします」

「ああ」

「合図を送れ!」

 敵軍のほとんどが姿を現したと思えるところで、先で隠れている第一陣への合図の太鼓がなる。ここまで来ればあとはスピード勝負。存在を秘匿する必要性はそれほどない。
 合図を受けて街道の左右に隠れていた軍勢がものすごい勢いで前に駆けだしている。彼らの役目はとにかく敵の後背を塞ぐこと。それによって敵の動揺を誘うことにある。実際に後ろにルースア帝国軍が現れたことで敵の足が止まった。その時には第二陣も姿を現している。敵がまとまって反転する余裕を与えないように、まだ動揺しているうちに挟撃し、さらなる混乱を引き起こさなければならない。

「いけます!」

 配下が興奮した声をあげている。ルースア帝国軍は敵軍を包み込みながら、その多くを前に押し出している。敵の退路を塞ぐことには成功した。最後の一手は前方を塞ぐこと。敵の強烈な反撃が予想されるがそれが成功すれば策は完成だ。

「全軍を前に出せ! 陽動部隊への指示を! 反転攻勢だ!」

 部下が大声で指示を出している。もっとも厳しい状況になると思われる敵正面を塞ぐ役目は本営と囮部隊の計二万の軍勢。敵の倍の数になる。敵の突撃を受け止めるには十分な数のはずだ。前に進む本営一万は囮部隊を吸収しながら陣形を整えていく。

「いける」

 完全包囲の体勢が整おうとしている。それを見てステファン皇太子の気持ちは高鳴っている。一万の敵兵を殲滅出来ればそれで東方諸国連合の軍勢は二万と少し。戦力差は二倍になる。その余裕を活かして帝都攻めに戦力を集中させて一気に奪回を図るというのがこの先の戦略だ。ようやく敵に一矢報いることが出来る。ステファン皇太子はそう思った。実に罪深いことだ。ステファン皇太子ではなく、カムイたちは。

「な、何だ?」

 敵の前方を塞ごうとした本営の軍。敵正面に向かい合うかというところで、その左翼に大きな竜巻が巻き起こった。その竜巻は味方兵士を宙に巻き上げながら本営軍左翼から中央に向かって進んでいる。

「敵だぁ! 左翼から敵騎馬隊! 迎え撃て!」

 本営軍から聞こえてくる号令が何が起こっているのかを教えてくれた。敵の騎馬隊が本営軍の左翼に迫っているのだ。
 その数はそれほど多いようには見えない。千騎ほどの騎馬隊だ。だがその騎馬隊は囮部隊と合流して二万近くになった本陣を恐れる様子もなく、まっすぐに突撃していく。それを迎え撃とうと陣形を整える本営軍。だがそれは再び巻き起こった竜巻によってすぐにズタズタにされてしまう。

「……あれほどの術者がいるのか?」

 敵の魔道士の魔法に驚くステファン皇太子。あれだけの大規模魔法はルースア帝国では魔道士団長くらいしか使えない。実際にはその魔道士団長の魔法を軽く超えるものだ。

「マリア様。カムイ様の義妹、いえ四柱臣の一人と申し上げたほうが殿下にはお分かりになりやすいですか」

 ステファン皇太子の独り言のような問いに答える者がいた。

「ミヤ……来ていたのか?」

 皇太子妃らとともに戦場から遠い後方の城で避難していたはずのミヤだ。

「はい。かなり厳しい戦いと聞いておりましたので、思わず……」

「そうか……カムイの義理の妹と言ったな」

 侍女の仕事をしていても元は間者の類いであったミヤだ。ステファン皇太子は戦場に現れたことは気にしていない。それよりもミヤの話のほうが気になった。

「四柱臣の皆様は家族のようなものですから」

「……あれがカムイの」

 カムイ・クロイツの四柱臣の噂はシュテファン皇太子も知っている。だが、実際にその戦いぶりを目の当たりにするのは初めてだった。
 マリアの魔法で大混乱に陥っている左翼。その左翼の混乱が波及して、敵軍の正面を塞ぐ役目だった二万の軍勢は陣形を多いに乱している。陣形を崩している原因はマリアの魔法だけではない。魔法攻撃によって生まれ陣形の隙間を切り裂いていく騎馬部隊。その先頭を駆ける金髪の男が通り過ぎた後には、味方の兵士の血しぶきが舞っている。

「……あれはカムイ、ではないな」

 遠目でステファン皇太子には顔までは見えないが金髪であればカムイではない。

「はい。マリア様と同じく四柱臣の一人であるルッツ様です」

「あれも……全員が孤児だったのだな」

 カムイと四柱臣との出会いをステファン皇太子は話で聞いている。全員が同じ孤児院で知り合った仲間だと。帝国の魔道士団長を超える魔法を使う女性。圧倒的な力で二万の軍勢を切り裂いていく戦士。そんな人物が孤児であったという事実は、ステファン皇太子にとっては奇跡に近い出来事だ。才能は血に宿る。だからこそ王族や貴族は特別な存在なのだとステファン皇太子はずっと教えられてきたのだから。

「カムイ・クロイツと四柱臣か……」

 奇跡の出会いによって集まった仲間たち。その彼らがこの大陸の歴史を動かしている。ステファン皇太子はここが戦場で、その四柱臣を敵にしていることも忘れて物思いにふけっている。カムイへの、カムイの周囲の者たちへの憧れが、こんな時でも心の中に湧き上がってしまったのだ。

「ではそろそろ参りましょうか?」

 そのステファン皇太子の物思いを中断させたのはミヤだった。

「……どこへ行くというのだ?」

「皇太子殿下! お下がりください! 敵が近づいてきております!」

 ステファン皇太子の問いにミヤが答える前に、部下の切迫した声が響く。本営軍を混乱させていた敵、ルッツが率いる騎馬部隊がいつの間にかステファン皇太子とその護衛騎士がいる場所に向かってきていた。

「殿下を守れ! 敵を近づけるな!」

「本営軍を下がらせろ!」

 ほぼ全軍を前に出した本営の守りは手薄だ。二万の軍勢を混乱させた敵を相手にして防ぎきれるとはとても思えない。護衛の騎士たちは大混乱に陥っている。

「殿下! ここは危険です! こちらへ!」」

「あ、ああ」

 手を引くミヤに従ってステファン皇太子は後方に駆けだした。逃げるということに恥辱を感じないではないが、ここで殺されるわけにはいかない。父であるニコライ皇帝が戻るまではステファン皇太子が皇帝代理を務めなければならないのだ。

「ミヤ! どこに逃げるのだ!」

「もうすぐです! もう少し先に行けば!」

「分かった!」

 あてもなく逃げているわけではない。そう分かって安心したステファン皇太子。実際に先の方に黒装束の集団が控えているのが見えた。

「……殿下! あれは敵ではないですか!?」

「なっ!?」

 ステファン皇太子の後を追いかけてきていた側近の騎士たち。その中の一人が驚きの事実を告げてきた。だが、その時にはもう手遅れだ。ミヤに手を引かれたまま、かなりの勢いで駆けていたステファン皇太子は急に足を止めることが出来なくて、その集団の目の前に転がり出てしまう。

「殿下!」

 そのステファン皇太子を助けようと後を追ってきた護衛騎士たちだが、ろくに反撃も出来ないまま、あっという間にその黒装束の集団に制圧されてしまう。

「そんな……」

 呆然とするステファン皇太子。人質にされるような事態は考え得る中で最悪の状況なのだ。

「殿下、大丈夫ですか?」

「……ミヤ、すまない。お前まで巻き込んでしまった」

「私のご心配は無用です。彼女たちは私の仲間ですから」

「……えっ?」

「彼女たちは私にとっての義姉妹。幼い頃からともに育った仲間ですから」

 穏やかな笑みを浮かべてこれを言うミヤ。

「……だ、騙したのか?」

 震える声で問いを投げるステファン皇太子。ミヤが自分を騙すなどステファン皇太子は全く考えていなかった。信じていた者に裏切られたという衝撃で、その顔は真っ青だ。
 もともとミヤはカムイの配下。それを無条件で信じるなど施政者にあるまじきお人好しではあるのだが。

「騙す……いえ、騙したつもりはありません。殿下のことは心からお慕い申し上げておりますわ」

 そうであるからミヤの気持ちを掴めたのだ。魔族の外見を持つミヤに、無条件の信頼を与えられるほどのお人好しであるから。

「……それは、あれだが」

 これまで何となくミヤの好意は感じていた。だが、ここまではっきりと気持ちを告げられたのは初めてだった。

「私は殿下のことを愛しています。この言葉に嘘はありません」

「ではどうして?」

「私は元シュッツアルテン皇国の皇都にあった貧民街の生まれ。娼婦の娘です。そんな私では殿下と結ばれることは許されません。せめて殿下にただの人になって頂かないと」

「……そんなことの為に?」

 ミヤが自分を捕らえたのは自分の恋心を満足させる為。そんな馬鹿な話はないと思ったステファン皇太子だったが。

「そんなこと? 殿下は私の気持ちをその程度に思っているのですか?」

「い、いや、そういうことではない。目的は俺を人質にすることで、それとたまたまミヤの利害が一致したということではないのか?」

「いえ。この件はカムイ様が私の為に計画して下さったことです」

「部隊を動かして……いや、味方の兵が犠牲になるのが分かっていてか?」

 ルースア帝国の策略は途中までは上手く進んでいた。それによって犠牲になった東方諸国連合兵士もいるはずだ。仲間の色恋沙汰の為に、そんなことをするカムイの心情がステファン皇太子は納得出来ない。

「それを気にする殿下はやはり優しいお方ですわ。でも、少し勘違いがあります。私の説明が足りなかったからですね」

「それはどういうことだ?」

「カムイ様が私に約束してくれたのは殿下を生かすこと。本来であればこの戦場で殿下は命を奪われるはずでした。それでルースア帝国は核となる人物を失い、組織立った動きが難しくなる」

「……父上がいる」

 これはステファン皇太子の強がりだ。本来の核であるニコライ皇帝がなかなか本国に戻って来ないからステファン皇太子がその代わりをしていたのだ。

「そのお父上はいつ戻って来られるか分かりません。それまでの間、ルースア帝国は頂点不在のまま。そのような状況が長く続けば帝国はどうなるでしょう?」

「…………」

 ミヤの問いにステファン皇太子は答えられなかった。分からないのではない。考えられることがあり過ぎて話し切れないのだ。最悪の状況は南部諸国の離反。現在のルースア帝国の状況に南部諸国は強い関心を持っているはずだ。もしルースア帝国が負けると判断すれば南部諸国も手をこまねいて見ていないだろう。領土拡大の野心だけではない。勝ち馬に乗らなければ次に攻められるのは自国かもしれないのだ。
 そしてそれはルースア帝国貴族も同じ。帝国に殉じようなどと考える貴族ばかりだなんて楽観的なことを考えられるステファン皇太子ではない。

「殿下には戦いが終わるまで少し不自由な思いをしていただくことになります」

「……俺はどこに連れて行かれるのだ?」

「それはお話し出来ません。申し上げられるのは、私はずっとお側にいますわ」

「……それはどこまで本気に取ればいいのだ?」

 人質になったことをずっと悔やんでいても仕方がない。かといって割り切ってミヤとの時間を楽しむつもりもないが、これくらいのことは言える余裕、というより開き直りの気持ちがステファン皇太子の心にも浮かんでいる。

「あら、私はどこまでも本気ですわ。そうでなければカムイ様は殿下を生かしてはくれませんでした」

「そのことなのだが……カムイは何を考えているのだ?」

 厳しい戦いの中で部下であるミヤの恋愛を気にかける。そこまで余裕があるとはステファン皇太子には思えない。単純な戦力比であればルースア帝国が勝っている。カムイとしてもギリギリのところで戦っているはずだとステファン皇太子は考えている。

「生まれ育ち、身分や種族に関係なく誰もが自由に恋愛が出来る世界を作る。これがカムイ様たちが戦う理由ですから」

「そんなこと……あっ、いや、しかし……」

 言い方一つで印象は変わる。自由に恋愛が出来る。確かにこれも種族融和、種族共存のあり方の一つではある。だが自由恋愛の為と言われれば、そんなことの為に大陸全土を戦乱に巻き込んでいるのかとどうしても感じてしまうのだ。

「殿下は優れた施政者になれると私は思います。ですがやはりカムイ様には遠く及びません」

「……そうか」

 それはステファン皇太子自身が誰よりも感じている。だが、やはり正面から言われると傷つくものだ。

「大陸統一、世界平和なんて大仰に言われても人々にはどこか他人事に感じてしまいます。ですが身分に関係なく誰を好きになってもいい世の中が出来る。こう言われたらどうですか?」

「その二つは意味が違う」

 自由恋愛は身分制の破棄を意味する。大陸平和とは別の話だ。

「そうです。ルースア帝国が大陸制覇の口実として使った世界平和の実現。これは民衆の為のものではありません」

「平和な世の中は民衆の為のものだ」

 こう答えるステファン皇太子はやはり人が好い。だが、施政者としてはそれが正しいとは言えない。あくまでも従来の施政者としてはだが。

「戦争がなくても民衆は厳しい暮らしを強いられています。施政者の平和と民衆が望む平和こそ意味が違うのです」

「……平和の意味が違う」

 このような考え方をステファン皇太子はしたことがなかった。

「戦争がない世の中は良い世の中ですわ。ですが、それはその恩恵が民衆にも行き渡ってこそ。ルースア王国は大陸制覇を成し遂げた。そうであるのに帝国臣民の暮らしは何も変わらない。いえ、膨れ上がる軍事費の負担を強いられ以前よりも厳しくなっていますわ」

 実はこれは貴族家も同じ。大陸統一がなっても貴族家には何の恩恵も渡っていない。各国の臣従を許す形で大陸制覇を成し遂げた為に、帝国貴族に恩賞として渡せる領地は増えなかったのだ。では別の形でということも反乱の中で実現していない。貴族からみても大陸統一はただ軍事負担を増やしただけのことだった。

「そうか……そういうことか……」

 大陸制覇を喜んでいたのは皇家と一部の重臣たちだけ。帝国貴族も臣民も帝国の成立を喜んでなどいなかった。そういった不満をカムイたちに利用されたのだとステファン皇太子は思った。

「ミヤ。皇太子殿下への教育は後にして。移動するわよ」

 黒装束の中の一人が会話に割って入ってきた。彼女、ミトたちにはまだまだやることが沢山ある。こんなところで無駄な時間を過ごしている余裕はない。

「ええ。では殿下、行きましょうか」

「……ああ。分かった」

 ステファン皇太子が捕らえられたことは、戦場にはすぐに伝えられている。当初は信じなかったルースア帝国軍も本営があった場所に銀十字の旗が立っていることを見て、それが事実だと受け入れざるを得なくなった。自軍の大将を、帝国の皇太子を捕らえられたとなれば戦意は一気に消え失せる。敗走する者、そのまま捕虜になる者。ルースア帝国軍四万は優勢にありながらも大将を獲られるという形で敗北を喫することになった。
 この日をもって大陸東方におけるルースア帝国軍はほぼその力を失うことになる。
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