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魔王の器 作者:月野文人

第三章 皇国動乱編

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ヒルデガンドの奮戦

 王国の先陣一万に対するは、わずか七百の騎馬隊。巨像に蟻が挑むようなものなだが、実際には、その七百が敵を圧倒していた。
 砦から放たれる魔法が、王国軍の前進を阻み、乱れた陣形の隙間に騎馬が突入していく。
 その先頭には白銀に輝く鎧を纏った戦女神ヒルデガンドの姿があった。

「一旦、抜けます!」

「はい! 反転! 離脱します!」

 ヒルデガンドが混戦の中で、馬を転進させ、王国軍の先陣の間を駆け抜けていく。それに遅れる事無く、馬を並べていくのは、元クロイツ子爵領軍外征部隊長のテイロンだ。
 王国軍から一旦離脱した所で、更に転進。戦場を横切って行く。

「あそこです。あれを突き破ります」

「……はい」

 ヒルデガンドの目には、とても突き破れるとは思えない堅固な陣。だが、実戦での自分の未熟さを分かっているヒルデガンドは、テイロンの言葉を信頼し切る事にしている。

「機動魔導部隊、前へ!」

 ヒルデガンドの号令で、馬群の中央に位置していた部隊が前面に出る。ヒルデガンドとマリーが鍛え上げた騎乗する魔道士部隊だ。
 前面に出た機動魔導部隊は、馬を御しながら、集中を乱す事なく詠唱を唱えていく。

「放てぇっ!」

 一斉に放たれる魔法。それは王国軍に着弾すると共に、爆炎を辺りにまき散らしていった。

「展開! 突入!」

 前に出ていた魔導部隊が散会して、後方を下がっていく中を、ヒルデガンドを先頭にした五百が馬足を速めて進んでいく。

「掛かれぇ!」

 魔法によって、空けられた陣の隙間を狙って、突入。先頭にはヒルデガンド、マティアス、ランクの三騎が並んでいる。群がる王国の兵たちを、切り払って更に前に進む騎馬。

「右! 的はあれです!」

 後方から、テイロンが叫んでいる。テイロンが示したのは、兵の中に紛れ込んでいる、一際輝きを放つ鎧を纏っている騎士。

「……いた」

 それを目にしたヒルデガンドが小さく呟いた。
 信頼しているとはいえ、見事に敵将の位置を見極めたテイロンの能力にヒルデガンドは驚いていた。

「討てぇえええ!」

 自らに気合を入れる意味も込めて、大声で雄叫びを上げるヒルデガンド。狼狽した様子の敵将に視線を定めると、迷うことなく、敵陣の奥に馬を駆けさせていった。

「馬足を止めるな! ただ、前に突き進め!」

 マティアスの声がそれに応えるように続く。
 ヒルデガンドが剣を一閃。敵将の兜の隙間から、血が吹きあがった。

「退路を確保する! 続け!」

 それを確認したマティアスが騎馬の半数を率いて斜めに進んでいく。ヒルデガンドに続く騎馬もやや迂回するような形で、敵陣を更に切り裂くと、マティアスたちが切り開いた隙間の後に続く。
 そこに更に、魔法の一撃が届く。ヒルデガンドを囲もうとした王国の兵たちは、背後からの魔法の攻撃に為すすべもなく倒れていった。

「集結! 密集隊形!」

 そのまま、一塊になって敵陣を抜けていくヒルデガンドたち。砦へ進む中で一旦、離脱していた機動魔道士部隊と、その護衛部隊が合流してくる。

「追ってきます!」

「リク!」

 テイロンに名を呼ばれた兵は一旦、後ろを振り返ると、何も言わずに首を振った。

「このまま、砦に戻ります!」

「……分かりました」

 戦場で危険を察知する独特の勘のようなものを彼らは持っている。ヒルデガンドは自分にない感覚を持つ彼らを少し羨ましく思っている。

「馬足を緩めろ! 砦に帰還する!」

「良いのですか!?」

「敵を引き付けます!」

「分かりました」

 ヒルデガンドたちが、馬足を緩めた事で、追いつけると思ったのか、追いすがる王国の兵の間をぬって騎馬隊が姿を現したた。
 見る見る後ろに迫ってくる王国軍の騎士たち。

「全力! 離脱!」

 そこで又、テイロンの号令が響き渡る。ヒルデガンドたちが馬の足を速めると同時に、正面から雨のように矢が降り注いできた。砦から放たれた矢だ。
 矢は、ヒルデガンドの部隊のすぐ後方に降り注ぎ、追いついて来ていた王国騎士たちを次々と射落としていく。

「おい! ナウマン辺境伯は本当に弓の上手なのか?」

 最後尾を走っていたランクが文句を言ってきた。

「タイミングとしては絶妙だ!」

 隣に並ぶマティアスがそれに答える。

「遅れたら味方が射られる所だったぞ!」

「だから絶妙なのだ! 敵もまさか、ここで矢が来るとは予想していなかったはず!」

「……全く」

 確かに意識しての事であれば、敵へ与えた被害も多く、見事な攻撃と言える。ランクも納得するしかない。

「追っ手の足は止まりました! 並足に落としましょう!」

 ヒルデガンドの号令を受けた騎馬隊は、ゆっくりと馬を進めて、砦の前の坂道を登って行く。わずかに開けられた扉の門を抜けて、ヒルデガンドたちは砦に帰還していった。

「報告!」

「離脱者なし! 軽傷者数名!」

 ヒルデガンドの問いにマティアスが素早く答える。砦に入る前から既に確認済みだ。

「分かりました。ご苦労様でした。次の戦いまで休んでください」

「「「はっ!」」」

 兵が散会していくのを見て、ヒルデガンドの体からも、一気に力が抜けて行った。
 今回も死者は出なかった。だが、それがいつまでも続く程、戦場は甘いものではない。ヒルデガンドは、率いる者としての責任に常に押し潰されそうになっていた。

「お見事でした」

 そんなヒルデガンドにトリスタンが声を掛けて来た。

「まだまだです。テイロン殿に助けられてばかりですから」

「自分一人で戦える訳ではありません。それで良いのではありませんか?」

「助けられる相手が、テイロン殿たちという事が問題なのです」

「……それは何故?」

「彼等を差別している訳ではありません。彼等は、その、借りているようなものですから。王国との戦いでは手伝ってくれても……」

 テイロンたちは決して、カムイと戦う事はない。それ所か皇国に剣を向けてくる可能性だってある。

「カムイと戦うつもりですか?」

「……カムイが皇国に牙をむくなら、私は皇族として立ち向かわなければなりません」

「あまりお勧め出来ません。私は間違っても敵に回りたくはないですが」

「私もです。ですが、私は、そうなった時に、それを避ける訳にはいかないのです」

「……避けられると思うのは私の勝手な思い込みでしょうか?」

「えっ?」

「貴女がカムイが呼んでいたヒルダに戻れば」

「私は……」

 トリスタンの言葉はヒルデガンドには残酷だ。それが出来るのであれば、ヒルデガンドも悩む事はない。

「申し訳ございません。勝手を言いました。それと失礼な呼び方をした事もお詫びいたします」

「あれから何年も経ちました……。そして私は人の妻です。もう、私の事なんて……」

 この言葉を聞けば、ヒルデガンドが今もカムイを想っている事は明らかだ。返す言葉がトリスタンには見つからなかった。

「ごめんなさい。忘れてください」

「……はい、そう致します。ヒルデガンド妃殿下も少し休まれた方がよろしいのでは?」

「でも」

「ご安心下さい。決して敵を砦には近づけさせませんから」

「……分かりました。お言葉に甘えて、少し休ませてもらいます」

「はい」

 去って行くヒルデガンドの後ろ姿を見て、トリスタンは小さくため息をついた。自分自身も自領を背負っているという自負のあるトリスタンではあるが、ヒルデガンドは皇国を背負おうとしているのだ。
 比較するべきものではない事は分かっていても、その重さをどうしても考えてしまう。

「どうした?」

「どうしたじゃない。ヒルデガンド妃殿下が離れるのを待っていただろ?」

 トリスタンは睨むような視線を、近づいて来たラウールに向けている。

「俺が入ると長くなるからな。少しでも休む時間は長いほうが良いだろ?」

 トリスタンの文句に見え見えの嘘で返すラウール。

「つまり話は聞いていた訳だな。ラウールはどう思った?」

「ちょっと思っていたのと違った」

「そうなのか?」

「戦いの事じゃない。ヒルデガンド妃殿下個人の事だ。もっとこう、毅然とした、悪く言えば、いかにも大貴族って感じの人かと思っていた」

「ああ、それか」

 これに関しては、トリスタンも同じ印象を持っていた。二人だけではない。他の辺境領主も同じだ。

「無理をしていたのかな?」

「俺たちが驚いていたカムイの前での態度の方が本来なのかもしれないな」

「ちょっとムカついてきた。やけに女にもてる野郎だとは思っていたけど」

「何だ? まさか惚れたのか?」

「馬鹿。俺なんかで釣りあうか。身分とかじゃない。背負っているものが違う」

「俺たちだって自国を背負っている」

 ラウールと同じようにも思っているくせに、トリスタンはあえてこんな言葉を口にしている。ラウールの言葉を素直に認めるのが嫌なだけだ。

「分かっているくせに。俺たちは自国を背負っていても、それと自分の気持ちに齟齬はない。極端に言えば、好きにふるまう事が自国の利益になる」

「極端過ぎだ。だが、間違っているとも言えない」

「だが、ヒルデガンド妃殿下は違う。あの人、本当は全てを捨てて……。勝手に人の気持ちを推察するのは失礼か」

「そうだな」

「さてと、妃殿下はお休みでも、俺たちはそうはいかないぞ。また攻め寄せてくる頃だ。とっとと退散させよう」

「ああ、分かった。すぐに行こう」

◇◇◇

「どうして小娘が守っている砦程度を落とすことが出来ないのだ!?」

 王国軍の本陣ではアレクサンドル二世国王が、顔を真っ赤にして、臣下を怒鳴りつけていた。

「申し訳ありません!」

「ここさえ抜ければ一気に皇国東方領に攻め入る事が出来るのだ! それが分かっていないのか!?」

「いえ、分かっております!」

「では何故、落とさん!」

「それは……」

「……もう良い。もう一度、戦況を説明せよ」

 臣下が黙り込んだのを見て、アレクサンドル二世国王は一気に声のトーンを落とす。怒鳴っても何の解決にならない事は始めから分かっている。これは半分は自身を落ち着かせる為のものだ。

「はっ。砦を守る皇国の軍勢はおよそ八千。こちらの六分の一ですが、守る砦は堅牢なものです。砦の前面は幅もそれほどなく、緩やかな坂道が続いております。その先、こちらから見て、手前ですが、そこには幾つもの濠が掘られており、その為に大軍で一度に攻め寄せる事が出来ません」

「では、まずは、その濠を埋めよ」

「半ばまでは埋め終わっております。しかし、その先が中々進みません」

「何故だ?」

「弓と魔法による攻撃で」

「では。こちらも魔法で攻めれば良いだろうが!?」

「それが、距離が違うのです」

「距離だと? 魔法の届く距離という事か?」

「はい。皇国の魔法はこちらより、はるかに遠くに届きます。砦を魔法で攻めようと、魔導士部隊を前進させた所、為すすべなく、敵に一方的に叩かれました」

「そんな事が……」

 魔法にも射程距離がある。それは使う者の技量によるのだが、皇国の魔道士全てが、王国のそれに勝るとはアレクサンドル二世国王には思えない。

「しかも、高所からの攻撃という事で弓も思った以上に遠くまで飛んできます」

 更に弓の名手を自称するだけあってナウマン辺境伯家の弓には、様々な工夫がされており、一般の弓よりも射程が長くなっている。

「盾で防げばよい」

「魔法でなぎ倒された所に弓での攻撃。敵はその方法を取っております」

「……そう言えばあの魔法は? 正体は掴めたのか?」

 射程以外にも魔法に大きな違いがある。その威力だ。

「それが……」

「何だ?」

「寝返った辺境領主の話では、あの魔法の運用は魔王カムイ・クロイツの同級生が広めたもののようで」

「何だと?」

「皇国学院にいた頃の事のようです。今、皇国の背後に魔王がいるという事ではありません」

「ふむ。つまり魔族の魔法という事か」

「いえ、普通の属性魔法のようです。それをうまく組み合わせる事で、あのような魔法になる。魔法融合と呼ばれております」

「では、こちらも真似をしろ」

「それはもちろん、試みております。ただ……」

「出来んのか?」

「試みましたが威力が違います。それに、それが出来ても届かなければ意味が……」

「そこに戻るのか。飛距離が違う。たったそれだけの事で、ここまで苦労させられるとはな」

 魔法も弓も飛び道具だ。飛距離の差は、特に陣地を攻めるような戦いでは、攻撃側にとって、圧倒的に不利になる。
 当然、王国側も分かっている事だが、想像以上にその差があり過ぎるというのが、今の問題だ。

「魔道士の集団運用。知ってしまえば、有効な事はすぐに分かるのですが、それを王国はこれまで全く試みておりませんでした。その差が出ているのではないかと」

「魔道士はどいつもこいつも自分の技量をあげる事しか考えておらんからな」

 この場には王国魔道士団長もいる。だが国王の嫌味にも魔道士団長は知らん顔だ。皇国も王国も魔道士というものは同じように偏屈な者が多いのだ。

「今の話だと辺境領主の軍は使えるのだな。それを前面に出せ」

「それが使えません」

「何故だ?」

「選別されたようです。王国と通じていた辺境領主には、見事に運用方法が伝わっておりません。彼等が知っているのは、戦場でそれを見た事があるからです」

「まさか、それも魔王か?」

「そんな情報まで調べ上げられるとすれば、魔王が一番怪しいかと」

 実際にそうだ。魔族だけの力ではなく、トリスタンやラウールなど信頼出来る辺境領家から、もたらされた情報も加味して選別が行なわれていた。

「協力されているのか、邪魔をされているのか分からんな」

「はい」

「しかし、あれも駄目、これも駄目ではどうにもならん。どうするのだ?」

「結局は騎馬部隊。ヒルデガンド妃殿下をどうにかする事という結論に至りました」

「散々、魔法の話をしておいて結論は騎馬か?」

「魔法も弓も脅威ではありますが、犠牲を顧みずに攻め寄せれば攻略は出来ます。いずれも限りあるものでございますので」

「どれだけの犠牲が必要なのかが問題だがな」

「それは更に検討をする事として、我が軍が砦に近寄れないのは、騎馬隊の存在が大きいようです」

「千人にも満たない騎馬隊ではないか。それをどうして討ち取れないかも、儂は不満なのだ」

「精強である事と、それ以上に巧妙である事です。実は敵の騎馬部隊による兵の犠牲は、それほど多いものではございません」

「そうなのか?」

「はい。問題は、あれが出撃してくる度に、前線指揮官が討たれる事です。皇国は我が軍の指揮官を狙い打っております。それにより、前線の兵は統制を失い、攻める事が出来ずに退却してくる事を繰り返しております」

「……どれほど討たれたのだ?」

「千人将は既に十名。百人将となるとどれだけの数になる事か。三割に届かずという所でしょうか」

「負け戦ではないか」

「それに死傷兵の数も比例すればでございます。ただ、これを許しておくと、部隊指揮官クラスがいなくなってしまいます」

 それがヒルデガンド側の狙いだ。数の劣勢を、指揮官を討つことで少しでも挽回しようとしていた。

「それで敵の騎馬部隊を優先する訳だな。まあ総大将でもある訳だから、優先して当然か」

「はい」

「だが、その手段だ。それが出来ないから、これだけの被害を出したのであろう」

「単純に考える事に致しました」

「単純?」

「敵の方が強いから、我が方の千人将が討たれるのでございます。そうであれば、討たれない将を当てれば良い」

 正しい判断だ。ヒルデガンドは敵陣に突入して、敵将を討つ戦い方をしている。それは王国側から見ればヒルデガンドを討つ機会でもある。

「誰だ?」

「騎士イーゴリ・ミハイロフでございます」

「ほう。イーゴリか」

「魔王カムイが相手となれば、どうかと思いますが、今回は敵はそれよりも数段劣る者でございます。必ずや、討ち取れるものと」

「良いだろう。あれにも汚名返上の機会を与えてやる時期だな」

「はっ。必ずや陛下のご期待に沿う働きをする事でしょう。今はまだ平騎士ではありますが、特別に前線の指揮権をお与えてください」

「かまわん。見事、小娘を討ち取れば、元の千人将に戻してやる。そう伝えておけ」

「はっ」


 そして、このアレクサンドル二世国王の命令はすぐにイーゴリに届く事になる。

「良いな、必ず敵将ヒルデガンドを討ち取るのだぞ」

「はっ。お任せください」

 本陣からの命をイーゴリは跪いて受けていた。国王からの勅命という扱いだからだ。
 だが、その顔は畏まったものではなく、ぎらぎらとした殺気に満ちたものに変わっていた。
 使者が去ったのを見届けて、立ち上がるイーゴリ。

「いよいよですな」

「ああ。相手が魔王でないのが残念ではあるが」

「良いではないですか? 魔王とは将軍として相対するべきです」

「そうだな。一対一では勝てないだろう。だが、軍と軍のぶつかり合いであれば、ひけを取るつもりは無い」

「その為には」

「ヒルデガンド妃殿下か。剣術対抗戦では戦う事がなかったが、丁度良い。自分が出れば勝てていたなどと思い上がられていても困るからな」

「すぐに思い知る事になります。そして知った時には」

「女性を手に掛けるのは忍びないが、これは戦争。女だてらに戦場に出るなどという愚かな真似をした事を悔やみながら死んでもらおう」

「では、行きましょうか」

「ああ」

 イーゴリにとって、待ちに待った汚名返上の機会がやってきた。だが、それは相手にとってもそうなのだ。

◇◇◇

 いつもの様に前線に出たヒルデガンドの騎馬隊であったが、今日に限っては、中々、テイロンから突入場所の指示が出なかった。
 ただ突出してくる兵を討ち取るだけの戦いに、ややヒルデガンドは焦れてきている。

「突入は!?」

「少しお待ちを!」

「何故です!? 見つからないのですか!?」

「いや、見つかっております!」

「では、何故!?」

「浅すぎます! 誘っているのではないかと!」

「……罠」

 王国もいつまでも無策ではいないとは思っていたが、いよいよ仕掛けてきたのかとヒルデガンドに緊張が走る。

「……機動魔道士部隊を!」

「仕掛けますか!?」

「敵の反応を見ます!」

「承知! 機動魔導部隊! 隊列を維持! そのまま打ち込め!」

「なっ!?」

「魔導部隊を誘っている可能性も!」

「……分かりました!」

 ヒルデガンドから見れば常に大胆な指示をしてくるテイロンなのだが、怪しいと見れば、途端にこういう慎重さをみせる。また一つ、ヒルデガンドはテイロンから学んだ。
 隊列の中央にいる魔道士部隊から、一斉に魔法が放たれる。周りの味方を避けるために、やや遠回りをした事で、着弾にわずかに時差が出たが、それでもそれなりの威力の魔法となった。
 敵の隊列の一部が乱れ、そこに空間が出来る。

「……罠ですね」

「はい」

 いつもであれば、空いた隙間に飛び込んでいくヒルデガンドたちではあるが、今回は魔法を放っただけで、馬首を敵陣に向ける事はしなかった。
 陣の乱れを補うには十分な時間が敵にはある。だが、その隙間は中々埋まる事はなかった。

「撤収します!」

「良いご判断です!」

「でも、次は!?」

「戻って考えればよろしい!」

「……はい」

 イーゴリが前線に出てきている。その事を知ることなく、ヒルデガンドたちは砦に戻って行った。
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