挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔王の器 作者:月野文人

第三章 皇国動乱編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

100/212

東部辺境領軍

 東方の戦況は圧倒的に皇国側が不利な状況に陥っている。不意を打たれた事が大きいが、その後の皇国側の対応も、それを直ちに打開できるようなものではなかった。
 東方伯は、戦線を東方伯領の東端に定める事を宣言し、軍の集結を図ろうとしたのだが、それに納得しなかったのは、辺境領主たちだ。
 東方伯家の指示は、決して辺境領を見捨てるというものではない。東方伯領の東端は、王国の侵攻に備えた城砦都市や、砦がいくつも配置されている。王国の侵攻を押し止めるには、そこに防衛戦を張るという事は戦術的には正しい選択なのだ。
 だが、それが分かっていても、自領を王国の手に渡す事を簡単には辺境領主たちは受け入れる事が出来ない。
 結果として、辺境領主軍は一気に防衛戦まで下がる事をせずに、抵抗を続けながら、ずるずると押し込まれるような形になった。

「とりあえず先の砦まで下がろう。割と堅牢な砦だ。そこに行けば、ある程度、体制を整えられるはずだ」

「分かった。そちらの損害は?」

「二割がやられた。そっちは?」

「うちは三割だ。このままでは、厳しいな。東方伯の指示通りに素直に下がるべきだったかな?」

「それをすれば兵の損害は減らせても領民が。それは分かっているだろ?」

「ああ。だが、このまま押し込まれては、領民を逃がす余裕もなくなる」

「分かっている。だから、砦まで下がるのだ。そこでなんとか、敵の侵攻を食い止めて、少しでも遠くまで領民が逃げる時間を稼ぐ」

 王国との国境から下がり続けている辺境領主軍。その前には、各地から逃げ出してきている領民たちが先行している。それを守るために、各辺境領主軍は犠牲が出るのを覚悟で、抵抗を続けているのだ。

「あえて良い事を言えば、結果として辺境領軍が集結出来た事だ。他領を合せれば、どれくらいになるかな?」

「一万には届かないだろうな? ここまで下がってくる間にやられたのは他領軍も同じはずだ」

「五倍。砦があれば防げない事は無いな」

「王国の後詰めが来なければの話だ。情報では、総勢十万。まだ半分がどこかにいるはずだ」

「そうか……」

「二手に分かれているという話もある。そうであれば、敵は五万だ」

「国王が率いる五万だがな」

「それを言うな。全く、もう少しやれる自信はあったのだがな。国王が率いているとなると、やはり士気が違う」

「こちらは担ぐ旗がいない。各辺境領がバラバラに戦っているからな」

 数だけではない。戦術面でも現在の皇国は、王国に大きく負けている。これでは勝てるはずがない。

「……あれがいればな」

「今は敵だぞ?」

「そう思っているか?」

「聞くな。考えると期待してしまうだろ?」

「確かに。とにかく、このままではまずい。砦に集結した所で、指揮系統など、色々と調整しよう」

「……言う事聞くか?」

「聞かない者がいるならば聞く者だけで戦えば良い。その方がマシだ」

「そうだな」

 辺境領主に上下関係はない。それが戦いに問題を生じさせていた。各領主が個別に戦ってしまうのだ。各軍が集結してきたのも、誰かの指示あっての事ではなく、各領地から押し込まれているうちに、地理的に先の閉じたこの場所に辿り着いたに過ぎない。
 だが、それが辺境領主軍の救いとなった。

 砦まで後退してきた辺境領主軍は、翻っている旗を見て、誰もが戸惑っていた。
 この砦は、ランベール辺境伯領の砦。だが、その砦に翻っていたのは、ランベール家の旗ではなく、ヴァイルブルク家の旗。皇家の旗だった。

「どういう事だ! 誰か、説明してくれ! 俺はトリスタン・ランベールだ! 砦の責任者! 説明を!」

 ランベール家の嫡子であるトリスタン・ランベールでさえ事情が分からなくて、砦に向かって叫んでいる。
 その叫び声に応えたのか、扉の門が大きく開かれた。
 そこに現れ出たのが。

「ヒルデガンド!? あっ、いや、ヒルデガンド妃殿下?」

 ヒルデガンドの顔を見て、驚きの声を上げるトリスタン。その言葉を聞いて、驚きが更に全体に伝わっていく。

「……お久しぶりですね。会うのは学院卒業以来ですか」

「はっ、はい」

「顔は知っていたのですが、名は初めて聞きました。貴方はランベール家の方だったのですね?」

「はい。そうです」

「勝手に砦を借りた事は謝罪します。ここで待っていれば、皆さんが集まってくると思いましたので」

「あの、ヒルデガンド妃殿下はここで何を?」

「今言った通りです。皆さんを待っていました」

「何故?」

「その説明は必要ですか? ここは戦場ですよ」

「……戦うおつもりですか?」

「はい。その為に、ここに来ました。僭越ですが、私が皆さんを率います。私に従ってください」

「戦えるのですか?」

「それを言われると正直自信はありません。でも、誰かが軍を纏めなければいけません。それが出来るのは、私だと思っています」

「確かに皇族であるヒルデガンド妃殿下にはその資格があります。ですが、妃殿下は戦場に出られるのは初めてのはずです」

「はい。戦術については、経験豊富な皆さんにお任せします。私は旗ですから。ただ、意見が割れた時の判断は私に任せてください。誰かがしなければならないのであれば、私がそれをします」

「兵の命が掛かっております」

「それを背負う覚悟は定めてきました」

 断固として譲らない。ヒルデガンドの顔をそう告げていた。

「そうですか……。援軍は?」

「私が連れてきたのは、五百です。皇国騎士団の二万が後から来る予定ですが、それにはまだ時間が掛かるでしょう」

「たった五百……」

「でも精鋭ですよ。恐らくは、皆さんの軍と良い勝負が出来るかと思います」

「我が軍は、他の辺境領軍も、何度も実戦を重ねてきた軍です」

「私が連れて来た兵も、二百は実戦経験が豊富な者たちです」

「それは?」

「彼等は元クロイツ子爵領軍です」

「なっ!?」

「王国との戦いという事で、彼等にも協力してもらう事にしました。残りの三百も、彼等に倣って鍛錬に鍛錬を重ねてきた者たちです。それほど悪くは無いと思います」

「……まさかとは思いますが、後ろに、あれがいるのですか?」

 さすがに魔王であるカムイの名を口に出す事は出来ない。だが、トリスタンが誰を指しているからは、明らかだ。

「残念ですが、その期待には良い返事は出来ません。協力はあくまでも彼等の意志であって、誰かに指示されたものではありません」

「そうですか……」

「今説明出来る事は全て話しました。この先は軍議の場でとしたいのですけど?」

「……分かりました」

 その後も砦にはいくつかの辺境領軍が辿り着く。彼等の反応も同じだ。皇族であるヒルデガンドがその場にいる事に驚き、ヒルデガンドが全体を率いるという事に不安を覚えながらも、渋々それを認める。ヒルンデンドの実力を訝しくは思っても、誰かがまとめなければいけない事は、全員が理解していた。
 そして、全ての辺境領主が揃った所で、軍議が開かれた。

「さて、軍議を始める前に私からお願いがあります」

「「「…………」」」

「王国に降る事を考えている方は、お願いですから、今、ここで申し出てください」

「「「なっ!?」」」

「それを申し出たからと言って、決して危害を加える事は致しません。従う兵とともに、砦から無事に出す事を約束します。これは私の名誉に賭けてお約束いたします」

「それを信じろと?」

「はい。私の名だけで足りなければ、テーレイズ皇子殿下の名誉もお付けします」

「それでも所詮は口約束です」

「口約束でも約束は約束です。それを破る事は決して致しません」

「……では、こうしてください。ご自身の名誉ではなく、カムイ・クロイツに対してそれを誓うと」

「おい? それは」

 この状況であえて、こういう言い方をする意味は分かるものには分かる。それを止めた者は当然、意味が分かっていて、しかも同じ意思を持っているという事だ。

「……構いません。誓いましょう。カムイ・クロイツに恥じるような真似は、私は決して致しません」

「では、私は信じます」

「はい。それで……」

 カムイに誓えと言ってきたトリスタンに、ためらいがちにヒルデガンドは次の言葉を促した。約束を守らせる必要が男にはあると考えたからだ。

「私はここに残ります。始めから、そのつもりです。ただし出て行く者がいれば、それの邪魔は決してさせません。仮にそれをすれば、必ずや、カムイ・クロイツにそれを伝えます」

「そう。ありがとう。他の方は?」

 トリスタンの返答に、ヒルデガンドはほっとした表情を見せた。去る事を許しても、戦う上ではやはり数は多い方が良い。それに、ここまで追い詰められた今の状況では、ほとんど残らない可能性もあった。

「出て行くのなら今のうちだ。後で裏切るような真似は俺が許さない」

「それは私もです。いませんか? 軍議を進めたいので、早く申し出て下さい」

「面倒くさい。いないよ。王国と通じている者はとっくに向こうについている。ここに残っているのは、王国の侵略を許さない者だけだ」

「……貴方は? 貴方も学院にいましたね?」

「ラウール・プレシアードです。お見知りおきを」

「ラウール・プレシアード殿ですね。分かりました。ではこれで打ち切らせて頂きます。この先は裏切りと見なしますので、約束は無効です」

「当然だな」

「さて、軍議ですが。まずはトリスタン・ランベール殿。砦について教えてください。弱点も含めてです」

「この場で?」

「裏切らないと約束してもらった。私はそう思っています」

「……では、説明します。この砦は、当家の領内では最大の砦。守りの要と言っても良い場所です」

「それが王国側ではなく皇国側にあるのですね」

 どちらからの守りを重要視しているのか。ランベール家の心持ちは明らかだ。

「それについて今は言わないでください。これがここにあったという事は、今は幸いです」

「そうですね」

「守りは固い場所です。見てお分かりの通り、砦の南北は山で塞がれています。険しい山ですので大軍が抜けるのは困難です。皇国側に回るには大きく迂回する必要がありますし、仮に回り込まれたとしても」

「防備は却って固いのかしら?」

 皇国側からの攻めに対する方が、砦の守りは固い。そういう目的である事が、更に示されたが、それについてヒルデガンドは何も言うつもりはない。辺境領とはそういう所だと分かっている。

「……その通りです。もっとも皇国側を押さえられると、物資の補給が厳しくなりますので、その点では問題です」

「でも、それをすれば皇国騎士団が背後を突きます。それはこちらにとって、却って望ましい状況です」

「はい。砦にありがちな水の手の問題ですが、それについても、この砦は問題ありません。砦の下には水脈があります。砦内に井戸を掘って、それを吸い上げていますので水の手を絶たれる心配はありません」

「毒は?」

「地下水脈には水の流れがあります。毒を入れられても、下流に流れていくだけです。そもそも、上流から流そうにも、ここよりもはるかに高い山で掘るわけですから、簡単ではありません」

「そう。それは安心ですね」

 正直ヒルデガンドはトリスタンが全て本当の事を話しているとは思っていない。敵を騙すにはまず味方から。そうでなく、将来は敵になるかもしれないヒルデガンドに本当の事を教えないつもりなのかもしれない。
 だが、この件については真実を知る必要はそれほどないと考えて、素直に感心する事にしたのだ。

「問題は物資の蓄積です。どれだけの期間、ここに留まるつもりですか?」

「かなりの期間になります」

「はっきりとした期間は分からないのですか?」

「ええ。いつまでと聞かれると東方伯領軍が、王国の軍を破って、ここに現れるまで、となります」

「……なるほど、そういう事ですか」

「ルースア国王の直卒の軍でなければ、東方伯領軍でも、勝てると見ました。相手の方は貴族領軍の寄せ集めで、纏まりはなさそうですからね」

「つまりヒルデガンド妃殿下は餌という事ですか?」

「そうです。皇族がいれば、そして皇国騎士団の存在が分かれば、こちらを主力と見ます。王国の主力を引き付けている間に、従軍側で勝つ。勝ったその軍で後ろを塞げば、戦況はこちらに一気に傾きます」

「相手は五万です。守りきれますか?」

「その方策をこれから相談するのですよ」

「皇国騎士団の援軍は?」

「最終的には二万です。時期はひと月後」

「遅い」

「わざとです。場合によっては、もっと遅らせます」

「何と?」

「皆さんに負担を掛けるのは申し訳ありませんが、こちらが三万もの軍勢となれば、王国側も攻め場所を変えて来る可能性があります。それをされると面倒です。東方伯領軍が勝ちを得るまでは、王国の主力はここに留めておきたいのです」

「本当にそちらは勝てるのですか?」

「皇国騎士団の主力がそちらの後詰めに出るはずです。二万から三万の皇国騎士団が加われば、間違いなく勝てるでしょう」

「確かに」

「色々言いましたが、一番大事な事は王国軍を皇国領内に散らさない事です。それを防ぐ場所は、地理的にここしかありません。なんとしてもここを死守するのです」

「もう一つ」

「何ですか?」

「王国の後詰めは? どれくらいの数が、今はどこに?」

「……その情報はまだ掴めていません」

「皇国は何をしているのですか!?」

「皇国の間者組織は今、東方で十分な働きが出来ていません」

「その理由は?」

「王国と……、恐らく魔族によるものです」

「あの馬鹿……、やらかしてくれる」

 その馬鹿がカムイの事だとヒルデガンドには当然分かっている。トリスタンが、カムイを馬鹿呼ばわりする事に、逆に安心感を感じていた。

「別の地域に張り付いていた者たちを一斉に東に向かわせています。それでも、情報収集能力が回復するには時間が掛かるでしょう」

「どうするのですか? どこから来るか分からなければ防ぎようがありません」

「なんとかして後詰めもここに引き寄せます」

「どうやって?」

「成功するか分かりませんが、私が餌になります」

「つまり?」

「何としても、ここで私を討ち取らなければならないと王国に思わせる働きをします。そして、ここであれば討ち取れるとも思わせます」

 これはカムイが皇国に使った手と同じだ。違いがあるとすれば、ヒルデガンドはまだ王国に重視される存在ではないという事。まず、そこから始めなければいけない。

「まさか……、前線に出るつもりですか?」

「はい」

「馬鹿な!? それで討ち取られたら、こちらは一気に士気が下がる事になります」

「私に万一があった時はなんとかそれを防いでください。皇国軍でも東方伯領軍でも、それは難しいかもしれません。でも貴方たち、辺境領軍であれば、皇族が一人死んだくらいで士気は落ちないですよね?」

「何て事を考えるのですか?」

「意図してこの状況を作った訳ではありません。結果としてこうなったのです」

「……話を戻します。物資の補給は?」

「急ぎ進めています。皇国騎士団の合流を遅らせたのは、その準備の為もあります。物資の集積が終われば、次は輸送にも騎士団を使います。物資が途切れる事はないはずです」

「ようやく一つ安心材料が出ました。さて肝心の戦いの方はどうしますか? 五万を防ぐのは容易ではありません」

「カムイ・クロイツの戦いを知っている辺境領軍は?」

「……何の事ですか?」

「魔法融合の事です。それが使える軍はひとまとめにします。その方が威力は大きいでしょうから」

「なるほど、調べはついていると」

「クロイツ子爵領軍だけでなく辺境領軍の戦いは、色々と調べました」

「では、隠しても仕方ありません。私が知る限りは……、全軍です」

「……さすがね。辺境領がまだ、そこまで纏まっていたなんて」

「まだ、は正しくありません」

「そう。良いわ。それを広めたのは……、貴方ですね」

「それとラウールもです」

「おい……」

「二人ね。では指揮は二人にお願いします。マリーさん、二人の補佐をお願いします」

「必要かい?」

「私たちとの連携を取る為には必要だと思います」

「なるほどね。分かったよ」

「弓兵部隊もまとめて運用したいのですが?」

「それは儂に任せて頂けますか? 我がナウマン家は弓兵の運用には自信があります」

「分かりました。ご領主ですね?」

「はい。儂は」

「ジグリット・ナウマン辺境伯。東部辺境領主の方のお名前は全て覚えています」

「……そうでしたか」

 皇族に名を知られていた。この戦いにあたって慌てて覚えたのだろうと、ひねた事を考えたとしても、やはり喜びが湧くのは止められなかった。

「ではナウマン辺境伯。よろしくお願いします」

「はっ」

「歩兵部隊は?」

「それについてはお任せください。少しはマシな指揮が取れるかと」

「お名前は?」

「覚えていらっしゃるのでは?」

「せめて、姓か紋章を教えて頂かないと」

 つまり辺境領主の紋章もヒルデガンドは覚えているという事だ。

「……ヘルストレームでございます」

「ローラント・ヘルストレーム辺境伯ですね」

「はっ」

「ではお願いします。騎馬については、こちらに任せて頂きます。ただし、元クロイツ子爵領軍についていく自信がない騎士の方は、申し訳ないですけど、歩兵に回してください」

「……選抜します」

「こちらも」「我が軍も」「無理ではないか?」「うちもだな」

「では急ぎ準備を。王国軍が現れるまで、間もないはずです」

「「「「はっ!!」」」」

「さすがはと言った所かな?」

 慌ただしく軍議の場にいた者たちが準備に散っていく中で、ラウールがトリスタンに話し掛けた。その顔には意味ありげな笑みが浮かんでいる。

「まあ、俺たちの代の筆頭だからな」

 だが、生真面目なトリスタンはそれに反応する事なく、厳しい表情を崩さないままだ。

「また、分かっているくせに」

「……隣に立つに相応しい唯一の女性と評された人。そう言わせたいのか?」

「やっぱり覚えていたか」

「さっき思い出した。だが、悪いが俺は実際に目で見るまでは、認めるつもりはない」

「お前はそうだろうな」

「お前は違うのか?」

「いや、同じさ。同じだけど、彼女はクロイツ子爵領軍を率いる自信があるようだ。俺はあの部隊を率いる自信はない。率いても力を出し切らせる自信はないな」

「だから言っている。実際に率いる事が出来るのかは見てみないと分からない。」

「もしそれが出来たら?」

「勝つだろうな。五倍の敵であっても、この戦いは勝てる。だが、出来るかな? 俺が知るカムイの戦い方は、死線を渡るようなやり方だ。守りが厚く見える場所こそ、敵の弱点。そう見極めて、そこを切り裂いていく。分かっていても出来る事ではない」

「何といっても魔王だからな。常人が真似できる事じゃない。それが彼女に出来るかだな」

 そう言うラウールの顔は益々、楽しそうだ。一方のトリスタンは正反対に苦々しい顔。
 二人の性格は正反対なのだ。

「嬉しそうだな?」

「久しぶりにそんな戦いが見られたら、嬉しいだろ?」

「全く、惚けた感じのくせに、お前は俺よりもはるかに戦いが好きだからな」

「忘れられないのさ。あの日、死線を潜り抜けた先にあった快感が」

「……まあな。しかし、それを経験させた張本人はどこで何をしているのか」

「今頃はノルトエンデにいるはずだ」

「何だと!? 戻ったのか?」

「ああ」

「知らなかった。しかしお前は良く知ったな」

「ノルトエンデに堂々と間者を潜り込ませていたからな。その情報」

「おい? そんな事して」

「密かに潜らせれば消される。でも、間者だと宣言すれば、問題ない情報は渡してもらえる。情報提供の約束は今も続いているのさ。知らなかったのか?」

「知るか!」

 この後、皇国は失ったはずの武の象徴を取り戻す事になる。
 皇国の妃将軍とも戦女神とも呼ばれるヒルデガンド・ヴァイルブルクの活躍によって。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ