マサ 2011 冬
俺達は、平均的な範疇の彼氏彼女だったと思いたい。
俺は、メグにベタ惚れだったから、メグの為になんでもした…
貢いでいたという言葉が、一番しっくり来る。
が、メグが俺の事を財布程度にしか思ってなかったとも思えない。
思えないと、思いたいだけかもしれないが…
自分達が恋人だという根拠になるかは分からないが、
メグとは彼氏彼女として、一通りの経験は済ませてある。
どうでもいい奴に、自分を許すタイプじゃ無いから、きっとメグも俺を好きなんだと思う。
…だと思う、と思ってしまうほど、俺は彼女を理解していないんだと思う。
彼女は、夏休みが終わり二学期に入ると、ニコニコしながら、
一緒にお弁当食べようと誘いに来てくれた。
俺は、照れながらもちゃんと笑顔で返事した。
この頃のメグは、というか俺の前でのメグは、とてもいい子だった。
メグは、よく笑い明るく楽しく毎日を生きる、とても輝いた女の子に見えた。
幸せだった。
メグとの、登下校時の、自転車の二人乗りがとても好きだった…
彼女が、俺のお腹に腕を回し背中に寄り掛かり、身を預ける、その感触が大好きだった。
帰り際には必ず、またね。
と笑顔で手を振ってくれて、自分の家に帰る俺を見送ってくれてた。
浮かれ調子で舞い上がりながら、猛スピードで帰っていた。
俺は、見た。見てしまった。
大好きな彼女の、やっている事を…
放課後、メグと帰ろうと思い教室に向かった。
教室には、メグとアキがいた、帰ろうと声をかけようとしたが…
二人が、ヒナの席で何かをしているのが見えて、様子を伺った。
メグは、ニコニコしながらヒナの机の中に何処からか持ってきていた、ゴミを詰めていた。
アキが、可哀想だよとか、止めようよと言っていたが、メグは無視していた…
これって…イジメ?
俺は、まさかメグがクラスメイトをイジメているなんて夢にも思わなかったので、
頭が真っ白になっていた…
でもすぐ、止めなきゃと思い立ち、
「メグっ!!」
俺の声に、二人はビックリしたが、メグはすぐにニコニコ顔に戻って、
「ちょっと待っててマサ。すぐ終わるから…」
「メグ、何やってんだよ、止めろよ!」
「それって、イジメだろ?」
「うん。」
メグは、呆気なく答えた。
悪びれた様子もなく、ゴミを詰め続けていたメグに苛立ち、
メグの頬を軽く打った。
「ったいなぁ~何すんの?」
「それは、こっちのセリフだろ?」
「何でこんな事してるんだ?」
「別に、ムカつくから。」
「…」
小学生かよ…と思ってしまった。
メグがこんな事を、笑顔でやってしまう子だったなんて…
俺は失望で、憤りを越えた悲しみを感じていた。
「つーか、何その目?」
「?」
「メグって、ヒナイジメる最低野郎って目してるね。」
「…」
その通りだった。
「いいよ、じゃあ別れよう?」
「えっ?」
俺は、別れようと言う言葉に驚愕していた、確かに失望はした、だが好きだった。
だから、止めようとしたんだ…
アキも、アタフタしながらメグをたしなめていたが、
メグは帰ろうと、アキの手を引いて教室を出ようとしていた…
「待って。」
俺の言葉に、メグは立ち止まってくれた。
「何?」
「別れたくない…」
「私、マサに言われたからって、これからも止めないよ?」
「…」
なんでそんなに、ヒナをイジメたいのかとか、
恋人の俺の、言葉は全く届かないのかとか、色々考えたが…
俺は、別れたくなかった、メグの事が、大好きで大好きでしょうがなかった。
だから、ヒナには悪いと思ったけど…
「止めなくていいよ。」
そう言っていた。
メグは、その言葉に満足したのかニコニコしながら、近付いてきた。
「分かった。じゃあ別れない。」
「そのかわり、マサも一緒にやろう?」
その日から、俺はメグの言いなりになっていったんだと思う。
メグは昼休みに、ヒナを呼び出してお願いをしていた。
メロンパンと、野菜ジュース。
その場に居た、レンも色々頼んでいた。
頼んでいた…いやこれはパシリだ。
俺とアキも一緒に居たが、俺とアキは持ってきたのがあるからいいよと、断った。
「いやいや、なんでもいいじゃん。ジュースとか。あっ消しゴムとかでもいいんじゃない?」
とメグが笑いながら、俺達に向き直って言っていた。
メグは笑っていたが、目は素のままだった…
この表情は、お前等もやれよって目だ…
アキは、諦めたのかごめんねと言いながら、メグと同じ野菜ジュースをお願いした。
ヒナは、とても悲しそうな顔をしながら、俯いて「はい。」と答えていた。
「ほらぁ、マサは?」
「ヒナ困っちゃうよ?早く買ってこなきゃ自分のお弁当食べらんないじゃん。」
俺は、心の中でゴメンと謝りながら、一番安いジュースを頼んだ。
その一番安いのが気に食わなかったのかメグは、
「マサ、結構食べるよね?お弁当だけじゃ足りないんじゃない?」
「いや、だいじょ、」
「パンも頼めば?」
「…」
メグは、容赦するなって目で俺を見ていた。
言う事聞かなきゃ、きっと俺はすぐ捨てられる…それが怖くて、焼きそばパンを頼んだ。
「は、はい…行ってきます。」
メグとレンは、小走りに購買部に行くヒナを、ゲラゲラと笑いながら見送っていた。
俺とアキは、ズキズキと痛む胸を押さえながら、俯いていた…