マイベイビースイートサンタクロース
一応シリーズものです。
単体でもOKなように書きましたが、前作を読んでいただいてからのほうがより楽しめます。
〈美夕side〉
「だからサンタクロースなんていないと言っているだろう」
ぴしゃりと言い放った声は、我ながら冷たかったと思う。
でも仕方がなかった。だってそりゃあ、五度も六度も同じことを訊かれたら、誰だってだんだんと腹が立ってくるに決まっている。だから思わずそんなふうに突き放すような言葉を吐き捨ててしまったのだ。……でも、まあ、そうだな。わたしも少し言い過ぎたかもしれない。さっきの言い方はちょっときつかった。
ばつが悪い表情を浮かべながら、ゆっくりと後ろを振り返る。
……ああ、大丈夫だ。その顔を見た瞬間、すぐにそう思った。わたしはなにを気にしていたのだろう。彼はわたしの言葉にちっとも傷ついてなどいない。だいたい、そんなことで傷つくような人間ではないじゃないか。だって、その証拠に、ほら。
――相変わらず底意地の悪そうな笑みを滲ませた瞳で、こちらをじっと見つめているし。
「夢がないなあ、美夕ちゃんは」
皮肉げにくちびるの端を吊り上げて、彼は言う。わたしは眉根を寄せ、くちびるをとがらせた。夢があるとかないとか、そういう問題じゃないのだ、これは。
――十二月二十四日。今日はクリスマスイブだ。
今朝、突然「街へ買い物に行こう」と誘ってきた彼に、わたしは返事を渋った。季節は冬だ。外は寒い。暑いのも得意ではないが、寒いのがとくに苦手なわたしは、あまり外出したくなかった。そんな気のないわたしを動かしたのは、「街中にはどうやら『冬季限定生チョコパフェ』があるらしい」という彼の言葉だった。再度買い物に行くかを問われて、わたしは二つ返事でうなずいた。
二人で買い物をして、生チョコパフェを堪能し、ついでにお互いへのクリスマスプレゼントを買って、満足したわたしたちは帰路についた。その途中、なにが発端だったかは忘れたが、突然サンタクロースの話題になった。それがいるとかいないとか、そういう会話でわたしたちは今、小さな言い争いをしている。
わたしは、ふんと鼻を鳴らした。
「現実的じゃない」
再び正面に向き直り、すたすたと歩き始める。彼は慌てて、小走りをしてわたしの隣に追いついた。白い息を吐きながら言う。
「そうかな。俺はいると思うよ」
「なぜそう思う?」
「だって毎年来るもん、俺のところ」
思わず足を止めてしまいそうになったが、なんとか眉をしかめるだけにとどめられた。冗談なのか本気なのかわからない。これはたぶん、あれだ。反応を返したら負けだ。
「美夕ちゃんのところには来ないの?」
「来ていたよ。小学生の頃まではな」
「もう来てくれないの?」
「当たり前だろう。きみ、自分の年齢をわかっているか? 十六だぞ、十六。来るわけがない」
「俺のところにはまだ来るよ」
眉がぴくりと動く。落ち着け、わたし。
とりあえず一呼吸置いて。
「……は?」
「俺のところにはまだ来るよ」
ああ、だめだ。ついさっき、反応を返したら負けだと言ったが、もういい。わたしの負けだ。この調子で会話していったら、きっとこっちが耐えられなくなる。
足を止め、隣の彼を食い入るようにじっと見る。
「……きみ、本当にわかっていないのか?」
「なにを?」
こてんと首をかたむける彼。わたしは、こほんとひとつ咳払いをした。そして、彼の瞳をしっかり見据えて、きっぱりと言う。
「夢を壊すようで悪いが、将来のためを思って言うぞ。……サンタクロースの正体は、両親だ」
「違うよ」
即答だった。わたしはさらに眉をしかめた。
「……本気か?」
「美夕ちゃんこそ本気で言ってるの? 親がサンタクロースだなんて」
信じられない。彼はこんなにも純粋な人間だっただろうか。
たしかに、夢を見るのは悪いことじゃない。むしろ素晴らしいことだ。わたしだってサンタが実際にいたらいいなと思う。だが、残念なことにサンタクロースは両親だ。中学一年生の冬、わたしは自分の親から告白された。最初はショックだったけれど、まあ、よく考えればそれもそうだと納得した。世の中そんなものだと思った。だって、知らないおじいさんが真夜中に勝手に人の家に侵入するなんて、かなり恐ろしい。
それなのに、この幼なじみはまだ、あの白いおひげのおじいさんを信じている。真っ赤な服に身を包んで、トナカイにひかれるソリに乗るあのおじいさんを信じきっている。オトナの事情をいろいろと知ってしまったわたしから言わせてもらえば、今さら「サンタクロースは存在する」なんて言われても、思うことはただひとつなのだ。
……至極ばかばかしい。
「あ、待ってよ美夕ちゃん。俺の話、気にならない?」
「気にならない」
「本当は?」
「興味ない」
語気を強めて突っぱねる。彼のことなど気にせずに、足を速めてずんずんと先へ進む。夜はさらに冷え込む。風邪をひく前に、早く家に帰りたかった。彼の話を聞いたところで、現実はなにも変わらない。どうでもいいのだ、サンタなんて。
「絶対いるよ、サンタクロース」
背後から聞こえる声に、わたしは眉をしかめて、歩幅を狭めた。しばらくして隣に追いついた彼が、わたしの顔を覗き込む。わたしはこめかみを押さえ、溜め息をつきながらやれやれとかぶりと振った。
「頭が痛い」
「大丈夫? 頭痛薬あげようか。ほら、手を出して」
言われたので手を差し出す。すると、水色の細長いケースからてのひらにコロンとこぼれるふたつの粒。頭痛薬だ、と思ったのは一瞬のことで、わたしはすぐに彼を見やる。
「……いや、きみ、これラムネだろう」
「病は気からだよ、美夕ちゃん」
たしかにそうかもしれないが。
まあ、もらえるものはいただこう。ぽいっと口の中へ放り入れる。ラムネなんて久しぶりに食べた。口に入れた瞬間、すうっと溶けて、なくなって。
「……甘い」
「でしょ」
口の中に広がる甘さに思わず頬が緩んでしまう。そんなわたしを見て、彼も満足そうにうなずいた。それから、自分も同じようにラムネを二粒取り出して食べる。「懐かしいなあ」なんて言いながら、彼はふわりと笑みをこぼした。そのあどけない表情は、まるで幼い頃から変わっていない。思わず、じっと見つめてしまっていると、
「……ん、なに? もっとほしいの?」
はっとして、首が引きちぎれんばかりにかぶりを振る。頬が熱い。不思議そうにこっちを見てくる彼に、わたしはごまかすように顔を背け、「とにかく!」と声をあげた。
「サンタクロースは存在しない」
また、はっきりとした声調で言う。一呼吸するほどの時間を置いて、彼はまっすぐな瞳をわたしに向けた。
「するよ」
「しない」
「するったら」
「しない」
互いに譲らないやりとりを続ける。すると、彼は一度目を細めてから突然こんなことを言い出した。
「美夕ちゃん、ちゃんと手紙書いてる?」
「は?」
「枕もとに靴下さげてる?」
「……きみはなにを言ってるんだ」
手紙? 靴下? わたしは訝しげな表情で彼を見た。どうりで、とでも言いたそうな瞳がわたしを見返してくる。
「ああ、やっぱりね。だめだよ、美夕ちゃん。そりゃあサンタも来てくれないよ」
なんだかばかにされているようでおもしろくない。口もとだけで笑いながら言う彼に、わたしはむっと顔をしかめた。
「どういう意味だ」
訊くと、彼は「だからね」と前置きし、滔々とその意味を語ってくれた。
「俺だって、世の中の親がサンタクロースに扮して枕もとにプレゼントを置いてるってことくらいは知ってるよ。常識だからね。でもそれは子どもの頃の話だ。成長して大きくなると、親はもうプレゼントをくれなくなる。だけど俺たちにしてみたら、まだプレゼントはほしいでしょ? クリスマスだしね。だからそのために手紙を送るんだよ、サンタ宛てに。で、どこに送るかというと……」
そこまで話して、突然言葉を止める。それから彼はわたしを横目でちらりと見やり、小さく笑った。
「……ま、こんな話はどうでもいいか」
「どうして!」
思わず大声をあげてしまった。すぐに口を押さえ、急いで彼から目をそらす。だが、彼は意地の悪い笑みを浮かべて、わたしの顔を覗き込んだ。
「あれ、興味ないんじゃなかったの?」
「……そ、そこまで聞けば誰だって気になるだろう……」
「ふうん? 気になる、ねえ?」
うるさいな。わたしはひとつ咳払いをした。それから彼に向き直り、ひとりごとを呟くように言う。
「……詳しく」
わたしだって、まだ夢をなくしたわけじゃない。両親に、実は自分たちがサンタクロースでしたなどと告白されても、心のどこかではまだ信じられなかったのだ。たしかに、打ち明けられたその年から枕もとにプレゼントが置いてあることはなくなったけれど。それでもやっぱり信じたかった。あの赤い服を着た、真っ白いひげをふさふさと伸ばした優しいお顔のおじいさん――サンタクロースはいるのだと。
わたしの言葉を聞き、改めて彼はにんまりと笑みを浮かべた。その顔の憎たらしいこと。そういうところが嫌なんだ。
「素直じゃないなあ、美夕ちゃんは」
「そんなことはどうでもいいから早く教えてくれ。手紙にはなにを書けばいい? どこに送ればいいんだ? 本当にサンタは実在するのだろうな?」
「まあまあ、落ち着いて。ちゃんと教えてあげるから」
笑いをかみ殺しながら、彼はわたしの頭を撫でる。
そして、優しげな声音で言った。
「いいかい。まずはね、」
◇ ◆ ◇
〈彼side〉
――思う心が大切だよ。
そう言って、美夕ちゃんのきらきら光るまあるい瞳をじっと見つめた。
それから、どうやったらサンタクロースが来るかを教えた。寝る前に、ベッドの柵に大きな靴下をぶら下げておくこと。手紙には、「あなたを信じている」と書くこと。そのときには、ちゃんと心を込めること。手紙は郵便ポストではなく、自宅のポストに入れておくこと。そうすれば、サンタの使いであるトナカイが、きちんと彼のところまで届けてくれるということ。
すべてを話すと、美夕ちゃんは子猫のような目を輝かせたまま、何度もコクコクとうなずいた。その姿は、まるで幼稚園に通う頃から変わらない、あの純真無垢な少女のままだ。それがとても愛しくて、俺は美夕ちゃんの頭を撫でながら細く柔らかな髪を指に絡めた。
「帰ったら、早速サンタに手紙を書かなきゃね」
「そうだな!」
満面の笑みを浮かべる美夕ちゃん。俺は釣られて微笑んだ。
「ああ、そうだ」
その声に、美夕ちゃんが首をかしげる。俺はそっと彼女の耳もとに口を寄せ、こっそりと訊いた。
「手紙がサンタに渡る前に教えてよ。美夕ちゃんのほしいものってなに?」
すると、美夕ちゃんは疑うように目を細めた。肩を抱き寄せる俺の手を冷静に払い、小さく鼻を鳴らす。
「それを言ったら意味がないだろう」
「どうして?」
「きみのことだから、どうせサンタになりすますに決まってる」
「いや、そんな、まさか」
とは言うものの、目をそらしてしまう。美夕ちゃんは訝るように俺の顔を覗き込んでくる。懸命につま先立ちをしながら俺の真意を探ろうとする姿に、そんなことをしていると不意打ちでキスしちゃうぞと思った。……けど、そんなことをしたらきっと恐ろしい仕返しが待っているのだ。怖いからやめておく。殴られるくらいならいくらでも受けるけど、「二度とキスしてやらない」なんて言われた日には、俺は精神的ショックで死ねると思う。たぶん。
美夕ちゃんは、ふいっと俺から顔をそらした。
「わたしのほしいものはサンタにしか教えないよ」
「そっか」
美夕ちゃんに知られないよう、俺は小さく笑った。つんつんしているように振る舞ったって、俺の前を歩く小さな背中からは、そのわくわくした気持ちがおさえきれずに溢れ出ている。きっと、それほどまでにうれしかったのだと思う。さっきの俺の話は、誰よりもサンタクロースの存在を信じている美夕ちゃんにとって。
家の前に着くと、美夕ちゃんは自分のポケットをあさったのち、俺にひとつのチョコの包みを渡してきた。いきなりどうしたのだろうと目を丸くしていると、無理やり手のひらにそれを押しつけてくる。恥ずかしいのか寒いのか、美夕ちゃんは頬を真っ赤に染めながら「いいからもらってくれ。サンタの話のお礼だ」とそっけない態度で言ってきた。なるほど、お礼か。チョコを受け取った俺が「ありがとう」を言うと同時に、美夕ちゃんは逃げるように家の中へと入っていく。まったく、バイバイのキスもなしに帰られてしまうとは。その場に一人残された俺は、白い息を吐きながら小さく笑った。
次の日の朝。気持ちよく眠っていた俺のもとに、少しの圧迫感と高い声が降ってきた。
「――い、……ろ、……きろ」
誰だろう。すごく遠くから聞こえる気がする。なんと言ってるのだろう。身じろぎをして、なんとかその声を掴もうとする。
「ん、んん……」
「……おい、聞いているのか!」
「なにー……?」
「なにじゃない、起きろっ!」
今度ははっきりと聞こえた。いつも隣で聞いている、聞き慣れた声だ。まぶたを薄く開け、目の前にいる存在に手を伸ばして確かめた。白くて柔らかい頬に触れる。
「……みゆちゃん……?」
「そうだ、わたしだ。……じゃなくて、とにかく起きろってば! 早くこれを見てくれ!」
「んー……?」
興奮する美夕ちゃんが俺の顔の前にずいっと突き出したのは、赤い包み紙とかわいらしいリボンでラッピングされた、ひとつの大きな箱だった。
「ほら!」
美夕ちゃんは箱の横からひょいと顔を出し、きらきらと子どものように目を輝かせる。俺は、まだ眠い目をこすってから言った。
うん、それはあれだね。誰がどう見ても、
「……プレゼントだね。どうしたの、それ」
「朝起きたら枕もとに置いてあったんだ! こ、これってやっぱり……!」
「あー」
寝ぐせだらけの頭を掻く。うれしそうにプレゼントを見つめる美夕ちゃんを見て、俺はくすりと微笑んだ。
「美夕ちゃんのところにも来たんだね、サンタクロース」
「サンタクロース!」
わかっているだろうに、俺がその名前を口に出すと、美夕ちゃんはさらに目を大きく見開いて喜んだ。
「は、初めてだ……。わたしのところにも来てくれるとは……!」
声が震えている。感情が高ぶりすぎて今にも泣いてしまいそうだ。
美夕ちゃんは少し大げさすぎるところがある。うれしいなら笑えばいいのに、たまに泣き出したりするから不思議だ。女の子というのはそういうものだというけれど、こっちは喜ばせているつもりなのに、泣かれてしまったらどうすればいいかわからない。いや、まあ、俺は美夕ちゃんの泣き顔も結構好きだったりするのだけど。
くすくすと笑いながら、美夕ちゃんの頬を軽くつつく。
「俺の言ったとおりでしょ」
「うん! さすがだな、本当に来るとは思っていなかった」
「ちゃんと手紙を書いてポストに入れたんだね」
「そう。昨日、家に帰ってからすぐに書いた。トナカイが来るところが見たくて夜中まで起きていたんだが、いつのまにか寝てしまったんだ。たぶん、そのあとにサンタが来たんだと思う」
思わず苦笑を漏らした。昨晩、自室から窓の外をちらりと覗いたときに、美夕ちゃんの部屋の電気がついていたのはそういうことか。
ぐぐ、と背伸びをする。やっと目が冴えてきた。寝ている俺の体の上にまたぐようにして乗っかり、プレゼントを見つめ続ける美夕ちゃんを見上げる。それから小さく首をかしげた。
「……で、美夕ちゃん。その格好はどうしたの?」
「え?」
目をまたたいたあとに、美夕ちゃんは自分の姿を見やる。もしかして自分で気づいてなかったのか?
「まだパジャマじゃん」
「ああ……、忘れていた。きみに早く伝えたくて、起き抜けにプレゼントを抱えてそのまま走ってきたんだ」
「パジャマのまま? 上着も着ずに?」
「そう」
この寒いのに、よくやるなあ。ていうか、美夕ちゃんって寒いのだめじゃなかったっけ。それも忘れて、向かいの俺の家まで走ってくるとは。まったく、きみって子は。
「寝ぐせついてる」
ぴょんと跳ねた髪の毛を撫でて直してやる。美夕ちゃんはくすぐったそうに、ころころと笑った。
「寒いでしょ。入りな」
「ん」
ベッドを半分空けてやり、とんとんと隣を叩く。美夕ちゃんはすぐに俺の隣に潜り込んできた。……もちろん、プレゼントを抱えたままで。思いきり抱きしめたいのに、この大きな箱が邪魔をする。憎らしくて、俺は美夕ちゃんに気づかれないように、その箱を指でこつんと弾いてやった。
「あったかい」
えへへと笑う姿は、まるで小さな子どもだ。俺も、家族も、友だちも、みんなどんどん変わっていくのに、美夕ちゃんだけはいつまでも変わらない。さらさらの髪も、大きな瞳も、長いまつげも、純粋な心も。ずっと昔のまま、かわいい子どものままでいる。俺は、そんな美夕ちゃんが大好きで仕方ない。
腕の中で幸せそうに微笑む美夕ちゃんを、プレゼントごと抱きしめて訊く。
「これ、なにをもらったの?」
「まだ中身は見ていない」
「ふうん。でも、どうせまたお菓子でしょ」
「む、どうせとはなんだ。わたしがお菓子好きだからって、サンタに頼むプレゼントもそれをもらうとは限らないだろう。まだわからないじゃないか」
「わかるよ、美夕ちゃんのことだからね。それに、」
そこまで言って言葉を止める。そして、その目をじっと見つめた。
「なんだ?」
「……いや、なんでもない」
首をかしげる美夕ちゃんにかぶりを振ってみせる。すると、訝しげな視線を向けられる。
「変なやつだな」
「変なやつでも、美夕ちゃんの彼氏だよ」
呆れた溜め息をつかれて、思わず笑う。さっき飲み込んだ言葉を、俺は心の中で呟いた。
わかるよ、美夕ちゃんのことだからね。それに。
――それに、きみのサンタクロースは俺なのだから。
「ねえ、美夕ちゃん」
「うん?」
「今日はケーキ食べよっか」
「え? ……でも予約していないが」
「大丈夫。俺がとびきりおいしいのを作るから」
「本当か!」
俺の提案に、ぱあっと表情を明るくさせ喜ぶ。楽しみだ、ああ楽しみだと何度も呟きながら、美夕ちゃんは俺の腕の中で大事そうにプレゼントを抱え直した。
本当にかわいい彼女だと俺は思う。この幸せそうな笑顔を見られるのなら、俺はいつでもサンタクロースになろう。
「サンタはすごいな。わたしをこんなにうれしい気持ちにさせるんだから」
……まあ、少しは本物のサンタクロースに妬けるけど。
自分の嫉妬心に苦笑しながら、それを隠すように俺は美夕ちゃんを強く抱きしめた。胸もとで「離せ」だの「苦しい」だの憎まれ口を叩きながらも、その表情は幸せそうなものなのだから本当に素直じゃない。もちろん、そんなところも含めて愛しているのだけど。
「メリークリスマス、美夕ちゃん」
今日はきみから、どんなケーキよりも甘くておいしい、特別なクリスマスプレゼントをもらおうと思う。……そのサンタからのプレゼントのお礼もかねて、ね。