挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

54/220

ビーストアタック

 
 ベイルの迷宮七階層のボス部屋には装備品が散らばっていた。
 それはおそらく、その装備品を着けていた前のパーティーが全滅したことを物語っている。

 ロクサーヌのことをいやらしい目で見ていたあの男たちが全滅したのか。
 自業自得というべきか天罰てき面というべきか。

「ロクサーヌは正面に。セリーは転がってる装備品を端にどかしてくれ」
「はい」

 とはいえ戦いはすでに始まっている。
 この場の状況に呆けているわけにはいかない。
 俺はすばやく指示を飛ばした。

 この場で散った男たちのことは思考の隅に追いやる。
 どうせ会話もかわしていない連中だ。

 戦場で異性にうつつを抜かしているようではくたばるのもやむをえない。
 俺だって、迷宮ではロクサーヌの胸に極力意識を向けないよう努力をしているのだ。
 血の滲むような努力を。

 とりあえず、足元に装備品が転がっている状態では戦いにくい。
 そこをなんとかすべきだろう。
 肝心なときにつまずいてしまう恐れもある。

 籠手や靴を壁の方に蹴飛ばしながら、魔物の横に回り込んだ。
 正面にはロクサーヌが陣取る。
 セリーは前のパーティーの形見の剣を壁の方に持っていっている。
 あんなものが転がっていたのでは危ないことこの上ない。

 パーンの脚元に赤い魔法陣が浮かび上がった。
 早速お出ましか。
 セリーによればパーンは強力な魔法を使ってくるらしい。

 デュランダルを振り上げ、魔物の懐に飛び込む。
 右上から一閃。
 半人の肩から半獣の腰にかけて、袈裟がけに斬り捨てた。

「あれ? 一撃、か?」

 デュランダルを喰らったパーンがふらふらと崩れ落ちる。
 魔物はそのまま倒れ込んだ。

「そのようですね」

 半人半獣の山羊が煙となって消える。
 本当に一撃だったらしい。
 え?
 弱い。
 いくらなんでも、エスケープゴートより弱いということはないと思うが。


ヤギの肉


 残ったのはヤギの肉だ。
 半人半獣でもドロップアイテムはヤギ扱いなのか。
 よく分からない現実。
 とりあえず夕食の食材はゲットした。

「前のパーティーは全滅したようです。多分、途中までパーンの体力を削っていたのでしょう」

 セリーが散らばっていた遺品の一つである剣を持ってくる。
 パーンは、俺たちがボス部屋に入ってから湧いたのではなく、先にいた。
 前のパーティーが全滅した場合、ボスは継続しての戦闘になり、湧き直しにはならないらしい。
 前の戦闘で負ったダメージもそのまま、ということなんだろう。

「なるほど。そういうことか」
「あのいやらしいパーティーは全滅したのですね」

 ロクサーヌが敵愾心ありげにつぶやく。
 セリーは「胸の大きさで人を判断するようなやからは滅びてしまえばいいのです」などと恐ろしいことを口走っているが、無視したい。
 怖いので。
 剣だけ受け取った。


妨害の銅剣 両手剣
スキル 詠唱遅延


「せっかく詠唱遅延のついた武器も用意したのにな」
「見ただけでお分かりになるのですか?」

 セリーが俺を見上げる。

「まあ……」
「あ、いや。詠唱なしで武器鑑定を使えるのでしたか」

 自慢げに肯定しようとするも、あっさりと視線をはずされた。
 確かに武器商人のジョブも持っているからいうとおりではあるが。
 いまさら驚くことでもないということか。
 くそー。

「さすがご主人様です」

 うん。
 ロクサーヌは心のオアシスだ。
 男の子は褒めて育てないと駄目だと思うの。

「詠唱遅延のついた武器で攻撃すると、魔法の発動を遅らせるんだよな」
「そのはずですが、抑えきれなかったのでしょうか」

 セリーがまた妨害の銅剣を持ってくる。
 妨害の銅剣は全部で五本あった。
 もう一本はただのワンドだ。
 六人のうち一人は、回復役の神官か僧侶か、あるいは魔法使いだったのだろう。
 ロクサーヌを見たことに腹を立てていたので結局鑑定はしていない。

「あるいは五人では足りなかったのか」
「分かりません」

 デュランダル一撃で倒せるところまでは追い詰めていたのだ。
 途中までは順調だったのだろう。

 何かアクシデントでもあったのか、五人では遅延させきれずにパーンの魔法が発動してしまったのか。
 元々五人でタコ殴りにする計画だ。
 一人やられれば、後は阿鼻叫喚だろう。

 ちょっと想像してブルーになってしまった。

「情報や作戦に頼りすぎると、一つ歯車が狂っただけで何もかもが失敗してしまうということだな。地道に実力をつけていくことが大切だ。うんうん」
「はい。がんばります、ご主人様」

 別にロクサーヌには言っていない。

「そうかもしれません」

 頭でっかちの方も、神妙そうにうなずいた。

「遺体の方は消えてなくなるのか」
「迷宮内で魔物に倒された人は、速やかに消化、吸収されます」

 剣に続いて、セリーは俺が蹴散らかした籠手を持ってくる。
 さすがに迷宮は人をえさにしているというだけのことはある。

「装備品の方は消化できないのだろうか」
「迷宮にとっては異物ですから」
「そうなのか」
「いずれ吐き出されますし」

 そういえば倒された人の装備品は宝箱となって出てくるのだった。
 宝箱として吐き出すのなら、確かに異物ではあるのだろう。

「なるほど」
「異物なので、取り込むのに時間がかかるようです」

 時間がかかるので、ボス戦の場合は次のパーティが拾えるということか。

「やられた人の装備品を着けるのも、あんまり気分のいいものではないが」

 前のパーティーはスキルつきの武器をそろえるので精一杯だったのか、防具の方は特にこれといったものはない。
 革のグローブや革の靴がせいぜいだ。

「全滅したパーティーの装備品は次のパーティーのものです。帰ったら私がきちんと手入れをしますから、大丈夫でしょう」

 ロクサーヌは整備にはうるさい。
 そのロクサーヌが大丈夫だというのだから大丈夫か。

 防具の中に革の鎧が何個もあったが、俺以外に着ける人がいない。

「何でしょうか?」
「か、革の鎧は一個を残して後は売るしかないか」

 別に何も言っていない。
 言っていないし、考えてもいない。
 革の鎧を見ていただけでにらまれた。
 「確かに小さいですけど」とかつぶやいているセリーは被害妄想が過ぎる。

 魔結晶も六個あった。
 青が一個と赤が一個で、後は紫。
 まだあまり魔物を倒してはいなかったようだ。
 装備品を全部アイテムボックスに納めて、ボス部屋を後にする。

「中途半端な戦いだったが、別にもう一度戦う必要はないよな」
「いいえ。経験をしておくことはマイナスにはならないと思います」
「私も、パーンの行動パターンなどを知りたいので、もう一度戦いたいです」

 俺が余計なことを言ったため、もう一周するはめになったが。
 ボス部屋の構造は前に戻れないようになっているので、一度八階層に出た後、七階層途中の小部屋にダンジョンウォークで移動する。
 待機部屋には転移できないようだ。
 ワープなら待機部屋に移動できそうな気もするが、誰かいたらまずい。

「パーンは魔法攻撃が主体で武器も持っていないようでした。私のスキルを使ってみたいのですが、ご主人様、よろしいですか」

 ボス部屋に入る前にロクサーヌが訊いてくる。
 獣戦士のスキルはビーストアタックだったか。

 ロクサーヌには戦闘中、常に魔物の正面を取ってもらっている。
 詠唱中は他の行動ができなくなるので、魔物と正面で対峙しながらスキルを使用することは難しい。

「そうだな。セリー、パーンの正面を頼めるか」
「はい。やってみます」

 セリーがうなずいた。
 大丈夫そうか。

「魔法の詠唱が始まったら俺がキャンセルする。ロクサーヌは隙を見てスキルを叩き込め」
「ありがとうございます」

 せっかくスキルがあるのだから、使えるにこしたことはない。
 万が一のときに役立つかもしれない。
 追い込まれてからやむにやまれず使うのではなく、一度実戦で試しておくべきだろう。
 魔法攻撃主体のパーンなら、そのいいチャンスだ。

「よし。行くぞ」

 扉が開いたので、ボス部屋に移動した。
 セリーが正面に立ち、ボスを三方から囲む。
 正面からセリーが棍棒を、斜め後ろから俺がデュランダルを叩き込んだ。
 やはり一撃では倒れないらしい。

「××の獣の戦士?、が××の力を解き放つ、奪命、ビーストアタック」

 ロクサーヌもスキルを唱え、シミターで斬りつけた。
 いやいや。途中翻訳されてないし。
 攻撃そのものは当たったが、別に普通に斬っただけに見える。
 どう見ても成功はしていないだろう。

「それでは駄目なんじゃないか」
「失敗のようです。ブラヒム語は難しいです」
「ゆっくりでいいから読み上げてみろ」

 パーンの背中を回り、ロクサーヌのそばに行く。
 詠唱文自体は脳裏に浮かぶはずだ。

「アマラハの獣の戦士?、が××。あ、分かりました。八十やその力を解き放つ、です」
「アマラハって何だ?」

 翻訳されていないからまずそこが間違いだ。
 もう一箇所はロクサーヌが自分で修正した。
 パーンの足元に赤い魔法陣が浮かんだので、デュランダルで斬りつける。

「アマラハ、アマラマ、アララハ、醜い……」
「醜い?」
「えーっと。なんかそんな感じの響きです」

 ロクサーヌがあげていった中で、醜いだけが翻訳された。

「醜いか」
「でも醜い獣戦士はないですよね」

 偶然に翻訳されただけなんだろうか。
 たまたまではないとしたら、それに近い何か。
 魔法陣を警戒しながら考える。

「醜いじゃなくて、しことか」
「アムラハ?」
しこ
しこ?」

 俺のブラヒム語をロクサーヌが復唱した。
 よく分からないが翻訳されるので間違いではないような気もする。

「古い言い方で、力強いという意味がある。多分」

 再び魔法陣が浮かんだのでキャンセルさせながら説明する。
 あたってるかどうかは知らないが。
 ブラヒム語だし。

しこですか」
「そんな言葉までご存知なんですか?」

 セリーが魔物のパンチをかわしながら訊いてきた。
 魔法以外、パーンは本当に徒手空拳のようだ。
 物理攻撃の方はそれほど厳しいものではない。

「ま、まあな」

 翻訳されたからいいだろう。

しこの獣の戦士?、が八十やその力を解き放つ、奪命、ビーストアタック」

 ロクサーヌがアドバイスを受けて修正した詠唱でスキルを放った。
 途中疑問形のままだったが。
 最初のときと同じような攻撃だったので、同様に失敗したようだ。

 赤い魔法陣が浮かんだので、デュランダルで斬る。
 ロクサーヌが再び唱えるが、同じようなものにしかならない。
 やっぱり疑問形ではだめらしい。
 戦士?、とか尋ねているようでは成功はおぼつかないだろう。

「どうですか?」
「多分失敗だと思います。やはりブラヒム語は難しいです」
「仕方がありませんよ。ブラヒム語ですから」

 セリーが慰めているが、そんなもんなのか。

「というか、戦士?、じゃなくて、もののふの、ではないのか」

 デュランダルを振るいながら試しに言ってみた。
 ちはやぶる神、たらちねの母。
 八十やそにかかる枕詞がもののふのだったはずだ。

「もののふ?」
「戦士の古い言い回しですね」

 セリーは知っているらしい。

「あ、それかもしれません。分かりました。やってみます」

 ロクサーヌが詠唱をやり直す。

しこの獣のもののふの、八十やその力を解き放つ、奪命、ビーストアタック」

 ロクサーヌがパーンにシミターを叩き込んだ。
 先ほどよりも数段上のスピードで剣が振り下ろされる。
 文字通り、叩き込んだといえる勢いだ。
 シミターがパーンに食い込んだ。
 パーンの肉が軋む。

「おおっ、これは」
「やりました。成功です」
「すごいです」

 この一撃は確かに命を奪うというのにふさわしい。
 はたから見ていても勢いが違う。
 まごうことなく成功だ。

 反撃のためか、獣の足元に赤い魔法陣が浮かび上がった。
 それを見逃すことはできない。
 背後からデュランダルで斬りつける。

 その一撃でパーンが崩れ落ちた。
 床にくずおれ、うつぶせに倒れる。
 やがて煙となって消えた。

「見事に成功したな」
「ありがとうございます。ご主人様のおかげです」
「よくやった」

 デュランダルで何度も斬っているから、ビーストアタックにデュランダル数回分という威力があったのではないだろう。
 せいぜい一、二回分というところか。
 とはいえ、シミターでデュランダルに匹敵する威力を出せたのならたいしたものだ。
 ロクサーヌには魔物の正面を取ってもらうので頻繁に使うことはないだろうが、何かのときに役立つ。

「ロクサーヌさん、すごいです」
「セリーもありがとう」

 ロクサーヌはセリーとも喜びを分かちあった。

 セリーがドロップアイテムを拾う。
 そのまま俺に渡してきた。
 明日はジンギスカンだ。

「あんな古い表現を知っているなんてたいしたものです」
「ご主人様のブラヒム語はすばらしいです。さすがはご主人様です」

 セリーもロクサーヌのように少しは俺を見直しただろうか。
 ブラヒム語は何故か使えるだけなので、知っているといえるかどうかは微妙なところだが。

「しかし七階層のボスなのにこんなに早く終わるなんて。パーンの行動がよく分かりませんでした」

 愚痴っているところを見ると、尊敬は無理そうか。
 そんなセリーを尻目に、八階層に移動する。
 ここからは最大四匹の魔物を相手にしなければならない。

「最初はいつものとおり、数の少ないところでな」
「はい。……向こうです。コラーゲンコーラルのようですね」

 ロクサーヌに指示を出すと、少しにおいを嗅いですぐに指差した。
 ベイル迷宮八階層の魔物はコラーゲンコーラルらしい。

「コラーゲンコーラルか」
「えっと。その階層にどの魔物が出るかは、入り口の探索者に尋ねるか、最寄の探索者ギルドもしくはクーラタルの探索者ギルドへ行けば分かります」
「まあそれはそうなんだが」

 セリーが進言してくるが、実際問題としては魔物の種類だけが分かってもしょうがない。
 その魔物の弱点は何で、どういう攻撃をしてきて、それに対してどう対処すればいいのか、ということが分からなければ意味がない。
 コラーゲンコーラルのような戦ったことのある魔物ならすぐにも対応できるし、戦ったことのない魔物を名前だけ教えられても対処のしようがない。
 少なくとも今までは。

「はあ……」
「これからは、そういうことに関してはセリーが教えてくれると助かる」

 あきれたような表情で見てくるセリーに問題を一任した。
 これでいいだろう。

「かしこまりました」

 冷たい表情のままセリーがうなずく。
 その目はクセになりそうだからやめて。

「も、問題は四匹出てきた場合の対応だが」
「そうですね。私が三匹でセリーが一匹か、私が二匹でセリーが二匹か、私が二匹でご主人様とセリーが一匹ずつか」
「試してみたいことがあるのですけど、いいですか」

 新規の事態への対策を考えていると、セリーが何ごとか提案しようとした。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ