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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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18/220

ボス


 目覚めたときはまだ真っ暗だった。

 昨夜は非常に早く寝た。
 多分、七時すぎくらいには寝たのではないだろうか。
 そもそも村長宅で起きたのが早かったし、一日中あれこれ活動していたので、疲れたのだろう。

 夜になって暗くなれば、この世界では何もやることがない。
 ゲーム機も、テレビも、パソコンも、ネットも、マンガも、本もない。

 本当なら、どこかの酒場にでも情報収集に行くべきかもしれないが。

 まず第一に億劫だ。
 いじめられっ子なめるんじゃねえ。
 他人と円滑にコミュニケーションが取れるならいじめられてないだろう。

 第二に、金貨三十三枚をもって危険なところをうろつくのはやめた方がいい。
 金貨が五百枚あればこの宿屋で一生暮らせるのだ。
 金貨五百枚の価値が一億円だと仮定すると金貨三十三枚で六百六十万円。二億円なら千三百二十万円だ。
 安全な日本でだって、そんな大金を持って飲みに行くやつは少ないだろう。

 第三に、俺が許容できる酒の量が分からない。
 酒場で情報収集するならこっちも飲む必要があるだろう。
 相手より先に酔ったのでは情報収集にならないし、荷物も危険だ。
 酔って地球のことでもベラベラとしゃべりだしたら、目も当てられない。

 はたして俺の酒量はどのくらいか。
 アルコールが地球と同じものだとは限らないし、この世界に来たことで俺の体質が変わった可能性もある。手の甲からインテリジェンスカードも出てきたことだし。

 第四に、そもそも今の俺に必要なのは金儲けに関する情報だ。
 それ以外の情報、この世界の一般常識なんかは、いずれロクサーヌから聞けばいい(ロクサーヌはもちろん手に入れるつもりである)。

 酒場なんかに儲け話が転がっているのかどうか。
 あったとしたら、とてつもなくやばい話か、誰かを騙すための甘い罠である可能性が高いのではないだろうか。
 この世界の常識を知らない俺のような人間はいいカモでしかないだろう。それも金貨三十三枚をしょった。

 結局、情報収集に行くことはかえって危険を招きかねない。
 おとなしく寝ていた方がずっとマシだ。

 俺はシミターを抱き枕にして眠った。
 日本刀を抱いて寝る剣豪の話とかあったような気がする。
 どこまで安全か分からないし。


 起きた気分は爽快だった。
 それでも周囲は真っ暗だ。
 七時から八時間寝たとしても、まだ午前三時である。

 部屋にはトイレがないので、トイレに行き、ついでにロビーにも下りてみる。
 階段と廊下にはところどころにカンテラが置かれ、明るくはないが歩けるほどにはぼんやりと周囲を照らしていた。

「迷宮へ出かけるのか」

 ロビーに下りると、後ろから声をかけられる。

「おっ……おう」

 びっくりした。心臓が止まるかと思うくらいに。

 振り返ると、フロントに旅亭Lv28の男が立っていた。

「気をつけてな」
「夜中に出かけてもかまわないのか」
「当然だ。夜中に迷宮に入るやつは多い。ここの迷宮ではそうでもないだろうが、昼間はどうしたって混むからな」

 なるほど。
 どうせ迷宮の中ならば昼も夜もないか。
 迷宮には夜入る人も多い。その迷宮に入る人を客とする宿屋も、夜でも出入り自由というわけだろう。

「そっちは夜中まで大変だな」
「俺たちはエマーロ族だ。エマーロ族ってのは特殊でな。眠りが少ない。いや、眠りが少ないというか何というか、他の種族の者に説明するのにいつも困るんだが、半分ずつ眠れるんだ」
「半分ずつって、右と左でか」

 生物の時間に習った。
 確かイルカは、右脳と左脳が交替で睡眠をとるのだ。両方同時に寝ると溺れるらしい。

「分かるのか?」
「いやまあ、分かるというか何というか」
「人間の者に分かってもらえたのは初めてだ」

 旅亭の男が喜んでいる。
 右脳と左脳があることを知っている人間はこの世界では少ないだろうしな。
 エマーロ族は海で進化したのかもしれん。
 ってゆうか、人魚?
 足は二本足だったが。

「そうか」
「エマーロ族の者は定住を嫌う。だから、ほとんどの者が種族の固有ジョブである旅亭となって、ギルドの経営する宿で働くんだ。俺たちには合っている仕事さ。あちこち転勤できるしな」
「なるほど」

 海で進化したのなら、定住という習慣にはなじめないかもしれない。

 俺は旅亭の男に部屋の鍵を渡した。
 トイレに行くときに鍵はかけてあるし、リュックサックも背負っている。
 何もすることがないなら、迷宮に行くのは悪くないだろう。

「カンテラは必要ないのか」
「大丈夫だ」

 と格好をつけて外に出た。

 ……。

 いやいや。
 真っ暗だから。

 一メートル先さえ見えない。
 ほとんど完全な闇。

 この世界には月がないのか、出ていないだけなのか。
 上を見上げると、満天の星明りだ。
 星の光では足元を照らすには弱い。
 東京育ちの俺に、この夜の暗さは衝撃だ。

 今からでもカンテラを借りてくるか。
 しかし、この暗闇だと、明かりがあっても迷宮まで行くのは怖い。

 出そうだよな。幽霊とか。
 別に幽霊の存在を信じてはいないが、異世界があるのなら、幽霊がいても不思議ではない。

 ではどうするか。
 冒険者ジョブを獲得していない俺にはフィールドウォークは使えない。

 しかし、ボーナス呪文の中にワープがあった。
 名称的に、移動魔法なのは間違いないだろう。

 メテオクラッシュはMP不足で使えなかったが、ワープはどうだろうか。
 攻撃魔法っぽいメテオクラッシュと違い移動魔法だからMP消費が少ないだろうこと、英雄Lv3まで成長したこと、よく眠ったのでMPが全快しているだろうこと、から、使えるのではないかと見た。

 キャラクター再設定と念じ、値引を消してデュランダルをつける。そして今は使わないジョブ設定を消し、ボーナス呪文のワープにチェックを入れた。

 ベイル亭の壁がある方を向き、ワープと念じて、迷宮の出入り口がある小部屋を思い浮かべる。
 手を伸ばしてみると、壁があるはずのところに何もなく、手は奥へと入っていった。

 成功だ。

 成功したのはいいが、気分がどんよりと落ち込んだ。
 成功したという喜びではなく、成功してしまったという悲しみが浮かんでくる。

 小部屋に抜けるが、なんでこんなところに来てしまったのか、としか思えない。
 道が三本延びている、迷宮出入り口のある小部屋だ。
 小部屋は夜でもぼんやりと明るかった。
 真っ暗でもよかったのに。

 ワープなんて二度と使いたくない。
 オーバーホエルミングよりもMP消費がでかいだろう。
 さすがはボーナス呪文か。

 きっつい。
 この状態を脱するには、デュランダルのMP吸収を使うしかない。

 戦いたくないという気持ちを抑え、道へと足を踏み出す。
 本当は二階層へ下りるためには右へ進まないといけなかったはずだが、まっすぐに進んだ。
 二階層になんか下りたくない。進みたくもない。

 ようやく、前にニードルウッドが現れた。
 逃げ出したくなる気持ちを抑え、デュランダルを振る。
 戦う前には絶対に勝てねえと思ったが、終わってみればもちろん一撃だ。
 煙が消え、ブランチが残った。

「ああ……きつ」

 やっとのことで人心地つく。
 大きく息をはいた。

 きつかった。やばかった。
 MPを大量に消費するのは本当にきつい。
 できれば二度となりたくない。


加賀道夫 男 17歳
探索者Lv4 英雄Lv3 戦士Lv1
装備 デュランダル 皮の鎧 サンダルブーツ


 とりあえずもう一匹狩ってから、自分を鑑定した。
 ジョブ設定をはずしても、設定してあったジョブはそのまま生きている。
 サードジョブを戦士にしているのは、育てれば賞金稼ぎのジョブが手に入るらしいからだ。

 さらに二匹狩った後、戦士のスキル、ラッシュも使ってみる。
 何が起きたのかはよく分からなかったが、デュランダルが心持ち深く喰い込んだような気がした。
 やはり攻撃スキルなんだろう。
 デュランダルでは魔物を倒すのにどのみち一撃なので、使い勝手が分からなかったが。


 この迷宮で魔物に出会うのは、十分は間隔を置かないという感じだ。
 この世界の迷宮がそうなのか、この迷宮がそうなのか、この階層のこの部分がそうなのかは分からない。

 村近くの森でスローラビットを狩っていたときよりかは、断然速い。
 速いが、次から次に魔物が出てくるという感じでもなかった。

 午前三時くらいに迷宮に入ったのだとすれば、日の出までは三時間くらいか。
 十分に一度魔物に出会うとして、百八十分で十八匹狩れる。実際にはもう少し多いだろう。

 というわけで、リーフが二枚出るまで狩りを行った後、俺は迷宮を出た。
 ワープは使いたくなかったので、ダンジョンウォークで外に出て、歩いて帰る。

 日がちょうど昇ったところで、時間的にはばっちりだった。

 宿屋に帰って朝食を取り、部屋に入る。
 昨日の残り二枚とあわせてリーフ四枚を生薬生成で毒消し丸にした後、ベッドに入って軽い睡眠を取った。

 冒険者ギルドでの売却価格は千八百七十八ナールだ。
 毒消し丸一個の売値は二十五ナールである。アイテムボックスに入れた分もあるので、全部は売却していない。
 ギルドでの販売価格百ナールの四分の一で買取か。そんなもんだろうか。

 昨日は毒消し丸を買おうとしたのに今日は売りに来た俺を、冒険者ギルドのカウンターにいるアラサー女性がどう思ったのかは知らない。
 変に思ったとしても、顔には出さなかったし、何も言ってはこなかった。
 誰が何を売ったかなんていちいち覚えてない、といいな。


 その後、午前中に一度迷宮に入り、午後に再度アタックする。

 午前の分の売却額は四百八十七ナール。宿に帰らなかったので生薬生成はしておらず、ブランチだけの販売だ。
 リーフが三枚出るまで狩りを行い、売ったのはブランチ二十五本である。朝はブランチ二十三本でリーフが二枚だったから、結構ブレがあるのだろう。
 ブランチ二十五本×一本十五ナール×三割アップ-端数切捨てで、四百八十七ナールだ。
 商人のカルクが間違っていなければ。

 午前と午後で、入り口から右側の探索を進めた。

 ダンジョンウォークは、出入り口のある部屋だけでなく、似たような小部屋にも行けるようだ。
 昨日騎士団のパーティがいた小部屋にも行けた。
 同じように見えても、魔物が大量にいた小部屋は無理だ。
 違いがわからん。

 迷宮入り口から右に進んだところにもダンジョンウォークで行ける小部屋があり、午後の探索はそこから進めた。

 ニードルウッドを倒しながら進む。
 散々迷いながら進むと――その間にリーフが二枚出た――、また似たような小部屋に出た。

 壁がスライドして落ちる。小気味のよい音が響いた。中の小部屋が現れる。
 中には先客として二組のパーティーがいた。

 なんか並んでいるみたいな感じだ。
 俺もその後ろに座ってみる。
 なんで並んでいるのか知らないし、並んでいるのかどうかも分からないが。

 しばらくすると、俺の後から別のパーティーが入ってきた。
 探索者や戦士などの六人パーティーだ。レベルは低い。

「ちゃんと後ろに並べ」

 六人は前に行こうとするが、先頭の男に怒鳴られて戻ってきた。

 まったく。
 見れば並んでいるのが分かるだろう。
 空気読め、空気。

 などとよく分かっていなかった自分のことは棚に上げて考える。
 俺は、日本人としては空気の読める方ではなかったと思うが、この異世界に入っては空気の読める方なのだ。

 前の扉が開き、先頭にいたパーティーが入っていった。
 これを待っていたのか。

「あなたたち、迷宮は初めて」
「はい」

 前のパーティーの女性と、俺の後ろに座ったパーティーの探索者が会話する。

「この向こうに二階層に行く壁へと通じる部屋があるわ。入っていけるのはパーティー一組ずつ。中にはボスがいるの。そいつを倒せば、二階層へ行けるわ」
「はい。ありがとうございます」

 なるほど。だから並んでいたのか。
 親切な女性の話に俺も聞き入った。
 姐さんと呼ばせていただきます。

「前のパーティーが全滅した場合には、残していった装備品が手に入るわ。これは運ね」

 姐さんが俺を見てにやりと笑った。
 前言撤回。
 親切じゃねえ。

 俺が中で死んだら、俺の装備――デュランダルが後ろのパーティーのものになる。
 まあ、姐さんたちのパーティーが全滅すれば、姐さんの装備が俺のものになるわけだが。

「分かりました」
「ボスはニードルウッドなんかよりかなり強いわ。自信がないなら、やめておきなさい」
「いえ。大丈夫です」

 後ろのパーティーの探索者Lv5は、自信ありげに胸を張った。
 Lv5のくせに。

 やがてまた前の扉が開き、姐さんたちのパーティーが入っていく。
 姐さんたちのパーティーは俺の後ろの組よりレベルが高いから、全滅することはないだろう。

 というか、俺は大丈夫なんだろうか。
 まあ、デュランダルに加えてラッシュとオーバーホエルミングがある。
 きっと大丈夫だろう。

 一階層では一日に金貨一枚を稼げないことは確定だ。
 下に行かざるを得ない。


 姐さんたちが通過したのか、再び前の扉が開いた。
 俺はデュランダルをかまえ、入っていく。

 俺が入ると扉が閉じられた。
 部屋は四、五メートル四方のいつもの小部屋だ。
 姐さんたちが倒れていたりはしない。
 無事通過したようだ。

 部屋の奥に煙が集まり、魔物が姿を現す。


ウドウッド Lv1


 ニードルウッドを一回り大きくしたような魔物だ。
 身長は俺より高い。幹まで緑色をしている。手足の代わりに枝を二本ずつ伸ばした植物魔人である。

 などとウドウッドをじっくり観察していると、魔物の足元に青い光が現れた。
 魔法陣だ。

 まずい。

 青く光っているところを見れば、もちろん有効なのだろう。
 見たのは初めてだし、どんな使い方をしてくるのかも分からないが、確実にやばい感じがする。
 魔法を放ってくるのか。
 補助魔法や防御魔法の可能性もあるが、いずれにしても使わせない方がいい。
 観察なんかしている場合じゃなかった。

 俺はデュランダルを振り上げ、あわてて駆け寄る。
 ラッシュと念じて肩口に剣を叩き込んだ。デュランダルは魔物の右肩に数ミリか数センチか喰い込んで止まる。ラッシュを使っても一撃では倒せないようだ。

 しかし、魔法陣は消えた。
 デュランダルの持つ詠唱中断スキルのおかげだろうか。
 しゃべらない魔物は詠唱を使えないから、その代わりに魔法陣を使うのだろう。魔法陣は詠唱代わりだから、詠唱中断スキルで魔法陣も中断させることができるのか。

 魔法陣を止められたウドウッドの枝が振られる。
 剣は魔物の肩に刺さっているので、受けられない。
 相手の肩も動いたのでなんとか抜くことはできたが、攻撃は喰らってしまった。

 打撃を受けて息が詰まる。
 ウドウッドはニードルウッドやスローラビットよりさらに上の攻撃力を持っているようだ。
 ニードルウッドの攻撃だって、そう軽くはなかったのだが。

 再び枝が振られた。枝が風を切る音が聞こえる。
 落ち着いてデュランダルで受けた。
 続いて右から振られた枝を体を引くことで避ける。

 かわしたことで隙ができた。それを見てデュランダルを打ち込む。
 左から降り戻された枝をバックして避けた。
 しっかり動きを見ていけば、戦えない相手ではないようだ。

 ウドウッドが開いた距離を詰める。
 右から振られた枝を剣で受けた。
 そこへ左から枝が振られる。

 くそっ。
 右からの枝は陽動か。

 今度は避けられない。

 オーバーホエルミングと念じて、デュランダルを振りかぶりながら下がった。
 魔物の枝がゆっくりと動く。振られる軌道上から脱出したところで、効果が切れた。
 一呼吸おいて、枝が通り過ぎるのを待つ。
 通過したところで右足を踏み込んだ。ウドウッドの脳天からデュランダルを叩き込む。
 デュランダルが魔物の頭を半分以上切り裂いた。

 ウドウッドが地に伏せる。
 なんとか倒せたようだ。
 身体が大きく揺れ、煙となって消えた。


ワンド 杖


 残ったのは木の枝だ。
 いや、枝というか棒というか。ブランチよりは断然大きい。
 杖と出たから、武器なんだろう。

 ワンドの他には何もない。
 ボス部屋なのに宝箱も何もないようだ。
 あるとしたら、前のパーティーの遺留品だけということか。

 ボスを倒したからだろう。入ってきたのとは反対側の扉が開いた。
 俺はワンドをアイテムボックスに入れる。
 もう一度何もないことを確かめ、下へ降りる道があるだろう隣の部屋に移動した。
+注意+
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