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十七階層

 

 ハルバーの十七階層で、次にケトルマーメイドとビッチバタフライの団体とも交戦した。

 土魔法が弱点のケトルマーメイドが土魔法七発で倒れた後、ビッチバタフライはブリーズボール三発で地に落ちる。


「長くはなったが、この組み合わせなら問題はないか」

「はい。ケトルマーメイドとクラムシェルは弱点の属性が同じなので魔物の選択が楽になります。ケトルマーメイドとクラムシェルを倒せば、残るのは一、二匹。それくらいならどうにでもなるでしょう」


 ロクサーヌはいつだってどうにでもなるといってきたような気はするが。

 メテオクラッシュも使ってみた。

 ケトルマーメイドがメテオクラッシュ一発で沈む。

 やはりメテオクラッシュは土属性が弱点の魔物にも有効という説が濃厚か。


 メテオクラッシュは灼熱した隕石をぶつける魔法だ。

 土属性があったとしても違和感はない。

 火属性が弱点の魔物に加え、土属性が弱点の魔物にも効く。

 ボーナス呪文だけにお得な魔法なんだろう。


「テストはこのくらいでいいだろう」


 ハルバーの十七階層でも問題なく戦えそうだ。

 本格的な探索を開始した。


 次はケトルマーメイド三匹とクラムシェルの二匹の団体と交戦する。

 いきなり多いが、どちらも土魔法が弱点なので問題ない。

 サンドストームをお見舞いした。

 こちらに進撃してくる途中、一匹のケトルマーメイドが立ち止まる。


「来ます」


 残念人魚の足元に青い魔法陣が浮かんだ。

 いや。足元ではなく床についている尾ひれの前。


「水魔法か」


 ケトルマーメイドがひょっとこみたいな口から水を吐き出した。

 人魚というより、まんまテッポウウオだ。

 ロクサーヌが上半身を傾けて水をかわす。

 と、同時に、前を進んでいたクラムシェルの貝殻が開いた。


「来ます」


 クラムシェルが水を吐いて連撃してくる。

 数が多いとこういうことが起こってくるので厄介だ。

 水魔法をかわして不自由な体勢のロクサーヌが器用に身体をひねって二枚貝が吐いた水も避けた。


 さすがはロクサーヌだ。

 俺なら喰らっていたな。

 最初の水魔法でさえ、回避できていたかどうかは分からん。


 ケトルマーメイド二匹とクラムシェル一匹がサンドストームに耐えながら前線に並ぶ。

 ロクサーヌ、セリー、ミリアと一対一の接近戦が始まった。

 水を吐いたクラムシェルは少しだけ遅れ、二列めからチャンスをうかがうようだ。

 水魔法を放ったケトルマーメイド一匹もしばらくたって二列めに加わる。


 魔法陣構築の有無がこの時間差になるのか。

 ケトルマーメイドが水を吐くのは水魔法だから、魔法陣を必要とする。

 その分、発動に時間がかかる。


 ただ、威力はケトルマーメイドの水魔法の方があるのかもしれない。

 試しに受けて比較してみるつもりはない。

 その後は二列めから水が飛んでくることはなく、サンドストームで全部の魔物が倒れた。



 朝食の時間までハルバーの十七階層で狩を行い、迷宮を出る。

 ボーデの十二階層には行っていない。

 どのみちフィッシュフライにはタルタルソースが必要だ。

 尾頭付きを獲ってもすぐ食べるわけではない。


 ミリアも分かっているだろう。

 そういえば、クーラタルの十六階層に行く必要もあるな。


「ボーデの十二階層には、朝食の後に行こう」

「はい、です」

「クーラタルの十六階層も突破しておきたいが、明日の早朝にした方がいいか?」


 ロクサーヌたちに諮った。


「昼間でも問題ないと思います」

「クーラタル十七階層の魔物はマーブリームです」

「行く、です」


 ミリアが通訳もなしに答える。

 セリーのマーブリームという発言に引っかかったに違いない。

 ボーデの十二階層の魔物もクーラタル十七階層の魔物もマーブリームなら、ボーデの十二階層には行く必要がないな。


「じゃあ朝食をすませたら地図を持ってクーラタルの迷宮に行くか。三人は食事の準備を頼む。俺は鏡を売ってくる」


 三人を連れて行けば一度ですむが、今それはやらない方がいい。

 公爵がロクサーヌに興味を持ってしまうのはまずい。

 話をされてロクサーヌが変なことを口走ってしまう恐れもある。

 今日は一人で行くべきだろう。


 鏡を持ってボーデに飛んだ。

 執務室まで届ける。


「ミチオ殿だけか?」


 鏡を届けると、公爵が尋ねてきた。

 やはりロクサーヌを連れてこなくて正解だったようだ。


「はい」

「い、いや。話を聞いてみたかっただけじゃ。やましい気持ちは一切ない」


 公爵があわてて弁解してくる。

 やべ。

 思わず殺気のこもった目でにらんでしまったかもしれない。


「……」

「余はカシアを娶っておるしな」


 当たり前だ。

 あんな美人の奥さんをもらっておいて。

 ロクサーヌに色目を使うようなそぶりでも見せたらカシアに訴えてやる。


「まあいずれ」

「では、こちらが代金の一万ナールです」


 ゴスラーが金貨を差し出してきた。

 こんな公爵ではゴスラーも大変だ。


 代金を受け取って家に帰る。

 朝食の後、ミリアに手伝ってもらってマヨネーズを作った。

 食事を作った後なので、今回は全卵を使用する。


「ミリア、これをかき回してくれるか」

「やる、です」


 かき混ぜるのは大変なので、ミリアにまかせた。

 ミリアが懸命にかき回す。

 かき混ぜるのは本当に大変だ。


 しばらく経つと、徐々にミリアの動きが遅くなってきた。

 それでもなかなか動きが遅くならないのは、魚のためだろうか。


「よく混ぜないと尾頭付きのフライに乗せても美味しくないからな」

「やる、です」


 疲れて混ぜるスピードが鈍ったときには、声をかけてやる。

 フィッシュフライのためなら重労働ではあるまい。


「かき回せばきっと尾頭付きの味が引き立つだろう」

「かき回す、です」


 マヨネーズもこれがなかったらな。


「そろそろいいだろう」

「……はい、です」


 結構疲れたようだ。

 次にフィッシュフライを要求してくるのはしばらく後になるに違いない。

 マヨネーズを作った後、クーラタルの十六階層に入った。


「久しぶりだから多少慣らしてから進むか」

「分かりました」


 ロクサーヌに頼む。

 クーラタルの十六階層にはしばらくの間来ていない。

 ウォーミングアップも必要だろう。


 ロクサーヌの案内で魔物を狩った。

 そうだそうだ。

 クーラタルの十六階層は風魔法だけでほとんどいいんだった。

 やはり楽だ。


 前に来たときと比較してたいして楽になっていないのは残念だが。

 まあそれはしょうがない。

 アルバを装着するなど装備がよくなっているが、それだけだ。

 レベルもほとんど上がっていない。


 レベルは上がってくるにつれてどんどん次にレベルアップするまでの期間が長くなるし、今は結晶化促進に重点を移している。

 こんなものだろう。


「そろそろいいか」


 肩慣らしをすませて探索に取りかかる。

 といっても、クーラタルの迷宮は地図どおりに進むだけだ。


「こっちですね。先には、ビッチバタフライとフライトラップのいる団体がいますが」

「まあ大丈夫だろう」

「分かりました」


 地図どおり進むなら、魔物を選ぶことはできない。

 通り道をふさいでいる魔物は全部倒す必要がある。

 抜け道までは地図に載っていない。


 しかし十六階層でフライトラップとは珍しい。

 いや。珍しくはないのか。

 フライトラップはクーラタル十三階層の魔物だから、十六階層ならそれなりには出てくるだろう。

 今まではロクサーヌが避けていただけだ。


 クーラタルの十六階層ではほとんど風魔法が弱点の魔物しか倒していない。

 つまり、これまでいかにロクサーヌに頼っていたか、ということだよな。


「さすがはロクサーヌだ。やはりロクサーヌは役に立つな」

「え。あ、はい。ありがとうございます」


 本人は分かってなさそうだが、感謝の気持ちは伝えたのでいいだろう。

 弱点属性の異なる魔物を相手にするときにはデュランダルを出す手もあるが、別にMPはそれほど減っていない。

 どうせボス戦では出す。


 洞窟の中を進んだ。

 ビッチバタフライが一匹とフライトラップ一匹の団体に遭遇する。

 ブリーズストームを放った。


 一匹ずつなら毒持ちのフライトラップから倒すのがセオリーだが、ビッチバタフライは火魔法に耐性がある。

 フライトラップの弱点属性である火魔法を使うわけにはいかない。

 ビッチバタフライの弱点属性である風魔法を使って、蝶から倒す。


 魔物が接近し、ロクサーヌとミリアが対峙した。

 セリーは二人の後ろに立ち、詠唱中断のスキルがついた槍を持ってにらみを利かせる。

 俺がセリーの横で魔法を放つ、というフォーメーションだ。


 フライトラップが割れた頭でロクサーヌを挟もうとするが、ロクサーヌが左に避けた。

 ミリアがビッチバタフライに斬りつける。


 まずはブリーズストームで蝶を落とした。

 残り一匹になったフライトラップを囲む。

 囲むといっても俺は直接攻撃されない位置から火魔法をぶつける。

 セリーも少し下がった位置から槍を突き入れた。


 フライトラップの攻撃はロクサーヌがなんなく避ける。

 ファイヤーボールをフライトラップにぶつけた。

 セリーが槍で、ミリアもレイピアで突く。

 全員で攻撃して、フライトラップを倒した。


 最後は俺のファイヤーボールで火まみれになる。

 フライトラップが横倒しになった。

 やがて煙となって消える。


「あ」


 煙がかき消えると、後にカードが残った。

 モンスターカードだ。


 鑑定してみると、はさみ式食虫植物のモンスターカードと出る。

 そうだったのか。

 確かにフライトラップは頭が割れている。

 はさみ式だ。


「はい、です」


 ミリアが拾ってきて、俺に渡した。

 はさみ式食虫植物か。

 はさみ式食虫植物のモンスターカードを無理に入手することはないと仲買人のルークには告げたのに、期せずして手に入ってしまった。


「MP吸収か」

「そうですね」

「そういや、コボルトのモンスターカードをつけないときはどうなるんだ?」

「武器につければMP切削のスキルになります。その武器で攻撃したとき、少しずつMPを回復させるそうです」


 セリーに教えてもらう。

 少しずつか。

 多分、少しずつというのは本当に少しずつなんだろう。

 きっと一ずつとかじゃないだろうか。


「使えるものなんだろうか」

「それなりだと聞いています。魔法使いの中にはいざというときのお守り代わりに持つ人もいるそうです。迷宮に入って一日中武器攻撃をしていたという笑い話もありますが」


 お守り代わりなら回復薬を持った方がよさそうだ。

 期待はできそうにない。

 試してみるまでもないか。


「靴につけて、迷宮を歩くだけで回復できるとかならよかったのに」

「それは無理ですね」

「半分死にかけの魔物を靴底に入れて、歩くたびに突き刺さるようにするとか」


 なんとかできないだろうか。

 靴の下に武器と魔物をふん縛って、歩くたびに攻撃できるようにするとか。

 スケート靴みたいに形で刃物をつけ、その下に魔物を置けばいい。

 一ずつでも歩くたびに回復するなら、悪くはないだろう。


「……」


 セリーは冷たい目で見てくるが。

 先駆者は理解されないものだ。

 時代が進めば、分かってくれるだろう。


「どうせ魔法使いや僧侶が使うのだから、杖につけてもいいな。杖の先に魔物をつけて、杖を突きながら歩くとか。ああ。全体攻撃魔法を使ったときに杖の先の魔物まで攻撃してしまうか」

「……」


 時代よ、早く俺に追いついてくれ。


「い、行こうか」

「はい」


 ロクサーヌを促して進んだ。

 近くに団体の魔物がいれば横道にそれて倒しながら、大体地図どおりに進む。

 結構あっちへふらふらこっちへふらふらとしたのは、クーラタルの十六階層は風魔法だけで戦える組み合わせが多いからだろう。

 途中、デュランダルを出してMPを回復してしまった。


 マダムバタフライとも戦う。

 マダムバタフライとは何度か戦っているので問題ない。

 蠱惑的な目のボスを倒した。


 ボスを倒すと、フィフスジョブを取得し料理人をつけて、十七階層に移動する。

 ボス戦のときにはフォースジョブだったのにジョブを増やすというのも変な話だが。

 料理人は必要だし、しょうがない。

 十七階層にはまだ慣れていないから、僧侶もあった方がいいだろう。


 十七階層では、いきなりメテオクラッシュを試した。

 マーブリームLv17は倒れるが、ビッチバタフライLv17は倒れない。

 マーブリームはやっぱり倒せるのか。

 メテオクラッシュが土属性が弱点の魔物にも有効なのは間違いなさそうだ。


 マーブリーム三匹が倒れ、一つ尾頭付きが残る。

 残ったビッチバタフライはブリーズボールで片づけた。


「尾頭付き、です」

「最初っから残るとは幸先がいいな」


 ミリアから尾頭付きを受け取る。

 その後、二個めの尾頭付きが出るまで狩を行った。


 クーラタルの十七階層は土魔法と風魔法でほとんど決着がつく。

 土魔法が弱点のマーブリームが一番多く出てくるので風魔法だけでいい十六階層に比べたら面倒だが、楽な方だろう。

 クーラタルの十七階層では問題なく戦えそうだ。

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[気になる点] 主人公の奴隷への役に立つ、と言う評価が腹立つ。 何様だ。 普通に感謝を伝えろ
[気になる点] 「君は役に立つ」って褒め言葉なのでしょうか?
[一言] ハイヒールで迷宮から吸収するようなる布石
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