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異世界迷宮で奴隷ハーレムを 作者:蘇我捨恥
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ネゴシエーター

 
 翌日、タルタルソースを作り、尾頭付きを切ってパン粉で揚げた。
 元の食材がいいせいだろう。
 尾頭付きのフィッシュフライは一段違う旨さだった。

「旨いな」
「おいしい、です」

 衣をサクッと噛み裂くと、中の魚肉がプリッと弾け、口の中でジュワッととろける。
 軽さと濃厚さの絶妙なハーモニー。
 タルタルソースの強すぎない酸味がそこはかとない彩りを加えていた。

「本当に美味しいです。こんな贅沢ができて、私たちは幸せです」
「ロクサーヌさんの言うとおりです」
「幸せ、です」

 三人も満足そうだ。
 ミリアが美味しく感じるのは、マヨネーズを自分で作ったせいもあるだろう。

「この間作ったスープがあるだろう。次回はあれに尾頭付きを入れよう」
「スープ、です」
「なんならまたパン粉で揚げてもいいが」
「スープ、です」

 マヨネーズの大変さが身にしみたらしい。

 尾頭付きのフィッシュフライを堪能する。
 ついもう一つと手が伸びてしまうくらいに旨かった。
 かなりのハイペースで消費してミリアが肩を落としていたが、しょうがない。
 次に期待してもらおう。

 夜が明けて、公爵のところへ三枚めの鏡を持っていく。
 もちろんロクサーヌは連れて行かない。
 代金を受け取り、鏡をさらに三枚買うことを了承してもらった。

 家に帰り、ネックレスを用意する。
 鏡を仕入れに行く前に、注文の品も用意しなければならない。
 ボーデの冒険者ギルドに飛び、コハク商の事務所を訪ねた。

「ようこそいらっしゃいました。あいにくとコハクの原石は用意できませんが」
「それはしょうがない。今日はネックレスを買いに来た」
「さようでございますか。それでは、こちらへどうぞ」

 ネコミミのおっさん商人が俺たちを奥に導く。

「選ぶのは三人にまかせる」
「分かりました」
「おまかせください」
「はい、です」

 ついていきながら三人と話した。

「この間見せてもらった、ここ数年で一番の品というコハクを使ったネックレス。あれはまだありますか」

 席に着く前に、セリーが口火を切って商人に尋ねる。

「ございます。こちらですね」

 おっさんがあわててカウンターの向こうに回り、ネックレスを出してきた。
 この間セリーが見ていたネックレスか。

「やはりものはいいですね。素晴らしいです。この色といいこの透き通り具合といい。最高級の一品です」

 セリーがネックレスを手に取り、誉めそやす。
 そんなに褒めて大丈夫なんだろうか。
 足元を見られそうな気がするが。

「そうでございましょう」
「値段は?」
「はい。前回も申しましたので、特別に六万九千八百ナールでお譲りさせていただきます」

 価格は前回と同じか。
 なら足元を見られることもないか。

 商人の答えを聞くと、セリーがため息をついた。
 そして、「やはり値段が」とつぶやく。
 ネックレスを置いた。

「これと同様のものが他にありますか」
「同様のものとなりますと。こちらの方もそれに引けをとらぬ品ではございますが」

 おっさんが別の品を取り出す。
 大きなコハクが一個、中央にぶら下がったネックレスだ。

「なるほど。これもよい品です」
「深紅の大玉を配したネックレスでございます。ここまでのコハクが出るのは五十年に一度でございましょう。そのため、他のネックレスのように複数のコハクを並べるということはできませんが。こちらですと、お値段は六万五千ナールとなっております」
「うーん」

 セリーが腕を組み、首をひねった。
 おっさん商人はその間もネックレスを出し、ロクサーヌとミリアに見せている。

「綺麗です」
「きれい、です」

 ロクサーヌとミリアは能天気にはしゃいでいた。

「どうしましょうか」

 そんなロクサーヌの前に、セリーが二つのネックレスを持っていく。

「えっと。そうですね」
「やはり複数の玉が連ねてあるこちらのネックレスの方が。しかし値段が。うーん」
「そうですね。そこまで気に入っていただけたのなら、そちらのネックレスは今回のみ特別に六万八千ナールとさせていただきましょう」

 悩むセリーに対し、おっさん商人が値を下げてきた。

「うーん。もう一声」
「六万七千五百ナール。これ以上はさすがに下がりません」
「その値段ならしょうがないですか。一つはこれでいいと思います」

 商人に値引きさせたセリーがネックレスを俺の前に持ってくる。
 二度にわたってまけさせるとは。
 セリー、恐ろしい娘。

「分かった」
「もう一つ、五万ナールくらいのネックレスがほしいのですが」
「それですと、こちらになります。これなどもいかがでしょう」

 おっさんが別のネックレスを持ち出してきた。
 二つ取り出して、セリーに渡す。

「これですか」
「左の方は柔らかくて豊かな色合いの上質のコハクを使ったネックレス、手にお持ちの方も輝きの強いなかなかの出来栄えとなっております。左の方が五万二千ナール、持っておられる方が五万ナールとなっております」
「なるほど。しかしこれは少し濁りがあるようです」

 商人の説明を聞いた後、セリーが熱心に見比べ、一つを返した。
 最初手に持っていた方のネックレスだ。

「その他にこういうのもございます。そのネックレスを上回る一品です。五万六千ナールと少々お値段は張ってしまいますが」
「確かにいいものです。しかし、お客様の要望もありますので」

 セリーは一度ネックレスを手にとって見た後、すぐ商人に返した。
 俺たちがネックレスを転売することはおっさん商人にも言ってある。

「それでは、こちらなどいかがでしょう。輝きと色合いの調和の取れた一品。五万四千五百ナールとなっております」
「これはいいですね。ただお客様が。うーん。どうしましょうか」
「えっと。そうですね」
「うーん、です」

 セリーがロクサーヌとミリアに相談を持ちかけるが。
 それは無茶振りだと思うぞ。
 二人だってどう答えていいか分からないだろう。

「そうですね。それでは特別に、五万三千五百ナールとさせていただきたいと思います。それでいかがでしょう」
「なるほどそれなら……。しかし……。うーん」

 セリーが首をひねる。

「では五万三千ナールでいかがでしょう」
「もう少し何とかなりませんか」
「し、仕方ありません。五万二千五百。これが限界でございます」
「分かりました。いいと思います」

 五万二千五百ナールまで値切ったネックレスをセリーが俺に渡してきた。
 なにやら限界まで搾り取った感じだ。
 絶対にセリーには仲買人の素質がある。

「では、この二つのネックレスをもらえるか」
「ありがとうございます。本日はよい商売をさせていただきました。大盤振る舞いのついでです。二つで、八万四千ナールとさせていただきましょう」

 もちろん三割引はさせてもらう。
 容赦はしない。
 まさに外道。

 お金を払い、小箱もただでもらった。
 ボーデの冒険者ギルドから、ザビルの迷宮に飛ぶ。
 ロクサーヌの案内で獲物を求めて進んだ。

「そういえば、何で五万ナールのネックレスがほしいといったんだ? 注文は親方の奥さんに売ったネックレスと同じ値段と言っていたが、親方の奥さんに売ったのは五万五千だっただろう」

 MPを吸収して一息入れてから、セリーに尋ねる。

「予算が五万ナールと聞いて五万ナールの商品を売るのは素人です。本物の商人なら、五万と聞けば五万五千ナールのものを売りつけようとするでしょう。ですから逆に、五万五千ナールの品がほしいときには予算は五万ナールだと告げるのです」
「なるほど」

 プロだ。
 プロの消費者がいた。

「あの商人も最初に五万ナールの品はこれですといって少し質の落ちるものを出して比べさせたのだから、なかなかのやり手です。あのネックレスが本当に五万ナールする商品かはあやしいものです。それに、五万ナールと五万六千ナールの品なら、誰だって五万六千ナールの方がほしくなります」

 あの場でそのような駆け引きが行われていたとは。
 やはりセリーは頼もしい。

「ペルマスクで売るときにも予算より高く売るのか?」
「今回は難しいですね。予算を聞いてしまっているので。相手も、最低限その値段で赤字にはならないものを持ってきているはずだと分かっているでしょう。いくつか用意できればよかったのですが。それに、一つは親方の奥さんに売ったのと同じ値段のものをという注文です。親方の奥さんより高いものを用意したのでは親方の奥さんがいい顔をしません」

 いろいろと大変なようだ。
 その辺はセリーにまかせておけばいい。

「そうか。さすがはセリーだ」
「私のことよりも、私が散々粘ってようやく五百ナール下げさせたのに、何も言わないでももっと大幅に安くなったことがすごいと思うのですが。三割くらい安くなってますよね」
「そ、そうだったか」

 毎回三割引だとセリーにパターンを見破られてしまいそうだ。
 たまには十パーセント値引とかも混ぜてみるべきか。

「ご主人様の人徳なら当然のことです」
「当然、です」
「人徳ではないが、ま、そういうことだな」

 ここはロクサーヌに乗っておこう。
 ミリアが理解しているのかどうかは分からないが。
 逃げるようにペルマスクへ移動した。

「今回は少し時間がかかるかもしれません」
「そうだな。分かった」

 コハクのネックレスは、親方の奥さんに渡すのではなく、紹介してもらって直接売るのだろう。
 セリーの言うとおり、多少時間はかかるに違いない。

「行ってまいります」
「がんばってきます」
「行く、です」

 ペルマスクの冒険者ギルドで三人を送り出す。
 ザビルの迷宮を経由して、クーラタルに戻った。
 クーラタルの三階層でボス戦を行い、MPの回復とペッパーの補充をする。
 デュランダルがあればスパイススパイダーは一人でも問題なく倒せる。

 ボス戦の後、商人ギルドに出た。
 待合室で仲買人のルークを呼び出す。

「ようこそいらっしゃいました。今日はどのようなご用件でしょうか」
「悪い。注文ではなくちょっと聞きたいことがあってな。かまわないか」
「もちろんかまいません。こちらへお越しください」

 ルークはすぐにやってきて俺を会議室に案内した。
 イスに座って、ルークと会話する。

「休日の日にもオークションが開催されるのは知っているか?」
「はい。存じております」
「それに参加しようと思っている」
「あと五日ですね」

 もうそんなになるのか。
 鏡を売り終わったら開催だ。

「初参加なので、やり方などを知っていれば聞きたいと思ってな」
「さようでございますか。オークションについてはどの程度ご存知でしょう?」
「噂で聞いたことはあるというレベルだ」

 テレビ番組のチャリティーオークションやインターネットオークションなら見たことはある。
 参加したことはない。
 この世界のオークションが同じものとも限らないし。

「基本的な進行としましては、まず売り手が最低入札価格を提示します。落札された場合売り手は必ずその金額で売却しなければなりませんので、ある程度売り手の希望が入った価格になります。ただし、誰も落札しなかった場合にはペナルティーとして預託金が没収されます。そのため最低入札価格はそれなりの値段になります」
「考えられているのだな」
「最初に入札する買い手はその最低入札価格で入札するのが他の買い手に対するマナーです。その後、出品された品をほしい買い手が他にいれば、現行価格以上の値段で入札して価格を引き上げていきます。引き上げる入札単位は、一万ナール未満ですと百ナール、一万ナールから十万ナールの間は千ナール、十万ナール以上は一万ナールが最低となります。この入札単位の十倍を超えて価格を引き上げることは、ルール違反ではありませんがマナー違反です」

 話を聞いといてよかった。
 いきなりぽんと百万ナール出したりするのはマナー違反になるのか。
 気をつけないと。
 それ以外のやり方は、俺の知っているオークションと変わらないようだ。

「分かった」
「注意しておくべきことはこれくらいでしょう。後は実際の流れを見てみれば分かると思います」
「注文でもないのに悪かったな。そういえば、コボルトのモンスターカードを落札している客がMP吸収を何の武器につけようとしているか分かるか?」

 オークションの話は聞いたので、話題を変える。

「そこまでは分かりません。MP吸収は杖か槍につけることが多いと思いますが」
「そうか」
「そういえば、この間お聞きした資金繰りに困っている家。バラダム家というそうですが、そこが聖槍をオークションに出品するという話が広まっています。MP吸収を狙っている客が目当てでしょう」

 やはりバラダム家だったのか。
 聖槍は魔法の威力を高める槍だとセリーから聞いた。

「さすがに武器はもう用意してあるのでは」
「何度も失敗するようなら、違う武器で試してみることもあります。用意してあっても、聖槍の方がよい武器なら乗り換えることも考えるでしょう」
「なるほど」
「実際に手を出すかどうかは分かりませんが、高く売れると踏んだのでしょう」

 モンスターカードの融合に失敗しても素材は残るはずだが、他の武器で試してみることも普通にありそうか。
 失敗して作り直したものはゲンが悪い。
 あるいは、何度も連続して失敗するはずはないと思うかもしれないが。
 鑑定で空きのスキルスロットが分からないと、融合は運頼みだからな。
+注意+
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