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016:絵描きと災厄獣 - 中編 -


 カイム・アウルーラ北街道。


「そういえば、アーティスさんってどうやってカイム・アウルーラに帰ってきたの?」


 アレンが御者を勤める馬車の中でユズリハが訊ねた。


 ユズリハ、サイーニャと共に馬車に乗っている彼は、アーティス・トルス・ティストン。今回の災厄獣(ディズザーデ)騒ぎの発端となった画家である。


「その……林道脇の雑木林から飛び出した時に、ちょうどカイム・アウルーラに向かう綿毛人(フラウマー)の馬車と遭遇したもので」


 見たことのない魔獣が地震と共に現れた。もしかしたら災厄獣(ディズザーデ)かもしれない――と、慌てて告げれば、乗るように言われ、かなり飛ばしてくれたそうだ。


「見たコトのない魔獣ですか」

「はい」


 サイーニャが確認をすると、彼は真剣な顔でうなずく。


「お前さんを連れてきたのはその見たコトのない魔獣を確認してもらう為なんだが、覚悟は出来てるか?」

「それはどういう……?」


 アレンが手綱を握ったままアーティスに訊ねる。

 アーティスは戸惑ったような顔をするが、アレンは振り返らないまま淡々告げた。


「マジで災厄獣(ディズザーデ)だった場合、俺達にお前さんを護る余裕が、恐らくねぇって話だ」

「……それは仕方がないですね。こう見えて、一応それなりの地位にいる貴族の家の出です。

 家は半分捨ててますけど、義務と責任を果たすという貴族の矜持は、捨てたつもりはありません」

「おっと、野暮な質問だったか?」

「いえ。言ってくれなければ、覚悟なんてないままでしたよ」


 おどけた調子で嘯くアレンに、アーティスは苦笑を返す。


「アーティスさんの覚悟は立派だけど、万が一いや億が一……いやいや兆が一、もっと言って(ケイ)が一……あるいは(ガイ)が一くらい……?」

「ユズ姉。そろそろ先に進んで。聞いたコトがないような桁になり始めてるから」

「じゃあ()が一くらいにしとく。

 まぁとにかく、それくらいの可能性で災厄獣(ディズザーデ)だった場合の役割なんだけど、サイーニャはアーティスさんを連れて全力逃走。以上」

「確かに、俺とユズが二人がかりで足止めしてた方が、確実は確実か」

「了解」


 打ち合わせとも言えない打ち合わせを聞きながら、アーティスが不思議そうな顔をする。


「みなさんは、災厄獣(ディズザーデ)が出てこないと思っているのですか?」

「ええ。アーティスさんの見間違いだと思っています」


 サイーニャがうなずくと、アーティスは少し不満そう顔をした。


「ですが、地震がセットであったんですよ?」

「そもそも、地震とセットになったのは偶然なんだと思うけどね」


 ユズリハが苦笑して見せると、アーティスは目を瞬く。


「どっちにしろ、現場に行ってみればわかるさ。

 災厄獣(ディズザーデ)がいようがいまいが、最低限の調査はしないといけないんだからな」


 荷台のやりとりを聞いていたアレンは、御者席で欠伸をかみ殺しながらそう告げた。



     ♪



「うわわわわわわわぁぁ……ッ!?」


 カイム・アウルーラ南西に広がる樹海――常濡れの森海(モイス・ドリュアドス)

 その一角に、若い男の悲鳴が響きわたる。


 足首に巻き付いた触手に引っ張られ、身体が宙に浮く。


「にょぼぉろっぉぉぉっぉぉぉ……ッ!」


 その触手に振り回されながら、自分でも意味の分からない叫びが口から飛び出した。

 そんな彼に対して、


「このウスノロッ!」


 少女の罵声が届く。

 直後に少女が放った花術(フーラ)が、彼の足に巻き付いている触手を切り落とした。

 だが、振り回す慣性は消えていないので、そのままの勢いでぬかるんだ土へどダイブすることになる。


「ぎょべっッ!?」


 触手の持ち主は驚いたように、森の奥へと逃げていく。

 切り落とされた触手は、泥濘(ぬかるみ)の上でのたうって、びちゃびちゃと泥をはね飛ばしていた。

 そんな触手に、少女が飼っている大トカゲが舌を巻き付けると、器用に少女が持っていた袋へと放り込む。

 触手を受け止めた少女は、袋の中でのたうち続ける触手など気にした様子もなく、その口を縛ると、背負った編みカゴの中へと投げ込み、こちらを半眼で見遣った。


「……助かった」


 泥まみれになりながらも、助かったことに安堵をし、身体を起こすと、少女から容赦の無い蹴りを食らう。

 この少女、とにかく足癖が悪い。ことあるごとに自分を蹴り飛ばしてくる。


「この程度の腕で災厄獣(ディズザーデ)の調査に同行したかった? 寝言は寝て言えーッ!!」


 ついでに、容赦のない言葉にも襲われた。

 だが、それを返す言葉を彼は持たない。


 彼――ブーノ・モネンセイがこの少女と知り合ったのはただの偶然で、話の流れでここに連れてこられただけだ。

 それでも、彼が彼女に言い返す言葉がない。言い返せない。彼女の言う言葉は的確だからだ。

 とはいえ、自分より年下の少女に言いっぱなしというのも面白くない。


「仕方ないだろ。あんな魔獣と会ったことがないんだから」

「アホかぁぁぁぁッ!!」


 瞬間――少女の容赦の無い蹴りが再びブーノを襲った。


「アンタ、綿毛人(フラウマー)でしょうがッ! 街から街への風来坊でしょうッ!?

 知らない土地で知らない魔獣に出会って、そんな言い訳して生きて行けるワケがないじゃないッ! ここに居るアンタは命核(ソフィル)を失った旅骸(たびがら)かッ!?」


 口車に乗ってついて来るんじゃなかった。

 蹴り飛ばされながら、ブーノは心底からそう思った。




「……ったく」


 怒鳴り散らしながら、ユノは心底から疲れ切って嘆息した。


 ブーノだかモブだかと名乗った少年が、ここまで役に立たないとは思っていなかったのだ。

 素材採取の為の囮にでもなれば良い――その程度だった。

 死なない程度に見張っていれば、それで良い――本当にそう思っていたというのに、この男、弱すぎる。

 いや弱いだけなら良いのだが、あらゆる面でダメすぎる。


 ユノがこの少年と出会ったのは、サイーニャ達と別れてしばらくした頃だ。


 リンゴだけでは足りなかったので、なじみのオクト焼き屋台で、ドラと一緒に買い食いしていた時のこと。

 屋台のおっちゃんと世間話しつつ、ドラと合計して十本目くらいのオクト焼きを食べていた頃だっただろう。


 この男、いきなりドラに剣を突きつけてきたのである。

「危ないッ、こいつは岩喰いという危険な魔獣ですッ!」とか言って。


 ユノはとりあえず、蹴り飛ばした。


 その後、魔獣をペットにする人がいるとは知らなかった、申し訳ないと謝罪され、実はイライラしていたのだ――と勝手に喋り始めた。


 ユズリハとアレンに邪魔扱いされ、あまりのしつこさに黒サイーニャがちょっと顔を出したりしたらしいが、聞いている限りは自業自得である。


「あたしも、その三人に賛成ね。アンタ邪魔っぽいもの」


 なので、そう口にすれば、なぜだと喚き出す。

 鬱陶(うっとう)しく思ったものの、ふと閃くことがあって、ユノは誘ったのだ。


「これから、花導品(フィーロ)の為の素材採取に行くんだけど、付き合う気ある?

 自分は足手まといにならないって、そこまで言うんなら、あたしに見せてみなさいよ」


 家のキズモノ達もすぐに診たいが、それとは別にもっとちゃんと地震を対策しなければならないと思っていたところだ。

 地震対策用の花導具(フィオレ)の構想があるので、ちょうど良い。


 ついでに、ユノの想像通りだとすれば、北東の木漏れ日が示す林道ソリスルクス・ヴェク・ブリーゼよりも、南東の常濡れの森海(モイス・ドリュアドス)の調査こそが、災厄獣(ディズザーデ)調査には必要だと踏んでいた。


 ユズリハ達が戻ってきた後で、一度調査に行くつもりだったのだ。これから行っても、遅いか早いかの差でしかない。


 そうして、彼が了承するなり、ユノは彼を連れて樹海へとやってきたワケなのだが――結果が、これである。


「アンタが役に立たないってのはおいておくとして、一つだけ教えてあげるわ」


 先ほどの触手を持つ存在が、ユノの素材採取のターゲットでもある。あの触手こそが、ユノが欲しているものだ。


 だが、それとは別にして、ユノは自分の懸念が正しいという確信も得る。


 遭遇した場所が、あまりにも浅すぎるのだ。恐らく、先ほどのやつは、はぐれ者であろう。あの触手達の住処は、もうちょっと森の奥だったはずである。


「さっきの触手を持つ生き物は、魔獣じゃないわ。生物学的に分類するなら、ただの動物。

 ま、肉食だけどね。温厚なタイプだから食事以外で他の生物は滅多に襲わないけど」


 ユノからすれば、その脅威度は食べきれないリンゴと大差はない動物だった。



     ♪



「アーティスさんよ。あいつ等で間違いないか?」

「……はい」


 林道の脇に広がる雑木林。

 その奥にある、木漏れ日の中の聖池ソリスルクス・タイヒ・レヒトと呼ばれる場所に、アレン達はいた。


 ソルティス山から流れてきている地下水が沸き出して出来ている池で、溢れた水は沢になって、ちょろちょろと西の方へと流れていく。

 土地の名前の通り、木々の隙間から漏れる陽光を受けて、池そのものが輝いて見える。

 これを初めて見た人は、確かにこんな詩的な地名を付けるであろう――と納得できる光景であった。


 池の周辺で、うごうごうねうね蠢く触手の群れがいなければ。


 それは、血の色をした生き物だった。

 一番近い形状の物体は何かと言われれば、恐らくタマネギだろうか。

 地面に対して、白くて細い無数の触手をうぞうぞと動かしながら移動し、頭(?)から生えた、細いやつでもユズリハの手首ほどはありそうな八本の触手を振り回している。


「すごいね。こんなにも静謐(せいひつ)で清らかな場所においても、まったく禍々しさが軽減されてないよ」

「聖なる触手くらいにはなるかと思ったけど、あれでは聖地を穢す邪悪以外の何者でもない」


 ユズリハとサイーニャが、気楽な口調で感想を告げる。

 青ざめているアーティスとは大違いだ。


「でもユズ姉……あの本体の中央辺りについてる二つの目? あれ、じっと見つめてるとつぶらで、キラキラしてて、ちょっと可愛く思えてこない?」

「帰ってきてサイーニャ。あの目にはそんな催眠じみたチカラは宿ってないはずだよ?」

「ぬいぐるみとか……作ろうかな……」

「……あれの?」


 女性陣のやりとりに、呆然としたようにアーティスはアレンに訊ねる。


「あの、皆さん……なんで平然としてるんですか……?」

「そりゃあ決まってるさ。この林道周辺じゃ珍しい存在だが、常濡れの森海(モイス・ドリュアドス)の北部辺りじゃ良く見かけるやつだしな」

「……それじゃあ、やっぱり災厄獣(ディズザーデ)じゃなかったんですね」

「そういうコトだ」


 見た目は最悪な部類だが、さほど強い相手でもない。

 恐らく、ユノもこれを想定していたのだろうと、アレンは胸中で肩を竦めた。


 アホらしくもなろう。

 魔獣ではなく動物で、しかも脅威度の低い存在が、災厄獣(ディズザーデ)と騒がれているのだから。


 カイム・アウルーラ近辺に住んでいても、基本的に人はあまり足を踏み入れない常濡れの森海(モイス・ドリュアドス)が主な生息地だからこそ、見掛ける人間が少ない。

 奴らは、湿度の高い場所を好み、やや乾燥が強めであるこの土地にいるのは珍しいとも言えるのだ。ましてやこの見た目。何も知らない人間が地震の直後に目撃したら、勘違いしても仕方がない。


「ま、別の問題はありそうだがな」

「え?」

「いや、こっちの話だ」


 思わず口から漏れた言葉に、アーティスが反応したが、アレンは誤魔化す。

 ふと、視線を横に向ければ、ユズリハとサイーニャはまだ雑談をしていた。


「そんなに気に入ったなら飼えば?」

「飼えるの?」

「意外と人懐っこいんだよあいつら。昔、懐いた子と一緒に大道芸とかして、結構おひねり稼いだよ」

「どんな芸だよ」


 思わずアレンがうめくと、ユズリハはこちらに顔を向けて首を傾げた。


「聞きたい?」

「後学の為に、是非」


 そう答えたのはアレンではなく、アーティスだ。

 画家だという話だから、何かアイデアのタネが欲しいのだろう。


「まずね。前提として、あいつらの食事の仕方の話を知ってないといけないんだけれど」


 彼らの頭部の八本の触手の生え際中央には穴が空いている。

 穴の中には、足の触手と同じような、それよりもさらに(ほそ)くて(こま)かい無数の触手と、それに混じり先端が注射器のようになっているものが待ちかまえているのだ。


「まぁ、それが口なワケだけど」

「歯はないのですか?」

「うん。太い触手で捕まえた相手を口の中へ運んだあと、口の中の触手で拘束しつつ、針触手を突き刺して獲物の体液を啜るの」

「ほほう」


 何やら関心しているアーティスに、アレンが一応の補足を口にする。


「体液つっても素直に血液だけ喰うんじゃないんだがな」

「そうなんですか?」

「針触手は二種類あるんだよ。ちょっとした毒針と食事用のな。

 毒ってのは、まぁなんだ。蜘蛛なんかと同じで、突き刺した場所の内側を溶かすようなやつさ」

「なるほど……それで溶けた場所を啜るわけですか」


 想像して怖くなったのか、アーティスはぶるりと身体を振るわせる。


「さらに補足するなら、毒針も二種類あるんだよ。獲物の痛覚を鈍化させる麻痺毒に近いやつと、消化液の。

 まぁとにかく――そんなワケで、口と言っても獲物を拘束する器官であって、他の生き物見たいに咀嚼して飲み込む器官っていうのとはちょっと違うんだ」


 そこまでが、大道芸をする上での前提知識である――と、ユズリハは言う。


「それで、口の中に入った相手でも、許可したもの以外に毒針を刺したり食べたりしたらダメって仕込むのね。

 あいつらの口の中って結構伸縮するから広いんだ。大型の子の中であれば、私くらいの体格なら、身体を丸めて中に隠れられる」

「なるほど。確かに中から女の子が出てきたらびっくりしますね!」

「そういうコト。しかも全裸。女の子の体中にぬたぬた巻き付き絡むうねる触手。お金持ちの好事家相手だと、良い稼ぎになったんだよね」

「…………」


 ユズリハの話す内容に盛り上がってたアーティスが、突然口を閉ざした。そのことに首を傾げていると、サイーニャが訊ねてくる。


「ユズ姉。ちなみにどれくらい?」


 アーティスとは逆に、むしろ興味がわいたらしいサイーニャに、ユズリハが金額を耳打ちする。

 それを聞いたサイーニャの表情が喜色に染まった。


「一匹くらい捕まえて帰りたい。今の仕事よりも稼げるかも……」

「良いけどよ、サイーニャ。元手が必要だろ?

 育てる場所と、餌代。それから人や家畜を襲わないように躾るコトと……あと何だ、芸に協力してもらえるくらいの信頼関係か?

 そこまでやる手間暇と資金、今の仕事の仕事量と給金……天秤に掛けるもんちゃんと考えろよ?」

「アレン、夢がないよ」

「捨てちまえよ、そんな触手にまみれた夢」


 アレンが嘆息混じりに吐き捨てて、改めて池の周りにいるやつらに視線を向ける。


「そういえば、あの魔獣の名前を伺ってませんでしたね」


 アーティスに言われて、アレン達三人は苦笑した。


「カイム・アウルーラにお住みでしたら、アーティスさんも食べたコトがあるかと」

「え? 食用なんですか?」

「食用だねぇ……食べる前にアレを見ちゃうと、もう食べる気が失せちゃうから、食べてから見学しろって言われてるよ」

「それはよく分かります」

「ついでに言うと、霊臓器(マナ・プール)が小さく、霊力門(マナ・ゲート)もほとんど開いてないから、魔獣として分類されていない。つまり生物学的にはただの動物だ」

「動物……あれが……?」

「ああ。動物だよ。肉食動物オクトローパー。それがアレさ」

「オクトローパー……アレが……」


 アーティスが目を見開くが、気持ちはわからなくもない。アレを食べていたのかと思うと、さすがに少しゾっとするのだろう。


 顔をひきつらせたアーティスを見ながら、アレンがユズリハとサイーニャを見る。

 お喋りは終わりだと、二人はそれに気付いただろう。


「どうするの、アレン?」

「袋とカゴは持ってきてるんだろ? なら、いつも通りだよ。稼ぐだけ稼がせてもらおうぜ」

「鍋も持ってきてるから、帰る前に新鮮なものを食べよう」


 それなりの数が、池の周囲にいるのだ。

 結構な数の触手を持って帰れそうである。



     ♪



 ブーノは振り回される触手をかい潜り、オクトローパーの本体へと肉薄すると、手にした剣を一閃する。

 声こそでないが、悲鳴をあげているかのように身体を振るわせると、オクトローパーはその場で崩れ落ち、触手たちもしなびた植物のように、くたりと地面へと落ちた。


「ふぅ」


 何とか無事にしとめられたことにブーノが安堵していると、


「だからッ、本体を斬るのは最後にしろって言ってるでしょうがッ!」


 ユノの蹴りが炸裂する。


「無茶言うなッ! あんな動き回る触手をスパスパ切れるわけないだろッ!」

「切れるか切れないか――じゃなくて、切ろって言ってるのよッ!」


 オクトローパーの触手は、本体が死ぬと当然動かなくなる。

 だが、本体が生きている時に切り落とすと、本体から切り離されているにも関わらず元気良くのたうつのである。


 この元気なものを『のたうつ触手』と呼ぶ。もちろん、放置しておけばやがて動かなくなり、『のたうっていた触手』となる。

 ちなみに、オクトローパーの死体から切り落とした触手は普通に『オクトローパーの触手』と呼ばれる。


 滅多に使われることはないが、花導品(フィーロ)の素材として使われることがなくもないオクトローパーの触手。

 オクト焼きをはじめとして、カイム・アウルーラでは、それなりに食卓にでるようになってきたオクトローパーの触手。

 そのどちらも、鮮度が大事だ。


 故にこそ、素材の価値としては『のたうつ触手』>『のたうっていた触手』>『オクトローパーの触手』だ。

 『のたうっていた触手』も時間が立てば品質が落ち『オクトローパーの触手』となるので、採取後の使用や売却は時間との勝負であり、取り扱いの難しい素材でもある。


「あたしが欲しいのは『のたうつ触手』なの。依頼人の要望が答えられないなら、協会(ギルド)の仕事なんてやるんじゃないっつの」

協会(ギルド)の正式な依頼じゃないだろこれは」

「口答えしないッ!」


 もちろん、オクトローパーの触手も回収はする。

 だが、採取に来たからには効率良く、良い品質の物を得ようとするのは当然であろう。


「ああ、そうれと、言い忘れてたけど、オクトローパーの触手を集める時は本体を殺すのはもちろんだけど、触手を八本全て切り落とすのもダメよ」

「本体に関しては理解したけど、全部落とすのもダメなのは何でだ?」

「全部落とすと、食事が出来なくなって衰弱死しちゃうのよ」

「悪いことなのか、それ?」

「カイム・アウルーラを中心にオクト料理はじわじわと広がってるからね。ルールの徹底って大事なのよ。乱獲して絶滅したら困るしね」

「それで衰弱死は防げるのか?」

「完全には無理だろうけど、オクトローパーの触手は再生するの。

 一本だけ残してあげて、最低限の生活ができれば、また再生するでしょ?」

「オクト焼きを好物だと口にする身で言えたことじゃないけど、人間って残酷だよなぁ」


 思わずブーノが天を仰ぐ。

 ユノとて、その気持ちは分からなくないが、それを突き詰めて考えてしまうと、食べるために動物を育てる行為もどうだろうか――という気持ちになりかねないので考えないことにする。


「あれ? じゃあ、何で今回は八本切り落として、本体殺すなんて言うんだ?」

「食べきれないほどになっちゃったのよ」

「は?」

「意味は自分で考えなさい」


 告げて、ユノは嘆息する。

 つまりは、今回の騒動というのはそういうことだった。




思ったより絵描きの出番が少なくなってしまって、タイトルの付け方失敗してしまった気がしてますが……もうちょっと続きます。次回でちゃんと後半になるハズです。

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