381 クマさん、大きな卵でプリンを作る
「終わったぞ」
メンテナンスも終わり、ナイフを返してくれる。
「ワイバーンや大型スコルピオンと戦ったそうだが、なんともない。嬢ちゃんの使い方が良いみたいだな」
褒めてくれているようで嬉しくなる。まあ、下手な使い方をして刃こぼれをさせたり、折ったりしたら、ナイフを作ってくれたガザルさんに悪い。
だけど、武器も消耗品だ。壊れたり、使い物にならなくなるのは仕方ない。でも、数回の戦闘で壊すのは申し訳ないからね。
「そういえば、あのときに手に入れた鉱石を調べると言っていたが、ドワーフの街には行ったのか?」
「いろいろあって、まだ行けていないよ」
クマモナイトはクマボックスに入れたまま放置状態になっている。
あれからミサの誕生会に行ったり、エルフの森に行ったり、学園祭に参加したり、砂漠に行ったり、海に行ったりして、忙しかった。ちょっと、ドワーフの街に行く時間はなかった。そう考えると、元引き篭もりにしては動いているね。
でも、今なら時間があるし、ドワーフの街に行けば、クマモナイトについて分かるなら行ってみたい。だけど、クマモナイトって名前が絶対にわたし専用の道具だよね。気持ちの中で鉱石に詳しいドワーフでも、「無理かも」って気持ちがどこかにある。
それにゲームとかなら、謎を解いて先に進んだりするけど、ゲームじゃないから、現状、クマモナイトについて分からなくても困ったりはしていない。
でも、せっかく手に入れたんだから、解明したい気持ちもある。それがゲーマーだ。
わたしは何気なく、クマモナイトを取り出す。
あれ? こんな色だっけ?
わたしの記憶によると少し変わった丸い鉱石だった。それが真っ白になっている。もう1つも取り出すと、こちらも真っ白だ。
絶対にこんな色じゃなかったよね。
スキルで確認してみる。
クマモナイト、謎の鉱石。
名前も説明も変わっていないが、クマモナイトで間違いないらしい。
「前と違うようだが」
「うん、あれから、一度もアイテム袋から出していなかったけど、前に手に入れた鉱石だよ」
ガザルさんはクマモナイトを手に取る。
「不思議な石だな」
わたしはガザルさんほどの驚きはない。だって、クマモナイトだもん。なにが起きても驚かない。
「割って、確かめたくなるな」
「割るのは、最終手段かな。ちょっと、この石は気になるところがあって、割ったり、粉々にしたりはできないんだよね」
クマモナイトって珍しい鉱石だ。二度と手に入らない可能性が高い。破壊して、使い物にならなくなるのは困る。
「たしかにそうだな。そうなると、やっぱり師匠じゃないと分からないかもしれないな」
「その師匠さんなら、わかるのかな?(クマモナイトだけど)」
「師匠は世界中を旅をして、いろいろな鉱石を見ているから、知っているかもしれない。師匠が分からないなら、他に知ることができる者など、わしは知らん」
そんな人なら、一度会ってみるのもいいかもしれない。クマモナイトのことは分からなくても、世界中を旅をしているなら、面白い話が聞けるかもしれない。
「もし、行くようなことがあったら、師匠によろしく言っておいてくれ」
わたしはガザルさんにお礼を言って、お店を後にする。
このまま帰ると、3日で往復したことになるので、時間を潰してから、クリモニアに帰ることにする。
その時間潰しがクマハウスの掃除だ。わたしは王都のクマハウスに戻ってくると、子熊化したくまゆるとくまきゅうを召喚する。そして、くまゆるとくまきゅうに雑巾を渡して、床掃除を頼む。
くまゆるとくまきゅうはゴロゴロと転がったり、雑巾を持って、床を拭いてくれる。
床はくまゆるとくまきゅうに任せて、わたしは布団を集める。そして、エルフの里の神聖樹にあるクマハウスの外に干す。神聖樹のところなら、誰かに見られることもない。神聖樹のところにやってこられるのは結界に入れるルイミンたちぐらいだ。
わたしはミリーラの町、旅用で使った布団などを掻き集めて、干しまくる。クマボックスがあるから、回収するのも簡単だ。クマボックスが無かったら、1つずつ運ばなければならなかった。本当に便利だね。
エルフの里も良い天気で、洗濯日和だ。全てのクマハウスから洗濯物を集め、洗濯をして干す。
わたしは洗濯も掃除も終えると、くまゆるとくまきゅうを連れて神聖樹の下に向かう。そして、わたしはくまゆるとくまきゅうを元の大きさに戻すと、ベッド代わりにして、昼寝をする。
そして、夕方になる頃、目を覚まし、慌てて、布団や洗濯物を片付けることになった。
日数を適当に調整してクリモニアに戻ってくると、次の休みのときにお店組メンバーにお店に集まるようにお願いする。朝から集まったのはお店組メンバーの6人にフィナにシュリの子供組になる。
「ユナお姉ちゃん。みんなを集めていったいなにをするんですか?」
「ちょっと、珍しい卵が手に入ったから、みんなでプリンを作ろうと思ってね」
「珍しい卵ですか?」
「ジャジャーン」
わたしは声と一緒にクマボックスから大きな卵を出す。
「…………」
「…………」
「…………」
あれ、子供たちの反応が薄い。
「あれ、もしかして、大きな卵って珍しくない?」
でも、普通の卵が珍しかったんだから、そんなことはないよね?
「これ、卵なの?」
「え~、嘘だ~。そんな大きな卵なんてないよ~」
「きっと、大きなコケッコウがいるんだよ」
「おまえ、知らないの。ドラゴンの卵だよ。ドラゴンは大きいって言うからドラゴンの卵だよ」
「ドラゴンなんて見たことが無いよ」
どうやら、卵って分からなかったみたいで、反応に困ったみたいだ。
子供たちはカルガモ大の卵を見ていろいろなことを言い出す。ドラゴンってワイバーンのことかな? それともゲームみたいな、凶悪なドラゴンでもいるのかな?
「ユナお姉ちゃん。これ本当に卵なんですか?」
「凄く、大きい」
フィナとシュリもカルガモ大の卵を不思議そうに見て、指で突っつく。
「ドラゴンでもなければ大きなコケッコウの卵でもないよ。湖で泳ぐ大きな鳥の卵だよ」
「大きな鳥さん?」
「う~ん、このぐらいあったかな?」
わたしは手を広げて、鳥の大きさを表現する。
「そんな大きな鳥がいるの?」
「それじゃ、この卵を温めると、大きな鳥さんが生まれるの?」
「う~ん、親鳥がいないから無理かな? それに湖みたいな大きな水がある場所じゃないと育てるのは無理だと思うよ」
「ユナお姉ちゃん、触ってもいい?」
「わたしも」
「いいけど。重いから気をつけてね」
子供たちは恐る恐る卵に触り、持ったりする。
「重い、それに大きい」
「本当に重い」
「次、ぼく」
子供たちの小さな手で持つ卵を、落とさないか心配になる。
「順番だよ。慌てなくても逃げたりはしないから、卵が割れたら、大変だから、気を付けてね」
まあ、フィナとシュリを入れても8人。卵は2つあるから、それほど取り合いになったりはしない。卵は無事に戻ってくる。
「それじゃ、この卵でプリンを作るから、みんなも手伝ってくれる?」
「うん」
「手伝うよ」
「でも、どうやって卵割るの? 硬いよ」
ダチョウの卵を割るときはトンカチなどの硬い物で叩いて、穴を空けて、中身を取り出すのを見たことがある。だから、わたしは前もって用意していたトンカチをクマボックスから取り出す。
「これを使うよ」
「トンカチで割るの?」
「穴を空けるが正解かな。わたしも初めてだから、やり方があっているかどうかわからないけど」
この世界に違う方法が存在するかもしれないが、知らないので、トンカチで穴を空けることにする。
クマさんパペットの口にトンカチが咥えられる。そして、コンコンと軽く叩くが割れない。もう少し力を込めて叩くと、卵にひびが入る。
「割れた?」
「もう少しだね」
もう一度軽く叩くと穴が開く。
「卵を入れるボウルを持ってきて」
「はい」
ボウルを受け取ると、穴から卵の中身を取り出す。でも、上手に取り出すことはできず、黄身が崩れた状態になってしまった。
「ああ、黄身がくずれちゃった」
子供たちは黄身が潰れてしまったため、残念そうにする。
うーん、あとで他の子供たちに、卵を見せてあげようと思って、穴を小さくしたのが失敗だったみたいだ。
今度は穴を大きくして、黄身も綺麗な状態で取り出すと、子供たちから歓声があがる。
「大きい」
「これが、大きな鳥さんになるんだね」
「鳥さん、見たかったな」
見せてあげたいけど、連れていくことはできないから無理かな。鳥をクマの転移門で連れてくることはできるけど、育てるわけにもいかないから、食材になる。コケッコウも食べているから、問題はないけど。なんだかな~って感じになる。
「ほら、プリンを作るから、掻き回すよ」
わたしが黄身を潰すと「あ~」「潰れちゃった」と残念がる言葉が出てくる。
「手伝ってくれるんでしょう。道具やカップの用意も忘れないでね」
わたしたちは手分けをして、カルガモ大の卵でプリン作りを始める。
ダチョウの卵は鶏の卵の約20倍ぐらいあると聞いたことがある。卵1個からプリンは2個作れるので、大きな卵は2個あるので、80個作れることになる。
あくまで、単純計算だ。でも、多少増減しても孤児院の子供たちや関係者に配る数は確保できる。
そして、みんなの協力の上、カルガモ大の卵を使ったプリンが完成した。試食してみたが、濃厚でコケッコウとは違った味のプリンだった。
完成したプリンはカルガモ大の卵の殻を一緒に持って、プリンを配った。プリンの味にも驚いていたが、カルガモ大の卵のほうが驚かれていた。
今度、コケッコウを持ってカリーナのところに行こうかな。
そんなわけで、大きな卵でプリンを作り、ユナはドワーフの街に行くことになりそうです。