353 クマさん、日焼けを回避する (2日目)
昼食は漁師たちが作った料理を食べることになった。
どれも、新鮮な魚介類で美味しい。外で焼いて食べるってことで、味も二割増しで美味しくなった感じがする。モリンさんの美味しいパンも、フィナたちとピクニックに行って食べたときは、数段美味しくなった。食事は外で食べると、いつもより美味しく感じるから不思議だ。
子供たちには魚だけでなく、栄養が偏らないように野菜も焼き、栄養のバランスよく食べさせる。子供たちは満面の笑みで食べている。漁師のみなさんに感謝しないといけない。
料理をご馳走になったのに、明日もダモンさんたち漁師に迷惑をかけることになっている。
「本当にいいの?」
わたしは食事の準備をしているときにやってきたユウラさんに尋ねる。ユウラさんは持ってきた野菜や魚を焼いている。
「船のこと?」
明日、漁師の船に子供たちを乗せてもらうことになったのだ。
それは漁師の1人が側にいた子供に「船に乗りたいか」と尋ねたのが発端だった。尋ねられた子は、遠慮がちに「乗りたい」と答えた。すると漁師が「乗せてやる」と言ってしまう。すると周りにいた子供たちは手を挙げて「自分も」「わたしも」「僕も」とどんどん増えていく。そこに他の漁師も会話に参加し始めると、騒ぎが大きくなる。
わたしは迷惑になると思って、止めに入ったけど。子供たちが悲しそうな顔をするし、漁師たちは子供たち側に付くし。わたしが悪者になりかけた。
子供だけでも30人はいる。さらにリズさんやエレナまで乗りたそうにする。わたしはため息を吐くと、大人たちの言うことを聞くことを条件に許した。漁師のみんなにも子供たちが危ないことをしたら、注意することをお願いする。子供たちは海が初めてで、船に乗るのも初めてのことだ。どんな行動をすると危険なのか理解していない。ちょっとしたことで、海に落ちる可能性だってある。だから、大人たちの言うことは守るように約束させる。
まあ、ギルやルリーナさん、アンズたちも付いていってくれると言うから大丈夫なはずだ。
そんなわけで、最終的には大人たちも一緒に行くことになったので、かなりの大人数となった。
「そんなに気にしなくても大丈夫よ。みんな、ユナちゃんのために何かをしたいのよ。直接、ユナちゃんに何かすると、クロ爺に怒られるから、ユナちゃんの代わりに子供たちに何かしてあげようと考えたのよ。それにユナちゃん、子供たちのことを楽しそうに見ているんだもん。だから、子供たちを喜ばせればユナちゃんが喜ぶと思っているのよ」
男たちは単純だからね。と小声で言うとユウラさんは笑う。
つまり、子供たちはわたしの代わりってことみたいだ。でも、わたしのところに直接に来ないってことは、よっぽど、クロのお爺ちゃんのことが怖いらしい。クロのお爺ちゃんには本当に感謝しないといけない。
でも、子供たちになんでもかんでも与えるのは、良くない。お願いすれば、なんでも聞いてくれると思ったら大変だ。
このことをクマハウスに帰ったときに、院長先生やティルミナさんに話したら、「ユナさんが言われても」「ユナちゃん、自分がしてきた行動を思い返してみて」と言われてしまった。
わたし、甘くないよ。あくまで、ギブアンドテイクだよ。子供たちが頑張っているから、与えているだけだ。でも、ティルミナさんたちの目には、そのようには映っていないようだった。
おかしい。
「でも、ユウラさんはわたしに近寄って大丈夫なの? 他の人になにか言われたりとか」
「それは大丈夫。なんたって、ユナちゃんを連れてきたのはわたしたちだからね。だから、特別」
もしかして、ユウラさんやダモンさんはわたしを連れてきたことで、感謝される側にいるのかな?
「感謝なんてされていないわよ。ユナちゃんと会ったのは偶然だからね。でも、ユナちゃんと親しくしても文句は言われない程度には大丈夫かな? でも、それも度が過ぎると文句は言われるけどね」
ユウラさんは笑いながら言う。
「でも、船に乗せてもらって、漁は大丈夫なの?」
「朝は忙しいけど。漁から戻ってくれば魚を販売するだけだからね。販売は他の者に任せれば良いだけだから、そんなに気にしないでも大丈夫よ」
なら、いいけど。
船に乗るのも貴重な経験だ。もしかすると、子供たちの中に漁師になりたいって言う子もいるかもしれない。そんな子がいたら、漁師の仕事を見せてもらうのも良いかもしれない。漁師の仕事は大変だって聞くからね。
そして、昼食も終え、漁師たちは片づけをすると去っていく。
漁師のいきなりの登場に驚いたけど、子供たちにはサプライズになったようで良かった。
午後も、お腹が一杯になった子供たちは海で泳ぎ、砂浜で遊び、くまゆるやくまきゅうに乗って遊ぶ。くまゆるとくまきゅうはノアが我慢できなくなって、頼みに来たのだ。わたしは孤児院の子供たちと一緒に遊ぶなら良いと言ってくまゆるとくまきゅうの貸し出しの許可を出した。
わたしはもう一度、泳ぐために水着姿になって、フィナやシュリと遊ぶが、すぐに体力の限界が来て、海の家に戻ることになる。本当にクマ装備が無いと子供以下の体力だ。
少しは鍛えないとダメかな?
でも、やったとしても、三日坊主で終わるのが想像がつく。
そして、誰も怪我をすることもなく、日が暮れる。それと同時にわたしの体力は限界にきていた。わたしは一日の疲れを取るためにお風呂に入ることにする。
今はクマ靴を履いているからいいけど、クマ靴が無ければ一歩も歩きたくないほど疲れている。明日は筋肉痛になるかもしれない。そうなったら、魔法で治すことはできるのかな?
魔法で筋肉痛を治す。そんなことを考える異世界転移者はわたしぐらいなものかもしれない。
とりあえず、今はお風呂で体を休めるために、フィナたちを連れてお風呂に向かう。
「みんな、ありがとうね」
お風呂の準備をしてくれたのはフィナやシュリ、昨日の約束を守ったノアたちだ。
みんなから「部屋で休んでいてください」と、優しい言葉をもらって、休ませてもらった。そして、お風呂に入れるようになったので、4階の脱衣所にやってくる。
わたしがゆっくりとクマの着ぐるみを脱いでいると、ノアたちは素早く服を脱いで風呂場に入る。
そして、わたしがクマの着ぐるみの服を脱ぎ終わり、風呂場に入った瞬間、風呂場に叫び声が響いた。
「なに!? どうしたの?」
「痛いです。痛いです。体がヒリヒリと痛いです」
「うぅ、体が痛い」
声の発信者はノアとミサだった。二人は体を痛そうに擦っている。
「ユナ姉ちゃん。体がヒリヒリするよ」
「体が痛いです」
シュリもフィナも痛そうに体を擦っている。どうやら、日に焼けたせいで、体が痛いらしい。
海にいるときは気付かなかったけど、ノアたちの姿を見れば、日に焼けた水着の跡が残っている。黒い肌と白い肌が見事にくっきりと分かれている。一日中、陽射しの下で遊べば日に焼けて当然だ。
わたしは自分の腕や体を見るが、見事に白い。まあ、海の家で倒れていれば焼けないよね。昼食の間はクマの着ぐるみ姿だったし、陽射しの下には長い間いなかった。そのおかげで日に焼けていない。
「みんな、綺麗に日に焼けたからね。痛いのは仕方ないよ」
「これが日に焼けるってことなんですね」
ノアは自分の日に焼けた体を見る。
「もしかして、ノアは日に焼けるのは初めて?」
「こんなに焼けたのは初めてです」
「ララにいつも日に焼けないために肌を出さないようにとか、帽子を被らされていた理由がわかりました」
ララさんがノアに注意する姿が目に浮かぶ。ミサも同様なことがあるようで頷いている。
まあ、お嬢様が日に焼けることはしないと思うし、仕方ないのかな?
夏は日傘を持って歩くとか?
ちょっと、ヨーロッパ風の貴族の風景を想像してみるが、ノアにはまだ似合わないね。もう少し大人になれば白い手袋をする姿が似合うかもしれない。
「ユナさん、何か失礼なことを考えていませんか?」
ジト目でわたしを見る。
「カンガエテイナイヨ」
わたしはノアから目を離し、フィナたちの方を見る。
「フィナとシュリは大丈夫?」
「少し、痛いです」
「痛いよ」
まあ、フィナもシュリも見事に日に焼けている。痛くないわけがないよね。
でも、4人が痛がる中、1人だけ平気そうに体にお湯をかけてるシアの姿がある。しかも、体を見ると日に焼けていない。たしか、ノアたちと一緒に遊んでいたよね。なんで?
「お姉様は痛くないんですか?」
「わたしは大丈夫。王都で買った薬を塗ったからね」
「薬って、なんですか!?」
ノアが驚いたように尋ねる。
「日に当たっても、痛くならない薬だよ。体に塗っておくと、痛くならないんだよ」
シアが自慢気に答える。
つまり、日焼け止めの薬ってこと? そんな物があるの?
「そんな物があるなら、どうして教えてくれなかったんですか!?」
「だって、自分で経験しないと分からないでしょう。ノアもミサも日焼けぐらいは一度は経験はしないと。でも、綺麗な女性を目指すなら、塗らないといけないけどね」
シアは自分の白い腕をノアに見せる。
「お姉様、意地悪です」
ノアは膨れっ面をする。
「子供のうちにいろいろと経験しないとね」
シアはお湯が入った桶をノアとミサにかける。二人は叫び声をあげる。
今のはさすがに酷いと思うよ。
ノアはお湯をかけたシアに怒り出す。
わたしは疲れているんだよ。お風呂ぐらい静かに入ろうよ。
それから、ノアたちはぬるめのお湯に入ることになった。
「もしかして、ユナさんも薬を塗っているから白いんですか?」
シアがわたしの日に焼けていない体を見て尋ねる。
わたしの場合は、体力がなく、海の家に引きこもっていただけだ。
今回は体力がないことに感謝かな?
でも、日焼けって治療魔法で治せるのかな?
そして、わたしたちの後に入った他の子供や大人たちも、お風呂に入ると風呂場に悲鳴が響いたと言う。風呂を上がった子供たちにアンズたちが薬を体に塗ってあげている姿があった。痛み止めらしい。
「絶対にこうなると分かっていたからね」
「わたしたちも通ってきた道だからね」
アンズやセーノさんが笑いながら子供たちの体に塗る。
まあ、海の町で育てば、日焼けぐらい何度もするよね。
治療魔法?
シアの言葉じゃないけど、日焼けも経験だよ。数日もすれば日焼けも気にならなくなるはずだ。
ユナは日焼けを無事に回避することが出来ました。
そして、子供たちは船に乗せてもらうことになりました。