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くま クマ 熊 ベアー 作者:くまなの

クマさん、従業員旅行に行く。

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352 クマさん、気付かれない (2日目)

 わたしが海の家の外に出ると、荷物を持った男性や女性が砂浜を歩いている。別に文句を言いに来たわけじゃなさそうだ。誰もかもが笑顔だ。
 服装からすると漁師かな? 港で見たことがある。

「お~い、子供たち、これから美味しい料理を作ってやるから、楽しみにしてろよ~」

 男性の1人が海辺にいる子供たちに向かって叫ぶ。遊んでいた子供たちは騒ぎに気付いて集まってくる。
 ああ、知らない人のところに行っちゃダメだよ。でも、ギルやルリーナさんたちも一緒だから、大丈夫だと思うけど。たまに無邪気な子供の行動を見ると不安になる。だからと言って、人間不信になって欲しくない。優しい人も多くいるから、強く言えない。
 その辺りは院長先生とリズさんに、それとなく言っておくことにする。

「なに、ごはん?」
「おさかながたくさんだ~」
「おお、今から美味しいの作ってやるからな」

 男性は子供の頭を軽く撫でると、料理場を作り始める。
 その様子を子供たちが楽しそうに見ている。とりあえず、ギルやルリーナさんたちには子供たちが邪魔をしないようにと言っておく。
 でも、どう言うことなの?
 わたしは後ろに付いて来ているフィナに尋ねる。

「フィナ、何かティルミナさんから話は聞いている?」
「いえ、何も聞いていないです」

 だよね。ティルミナさんは朝早くから町に行き、戻って来ていない。それはモリンさんやアンズたちも同様だ。今朝の時点では何も聞いていない。
 状況を確認するためにわたしは、先程の男性に尋ねることにする。

「あのう、どう言うことですか?」
「嬢ちゃんたち、クマの格好をした嬢ちゃんの知り合いだろう」

 クマの嬢ちゃんって、わたしのことだよね。それなら、本人が目の前にいますよ。でも、いちいち名乗るのは面倒なので、頷いておく。

「それで、クマの嬢ちゃんが沢山の子供たちと、海に来ていることを聞いて、料理を作りに来たんだ」
「誰から聞いたの?」
「嬢ちゃんもここにいるってことは、アンズちゃんのことは知っているよな。そのアンズちゃんから、話は聞いた」

 どうやら、情報漏洩の元はアンズだったみたいだ。

「それで、クマの嬢ちゃんはいないのか? 一応、許可を貰いたいんだが」

 目の前にいますよ。でも、名乗れば騒ぎになりそうだし、信じてもらえなかったときのダメージは深手になりそうなので、黙っておく。横ではフィナが、珍しく笑いを堪えている姿がある。

「それならわたしから、伝えておきますよ」
「そうか? それじゃ頼む。でも、一応、クマの嬢ちゃんには顔を出して欲しいって言っておいてくれ」

 わたしは男性から離れる。
 さて、どうしたものかと思って周囲を見ていると、今回の騒ぎの犯人のアンズやセーノさんたちの姿を見つける。アンズはキョロキョロと辺りを見渡しながら、わたしのところにやって来る。
 わたしはアンズに声をかけようとしたが、アンズはわたしをスルーして、隣にいるフィナに話しかける。

「フィナちゃん。ユナさんがどこにいるか知っている?」
「ユナお姉ちゃんですか?」

 だから、わたしならフィナの横に立っているよ。先ほどの男性と同じ反応をされる。尋ねられたフィナは困ったようにチラッとわたしの方を見る。

「漁師のみんなが昼食を作ってくれることになったんだけど。そのことをユナさんに話そうと思ったんだけど」

 やっぱり、漁師の人たちだったんだね。でも、話なら漁師の人に聞いたから知っているよ。

「ほら、ユナさんは目立つ格好をしているのに、目立つことを嫌うでしょう。漁師のみんなもユナさんに会いたいみたいなことを言っているし、どうしたらいいかと思って」

 どうしたらいいかって、もう断れないし、漁師のみんなは料理の準備に取り掛かっているよ。

「だから、フィナちゃん。ユナさんがどこにいるか知らない?」

 フィナは困ったようにチラチラとわたしのことを見るので、アンズに声をかけることにする。

「アンズ」
「…………えっと、なにかな?」

 アンズは首を傾げる。やっぱり、わたしだってことはわからないらしい。わたしはクマさんパペットを見せて、足元にいるくまきゅうを抱きかかえてみる。

「もしかして、ユナさんですか?」

 やっとアンズもわたしだということに気づいてくれたみたいだ。

「クマの格好をしていないから、一瞬誰か分かりませんでした」

 いや、一瞬どころか、クマさんパペットとくまきゅうを見せなかったら、分からなかったよね。
 そんな言い訳、わたしには通用しないよ。

「一応、状況は分かっているつもりだけど、聞いてもいい?」
「それが、家に顔を出したあと、食材を買いに行ったんです。それでユナさんが来ていることを話したら、代金はいらないって、みんなが言い出して。でも、悪いと思って断ったんです」

 うん、それはアンズの反応は正しい。

「それじゃ、なんでこんなことに?」
「それなら、料理をごちそうするならいいだろうってことになって。でも、子供たちも沢山いるから、断ろうとしたら、他の漁師の方も参加し始めて……、こんな状況になりました」

 アンズは料理の準備をしている漁師たちを見る。
 海辺には10人以上の漁師がいる。

「その、ごめんなさい」

 しょぼくれるアンズ。
 どうして、こんな状況になったかはわかった。アンズが悪いわけでもない。だから、アンズを怒るつもりはない。
 それに、わたしがミリーラに来れば、遅かれ早かれ、同じ状況になった可能性はある。初日は海へ遊びに行かないで、ギルドに顔を出して、騒ぎにならないように言っておくべきだったかもしれない。
 砂浜では漁師たちが料理を作りだし、子供たちも喜んでいるので、今日はお言葉に甘えさせてもらうことにする。でも、わたしが来るたびに騒ぎになっても困るので、後でこのようなことは二度としないようにお願いをするつもりだ。

 準備の様子を見ていると、あらたに別の人が荷物を持ってやって来る。その中に見覚えがある人物がいた。雪山で救ったダモンさんだ。
 ダモンさんがわたしに気づいて、こちらにやってくる。

「アンズちゃん。クマの嬢ちゃんはいないのか? 久しぶりに会うから、挨拶をしたいんだが」

 どうやら、わたしでなく、アンズを見かけたから、来たらしい。
 これで今日、何度目のやり取りかわからない。誰も、わたしだということに気づかない。少し、寂しくなってくる。
 いつもは目立つのが嫌だと思ったりしているのに、気づかれないと寂しいと思ったりしている自分がいる。自分のことだけど、我が儘なことだ。

「えっと、目の前にいるのがユナさんです」

 尋ねられたアンズはダモンさんにわたしの正体を明かす。

「…………クマの嬢ちゃんか?」

 驚いた表情でわたしを見つめる。
 まるで、信じられないものを見るかのようだ。
 そんなに水着姿が似合ってませんか?

「クマの格好をしていなかったから、分からなかったぞ。でも、あのクマの中身が、こんなに可愛らしい嬢ちゃんだったとはな」

 あらためて、ジロジロと水着姿を見られると恥ずかしい。わたしは一歩下がる。

「それにしても、久しぶりだな。家を作ったんだから、もう少し町に来てもいいんじゃないか? ユウラも会いたがっていたぞ」
「まあ、色々と忙しくてね」

 クラーケンを討伐してから、いろいろとあった。シアたち学生の護衛の仕事をしたり、アンズのお店を作ったり、ゴーレム討伐。ぬいぐるみを作って王都に行ったり、ケーキを作って、ミサの誕生会に行ったり、エルフの里に行ったり、学園祭に行ったり、砂漠に行ったりと、思い返すだけでも、本当に短い間に色々とやっている。わたし、働き過ぎじゃない?

「あとでユウラも来るはずだから、会ってやってくれ」
「うん、わたしも会いたいしね」
「それじゃ、俺たちが昼食を用意するから、たくさん食べてくれ」

 ダモンさんは行ってしまう。
 それから、昼食を作りに来てくれた人たちは、キョロキョロと何かを探しながら準備をしている姿がある。あれって、間違いなくわたしを捜しているんだよね。
 初めに会話をした男性といい、アンズといい、ダモンさん。その前で言えば子供たちにギル。誰もわたしと気付かない。それなら、誰でも気付く格好をするしかない。
 わたしは無言で海の家に戻り、更衣室の中に入るとクマの着ぐるみを着る。そして、クマの着ぐるみを着たわたしは海の家の外に出る。すると全員の視線がわたしに集まる。

「クマの嬢ちゃん、そこにいたのか」
「捜したぞ」
「相変わらずの格好をしているな」
「どこにいたんだ」
「ああ、ユナお姉ちゃん」
「クマさんだ~」

 漁師と子供たちの反応が一斉に変わる。
 さっきから、目の前にいたし、相変わらずの格好って、さっきまで水着姿だった。誰も気づかないから、クマの着ぐるみの服を着たまでだ。
 それに子供たちが嬉しそうにしているのは気のせいだろうか。きっと、気のせいだ。

「アンズから話は聞いたけど、ありがとうね」
「気にするな。美味しい料理を作ってやるから、食べてくれ」

 男性の言葉に全員が頷く。
 囲まれて、クラーケンのことを礼を言われたりすると思ったけど、そんなことはなかった。遠くから声をかけるぐらいで、近寄って来たりはしない。

「たぶん、クロお爺ちゃんにユナさんに迷惑になることはするなって言われているからだと思います」

 アンズが苦笑いしながら、教えてくれる。あのお爺ちゃん、影響力あると思ったけど。本当にあるんだね。
 町の有力者の1人って言っていたっけ。あとでお礼を言わないといけないかな?

「ユナさん、人気者ですね。この町でなにをしたんですか?」

 シアがノアたちを連れてやって来る。

「クリモニアに繋がるトンネルを発見しただけだよ」

 シアやノアがクリフやエレローラさんにどこまで聞かされているかわからないけど。そう答えておく。ミサやマリナたちも側にいるから、下手なことは言えない。

「だから、トンネルの前にクマがあったんですね」

 シアは少し含みがある顔をする。もしかして、聞かされている?
 でも、こんな人がいるところでは確認はできない。シアも聞いてこないので、わたしも答えるつもりはない。

「でも、ユナさん。いつものクマさんの格好に戻ったんですね。水着姿も良かったけど。クマさんの格好がユナさんらしいです」
「わたしもそう思います」

 ノアに続きミサまでが、そんなことを言う。
 みんなの頭の中ではクマ=わたしと公式が出来上がっているみたいだ。
 もう、そんなことを言うと脱がないよ。

タイトル通り、クマさん、気づかれませんでしたw
まあ、ミリーラの人は1~2回しか会ったことが無いから、仕方ないですね。

次回、書籍の緊急修正が無ければ通常通り3日後に投稿します。

場所によっては6巻の予約が始まっています。店舗購入特典SSの配布内容は未定になっています。分かり次第、報告させて頂きます。
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