287 クマさん、水着のイラストを描く
「それで相談って、何?」
ティルミナさんは今度は何を言い出すのかしら的な表情をする。
そんな、人が毎回、面倒ごとを持ってくるような目で見ないでほしい。
まあ、今回は実際に面倒ごとだから否定はできないけど。
「働いているみんなで、海に旅行に行こうと思って、その相談です」
わたしの言葉にティルミナさんは「やっぱり、変なことを言ってきた」的な顔をした。
「一応、確認をするけど、みんなって、どこまでが入っているの?」
「みんなって言ったら、みんなですよ。孤児院の子供たちはもちろん、アンズやモリンさんのお店で働くメンバー。もちろん、ティルミナさんやフィナたちも入っていますよ」
あとはノアぐらいかな?
わたしの言葉にティルミナさんは呆れたように口が開きっぱなしになる。
「ユナちゃん。いったい何人いると思っているの? それに、その間はお店はどうするの?」
ティルミナさんは即座に問題点を取り上げる。
「お店は休みにしますよ」
「卵は? 毎日生まれるのよ。それに商業ギルドに卸す契約もあるし」
「そのことなんですけど。以前、ミレーヌさんが他のところで卵を増やすって言ってましたよね」
「ええ」
「それで、孤児院で鳥の面倒の見方をいろいろと教えているんですよね」
「だけど、今はいないわよ」
それは別に問題ではない。
「その人を旅行の間だけ、しばらく借りられないかなと思って。もちろん、全員じゃなくて、数人借りて、足らないところはミレーヌさんの商業ギルドから借りれば大丈夫だと、思っているんだけど」
ティルミナさんはわたしの言葉に考え出す。
わたし的には良い考えだと思うんだけど。
「それに商業ギルド職員を借りれれば、卵を全て引き取ってもらえるでしょう」
卵の価格が一時的に下がったとしても無駄になるよりはよい。
「確かにそうだけど。もしかして、その調整をわたしに」
「ティルミナさん、お願いしますね」
「ユナちゃん……」
細かい面倒なことはティルミナさんに任せるのが一番だ。
ティルミナさんが呆れた顔でわたしを見るのはいつものことだ。
「それで、予定は? すぐには無理よ」
「もう少し暑くなってからですね。他にも準備することがありますから。だから、ティルミナさんはミレーヌさんと相談しておいてもらえますか?」
人員の確保ができなければ、別に方法を考えないといけない。交代で行くことも考えたけど、遊ぶならみんな一緒が良いに決まっている。組み合わせによっては仲が良い友達と分かれる可能性も出てくる。
それだと、楽しさは半減してしまう。遊ぶなら、仲が良い子と一緒に遊んだ方が良い。
それに裸や普通の服で泳ぐわけにはいかないから、水着の用意もしないといけない。何よりも、もう少し暑くならないと、海に行く意味がない。
「あと、移動はどうするの? それだけの人数になれば大変よ」
ああ、確かに移動のことは考えていなかった。馬車を数台用意すればいいかな?
それとも、前に盗賊を捕らえたときみたいに、土魔法で馬車を作って、クマゴーレムで運ぶ手もあるけど。乗り心地ってどうなんだろう?
あのときは何も考えずに作ったから、乗り心地は悪かったけど。ちゃんと作れば、乗り心地が良い馬車は作れるかな?
う~ん、どうするかな。
「まだ、時間はあるから、移動方法はあとで考えます。とりあえず、鳥の管理が可能か確認をお願いしていいですか?」
「はぁ、わかったわ。それじゃ、日時が決まったら教えてね。確認だけはしておくから」
ティルミナさんの言葉にフィナとシュリは嬉しそうにした。
なんだかんだで、了承してくれるティルミナさんに感謝だ。
次に水着の相談をするためにシェリーが働いている裁縫屋に向かう。
お店の中に入ると仕事をしているナールさんがいる。そして、店の中に入ってきたわたしに気付く。
「ユナちゃん、いらっしゃい。今日も可愛い格好ね。今度、うちでも作ってみようかしら」
「止めてください。もし作ったら、店、壊しますよ」
「ユナちゃんに言われると、本当に壊しそうね」
絶対に壊しますよ。
街の中にわたしの格好をした人が大量に現れたら、トラウマものだ。
「それで、今日はどうしたの? ぬいぐるみを取りに来たの?」
くまゆるぬいぐるみとくまきゅうぬいぐるみはシェリーに時間があるときに作ってもらっている。
何だかんだで人気があり、欲しがる人が多い。
「今日は別件でシェリーに頼みたいことがあるんだけど、お借りしても大丈夫ですか?」
「う~ん、今日はちょっと無理かも。急な仕事が入って、奥で夫と一緒に仕事をしているわ。明日なら大丈夫だと思うけど、急用?」
わたしは首を横に振る。
特に急いではいない。でも、早い方が良いことは間違いない。
「それじゃ、明日でいいので、シェリーを貸してもらっていいですか?」
「ちょっと待ってね。確認だけしてくるから」
ナールさんは奥の部屋に行くと、すぐに戻ってくる。
「大丈夫だって」
「それじゃ、シェリーに、明日わたしの家に来るように伝えてもらえますか?」
「ええ、伝えておくわ。時間は?」
「いつでもいいけど。早い方がいいかな」
わたしはくまゆるぬいぐるみとくまきゅうぬいぐるみを引き取ると、店を後にする。
翌日、フィナとノアを呼んで、シェリーを待つ。シュリはティルミナさんと一緒に仕事があるそうだ。
「ユナさん。これが水着ですか?」
わたしが描いた水着のイラストをノアが覗き込む。
テーブルの上にはノアやフィナをモデルとして、水着が描かれているイラストが置いてある。基本、孤児院にいるのは子供が多い。だから、フィナたちをモデルにして描いてみた。少し漫画チックになっているが、これは仕方ない。
水着の参考になればと思って描いてみたけど、実際に水着を買いに行ったことも、海やプールに行ったこともないから、水着には詳しくない。わたしが参考にして描いたのは漫画やアニメ、ゲームで見た物や想像で考えた水着になる。だからと言って本物とそれほど変わらないはず。
わたしはノアのイラストを元に複数の水着を描く。それをフィナたちが横から見ている。
まずはビキニを数種類描いてみる。頭に水着は浮かぶけど、名前は分からない。でも、適当に描いていく。後ろ姿も描くので少し面倒だ。この辺りは大人用になるのかな? 子供でも大丈夫かな?
無難な水着を描いていく。エロい水着は1つもない。子供が中心で着る水着だし、そもそも自分が着たくない水着は描かない。そもそも、エロい水着を好き好んで着るなんて、アトラさんぐらいだ。
「なにか、恥ずかしいです。でも、このヒラヒラしたスカート短くありませんか?」
「まあ、水着だから気にしないで」
ノアは描かれていく水着を見ながら恥ずかしそうにする。水着だけを描いても良いか分からない。まあ、マネキンのようなものだ。
ノアだけを描くとあれなので、今度はフィナのイラストを元にスク水やワンピース系を描いていく。ワンピースはフィナに似合うかな?
スク水はシュリとか?
「これを着て泳ぐんですか?」
「恥ずかしくありませんか?」
「まあ、これで街の中を歩くのは恥ずかしいけど。海で泳ぐ場合は泳ぎやすいからね。服とかじゃ、泳げないし、溺れる原因にもなるからね」
まあ、アンズに聞けばサラシを巻いて泳ぐらしいから、それほど変わらないはず。
「ユナさん。クマの格好した服はないんですか?」
「…………クマ?」
一瞬、ノアが言っていることが分からなかった。水着にクマって、そんなの元の世界でも聞いたことないよ。
「はい。ユナさんなら、クマの形をした水着があるかと思ったんですが」
「そんなのないよ」
あっても作らないよ。
「尻尾を付ければ」
いやいや、尻尾を付ければクマになるってわけじゃないよ。
クマなら、せめて足と手と耳は欲しい。ノアに言われてフィナのイラストにクマの手と足を付けて、最後にクマの水着帽を付けてみる。普通の水着にクマの手と足と頭を付けただけになる。そもそも、手と足がある水着ってなに?
泳ぐのに絶対に邪魔だよね。
描いたクマの水着のイラストは丸めてゴミ箱に捨てる。
「あ~~~~~、なんで捨てるんですか!」
「水着じゃないから」
「もったいないです」
そもそも、クマの水着なんて作るつもりなんてない。騒ぐノアをほっといて、元の世界の水着を思い出しながら描いていく。昨日から描いて、水着のイラストが数十点、描き終える。下書きだけとはいえ、流石に疲れてくる。一番大変だったのが、男の子の水着。これって、パンツを描けばいいのかな?
男の子の水着を適当に描いていると、シェリーが家にやってきた。
「いらっしゃい」
少し緊張した感じで、クマハウスの中に入るシェリー。そして、部屋の中にノアとフィナがいることに驚く。
「フィナちゃんにノアール様!?」
「二人にはシェリーに作ってもらう服を見てもらっていたんだよ」
シェリーに海に行くことを話し、海で泳ぐ服。水着を作って欲しいことを話す。
「孤児院のみんなで海ですか!?」
「うん、もちろん、シェリーも一緒に行くからね」
「でも、仕事が」
「あとで、ナールさんたちに許可をもらわないとね」
一人だけ、行けないのは可哀想だ。それにナールさん夫婦なら、駄目とかは言わないと思う。
そして、シェリーに描いた水着のイラストを見せる。
「これは下着ですか?」
「違うよ。水に入るための服だよ」
「そうなんですか?」
まあ、水着があったとしても、孤児院じゃ購入することもできないから、着ることもなかったと思う。
「それで、シェリーにイラストにある水着を孤児院のみんなや、お店で働くみんなの分を作ってほしいんだけど」
「全員ですか?」
イラストをみながら尋ねてくる。
「うん。せっかく海に行くんだから。泳げなくても水遊びはできるからね」
「それじゃ、これは仕事になるんですよね?」
シェリーの顔が少しだけ、仕事をする大人の表情になる。
「うん、仕事だよ。ナールさんたちに許可をもらうつもりだから」
「それで、作ることはできるかな?」
「はい。大丈夫です。急ぎの仕事はありませんし、これが仕事になりますから」
数が多いから、ダメだと他の案を考えないといけなかったから助かる。
「それで水着を作る布地なんだけど。水に濡れても透けたりしないで、破けたりしないで、乾きやすくて、少し伸縮性がある布で作ってもらえる?」
「そんな布、あるかな…………」
わたしの要望にシェリーは考え出す。
まず透けたらアウトだ。破けてもアウト。乾かしやすいと良い。そして、ある程度、伸縮性があれば、若干のサイズのズレがあっても困らない。
「ちょっと、テモカさんに聞いてみないと分からないです。あったとしても布は高いと思います」
値段は気にしないけど。
布か、そういえばわたしは布を持っていたことを思い出す。
「これって使えるかな?」
わたしはクマボックスから、糸と布を出す。
「これは……」
シェリーはわたしが出した布を見る。
「な、なんですか。この高級な布地は!?」
シェリーは布地を気持ち良さそうに触る。
前にシアたち、学生たちを護衛の依頼をしたときに、黒虎を倒したお礼として、村の村長から貰ったものだ。
巨大な蚕の化け物を見たときはトラウマものだったけど、見た目と違って、高級品として高く取引がされるとシアが言っていた。
「うちの店にあるどの布よりも、肌触りがいいです」
「前に仕事をしたときに手に入れたんだけど、どうかな?」
「ちょっと、水に濡らしてもいいですか?」
わたしが了承すると、フィナがコップに水を入れて戻ってくる。
シェリーはフィナにお礼の言葉を言うと、水を垂らして布を確認する。
そして、薄さや強度を確認している。その目は真剣だ。もしかして、服の作り方以外にも布の勉強もしているのかな?
「これで作れそう?」
「はい。大丈夫です」
大丈夫そうなので、わたしは持っている布や糸を全部シェリーに渡す。
材料費を出すから、少しは安くなるかな。
「それで、どれを作ればいいのですか?」
テーブルの上に散らばるイラストを見ながら尋ねる。
「みんなに聞いて選んでもらって。でも、全員が同じになるのは却下だから、なるべく分けてね?」
せっかく描いたのに全員が同じだったら、つまらない。同じ物にすればいいならスク水だけで良かったことになる。
「ここから、好きなのを選んでいいんですか?」
わたしの言葉にノアが反応して、水着が描かれたイラストを選び始める。それから、三人はわたしが描いたイラストを見て協議し始める。
卵を他の場所で作る理由は、孤児院のみんなで海に行くだけのために作られた話でした。
鳥のお世話の仕方を教えたのだから、恩を返してもらうことになりました。
そろそろ、いろんなところで4巻の予約が始まっていますね。
店舗購入特典も書かせてもらっていますが、まだどこにどの話が配布されるかわかりません。
分かり次第、活動報告に書かせてもらいます。
でも、電子版はデーガさん編って書いてありますねw