242 クマさん、王都に駆けつける
絵本も完成したので、時間を見てフローラ様のところに持っていってあげたいところだ。
せっかく描いたんだから、渡さないと意味がないからね。
それにフローラ様にも最近会っていないし、泣かれても困る。
でも、絵本を持っていくならエレローラさんに渡した方が良いのかな? 複写して印刷するだろうし。
フローラ様に渡したら、しばらくは離してくれそうもないし。
まあ、王都に行ったときにでもエレローラさんに相談でもすればいいかな。
近いうちに王都に行くことを考えていたら、部屋の窓に大きな鳥がとまっているのに気付いた。
一瞬、鷹がなんで! と思ったがすぐにその鳥の正体を思い至った。
サーニャさんの召喚鳥のフォルグだっけ?
窓を開けると、フォルグは部屋の中に入ってきて、椅子の背もたれの部分にとまる。
フォルグを寄越すってなにかあったのかな?
フォルグを見ると足に手紙がくくり付けてある。
これってサーニャさん、見えているのかな?
足から手紙を取る。
「ありがとうね」
一応お礼を言うと、フォルグは「クエ~」と鳴くと飛び去っていく。
わたしはフォルグを見送ると窓を閉めてサーニャさんの手紙を広げる。
『ユナちゃん。王都に変なお店ができたんだけど、ユナちゃんに関係があるのかしら?』
変なお店ができたからって、どうしてわたしが関係があることになるのよ。
建物関係でわたしがしたことはクマハウスを建てたことぐらいだ。
クマハウスはお店じゃないし、勘違いすることもない。
手紙の続きを読むと、答えは次の文章に書かれていた。
『お店の前に大きな熊の置物があって、看板にも「くまの憩いのレストラン」って書いてあるんだけど』
そこまで読んだわたしは頭を抱える。
それって考えるまでもなく、間違いなくあれだ。
「食べ物屋」「クマの置物」「看板の名前」
そして、エレローラさんとゼレフさんがわたしのお店を見に来た。
それらの言葉から導き出される答えはプリンを出すために作っている新しいお店しかありえない。
それ以外だったら、著作権の侵害で破壊する。夜中に気付かれないように壊すよ。
『気になったのでフォルグがユナちゃんのところまで飛んでいけるか、確認をするために手紙を書かせてもらったわ。関係無いようなら気にしないでね』
わたしは手紙を机の上に放り出すと、クマの転移門を使って王都に向かう。そして、クマハウスを飛び出し、真っ直ぐに冒険者ギルドのサーニャさんのところに向かう。
エレローラさんにどこにお店を作るか聞いていないから、どこにお店があるか知らない。
どこにお店を開くか、聞いておくべきだったと後悔する。
今は場所を知っているサーニャさんのところに向かう。
勢いよく冒険者ギルドに入ると、視線がわたしに集まる。
「クマだ」「クマが来た」「目を合わすな」「可愛いクマが入ってきたぞ」「あれが噂の?」「いいから、関わるな」「本当にクマの格好をしているわ」
なにかいろいろと言われているが、真っ直ぐと受付に向かう。
「なにか、御用でしょうか?」
「サーニャさんに会いたいんだけど、会える?」
「ギルドマスターですか? お約束の方は?」
「していないけど。ユナが来たって伝えてもらえる。たぶん、それで大丈夫だから」
「わかりました。ギルドマスターに伺ってきますので、少々お待ちください」
受付嬢は席を立つと、奥に向かう。
どうやら、サーニャさんは冒険者ギルドの中にはいるみたいだ。
貸しもあるし、あんな手紙を寄越したんだ。会えないことはないはず。
でも、戻ってきたのは受付嬢の一人だけだった。
もしかして、駄目だった?
「ユナさん、ギルドマスターは部屋の中でお会いになるようです。どうぞ、奥の部屋にお入りください」
どうやら、勘違いだったみたいだ。
わたしは受付嬢にお礼を言って、関係者以外入れない奥の部屋に向かう。
何度か入っているギルドマスターの部屋だ。
ノックして部屋に入ると一番奥の窓際の席で、サーニャさんが仕事をしている姿があった。
「ユナちゃん、いらっしゃい」
少し疲れた表情をしたサーニャさんがわたしの方を見て、迎え入れてくれる。
「なんか、疲れていますね」
「仕事が溜まっていてね」
視線が机にある書類の山に向けられる。
「副ギルドマスターに頼んだって言ってませんでした?」
「通常業務はね。でも、最終確認やわたしにしかできない仕事もあるのよ」
ギルドマスターってやっぱり、大変な仕事なんだね。
わたしは帰ってきてからしたことと言えば、みんなに料理を作ったり、のんびり過ごしたり、絵本を描いたぐらいだ。
それに引き換え、サーニャさんは遅くまで仕事をしていたらしい。
大人は大変だね。
「それにしても、本当に早いわね。ついさっき手紙を受け取ったと思ったのに、もう王都にいるのね」
「そりゃ、あんな手紙を読めばすぐに来ますよ」
「それじゃ、やっぱり、あのお店はユナちゃんに関係があるの?」
「それを確認しに来たんだけど。本当にお店にクマの置物があるんですか?」
サーニャさんの話によると、仕事の息抜きに散歩していたら見つけたそうだ。
「あれをみたときは一瞬だけど、疲れが飛んで笑ったわ」
「笑った……」
この人、クマの置物を見て笑ったって言ったよ。
それってどういう意味かな。
どうして、クマの置物を見て笑うのかな?
それって、わたしを見る度に笑っているってことなのかな?
クマ=わたしは同意語だよね。
クマさんパペットの拳を強く握り締める。
「……じょ、冗談よ。ユナちゃん、そんな怖い顔をしないで」
サーニャさんはわたしの方を見ると慌てたように言い訳をする。
どうやら、わたしは怖い顔をしていたらしい。
「それで、笑ってどうしたんですか?」
「笑ったのは一瞬だからね」
笑ったことは否定しないらしい。
「それで、クマの置物が気になったから立ち止まって見たら、「くまの憩いのレストラン」って看板があったから、ユナちゃんがお店でも出すのかなと思って、手紙を出したわけなんだけど。やっぱり、関係があるの?」
わたしは国王やエレローラさんがプリンや他の料理を気に入り、王都にお店を出すことになったことを話す。
「へえ、あのプリンを出すお店を作るの? それは楽しみね」
どうやら、サーニャさんもプリンは気に入っているみたいだ。
「でも、それがどうしてクマの置物とユナちゃんに繋がるの? たまにだけど、動物を型どった看板はあるわよ。今回だって、たまたまクマの置物を考えただけかもしれないわよ」
「……ですよ」
「うん? ユナちゃん、いまなんて?」
「クリモニアにあるわたしのお店にもクマの置物があるんですよ。たぶん、それの真似をしてエレローラさんたちが作ったんだと思う」
「ユナちゃんのお店にもクマの置物があるの?」
あまり、話したくはないんだけど、簡単にクリモニアにあるわたしのお店のことを説明する。
そして、わたしたちがエルフの村に行っている間に、エレローラさんとゼレフさんがクリモニアのわたしのお店に来たことを話す。
「だから、たぶん真似をしたんだと思う」
「確かに、あの人ならやりそうね。でも、ユナちゃんのお店にもクマの置物ね」
サーニャさんの口元が微笑んだように見えた。
すると、いきなり腕を突き出すとフォルグを召喚する。
「ユナちゃんのお店を見に行かないといけないわね」
「その鳥、燃やしていいですか?」
クマさんパペットの口に炎玉を作り出す。
「冗談よ。部屋の中で魔法は止めてね」
フォルグを送還させる。本当に疲れているのかな。元気に見えるんだけど。
わたしは炎を消す。
「ユナちゃんに手紙を届けるときに見てくれば良かったわ」
少し残念そうにする。
まあ、わたしがここで駄目と言っても絶対にフォルグを飛ばすのは目に見えている。
見られても困るものじゃないけど。今度、会ったときに絶対になにか言われるね。
でも、ついさっき、フォルグから手紙を受け取ったのにフォルグはすでに送還されていたんだね。
送還は離れていてもできるのかな?
くまゆるたちはどうなんだろう?
離れていても送還はできるのかな?
今まで一度も離れているくまゆるたちを送還したことがない。そんな状況にもなったことがないから、考えもしなかった。
「もしかして、わたしが手紙を受け取るところを見ていたんですか?」
「見ていないわよ。ユナちゃんが手紙を受けとったら、送還するように命じていたのよ」
そんなことができるんだ。
わたしのくまゆるたちも命じておけばできるのかな?
「もし、わたしがいなかったり、気付かなかったりしたらどうしたんですか?」
「その場合はこの子の目を使ってユナちゃんを捜すわ。それでもユナちゃんに会えなかったら戻すだけよ。大した手紙じゃないしね」
わたしにとっては大問題だ。
エレローラさんにしろ、赤の他人にしろ、クマの置物があるお店がある時点で大問題だ。
「それで、どこにあるんですか。そのお店は?」
「中流地区よ」
サーニャさんは王都の地図を出すと場所を教えてくれる。
「わたしも付いていってあげたいんだけど。まだ、仕事が残っていてね」
サーニャさんは自分の机にある仕事の山に目を向ける。
「えっと、頑張ってください」
ありきたりの言葉しか出てこない。
「ありがとう。でも、ユナちゃんのおかげで戻ってくる分の日数が減ったから、十分に助かっているわ。もし、予定通りに帰ってきたらと思うと、想像するだけでも怖いわね」
「誰にも言わないでくださいよ」
「分かっているわよ。今度お礼も兼ねて食事でも奢らせてね」
「それじゃ、高級料理でもお願いします」
「ふふ、了解よ」
サーニャさんにお礼を言って、クマの置物があるお店に向かう。
昔に書いた、伏線の回収がやっと出来るw