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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

ギルドホームを作ろう

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傭兵アルベルト

 取引掲示板の前は比較的空いていた。
 『ヒースローの街』からはプレイヤーが徐々に減り始め……タートルイベント終盤が、プレイヤーの滞在人数が最も多かった期間だろう。
 フィールドなどを忙しく回っていたため俺達は余り不便に感じなかったが、主要な街の施設は芋を洗う様な混雑だったそうな。
 今はレベルキャップが40まで開放され、イベント産のタートル系装備がそれなりに優秀な事もあり、プレイヤー達は『ヒースローの街』から次々と旅立っている。

「どうだ? トビ」
「無いでござるなぁ……メテオ系の極上は」
「参ったな。これじゃ相場が分からんぞ」
「他の武器は、極上の場合で上質の3~4倍の値段といったところでござるか。しかし、メテオ系は上質でも既にお高い!」
「大体50,000Gだもんな。他の武器での上昇幅を素直に適用したとして、150,000G~とかいう高額武器を誰が買うというのか……」

 ちなみに俺達四人の全財産を集めたGは、合計で30,000Gといったところ。
 店売りの下級の回復薬を潤沢に使うことが出来る程度にはあるが、満腹度が実装された今後は料理の材料も買わなければならない。
 他のプレイヤー、特に戦闘のみを行っているタイプなら大差ない状況だと思うのだが……。
 生産主体のプレイヤーは自分で作った武器を使うだろうし。

「……登録だけでもしておくか。もしかしたら売れるかもしれないし」
「なるべく早めに売りたい所でござるが。オンラインゲームの装備は時間が経つほどに、性能的には置いて行かれる故に。レベル開放で倒せるモンスターの範囲も広がったでござるからな」
「そうなんだよな……そしたら、徐々に値段を下げるか。登録の度に100Gの手数料は掛かるが」
「売り時を逃すよりはマシでござるな。あ、コメントを添えられるので一言あると良いでござるよ」
「むぅ……じゃあ、シンプルな奴を」

 『イベントアタックランキング1位取得に使用した武器です』……と。
 味も素っ気もないが、文字数制限もあるしこれでいいだろう。
 その後は、それぞれ気になるカテゴリーのアイテムや装備の相場をチェック。

「そういや、トビ。お前の忍者装備一式って誰から買ったんだ? お前は不器用だし、まさか自作ではあるまい?」
「ああ、それは和風装備を専門に作っているマサムネさんという職人が居るのでござる。会ったことはないでござるが……ほれ、今日もここに装備一式が」

 取引掲示板には読めない文字で書かれた紙がベタベタと貼ってあるが、プレイヤーが実際に見るのは近付いて開く電子的なメニュー欄だ。
 トビの手元に浮かんだ画面を覗き込むと、漢字で書かれた装備がずらっと並んでいる。
 出品者の欄にはトビが言う通り全て『マサムネ』という表示が。

「ほう……重戦士を侍風に出来る甲冑に槍、刀、弓術士用の和弓に袴まで、色々とあるな。薙刀なぎなたに――ははっ、金砕棒かなさいぼうなんて物まで売ってる。これは会ってみたいな。話が合いそうだ」
「ハインド殿は和の物は作らないのでござるか?」
「刀系は特に、西洋剣とはまた違った技術が要るからなぁ……勉強してから、追々だな。作る気自体はあるぞ」
「しからば、拙者からリクエストを。可能であれば忍者らしくまきびしだとか焙烙ほうろく玉を使ってみたいのでござるが……」
「そりゃあ面白いな。考えとくよ」
「おお、ありがたい! さすがわっちだぜ、話が分かる!」
「おい、リアルでの呼び名を――いや、あだ名だからいいか。本名の原型留めてないし」

 以前にも触れた通り投擲とうてきアイテムは使い切りなので、なるべく一投で効果の高い物にしたいな。
 ゲームの仕様上可能ならまきびしに毒を塗ったり、焙烙玉も煙玉にして視界を塞いでみたり。
 ……イメージが湧いて来たな。ちょっと本腰を入れて生産を考えようか。
 そのままページをめくってアイテムなどの相場を調べていると、大きな影が背後からすっと差し込んで来た。
 他のプレイヤーか? 邪魔になりそうなら移動を―― 

「はぁ、はぁ、見つけたぞ……!」

 肩に置かれた手に振り返ると、長身の大男が息を切らせながら立っていた。
 筋肉質な体と顔には傷が多数、茶の髪を短髪にしていてかなりいかつい印象だ。
 その迫力に、目元しか見えないトビの顔が引き攣るのが分かった。



「驚かせてすまない……少し、俺の話を聞いてくれないか?」

 見た目に反して腰が低いその男性は、俺達に何か話があるそうだ。
 掲示板から少し離れ、他のプレイヤーの邪魔にならない位置で話を聞くことに。
 余りの圧迫感に一瞬、PK狙いかと思ったぞ……いや、街中では攻撃できないんだけどね。
 それと、レベルキャップ開放に伴って『ドンデリーの森』と『ホーマ平原』でもPK行為が不可能になった。
 これは初心者狩りを防ぐための処置だと発表され――って、思考が脱線してるな。
 今は目の前の筋肉モリモリマッチョマンにどう対応するかが問題だ。

「俺のプレイヤーネームは傭兵アルベルトというんだが……この名に覚えはないか?」

 俺はトビと顔を見合わせた。
 そりゃあ、最近までずっと気にしていた名前だからな……。
 この人がそうなのか。

「イベントで2位――げふんげふん! 途中まで1位だった御仁でござろう?」
「いや、気遣い無用。お前等に負けた2位のアルベルトで間違いない。完敗だ。見事な戦術だった」
「はあ。その様子だと意趣返しという訳では無いとお見受けしましたが……一体、何の御用で?」
「単刀直入に言おう。動画でお嬢ちゃんが使っていた剣に惚れた。俺にあの大剣を譲ってくれ!」

 ……更に詳しく話を聞くと、彼は別にイベント報酬のオーラが欲しくてランキングを狙っていた訳ではないらしい。
 このゲームでは名前の通り傭兵プレイ――ゲーム内通貨を受け取って臨時パーティを組む、というロールプレイをするつもりだそうだ。
 その宣伝の為に、大々的に名前を売る事が容易なイベントランキングに挑戦していたとのこと。

「いいでござるなー、傭兵プレイ。実力が確かなら、高難度のクエストを助けて貰ったり」
「人数が必要なイベントに期間限定で来て貰ったり? TBの世界観にも合ってるかもなぁ……色んなプレイスタイルの人が居るもんだ」
「そういうことだ。余談だが、リアルでは公務員をしている」

 信用を得る為だろうか? 彼は現実での自分の職業を明かしてきた。
 ――って、この風体で公務員!? 嘘だろ?
 体格からしてスポーツ関係者か何かだと思ったのに……ラグビーとか、せめてジムのトレーナーとか。

「こ、公務員……で、ござるか?」
「市役所で福祉関係の窓口業務を担当している……あ、言っておくがこの顔や体の傷はアバターだけの物だぞ。口調も現実では丁寧で――君達にもそっちの口調の方がいいか?」
「い、いえ、結構です! 失礼ですけど、ちょっとイメージに合わないかな……はは……」
「ゲームと筋トレが昔から趣味なんだ。どちらも仕事で溜まったストレスを発散するには最適だ……と、すまない。くだらない自分語りをしてしまったな。で、今言った条件でどうだ?」

 彼の提示した金額は130,000G。
 掲示板に登録した額よりは少ないが、これが彼の正真正銘の全財産だとのことだ。
 偶然取引掲示板を見ていて出品を見つけ、誰かに買われる前に直接交渉する為に急遽、俺達を探してここまで来たのだそうな。
 どちらにせよ売れなければ売却価格を徐々に下げるつもりだったし、彼の提示額が十分に高額なこともあり俺達は確実に売れる方を選択。
 掲示板の出品登録を解除すると、アルベルトさんにメテオグレートソードを売り渡した。

 その後、少しだけ彼がフィールドで試し斬りする様子を見せて貰うことになったのだが……。

「うぉ、大迫力だな……筋肉が躍動しとる……風切り音がここまで聞こえる……」
「かっけえ! 兄貴って呼んでもいいでござるか!?」
「別に構わんぞ。しかし、これは素晴らしい剣だ……この重さが実に手に馴染む。感謝するぞ! ハインド、トビ! ぬぅん!」

 重戦士のステータス補正を入れても40kgはありそうな大剣を勢いよく振り回す姿に、トビが感動して懐いてしまった。
 最終的に二人はフレンドコードまで交換し――って、それでいいのかトビよ……。
 ともかく、イベントで使用した大剣は重戦士『傭兵アルベルト』の手へと渡ることとなった。
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