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ピクニックとサーラの新興ギルド

 荒野を越えた俺たちは、『エーデ高原』というフィールドまで進んでいた。

 サーラとベリの国境付近にある、緑の多い地形だ。

 気候的にも緩衝地帯のような場所であり、暑さ・寒さが極端な両国の間にあって快適な気温を保っている。

 俺たちは日除け装備の外套や帽子を外すと、一度モンスターの寄ってこない地点で休憩することにした。


「ルストの高原とはまた違う景色ですね」

「ああ。植生が違うのかな? サボテンの亜種っぽいやつも生えていたりで、印象が違うよな」


 リィズと話しながら腰を下ろすと、ルストに比べて土も乾き気味でやや硬い感じがする。

 そんな二人にしか分からないルストとの比較の話をしていると、ユーミルが体当たり気味に俺の隣に腰かける。


「ハインド! そんなことより満腹度だ、満腹度! 何か食わせろー!」

かさなくてもそのつもりだっての。みんなは何か食べたいものの希望とかあるか? 可能な限り沿うようにするけど」


 のろのろと遅れて到着したシエスタちゃんも含めて意見を聞くと、見事に食べたい物がバラバラだった。

 訊いた手前、却下するのもどうかと思った俺は……。


「あー、それなら少し時間をくれ。折角だから、豪勢に全部盛ってみる」


 そう宣言して、『高級携帯調理セット』をインベントリから出した。

 簡易テーブルから魔法式コンロ、調理器具一式に食器までがその場に手品のように展開される。

 イメージ的には、現実のキャンプのフル装備に近いセット内容。


「おお、これが例の部門別優勝商品でござるか!? 思っていたよりも凄い!」

「全部!? 今言われたのを、全部やるのか!?」

「ここで長めに休憩を取ろう。ベリの最初の町まで距離があるらしいし、ゆっくり食べられるのはここで最後かもしれん。構わないだろう?」


 俺の提案に、全員が頷いて同意を示してくれる。

 ちなみにギルドホームの調理室・レベル3程度の調理がこのセットで可能だ。

 今の渡り鳥の調理室はレベル6なので、比べると辛い部分はあるが……それでも携帯セットとしては破格の性能である。

 通常、NPC商店で買える屋外用の調理器具は機能がもっと限定的だ。

 火起こしの道具と鍋や肉を吊るす道具が別れていたりと、インベントリの場所も取る。

 それが一つにまとめられているだけでも、優秀なアイテムだと言っていい。


「では、私は先輩が調理している横で昼寝を……昼? まぁいいや、昼寝です」


 現実とゲーム内の時間の違いに悩みつつ、シエスタちゃんが草原の上で横になる。

 それを皮切りに、それぞれが高原内で行動を始めた。

 セレーネさんとリィズは、心配そうに調理を進める俺を見てきたが……。


「ハインド君、手伝いは――」

「大丈夫ですよ。それほど時間もかかりませんし、一人で十分です」

「そう? じゃあ、私はその辺りで採取をしてくるね。あっちに小さい岩場があったし……一応、ツルハシは持ってきたんだ」

「では、私もセッちゃんの近くで薬草の採取でも。ハインドさん、後はお願いします」

「あいよ。いっといでー」


 二人はフィールドの採取へと向かって行った。

 他の四人は、どうやらPTを組み直してモンスター狩りに出る様子。


「今夜の私は戦闘モードだ! とりあえず時間の許す限り戦うぞ! その気のある奴はついてこい!」

「お供します、ユーミル先輩!」

「リコが心配なので私も行きますね」

「拙者も共に参るでござるよー。新スキルがまだ馴染まない故に、練習をば」


 寝返りを打つシエスタちゃんと共に、俺は分散していくメンバーを見送った。

 食材を出して料理の準備をしていると、フニャフニャとした力のない声が俺の耳に届けられる。


「先輩ー、膝枕ー」

「これから料理だっての。さっき馬上で抱いてた枕を使いなよ」

「地べたに枕を置くの嫌です。ゲームだって分かっていても抵抗があります」

「……じゃあこうしよう」


 俺はインベントリからシート代わりに大きな布を取り出すと、原っぱの上に広げた。

 これなら厚さも十分な上に、寝心地もそれなりのはず。

 土は乾いているので、水が染み込むようなこともない。

 シエスタちゃんは横から転がって布の上に到着すると、リラックスしたように長く息を吐いた。


「おー。さすが先輩、ソツがねえぜー。いい風が吹いてるし、本格的に眠くなってきました……」

「これなら気兼ねなく枕を置けるだろう? 料理が完成したら起こすよ。おやすみ」


 折角だから、料理もこの上に座って食べることにしよう。

 シエスタちゃんの言う通り、高原には埃っぽさのない爽やかな風が流れている。

 さて、いい加減に作り始めるか。効率良く進めれば、料理の完成まで30分もかからないはずだ。




 散っていたメンバーを呼び戻してシエスタちゃんを起こすと、

 大皿に完成した料理を載せていき、パーティプレートのようにしてみた。


「おお、唐揚げ!」

「甘い玉子焼きもあります! わーい!」

「拙者のエビフライ!」

「あ、リクエストした煮物がある。ありがとうハインド君……家庭の味が恋しくて」

「野菜が適度にあって、彩りがいいですね。美味しそう」

「お疲れ様でした、ハインドさん」

「現実の料理に比べれば、遥かに簡単だからな。大した手間じゃないさ」


 みんなの声を聞きながら、俺は眠気覚ましに水をシエスタちゃんに渡す。

 プレートで料理を登録すると、しっかり単品としてシステムに読み取ってもらえた。

 効果は一定時間攻撃力アップのバフのようである。

 主食となるサンドイッチが行き渡ったところで、みんなで手を合わせた。


「こういうのって、オードブルと呼ぶのではないのか?」

「ああ、それ日本だけらしいぞ。大抵は日本で言う……前菜のことをオードブルって呼ぶそうだ」

「そういうのありますよね。海外で使うと、全然意味が違ってしまう単語」

「カタカナ語なんかも通じないって言いますよねー。美味しいー!」

「リコ、こぼれてるこぼれてる!」


 ちょっとしたピクニック気分だ。

 ユーミルが言ったように、日本ではこういった軽食の詰め合わせをオードブルと呼んだりもする。

 高原の長閑な景色が、和やかな空気を更に加速させた。

 狙い通りモンスターも全然寄ってこないし、シエスタちゃんじゃないけど段々眠くなってきたな……。


「あ、ハインド殿。どこかの団体さんがご到着でござるよ」

「本当だ。あの人数……ギルド単位の移動か?」


 トビの言葉にフィールド入口の方を見ると、馬に乗った一団が高原を横切っていく。

 方向からしてサーラのギルド……あ、あれ『カクタケア』っぽいな。

 知っているギルドで、向こうもこちらに手を振ってきている。


「おーい、スピーナ殿ー!」


 先頭を進む武闘家の男性が、トビの呼びかけに片手を上げて応えた。

『カクタケア』は戦闘系ギルドで、渡り鳥・ヒナ鳥双方と交流がある。

 サーラ最大人数のギルド『女王様親衛隊』から分派したギルドで、女王様を崇めつつもしっかりとゲームをプレイする方針とのこと。

 同好の士といえど、純粋なエンジョイ勢とは方針が合わなかったようだ。

 スピーナという名の彼がギルドマスターを務めている。

 その三十人程度の集団が、視線の先でフィールドのモンスターを蹴散らしながら進んでいった。


「……急に慌ただしい景色になっちまったな。こんなところで寛いでいる俺たちが悪いんだが」

「十分休めましたし、そろそろ出発しましょうか?」

「うむ、そうしよう! サボテン軍団に遅れるなー!」


 ユーミルが口にした通り、『カクタケア』はラテン語でサボテンという意味である。

 非常にシンプルだが、渡り鳥もヒナ鳥も捻りはないので名前的にはどっこいどっこいだ。

 俺たちはその場を片付けると、『カクタケア』の後を追うようにフィールドの移動を開始した。

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