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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
アイテムコンテストとギルドの発展
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結果発表当日・その4 アイテム・薬品

 画面の中に戻ってきた女王様は、楽し気な笑顔で玉座に座っていた。

 対照的に左右に立つ男性二人は、逃げる女王を捕まえるのに苦労したのか疲れ果てた表情をしている。

 女王に逃げられないようにするためか、今度は女官も後ろに複数人配置済みのようだ。

 玉座の間の人口密度が先程までと比べ一気に増している。


『諸君、待たせたな。発表を続けるぞ』


 上機嫌の女王が指を鳴らすと、今度は液体の入った瓶が机の上に多数並べられて登場した。

 これは分かりやすい、薬品部門だな。

 渡り鳥からはリィズがとある毒薬を出品している。


「しかし、どれが誰の物なのかサッパリ分からんでござる……特徴的なのは数点のみのような?」

「ほとんどが緑と青と紫の液体が入ってるだけだからな。他のと違って、100位までを一斉に出されても困るっての」

『うーむ、この部門の一斉紹介は果たして意味があるのか? 妾にも分からぬ』


 じゃあ省略しろよ、というプレイヤー達の冷ややかな視線を感知したわけではないだろうが。

 ごほんと一つ咳払いをすると、女王は間を置かずに10位の発表に移った。


『アイテム・薬品部門第10位は……アイテム名、湿布! 出品者フィリア!』

「ブフッ!?」

「うわっ、ハインド殿汚いっ!」


 唐突に聞こえてきた名に、俺は口に含んでいたハーブティーを思い切り吹き出した。

 隣のリィズの顔にお茶が大量に降りかかる。


「ああっ、すまん! 確かインベントリに清潔な布が……」

「……ふふっ、ふふふふふふ……」


 濡れたままで急に笑い出したリィズを見て、一斉に俺以外の全員が椅子から立って後ずさった。

 何でうっとりした顔で笑ってるんだろう、こいつは……。

 ともかく、俺の所為なのは間違いないのでかかったお茶を丁寧に拭っていく。


「気にしないでください、ハインドさん。私はうれし――大丈夫です」

「そ、そうか? でも、悪かった。一度川に行って、顔を洗ってきたらどう――」

「嫌です」


 食い気味で拒否されてしまった。

 拭いただけだと気持ち悪いと思うのだが……。

 いくらアバターとはいえ、水で洗った方がスッキリすると思う。

 立ち上がっていたメンバーの中で、最初にユーミルが席に戻って来る。


「さすがの私も引くぞ、今の表情は……どういう頭の構造をしているのだ貴様?」

「ユーミルさんには理解してもらわなくて結構です」

「ま、まあまあ二人とも。ハインド君、びっくりしたのは分かるけど気を付けてね」

「あ、はい。失礼しました……気を付けます。みんなもごめん」


 微妙な空気の中、他のメンバーも席に座り直したところでメールが着信した。

 どうもユーミルの方にも入ったらしく、俺と視線を交わし合った後にメニュー画面を操作し始めた。

 俺も同じ様にメールを開くと、その発信者はフィリアちゃんのようだった。


 送信者:フィリア

 件名:アイテムコンテストの件について

 本文:お父さんが出品してみろと言うので、ハインド、ユーミルと一緒に作った湿布を出してみた

    10位に入選できたのは二人のおかげ ありがとう

    今度お礼に、湿布をいっぱい作って二人に送る


 そんなメールが来たことをみんなにも知らせると、リコリスちゃんが感心したような声を上げる。


「へー。フィリアちゃんって、私達がログイン出来なかった期間に滞在していたんですよね?」

「そ。今はアルベルトと一緒に、相変わらず傭兵としてあちこち動き回ってるみたいだ」

「湿布の性能は珍しいから、入賞するのも頷けるな。私もちょろっとだけ手伝ったから、アデニウムで受けた溜飲が下がる思いだ!」

「実質共作だしな。そう思ってフィリアちゃんも俺達にメールくれたんだろうし」


 湿布に関しては製法を広めるにせよ秘匿するにせよ全てフィリアちゃんに任せているので、俺達から言うことは何もない。全て彼女の自由だ。

 おめでとうとメールを返し、メニュー画面を閉じる。


「確かHPが徐々に回復でござったな? それを聞いたときは拙者、おったまげたでござるよ」

「おったまげたって表現も、今時余り聞きませんけどねー」

「シエスタ殿から拙者に対してツッコミが!?」

「お前、なんでちょっと嬉しそうなんだよ……」

「いや、無視されてるわけじゃないんだなあって安心したでござる」

「卑屈ですねえ……そんなことしませんって。トビ先輩の場合、私の胸元をしつこく見るのだけ止めてくれれば他に問題はありませんし」

「うぐっ! ……す、すみません……で、ござる……」


 そんな会話をよそに、画面の中では女王手ずからアルボル老人の腰に複製品の湿布を貼ってやっている。

 ビターン! という音を伴う実にぞんざいな貼り方だが。

 老人はそれに「おふっ」という声を発しつつ顔をしかめたが、ややあってリラックスしたような表情を見せ始める。

 どうやら湿布が効力を発揮し出したようだ。


『やや臭いが立つのが気にはなるが……これは良いものぞ。のう、爺や』

『はっ、このアルボルめも保証しますぞ。長年の疲れがゆっくりと和らいでいく心地です……ううむ……ふぅぅ……』


 そういった経緯で、フィリアちゃん出品の湿布が10位に入選した。

 続けて暫くは瓶に入ったオーソドックスな薬品が9位~6位までを占めていく。

 調薬は鍛冶と並んで難易度の高い生産行動なため、純粋に効力を強化しただけの回復薬・毒薬が並んでいたのが特徴的である。

 それは6位が単に質が良いだけの中級ポーションだったことからも窺えることだと思う。

 なので、ここまでは絵面がはっきり言って地味だ。

 10位の湿布をわざわざ使ってみせたのも頷けるほどに地味だ。


 そしていよいよ5位の発表となったのだが、ここまでサクサクと紹介していた女王は急に手を止めた。

 何事かと注目していると、女王はとある緑色の薬瓶を持ったままミレスに目配せをする。

 ミレスがそれに一礼して出て行ったのだが、太った中年男性を連れて直ぐに戻ってきた。

 一体何が始まるんだ……?


『久しいな、バロウ』

『へ、陛下、お久しゅうございます! 何かの催し物の最中のようですが、何故、かような時に私めをお呼び出しに?』

『なあに、そなたにも来訪者を相手にしたイベントの結果発表を手伝ってもらおうと思うての。……これなるは来訪者が作りし回復薬だ。効くぞ? まずは飲め』

『し、しかし陛下』

『飲め』


 有無を言わせずといった様子に、中年男性は落ち着かない様子で周囲を見回した。

 格好からして貴族、中でも大臣クラスの位が高い人物に見えるのだが……。


「なあ、リィズ。俺、とっても嫌な予感がするんだけど」

「私は女王にアレを誤飲して欲しかったんですけどね。そう使ってしまうのですか……ちっ」

「え? 女王様が持ってるポーション、二人の作品なの?」

「見ていれば分かりますよ、セレーネさん……」


 一緒に作った俺達にしか分からない、微妙な色合いの違い。

 意を決し、目をつぶってソレを一気に呷ったバロウと呼ばれた男性は――瓶を取り落とし、その場で膝を折って倒れた。

 瓶が床に当たって割れ、俺とリィズ以外のメンバーの表情が凍り付く。

 やっぱりこうなったか……。


『来訪者諸君、こやつは我が国の……誠に恥ずかしい限りだが、反乱分子というやつでのう。死んではいない故、諸君らが心配する必要はない。さて……』


 ミレスとアルボルによってバロウが起こされる。

 体は完全に痺れ、バロウは一切の身動きが取れない……首から上を除いては。

 そういう特殊な痺れ薬なのだ。


『気分はどうだ? バロウよ』

『ひいいい! 陛下、陛下! お許しォォォ!』

『ふむ、素晴らしい効き目だ。こうして話すことは可能な上、回復薬に偽装されているのも実に良い。これは使えるな。後は舌を嚙まれぬよう、歯を全て――』


 と、女王が話している最中に映像がぶつっと途切れた。

 そしてシステムメッセージである字幕が、暗転した画面にゆっくりと流れる。


『只今NPCパトラから不適切な表現が発せられる可能性があったため、一時映像を中断しております。ご迷惑をおかけしますが、しばらくお待ちください』


 それに俺は頭を抱え、リィズは目論見が外れたことで溜息をつき、他のメンバーはあんぐりと口を開けて固まった。

 唯一流れを上手く把握できたらしいシエスタちゃんは、腹を抱えて一人笑っていた。

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