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ep2.ダンジョンマスターのススメ

 あらためてマールと名乗ったピエロによって、この世界におけるダンジョンマスター指南が行われた。さながらチュートリアルのように至って真面目に説明をするあたり、本当にダンジョン協会とやらの在り方には疑問符しか沸いてこない。私のような存在にこんなことを教えていったいどんなメリットがあるというのだろうか?



「まずは、ダンジョンがなぜ存在しているのか?という事についてです。そもそも、ダンジョンは、BitZenyと呼ばれるモノによって成り立っております。BitZeny……通称ゼニーは、言い換えればこの世界を構築しているエネルギー体なのですが、ダンジョンコアはそのエネルギー体を生み出すことが出来ます」



 ふむ。つまりダンジョンは世界を構築するためのゼニーを生み出せる存在なのか。



「ですが、そのために多くの危険に晒されています。たとえば冒険者や王国騎士団などの手によるコアの討伐です。ダンジョンが生成しているゼニーは、外の世界にとっても同じように希少な価値を持っています。ゼニーは通貨としても流通しているので、ゼニーそのものを生み出して溜め込む性質のあるダンジョンは、格好の餌食だという訳です」



 何てことだ。となれば狩られる側なのはむしろ私ではないか。

……早くも嫌な予感しかしない私の胸中を見透かしたかのように、マールは言葉を続けた。



「しかし!ご安心ください。ダンジョンを制するマスター殿には、そのような不埒な輩を圧倒できる力を手に入れることが出来るようになっております。それが、コアを使った【生成】という機能です」



「生成?」



 なにかを生み出す、もしくは作るいう意味だとは思うが、それが防衛に役立つ兵士や施設を意味するのではないか?というのは何となく理解できる。



「そうです。具体的には二種類に分けられますが、一つはダンジョン協会経由での購入による生成です」



 ダンジョン協会から提供されている何かしらの物品の購入をコアで出来る、ということか。



「どんなものが売っている?」



「基本的には他のマスターによって販売されている物全て、ですよ。ダンジョン協会はコアどうしを繋ぐ中継役として機能していますので。……もちろんダンジョン協会から基本的な物として販売している物もありますが、ほとんどがダンジョン誕生期に必要になる程度の物です。そも分掛かるゼニーも控えめですからこれからしばらくはお世話になることも多いのではないでしょうか」



 非常に気になることがたくさんあり過ぎて何から聞けばいいのか迷ってしまうが、すくなくともダンジョン協会がどのようにして生まれたのか?については「わからない」との返答が返ってきた。



「ダンジョン協会の運営は現在生存している多くのダンジョンマスターによってされています。しかし、だからといってどこかのマスターが特別に何かをしているというわけではなく、ダンジョン協会という機能を援助しているかたちである、と言えばわかりやすいでしょうか?ダンジョンが存在するからダンジョン協会が機能しているんです」



 なるほど、なんとなく分かってきたが、中継的な機能しか与えられていない組織で実態はない、と見てもいいのかもしれない。となればこのマールも機能の一部といえるのだろう。作為的な意思との関わりがないと思えば見た目はともかく信用に値する存在なのかもしれない。



「次にダンジョンコアによって一定の確率でゼニーが生成されます」



 マールの説明によれば、ダンジョンコアは起動させ続けているかぎりゼニーを生成しているそうだ。生成できる量などを見たければコアに意識を向けて確認すればよいそうだが、ハッシュがどうだとか難易度がどうだという説明があまりにも難解すぎて頭が痛くなってしまった。とにかく生成されるゼニーは一定ではなく、起動しているコアの総数によって変動しているらしい。しかしこの世界全体を通して生成されるゼニーには限りがあるらしく、常に需要と共有のバランスでせめぎ合っているそうだ。



 うん、よくわからん。



 とりあえず【生成】には物の生成とゼニーの生成があるんだということだ。さらに具体的に言えば、購入したものを目の前で生成するからという意味と、貨幣として流通しているゼニーを生成しているという二つの意味があるらしい。



「生成できるものは、生活雑貨から一流の戦士までさまざまですよ」



 ためしに……といってマールは俺に100000zコゼニーを転送すると、コアから送られてくる情報に変化が起きた。見た目としては淡く発光するコアがさらにキラキラと輝いた。くわえて意識下に沈殿していたゼニーの残量が【0.00100000】と感じられた。不思議な話だが、所有しているゼニーの残数に意識をむけると数値として確認ができるのだ。これは今まで意識していなかったためか、私の意識下にふいに現れるように視界の隅に浮かび上がるように認識できた。



「では早速ですが、ダンジョン協会から販売されているモンスターシードを購入しましょう。コアに意識を集中してメニューを展開してください」



 ダンジョンの先兵、衛兵、守り神ともいえるモンスターなどの手駒を手に入れるには、ダンジョン協会で販売しているモンスターシードを購入することで得られる。シードにはいくつか色分けされた物が用意されており、各色ごとに入手できる手駒に違いがあるそうだ。

 マールにいわれるがままコアに意識を集中すると、さながら複数のモニターで同時展開させた情報端末のようにいくつかの表示がコアの周りを取り囲むようにして眼前に広がった。メニューには生成以外にもいくつかの項目に分かれており、さっき説明に出ていたコアに関する情報についてもかなり詳細に知ることができるようになっている事が伺えた。



「では、【生成】メニューから【購入】を選び、販売者検索ではなく【ダンジョン協会】を選んでください」



 生成メニューを意識下で選択すると、【購入】と【販売】が表示されたので【購入】を選択し、さらに表示される販売者や物品検索メニューの中から【ダンジョン協会】を選んだ。するとズラズラと販売されている商品が値段付きで表示されていく。



「では続いて【モンスターシード(緑)】を探し出し、購入してみましょう」



「わかった」



 言われた通りに検索し、【モンスターシード(緑)  --0.00100000zny】を選び購入を選択する。シードの中ではもっとも安価なもので、得られる手駒もそれほど強くないものがほとんどのようだ。承認のアナウンスが表示されたことが確認できると、ふいに目前に小さな光が現れたかと思えば、米粒ほどの小さな緑色の種がポトリと現れて落下した。ゼニーの残数に意識を向けると【0】であることが確認できた。



「おめでとうございます、無事にモンスターシードを購入できましたね!」



 生成された種を拾い上げながら、マールは笑顔をたたえてそう告げた。相変わらず機械的な動きではあるが、最初に感じていたあの異常なほどの違和感はいまはまったくといっていいほど鳴りを潜めている。



 購入したモンスターシードだが、そのままダンジョンの床に置いて発芽させるとモンスターが生まれるという説明だったので、さっそく床に置いてコアメニューから発芽させてみることにした。ちなみに【ダンジョン】項目の【アイテム】から使用した形になっている。ダンジョン項目には他にもモンスターやオブジェクト、各種設備に関する項目が散見できたが、いまはそのほとんどが灰色で選択できないようになっている。



 どうやら条件を満たさない限り表示されないようだ。



「さぁ、生まれますよ!」



 淡い光を放ち始めた緑種を見ながらマールが声を上げた。



 地に転がっていた緑種はやがて芽をだすと、またたくまに私の身長ほどの大きさに成長した。幹の太さもいうに及ばず、私とマールを合わせたよりも太く大きな幹となり、大きな葉に覆われた何かを実らせてしっかりと根付く。

 脈動する幹の動きに呼応するかのように葉は固さを増していき、やがて大きな実として赤く成熟していくにつれて、幹は茶色く立ち枯れていき、そうして実だけを残して灰となり消えてしまった。



 ……残されたのは私と変わらない大きさの赤く大きな皮に包まれた実だけとなった。



「おお、これはなかなか期待できそうな実ですね。緑種でここまで育った実を見るのは初めてですよ!」



 なりゆきを見守っていたマールは、その実が大きく育っていくにつれて驚きを見せ、やがて興奮気味に言った。これまでも数多くのダンジョンに説明へと赴いてきたであろうマールがいうのだから期待できるのかもしれない。それに、大きいというのはそれだけ高まる期待に胸躍るものだ。すくなくとも小さくて見るのも困難な手駒でなくて良かったと考えていたら、実を縦に割るようにしてヒビが入った。きりきりと隙間を広げていく姿に心を奪われながらその時を待つ。



 赤から茶へと変化していく皮はやがてその役目を終えるとともに灰になって消え失せていき、ゆっくりと開いたそのあとに残されたのは、すらりとした体躯と白に近い金髪を湛えた美しい女性だった。透き通るような白い肌は現実味を感じさせず、幻想的でいったい何の素材を使って作られているのかまったく判断できないドレスを身にまとい、中空に浮かべていた体を静かに地面へと下す仕草はもはや神々しくさえ感じられた。

 音もなく降り立つと少しだけ金色に輝く瞳を私に流せば、優雅と形容するにふさわしい礼を捧げるように言葉を紡いだ。



「はじめましてマスター、わたしの全てを捧げましょう」



 さながら雪花石膏アラバスターのような輝きを放つ彼女の姿が、小さな四角い部屋で花開いた。


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