広と愛良ちゃんと三人で美術館めぐり
お読みいただきありがとうございます。
語り手は明日谷大和君で、1人称は「俺」です。
今日は霧がかかっている。バスから降りて、夢路美術館の正面入り口前に立つ俺、広が手を振って声をかけた。
「悪いな、大和。美術館よりもゲーセンで遊ぶ方がよかっただろ」
「うん、でもお前が見たほうがいいって言うから気になった」
広は俺の目をまっすぐ見つめる。愛されているような気分がして、思わずそむけてしまった。
「実はさ、俺、1時間後にここで別の友達と待ち合わせをしている。ある程度一緒に見たら、愛良ちゃんと二人きりになってさ……」
「広、お前」
とめどなく体から汗が流れる。
「愛良ちゃんを狙っているのはお前だけじゃないんだ。俺は昔」
「広君、大和君」
愛良ちゃんが後ろから手を振り、声をかける。黄色と白の横型ボーダーTシャツと縦型スカート、紺色のニーソックス、髪の毛を左右に縛るおさげ。
――俺? 俺は白の「KASUKAVE」ロゴが付いたTシャツに黒のポケットがたくさんついたハーフパンツだ。
広は赤いチェック柄の七分袖ジャケットにジーパンだよ。
「待たせてごめんね、二人とも」
「いいよいいよ」
「大和、声が高くなってら」
俺をからかわないでくれ、広。
「いらっしゃいませ、入場料は……おや、チケットを三枚お持ちですね」
赤い眼鏡をかけた女性が広に対し、笑顔で答える。
「三人分、あらかじめ俺が手にしておいたんだ。じゃなきゃ誘わないよ」
俺は広に頭を下げた。美術館は迷路のような構造だ。あるところではまっすぐ進み、別のところではぐるぐる回る。
ゴウンゴウン、換気扇が勢い良く回る。おかげで美術館内に臭いを感じない。
水着の美女に目が留まる。士鶴姫にどことなくそっくりだ。
「この絵、きれい」
愛良ちゃんが声を漏らす。
「きれいだよな、大和」
「うん」
「この絵、たしか3億で取引された絵だったはず」
絵1枚に1億円以上もかかるなんて、馬鹿じゃないの?
それならぽえぽえ7が俺の前で歌ってくれる方がよっぽどいいや。
――そうなの? あんたは美術について深く語れるんだ……へえ、でも、俺にはさっぱりわからないや。
「問題の絵を見に行こうぜ」
広が歩きだす。
「広、問題の絵はどれなんだ?」
「ここから右に曲がって階段を上る。タイトルは『きらめく三つ子』だって」
きらめく三つ子……思わず浮かぶ『アスナ、ナデシコ、ココア』ことキラメキドーターズ。まさかな。
「大和君、どうしたの?」
愛良ちゃんが尋ねる。
「い、いや、なんでも」
暑い、熱い。愛良ちゃんは口をわずかに開け、じいっと俺を見る。
「ほら、二人とも、早く」
俺たちはうなずき、目的の絵に向かった。誰もいない。右はアスナ、左はココアこと愛良、真ん中はナデシコに姿を変えた俺だ。服装が違う。ナデシコとなった俺は黒く深いスリットが入ったドレスを着て、高級な椅子に座り、不気味にほほ笑んでいる。アスナとココアは赤と青の浴衣を着て、脚をさらけ出し、ナデシコに胸をもまれている。この光景――昨日、アルムから惑星プロキオンへ飛んだ際、暴君が嫌がる由良に愛良を無理やり抱いたときと同じだ。俺が、いや、ナデシコが怖く醜く感じる。
「真ん中の女の子、女子なのに大和君に似ている」
「それを言うなら、左側の女の子は愛良ちゃんにそっくりだ」
誰がこの絵を描いたのだろう。
「作者は伊王野昴、ここに解説書がある。……夢で三人の女の子に囲まれ、私は殺された。私を殺した彼女たちがあまりにも美しく恐ろしくすぐに描いた。これを見たものは夢の世界で彼女たちに引き込まれないよう、気を付けてほしい」
この作家にあって、なぜこんな絵を描いたと尋ねたい。
「大和君、広君、助けて」
愛良ちゃんが大股で絵に近づく。
「誰かに体を動かされている。助けて、言うことを聞かないの」
俺と広は二人で愛良ちゃんの手を握る。しかし愛良ちゃんの力が強すぎて、男二人でも負けてしまう。
「助けて、二人とも」
俺と広は見た。愛良ちゃんが絵の中に取り込まれる!
俺も取り込まれる――真っ白だ。由良がアルムの世界へ連れていくような感覚だ。広はいない、愛良ちゃんもいない。まさか――
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また飛ばされるようです。ごちゃごちゃして混乱しますね。
次回は飛ばされた場所で……