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くにを、つくろう

 ボクは思わず立ち上がり、右の拳に炎を集めていた。

「ローテ!」

「あら、お姉さま」

 今気が付いた、と言わんばかりの舐めた表情。


 言葉でこそ「お姉さま」などと呼んでいるが、魔界にいた時からそんな目上への敬意など一欠けらも感じられない妹だった。

「相変わらず頭に血が上りやすいですのね。お顔が真っ赤でしてよ」

「お前、いつからそこで立ち聞きしていた?」

「答える義務は御座いませんわ」

 冷笑。


 しかし、もたれ掛られているカロンが、

「ニンファローテ」

 名を呼んだだけでその表情が溶ける。

「とりあえず座れ。話はそれからだ」

 彼が一番格上だということは言われるまでもなくわかることで、だが、それでもあの妹が言うがままに従っているというのは信じがたい光景だ。


「さて」

 カロンは場の空気を切り替えるように、いささかわざとらしく言葉を置く。


 だけど、それが必要なことだとわかるぐらいには、ボクも冷静になっていた。

 右手の炎はとうに消えていたが、熱の残滓を指先に感じながら、ボクも深く椅子に座りなおす。


「先だって、ニンファローテには話をしてあるが、この場の面々のために今一度話を整理しよう」

 自分が二番目であったことに若干の寂しさを感じながら、傾聴の姿勢をとる。

 カロンは氷の色をした瞳を細め、

「一つ。魔王の髪を用い、穢れを浄化するための装置を精製、各地に設置する。二つ。魔王自身が各地を訪問し、魔族の地位向上を図るための交渉、活動を行う」


 セシリア、アニエス、ローテを除く参加者はそれぞれ同意の頷きを見せる。

 だが、それを確認したカロンはさらに口を開く。

「三つ」


 そこで言葉を切り、まっすぐにボク、そしてシアを見る。

「私としては、ここが一番肝心だと思っているのだが、同時に無理難題を言っていると思われるかもしれない」

「前置きはいい。さっさと話せ」


 クレアが苛立ちをあらわに促すと、彼は小さく頷き、

「魔族の為の国を作ろうと思っている」

 ボクは耳を疑った。

 だが、彼が、カロンという魔法使いが前置いた通り、無理難題という言葉は、彼の言葉が聞き間違いではないと知らせてもいた。


「それについて一点」

 シアは立ち上がってここにいる面々を見回す。

「魔族の為の国を作る。おそらく無理難題です。いえ、現状ではその道筋を作ることすら危うい。それがわかっていて、なお、一国は自由にならなくても、一島ならなんかとか出来る身であることを承知で、言います」


 ボクは一瞬期待した。ここまで自分に良くしてくれる姫だ。腹に一物あっても、それでも心優しい彼女なら、と。

 だが、


「わたしはこの島の主として、宣言します。イースアイランドを魔族の為の国家の樹立する場所にはしない、と」


「な……っ!」

 絶句するボクに対し、クレアは冷静に、

「それが正しい。賢明な判断だな」

 ボクは立ち上がり、宣言を行った当人ではなく、それを当然のように言ったクレアへと突っかかる。もしかしたら、ボクはシアのことを避けたかったのかもしれない。

「なんでそれが当然のように言うんだ!?」


 だが、彼はどこ吹く風と受け流し、しかし、まっすぐにボクを見返しながら、

「なら、イースアイランドが魔族に与えられるのが当然とお前は言うのか?」

「そんなこと! ……言って、ない……」

 返す言葉もなかった。ボクの憤りは身勝手な期待と主張だ。

 勝手に期待して、それが裏切られたからといって、怒りをぶつけるだけの醜態。


 さぞかし、妹は侮蔑の視線を向けているかと思いきや、

「案外、らしいのですわね」

 何が、という疑問が浮かぶ前に、

「お前の出番はなさそうだな、ニンファローテ。さて」

 カロンはボクの醜態などなかったように場を取り仕切り、

「レティシア姫、そちらの立場はわかっている。私から無理を言うつもりもない」

「いえ、こちらこそ力が足りず、申し訳ありません」

 見れば、彼女の表情から無念が滲んでいる。


 シアが座ったのに遅れて、ボクも椅子に腰かけ、身を小さくする。

「なら、どうするってんだ、魔法使い様よ」

 アトスは挑戦的な態度で歴戦の魔法使いに問う。

「言っておくが、俺の実家は田舎貴族だ。だが、持ってる土地は少ないし、金だってそんなない。そして、さらに言うなら、持ってるやつらこそ、こんなことには絶対に協力しないと思うぜ」

 田舎貴族の勇者は、彼の今までの境遇ゆえにそれをよく知っているのだろう。


「それなんだがな」

 カロンは一瞬見えないはずの空を見上げるように上を細めた目で見て、

「そろそろツケを払わせてもいいんじゃないかと思っていてな」




 空よりも高い場所では、きっと今頃くしゃみどころではなく、悪寒を感じているに違いないと、ボクは他人事ながら心配をしてしまった。

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