挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~ 作者:りょうと かえ

覚醒と帰還

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

8/102

絶望の会議

 同じ頃、アラムデッド王宮の中枢ではカシウ王以下、側近による会議が行われていた。
 窓には光を遮るカーテンが引かれ、象牙の燭台が密室を照らしている。

 晩餐会に不参加の重臣も召集され、緊迫した空気が満ちていた。
 部屋の虚飾は排され、重厚な机と椅子だけが置いてある。

 王も含めて、七つの席しか存在しない小部屋であった。
 書記の席さえもない。
 用いるときは、真に国に関わるときだけと決められていた。

 カシウ王は椅子に腰掛けて、こめかみを強く押さえている。
 机にはクロム伯爵とエリスの情報が、紙となって散乱していた。

「……クロム伯爵は、全て吐いたか」

 誰ともなく、カシウ王は低く呟いた。
 怒りよりも苦悩が色濃い。

「駄目ですわ。黙秘や拷問耐性の魔術式が、綿密に埋め込まれています。解除するのに一月はかかりますわ」

 王の隣に座す、幼い白髪の少女が首を振りながら答えた。
 琴のように心地よい声音だ。
 外見上では12、13歳くらいにしか見えない。

 彼女こそ五代のヴァンパイア王に仕えるアラムデッド王国の宰相、アルマ・キラウスであった。
 清楚な白と薄青の服も簡素で、勲章の類は一つもない。
 それでいて静かな威圧感は、王に勝るとも劣らないものだった。

 見た目に似合わぬ異常な長命は、≪不老≫のスキルのせいとささやかれていた。
 王朝樹立の立役者でもあり、名実ともにアラムデッド王国のナンバー2である。

「さらに婚約破棄の数日前より、クロム伯爵が連れていた数人が行方知れずとなっていますわ」

「事前に逃げた、ということか?」

「仰せの通りかと」

「伯爵の故国、ブラム王国が国境に軍勢を集めつつある、という情報もありますですっ!!」

 明朗で勢いよく発言したのは、はねた赤髪で眼鏡をかけた女性であった。
 ややだぼついた茶色の軍服に、化粧気はまるでなかった。

 愛嬌がある活発な顔つきと、標準的な胸囲がヴァンパイアには珍しい。
 一見すると20歳くらいだが、アラムデッド王国の軍務大臣として辣腕を振るうミザリー・ボーンだ。

 カシウ王は、嘆息した。
 昨夜の婚約破棄の一幕は、若者の無鉄砲な茶番ではなかったのだ。

 むしろ、練りに練られた破滅的な企てだ。
 王朝始まって以来の謀略やも知れなかった。

「ブラム王国から使いは?」

「まだ来ておりませんが、明日にでもクロム伯爵の引き渡しを求めてくるでしょう」

「エリス王女と合わせてか?」

「恐らく……」

 クロム伯爵のブラム王国とジルのディーン王国は、アラムデッド王国より遥かに大きい国だ。
 正面切っての軍事力なら、アラムデッド王国は両国の数分の一だろう。

 独立を保ってきたのはヴァンパイアならではの戦闘力と、厳しい荒涼とした大地ゆえに他ならない。
 両国の間でうまく泳ぎ、他の諸国に対するのがアラムデッド王国の基本外交だ。
 その根底が、揺らごうとしているのだ。

「ブラム王国近くの貴族達も、ここ最近王都に姿を見せていないであります」

 重苦しい雰囲気が、部屋に満ちる。
 全てが、恐るべき謀を示していた。

 クロム伯爵を引き渡さなければ、それを口実にブラム王国は侵攻してくるだろう。
 伯爵を引き渡しても、エリスも渡さなければ同じことだ。

 なにせ一方的とはいえ、婚約を発表したのだ。
 無茶だが、一応の名分は立ってしまった。

 悪いことに、ミザリーの報告ではヴァンパイアにもブラム王国に内応する気配がある。
 事前にブラム王国が切り崩しているのは明白だ。
 ブラム王国が本気なら、享楽的なヴァンアパイアを篭絡するのは難しくない。

 カシウ王には、男系の子は一人しかいない。
 エリスの二人の姉は他国に嫁ぎ、残ってる妹はまだ14歳だ。
 王族の数は少なく、貴族なしで国は統治できない。

 エリス王女とブラム王国、幾分かの貴族が結託すれば、王国は二分されてしまう。
 しかも均衡を担うはずのディーン王国は、婚約破棄で盛大に顔を潰したのだ。

 報復として、ディーン王国も独自に軍事行動をとりかねない。
 そうなればいよいよ、亡国の瀬戸際だ。

 誰しも同じことを考える中、アルマが口火を切る。

「クロム伯爵とジル男爵の処遇だけは、早急に決定しなければなりません」

「ふむ……」

 カシウ王は目を細め、思案した。

 クロム伯爵は死を覚悟しているような、決死の役者には見えなかった。
 単にブラム王国に操られ、エリスに近づいた愚か者だろう。

 生かしておいても、エリスを惑わすだけだ。
 カシウ王の拳に、力がこもった。

「クロム伯爵は、血量の儀式にかけよ」

 ジルは耐えた試練だが、クロム伯爵が乗り越えるのは不可能だ。
 事実上の死刑宣告であった。

「ジル男爵は、いかがしましょう?」

 哀れなジルへの同情は、出席者達の間にもある。
 完全な被害者であり、しかもディーン王国の対応はジル次第だった。
 うかつなことをすれば、ディーン王国も敵に回るだろう。

「情勢が見極められるまで、帰国させてはならん。アルマよ、ジル殿の心証を良くし繋ぎ止めよ」

 ジルが帰国してディーン王国も動けば、アラムデッド王国は追い詰められる。
 そのためにも、穏便にジルを取り扱う必要がある。
 他の者には任せられない、重要任務であった。

 カシウ王は疲れた目でアルマを見据えた。
 先の晩餐会より、エリスとあえて面会はしていなかった。

 とはいえ実の娘だ。
 様子が気にならないと言えば、嘘になる。

「エリスは、何と言っておるか?」

「……クロム伯爵に会わせよ、と暴れているようです」

「近衛兵に危険が及びましたゆえ、今は眠らせているであります」

 アルマとミザリーは、エリスを切って捨てた。
 老練な政治家の二人からすれば、王族以外価値のないエリスだ。

 なんという馬鹿者であろうか。
 全く情勢が見えていないようである。

 カシウ王はまたも、ため息をついたのであった。
 それは本日、十数回目であったという。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ