挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~ 作者:りょうと かえ

覚醒と帰還

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

9/102

儀式【クロム伯爵の断罪】

断罪場面になります。
残虐、残酷なシーンになります。
ご注意の上、お読みくださるようお願いいたします。
 そこは、アラムデッド王宮の地下の一室であった。
 ろうそくに照らし出されるのは、不揃いな石造りである。

 湿度が高く、苔の匂いに満ちている。
 壁にはまだ希少な、大時計が備え付けられていた。

 古めかしい部屋の中央には、焦げ茶に染まった木製の寝台が置かれている。
 腕を寝かせる部分だけせり出し、まさに十字型であった。
 異様なのはびっしりと蛇が絡みつくように、魔術が彫り込まれていることだ。

 クロム伯爵が野太い鎖に巻かれて、身じろぎもできない様に寝台に横にされている。
 黒頭巾を被った数人が、せわしなく部屋を動き回っていた。

「そろそろお目覚めになられてはいかがですか、クロム伯爵」

 寝台の側に立っているのは、アルマ宰相であった。
 白い髪と服が、幽霊のごとき雰囲気である。

 退屈そうではあったが、眼は輝いていた。

「う……む……」

 投じた薬のためか、クロム伯爵の意識ははっきりしていない。

「起こして差し上げなさい」

「はっ!」

 黒頭巾が鎖に触れると、鎖はぎりりときしんだ。
 鎖が食いこみ、クロム伯爵を激しく締め上げる。

「あぐあっ!?」

「クロム伯爵、おはようございますですわ」

「お前は――それに、ここは……!?」

 不自由な首を回し、クロム伯爵は辺りを見渡す。
 鎖も振り払おうともがくが、びくともしない。

 段々とクロム伯爵の顔に、恐怖が浮かんでくる。
 クロム伯爵も、謀略渦巻く貴族の出だ。

 一国の宰相に薄暗い部屋に閉じ込められるのがどういうことか、察したのだ。
 あからさまに震える声で、クロム伯爵が言う。

「……俺に手を出せば、ブラム王国が黙っていないぞ」

「あら、芸のない脅しですわ」

「今なら、この無礼もなかったことにしてやる。早く自由にしろ!」

 アルマ宰相は、思わず失笑してしまう。
 黒頭巾達もつられて、嘲りの笑いがこぼれる。

「ふふふっ、なんという命乞いでしょう。場違いにも程がありますわ」

「なんだと……?」

「もう、遺言の時間ですわ。クロム伯爵」

 アルマがぱちりと指を鳴らすと、黒頭巾が腕の長さ程の筒を持ってきた。
 黒くてぐにぐにと柔らかく、形を変えられるようだ。
 クロム伯爵はその形と色から、ヒルを連想してしまう。

「おい、何をするつもりだ……やめろ、貴様!」

 わめくクロム伯爵を無視して、黒頭巾は筒を伯爵の右腕に押し当てる。
 一瞬、焼けるような激痛が、クロム伯爵の腕に走った。

「最後の情けです、ご説明いたしますわ」

 上ずった声音で、アルマ宰相が語り始める。
 高揚した様子のアルマ宰相の異名を、クロム伯爵は思い出していた。

 いわく、血塗れ宰相あるいは王族殺し。
 アラムデッド王国の暗部を引き受ける、白い死神と噂されていた。
 さらには、常軌を逸したサディストであるとも。

「今からクロム伯爵には、血量の儀式を受けて頂きます。古い掟に定められた、王女との婚約前に必須の試練ですわ」

 アルマ宰相が目配せすると、黒頭巾が魔力を筒に伝える。
 筒がぼうっと、淡く不吉な紫色の光を放ち始めた。

 同時にクロム伯爵の血が筒からぽたぽたと、石畳にこぼれていく。
 クロム伯爵の目に、驚愕が広がる。

「こ、これは……俺の血!?」

「結婚にふさわしいスキルがあるかどうか確かめる、血量の儀式ですわ。6時間の流血に耐えられれば、合格とみなします」

 クロム伯爵は、安堵のため息を飲みこむ。
 見れば、しずく程度しか落ちていない。

 意外と生き残れるのではないか。
 アルマ宰相は、おかしそうにクロム伯爵を見下ろす。

「このぐらいなら、助かるとお思いですか? 無知とは救い、とよく言ったものですわ」

「何……?」

「絶え間なく吸い上げられる血の総量は、恐ろしいものですわ。……成人でも、1時間で死に至るほどに」

「はぁっ!?」

「数時間もすれば、あなたの血は残らず地面にぶちまけられ――ひからびた骨と皮しか残りません」

 ヒル状の筒はどのような人間であれ、ちょうど6時間で全血液量の2倍を奪うようにできている。
 普通なら数時間で吸い枯らせてしまうのだ。

「なんだと……! 待て、止めろ! 嫌だァ!」

 大声を出して暴れはじめるクロム伯爵に構わず、アルマ宰相は説明を続ける。

「本来なら様々な試験や検査で弾かれるので、血量の儀式で死ぬ方は久しぶりになりますわ。300年ほど前に、愚か者が死んだきりですから」

 いにしえから多数の死者を出した、悪名高い風習だ。
 血なまぐささゆえ、儀式の詳細はエリスも知らないはずだった。
 自国でさえ一握りのヴァンパイアしかわからない。他国の人間で知りうるものは、皆無に近いだろう。

 クロム伯爵は、なおも無駄な抵抗とわめき声を上げていた。
 死を前にして見苦しくもがいているのだ

 魔術を使おうにも、鎖のせいか全く発動しない。
 ヒル状の筒が、ほんのちょっと揺れるだけであった。

「ジル男爵ももちろん、血量の儀式を受けましたわ。あなたと比べると見事でしたわ、黒頭巾の方々と談笑する余裕さえあったのですから」

「うるさいっ!! 放せえええ!!」

「エリス様の婚約者となるのでしょう? 順番が逆になっただけですのに」

 アルマ宰相は言葉に恍惚を隠さない。
 舌なめずりさえ、しそうだった。

「助けてくれぇぇ!!」

 クロム伯爵は体面を捨てて涙を流し、懇願する。

「俺が悪かった!! なんでもするぅぅ!!」

 嫌々と首を振り、ついに謝罪さえも口にする。
 婚約破棄の、哀れな代償だった。

 対するアルマ宰相は、薄く笑みを浮かべて見守るだけだ。
 消えゆく命をアルマ宰相はじっくりと、味わうのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ