調査隊の帰還と冬到来
ティアとの子の名は、ティゼル。
女の子。
健康に育ってほしい。
ティアが落ち着いた頃に、出産祝いの宴会が始まる。
少し飲み過ぎてしまった。
アルフレートには妹ができたわけだが……よくわかってなさそうだ。
山エルフたちの代表はヤー。
村での生活に戸惑いを見せたが、誰もが通った道を大きく外れることはなかった。
少しずつ慣れていき、十日もすれば落ち着く。
見た感じ、狩りは罠を張るやり方を主流としているらしく、慣れない森の動物相手ではなかなか成果が出せないようだ。
その分、採掘作業を頑張っており、加工も即戦力らしい。
予想以上に優秀だったのは焼き物だ。
俺が粘土を弄っているのを見て興味を持ったのか、やってみたら俺より圧倒的に上手かった。
焼きも試行錯誤があったが、窯焼きで安定して焼けるようになった。
俺が求めていた酒を納めるための甕も、キッチリ作り上げ、水漏れも無い。
冬の間は、焼き物に集中してもらうことになった。
そろそろ冬かなという頃に、北のダンジョンに向かった調査隊が帰ってきた。
魔物から採った素材を大量に持っており、成果に誇らしそうな顔をしている。
「ダンジョン内に友好的な巨人族が居ましたので、彼らと協力して調査を進めました。
ダンジョンは北に向かって広がっており、全容はまだ判りませんがかなり広いかと」
「危険なヤツは居たか?」
「はい。
ブラッディバイパーが何匹か確認できました。
討伐は厳しいので逃げましたが、攻略するならいずれは倒さないといけません」
「ブラッディバイパー……ああ、大きいヘビか」
前に大きい熊と暴れていたヤツだな。
「俺が行こうか?」
提案すると、後ろからラスティとハクレンが話に入ってきた。
「村長が行くことはないわ」
「そうそう。
私たちで処理するわよー」
……
「お前たちが行ってくれるなら助かるが、自主的に動こうとするのは妙だな」
「え?
そ、そんなことはないと思うけど?」
「うん。
全然、普通じゃないかな?」
問い詰めたら、自白した。
ブラッディバイパーの肉を食べると、精力がつくらしい。
えーっと……栄養、いや興奮作用があるってことか?
聞けば、子作りを願う者たちからは重宝される肉なのだそうだ。
前に手に入れた時は、適当に焼いて食べてしまったが……
俺が知ってたかと周囲を見ると、知らないと首を横に振られた。
「ブラッディバイパーを食べる機会自体が少ないですから」
ただ、効果は感じていたらしい。
俺は全然、気にならなかったけど。
「まあ、理由がわかったから行ってもいいが……とりあえず、春になってからな」
そう言ってその場は解散。
調査隊の持ち帰った物を仕分け、倉庫に納める。
……
あれ?
精力……春になってから……
未来のことは考えない。
逃げ場の無い冬じゃなくて良かったと考えよう。
冬になった。
寒い。
「男性不足と貨幣の導入について考えたい」
俺は村の主要人物を集めた会議で提案した。
「男性不足はわかりますが、貨幣ですか?」
「将来を考えると必要だ」
「そうですか?
今のままで十分だと思いますけど」
「さすがに今のままだと困るんだ」
「村長に何か不都合でも?」
現状、村の物はすべて村長である俺の物という状態だ。
狩りで得た獲物も、一度俺に納められた後で配られる。
誰かが何かを欲しがった時、俺の許可がいる。
最初の頃はそれでも十分だったが、今は人数が多い。
「細々したことを毎回聞きに来られたら俺の作業が滞るし、俺と連絡できないことで村がまったく動けなくなるのも困る」
正直、小さなことは自由にしてくれと思うし、色々と俺に報告して動いてくれているが、そのうちに俺の方が処理しきれなくなるのが想像できる。
俺としては農作業だけに集中したい。
村の運営とかは、フラウやラスティに投げてもいいかもと思い始めている。
しかし、そうもいかないので、現状を楽にする方向で動く。
「その対策が貨幣の導入ですか?」
「ああ。
物に値段を付けることで、小さなやり取りは自主的に処理してもらいたいと考えている。
だが、いきなり貨幣を導入しても馴染まないことは予想しているし、値段の乱高下に振り回される未来が見える」
経済は化け物だ。
素人がいきなりコントロールできるなんて微塵も考えていない。
「では?」
「段階を踏む。
第一段階がこれだ」
俺は少し大きめのコインの形に加工した石をみんなの前に出した。
コインの片面に大樹の絵を彫り、もう片面に社に飾っている農業の神様を彫った。
「これはなんですか?」
「貨幣の前の段階として考えた……褒賞メダルだ」
「どういった物で?」
「一年に一回、村人全員に何枚か配る」
「あ、わかりました。
この褒賞メダルと交換で物を貰えたり、何かしてもらえるということですね」
「そうだ」
貨幣よりも、利用券みたいなものかもしれない。
「村に貢献した者にもこれを渡すし、大会やゲームの勝者にも渡そう」
「おおっ」
まずはこれに慣れてもらい、徐々に貨幣にシフトしていければと考える。
まあ、先の長い計画だが。
「どうだろう」
「とりあえず、一年。
やってみましょう」
そう決定された。
「ところで……この褒賞メダルですが、村人全員に何枚かずつ配るとなると、それなりの数が必要となりますが……」
村人に悪人は居ないと思うが、偽造は困る。
なのでそれなりに作り込む。
現状、石をあそこまで加工できるのは【万能農具】を持つ俺だけだ。
辛いのは最初だけ。
そう、最初だけだから。
俺は自分に言い聞かせ、冬の間は黙々と褒賞メダル作りに励んだ。
へへ。
偽造できるもんならやってみるがいい。
メダルの側面に通しナンバーを振ってみたり、隠し図柄を入れたりしてみた。
面倒臭さがアップした。
「男性不足に関して、欠片も話し合いがなかったけど……」
「あっ」