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ユーリが帰る



「毎年、行われるお披露目会での風物詩を言ってみなさい」


「風物詩?

 え?

 魔王様の挨拶?」


「そうじゃなくて、毎年出る一部のアレよ」


「あー、低い身分の娘が、上の身分の方にモーション掛けてヒンシュクを買っちゃうヤツ」


「そう、それ。

 貴女はそれを見て、どう思ったかしら?」


「身の程を知りなさいと」


「そうよね。

 では、もう一回言うわよ。

 私はここの最底辺。

 貴女はその最底辺の部下。

 村長はこの村のトップ。

 私の言いたいことは理解したかしら?」


「ひょっとして、昨晩の件?

 村長の部屋に忍び込んだ」


「そうよ!

 貴女がやったのは、平民がいきなり王様のベッドに潜り込む行為。

 その場で打ち首になってもおかしくないの」


「そんな大袈裟な」


「大袈裟だと思う?

 ねえ、思う?」


「え、えっと……ご、ごめんなさい」


「一応、よく分かってないのが部屋を間違えただけと言ったけど……村長以外は誤魔化せなかったわ」


「村長さえ誤魔化せたら良いんじゃないかな?」


「……先ほどの風物詩の話だけど、低い身分の娘にモーションを掛けられた上の身分の男性が、その娘を怒ったりした?」


「え?」


「怒ったりしないわよね。

 上手くかわして終わり。

 怒るのは、上の身分の男性を狙っている上の身分の女性」


「つまり……」


「死んでも構わないから、私は無関係って証言しなさい」


「ちょ、フラウレムさん。

 冗談ですよね。

 お願い、待って、助けて」




 フラウの連れてきた娘さんたちが色々と頑張ったのを見て理解した。


 彼女たちは文官だ。


 会社で言うなら事務や秘書、受付嬢。


 営業ができないことも無いが、得意なのは組織の内部で支えることだろう。


 それが十人。


 ……


 村には過剰な数だと思うが……


 商売とかをさせればいいのかな。


 礼儀作法はしっかりしているし、交渉もできそうだし。


 ともかく、当面はフラウのもとで頑張ってもらおう。



 しかし、彼女たちはしっかりしていると思っていたが、うっかりさんもいるんだな。


 俺の部屋をトイレと間違えるとは。


 危ないところだった。


 他の者が連れ出してくれて良かった。


 しかし、彼女はトイレで全裸派か。


 この世界にも居るのだな。


 トイレに化粧スペース……いや、着替えスペースを設置すべきだろうか。


 今度、聞いてみよう。




 乗馬の練習をするが、なかなか上手くならない。


 鞍や鐙があるので振り落とされることは無いが、乗っているというよりは、乗せられている感じだ。


 俺の思い通りの方向に進むことは無く、半ば諦めの境地だった。


 しかし、解決の光が見えた。


「真っ直ぐ進むぞ」


 俺の指示にクロの子供たちが従い、クロの子供たちの誘導で馬が動く。


 やった!


 思い通りに進んだぞ!


 ……


 違う。


 俺の望んだ乗馬と違う。


 あと、この方法だと馬が可哀相なぐらいに怯えている。


 もう少し、馬との交流というか信頼関係というか……


 エサやりから、気長にやっていこう。




 北のダンジョンに向け、調査隊が編成され、出発した。


 攻略隊ではなく調査隊と名付けたのは、やり過ぎないようにとの意味を込めてだ。


 メンバーはハイエルフが十名。


 リザードマンが三名。


 鬼人族が二名。


 インフェルノウルフ三十頭。


 ザブトンの子供がインフェルノウルフの背中に一匹~三匹。


 南のダンジョンから、ラミアたちが三名。


 ラミアたちの支配下にある大きなヘビの魔物が二十匹ほど。


 予定では、何があっても冬前に戻ってくることになっている。


 無事に戻ってほしい。




 村での規格に関して、話し合われた。


 きっかけは酒の量だ。


 村の外ではどうなのかと聞いたが、統一規格は無いらしい。


 なので、村独自の規格を作ることにした。


 俺には【万能農具】がある。


【万能農具】を定規に変化させれば、前の世界のミリ、センチ、メートルが計れる。


 ひょっとしたら狂ってるかもしれないが、何回か出しても同じ長さだったから大丈夫だろう。


 同様に【万能農具】を計量カップにして、リットルを計る。


 重さに関してはどうしようかと思ったが……確か、水一リットルの重さが一キロのはずだ。


 水温で変化するが、基準が何度だったかは覚えていない。


 4度ぐらいだったと思うが、計る方法が無い。


 まあ、前の世界に厳密に合わせる必要も無いだろう。


 基準が必要なだけだ。


 そんなこんなで、長さ、体積、重さの基準を決めた。



 余談。


「凄いですね。

 村長の畑、ほぼ五十メートルですよ」


 適当にやったのに、俺って凄い。


「大樹から川まで、百メートルが五十二回です」


 五キロぐらいの“ぐらい”に二百メートルは入れても大丈夫だろうか?


 ……大丈夫だ。


 うん、適当な感覚だったのに、俺って凄い。




 そろそろ秋の収穫が始まろうとした頃、フラウの客のユーリが帰ることになった。


 三ヶ月ぐらい居ただろうか。


 ずいぶんと村の生活にも慣れ、時々は獣人族に混じって砂糖を絞ったり、油を絞ったりしていたので、ユーリが帰ることを惜しむ声は獣人族に大きかった。


 一緒に来た娘たちもユーリが帰ることを惜しんでいたが、それじゃあ一緒に帰りましょうの言葉には乗らなかった。


「すみません。

 王都での失態は、ここで一からやり直していくことで償おうと思っています」


「未熟な私を鍛えてくれたこの村に恩を返せていません。

 それまでは不退転の覚悟です!」


「お世話している畑を放って帰るワケには……申し訳ありません」


 一緒に来た娘たちは全員、村に残ることになった。


「貴女たち……その手に持ったお皿(お料理)とコップ(お酒)を置いてから、もう一度、言ってください」


 全員、自主的な希望なので問題は無さそうだ。


 ユーリが魔王の娘だと言うのは、最近になって知った。


 良い所のお嬢さんだとは思ったが、まさか王女様だとは。


 この村に居て良かったのだろうか?


 これまで何度かビーゼルが来てたが、それって彼女を迎えに来ていたのではないだろうか?


 よくわからん。


 ともかく、悪い印象を持ってなければいいな。


 迎えに来たビーゼルを交えて送別会という名の宴会を行い、お土産をそれなりに渡しておいた。



 後日、ビーゼルからの小型ワイバーン通信に、ユーリからのおねだりが加えられるようになった。






 魔王の城


「ビーゼル。

 娘が村から戻ってきてから、妙に凛々しくなったというか……頼もしくなった気がするのだが」


「そうですね。

 そうかもしれませんが……なぜそれを私に言うのですか?」


「最近、お前と娘、仲が良いだろ?」


「仲が良いというか、私の娘との連絡の仲立ちをしているだけです」


「そうか。

 ……ところで、その連絡で娘が私に関して何か言ってないか?」


「どういうことです?」


「最近、娘が私に冷たい」


「……気のせいでは?」


「いや、確実にだ。

 昨日なんか、朝と夜の挨拶しかしていないんだぞ」


「それは魔王様が忙しいからでは?」


「いやいや、そんなことは無い。

 何度かこっちが暇なことをアピールしてもスルーされるんだ」


「あー……私も娘を持つ身ですからなんですが……

 あの年頃になれば、そんなものでは?」


「ウチの娘は違う」


「……魔王様。

 残酷なようですが、娘は親の知らぬ間に大人になっていくものですよ」


「大人?

 男か!

 まさか男ができたのか!

 誰だ!

 殺してやる!」


「魔王様、魔王様。

 そんな態度だと、いきなりお腹を大きくしてから紹介されたりしますよ」


「ひぃぃぃぃぃっ!

 だ、駄目だ駄目だ駄目だ。

 そんなの駄目だぁぁぁぁっ!」


「まだ先の話です。

 落ち着いてください。

 あと、もうすぐ会議です。

 西方戦線に関しての資料、目を通しましたか?」


「会議なんてやってる場合じゃないっ!」


「会議を優先しないと、王姫様に嫌われますよ」


「それは困るぅぅぅっ!」


「はいはい。

 後で王姫様に魔王様のことを伝えておきますから、会議頑張ってください」


「本当か?

 本当だな。

 頼んだぞ」


「お任せください。

 では、会議場に向かいますよ」


「う、うむ!

 あ、ちょっと待って。

 切り替えるから……よし。

 ふははははははは!

 魔王国に攻め込んできた愚か者たちの未来を決めるとするか!」


「はっ」


 ビーゼルは苦労人だった。



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― 新着の感想 ―
ま、どこの世界でも社長ってこういうもんよね。 頑張れ、魔王。
[一言] トイレで全裸派とは自分が信じたい解釈ですね、余計なことを考えないように...
[気になる点] 魔王様、そんな小物感で大丈夫なのか…?
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