ワイバーン通信と港町のマイケルさん
子供がかなり大きくなっていた。
毎日見ていたはずなのだが……うーむ。
これは、もうすぐ立つな。
親馬鹿と言ってはいけない。
最近、ティアやハイエルフたちが積極的だ。
気持ちは分かるが、こればかりは天の授かりもの。
努力はするが、無理はしないでほしい。
あと、ラスティやフラウの様子を見に来たドライムやビーゼルが、遠回しに孫を求めるのはどうなんだろう。
本人が了承しない限り、無理はしませんから。
本人が了承したら?
そりゃ、二人は美人ですから……え? でも、ラスティって卵生じゃないの?
フラウさん、貴族の娘さんでしょ?
構わないって……
駄目だ。
これ以上、話を進めないようにしよう。
取り返しが付かない気がする。
ラスティの小型ワイバーンによる通信は、基本的に定期便。
連絡の有る無しに関わらず、こちらから一定のタイミングでワイバーンを送り、向こうから連絡がある時はワイバーンがこちらに帰る際に持たせることで行う。
基本、一日一便。
連絡頻度を高くしたい相手の場合は、一日に複数便。
忘れない程度でよければ、一週間に一度とか一ヶ月に一度などにする。
どちらにせよ、受け取る相手方の協力を必要とする。
ハウリン村との連絡は一週間に一度。
こちらからの連絡内容は、獣人族の移住組達から親などへの手紙が主になる。
向こうからは穀物と鉱物の交換に関しての話が主だ。
ある程度交換の話が形になるとティアが直接行って話をまとめてくる。
穀物や鉱物の輸送に関しては、前はドライムに頼んでいたが今はラスティが運んでくれる。
最初はドラゴンが荷運びなんてと乗り気ではなかったが、甘味を用意することで引き受けてもらえた。
ティアの話では、このまま食料を完全に大樹の村に依存し、ハウリン村は採掘や鉄器作りに専念する方向の話も出ているらしい。
最終的に判断するのは向こうだが、大樹の村に鉄器が行き渡った後に困るんじゃないかと忠告はしておく。
実際、ハウリン村全員の食料を賄おうと思えば、畑をさらに広げねば厳しいし、ハウリン村の大半が採掘や鉄器作りに専念して生産される鉄器の行き場があるのだろうか?
まあ、魔王国は戦争中らしいから鉄は必要とされるか。
しかし、戦争が永遠に続くワケではないしな。
俺としてはハウリン村はハウリン村で食料生産を続けるべきだと思う。
南方、ドライムの巣がある山を越え、鉄の森を越えた所に海がある。
その海に面した人間の港町との取引を提案された。
提案者はフラウ。
目的は、海産物の獲得。
切っ掛けは食事中に呟いた俺の言葉。
「海産物があれば、もっと色々な味を出せるのにな」
俺以外の村人の結束が半端なかった。
南の港町の名前はシャシャート。
シャシャートの街と呼ばれている。
なんでもそこにフラウの知り合いの商人の店があるらしいので、そこを窓口に取引を行いたいとのことだ。
海産物が手に入るなら俺も嬉しいので協力する。
取引となっているが、ハウリン村と同じように物々交換が可能らしいので、持っていく物を選ぶ。
俺は真っ先に酒を提案したが、却下された。
「酒を外に出すとは酷いことを言う」
「酒は村の宝です」
「お酒は村で保管しておきましょう」
ドワーフ、ハイエルフの結束は固そうだ。
仕方が無いので、作物を選ぶことにした。
「向こうが何を欲しているか判らないから、余剰の多い作物を中心に出すか」
「そうですね」
とりあえず、定期的な取引とかは置いておいて、必要な魚介類を手に入れるための取引と思おう。
後は向こうで情報収集すれば良いだろう。
などと思っていたのだが、俺が行くのは駄目だそうだ。
シャシャートの街へ行くメンバー決定。
代表、フラウ。
輸送担当、ラスティ。
荷運びと護衛、ダガを含めたリザードマン五人。
「行って参ります」
「頑張って運ぶわ」
「荷運びはお任せください」
シャシャートの街まではそれなりに距離があり、積荷と同乗者の安全を考えた速度だとラスティでも半日掛かるらしい。
なので無理せずに途中で一泊。
南の山にあるドライムの巣で泊めてもらう予定だ。
お邪魔でなければいいのだが……ラスティにすれば実家帰りのようなものだろう。
翌日に街に着き、その日のうちにまたドライムの巣に戻って一泊。
帰ってくるのはその次の日になるので三日後になる。
無事に帰ってきてほしいものだ。
帰ってきた。
ラスティの背には荷物がたくさん載せられ、行きよりも人数が増えていた。
「村長。
シャシャートの街の商人、マイケル氏をお連れしました」
フラウが身なりが良い中年男性を紹介してくれる。
「ど、どうも、初めまして。
ゴロウン商会の会頭をしておりますマイケル=ゴロウンです」
「大樹の村の村長、ヒラクです」
ペコペコと頭を下げあう。
ああ、なんだか懐かしい感覚。
「村長。
こっちの二人が私の家で働く使用人。
構わないわよね」
ラスティがドラゴンの姿のまま、メイド服姿の二人を紹介する。
「ブルガです」
「スティファノです」
見た感じ、人間のようだが……見ていたら背中からコウモリの羽を広げてくれた。
悪魔族だそうだ。
ドライムの従者グッチの親戚らしい。
前々からラスティの元で働く使用人を選んでいたらしいが、やっと決まったので連れてきたそうだ。
二人のことは了解。
しかし、なぜ商人のマイケルさんを連れてきたんだ?
その答えはマイケルさんがくれた。
「この村の作物の出来に驚きまして、できれば今後とも友好的な取引をと思いご挨拶に参った次第です」
「それはわざわざ、ありがとうございます」
「ははは。
こちらこそ、貴重な体験をさせていただきました。
ドラゴンに乗ったり、ドラゴンの巣で一泊したりと……」
あ、顔が青くなっている。
よほど怖かったのか、それとも帰りのことを考えたのか。
「今日はお休み下さい。
詳しい話は明日ということで」
「わかりました。
そうさせていただきます。
ああ、私の荷物なのですが……」
マイケルさんを荷物と共に宿に送り、世話係の手配をして戻る。
少し前までフラウも宿で生活していたが、フラウ用の家が完成したのでそちらに引っ越している。
一人で生活するのは初めてで、鬼人族に色々と助けられていると言っていた。
そのうち、ラスティのように使用人を外部から連れてくるかもしれない。
「ご苦労様。
成果は?」
「言われた通り、海産物を大量に持ってきたわよ」
ラスティの背中から荷物はすでに降ろされている。
「鮮度を保つため、氷漬けにしています。
目録はこちらに。
とりあえず地下室に運びます」
ダガがそう言って俺に渡した目録を見る。
聞いたことが無い魚や貝の名前がずらり並んでいる。
……
荷物を軽く覗いた感じ、マグロやカツオ、サンマ、サバに似た魚があったし、ホタテやサザエっぽい貝もあった。
名前が違うだけで、種類は一緒かな?
どう見てもイカもあったし。
ただ、魚や貝は毒や寄生虫の危険性があるから、一応は知っている人に聞いてからにしよう。
詳しい人って居ただろうか。
明日、マイケルさんに聞いた方が正解かな。
「こちらがシャシャートの街で加工された商品です。
調味料として利用されているそうです」
ダガが壷を持ってきて説明してくれる。
シャシャートの街の特産品らしく、鍋で煮る時に一緒に入れるらしい。
見た感じ、魚醤……かな?
ともかく、俺の知らない調味料は嬉しい。
味の幅が広がるだろう。
他に色々と小物や道具を買ってきてくれたので、村人に配る。
その日の夜は行った者たちを労うとの名目で宴会になった。
それならマイケルさんの歓迎会で良いじゃないかと思ったが、それは翌日らしい。