冬の間に周辺地理の勉強
冬到来。
今年も食料に問題は無い。
なので真面目に内職か勉強を頑張る。
内職は木や石での小物作り。
勉強は魔法と周辺地理に関して。
魔法はともかく、周辺地理に関しては興味を持たなさ過ぎた。
魔王の所のビーゼルや、ハウリン村のガルフとの会話の時に困ったので反省し、勉強となった。
現在、村があるのが大きな盆地のほぼ中央。
この盆地全体に広がっている森が、死の森と呼ばれているらしい。
死の森の大きさは……よく判らないが、ハイエルフのリアたちで横断するのに一ヶ月。
これは生活するための装備を持っての移動だから、装備が無ければ半分ぐらいで横断できると言っていた。
ただ、獣人族のガルフが村に来た時、東の山の麓からこの村に来るのに一ヶ月ぐらい掛かったとか言っていたから、どっちを基準にしたものか。
ちなみに、空を飛べるティアたちなら半日あれば横断できるらしい。
死の森の南側の山脈にドライムが巣を作っているので、竜の山と呼ばれているらしい。
竜が住んでいるので、山で争う者は居ないが、通行者はそれなりにあるらしい。
その竜の山を越えて南へ進むと、また森があり、そこは鉄の森と呼ばれているらしい。
鉄の森を越えてさらに南に進むと海があるとドライムが言ってた。
海の傍には人間の町があるとのことなので、買い出しに行けるなら行ってみたい。
死の森の西側の山脈を越えたところに、魔王の城と城下町があるらしい。
それなりに賑やからしいが、こっちが話を振ってもビーゼルから来訪を歓迎するようなことは言われなかったので自重する。
魔王の領地はその城を中心に円状に広がった感じで、南にある人間の町も東にある人間の町も魔王領の領地だそうだ。
城から見てすぐ東にある死の森が勢力圏というのに納得する。
誰もいないから今まで放置していたのかな?
現在、魔王の勢力圏の西側にある人間の国、フルハルト王国と戦争中とのことだ。
位置的に、村は魔王の城の裏側にあるので戦争に巻き込まれる可能性は低いと思う。
ちなみに、魔王の領地は魔王国、もしくは現魔王の名前を付けてガルガルド魔王国と呼ばれている。
村から見て東の山にはハウリン村。
その山の向こう側には人間の住む村、タロッテ村があるらしい。
そのどちらの村も魔王領の領地だが、魔族が駐在していることは無いらしい。
ハウリン村やタロッテ村の周囲にも小さな村々があるらしいが詳しいことはわからない。
ハウリン村に住んでいた獣人族のセナに聞いても、交易ぐらいでしか交流がなかったので、詳しくは知らないとのことだ。
北の山には目立った物はなく、その山の向こうも山。
夏場でも移動は困難で、冬場は誰も通れない場所になるとのことだ。
遥か昔に危険な物が封印されたとかの噂があるけど、真相は判らないらしい。
噂であってほしい。
ちなみに、魔王の城から東のハウリン村に徒歩で行こうと思った場合。
魔王の城から南に降り、海岸沿いを移動した後で北上するとのことだ。
結構、迂回するのだなと思ったが、普通は死の森や鉄の森、また竜の住む山を移動ルートに含めないらしい。
そんなに警戒しなくても良いと思うのだがなぁ。
ルーやティア、フローラなんかは単独で来られたし、案内があればアンやダガたちだって来られたのだから。
「リアたちの村があった場所はどこになるんだ?」
「ここから北西の山を越えた所になります。
今の魔王の城の北にある森です」
「ルーはどこから来たんだ?」
「ガルバルト王国。
フルハルト王国の北にある国ね」
「へぇ」
「一応、私が先に住んでいて、後で人間が来たんだからね」
「……年齢は聞かないようにするよ」
「それが賢明。
ティアたち天使族は、ガルバルト王国のさらに北側よね」
「そうですね。
ただ、大半の方は個別に活動していますから、あそこは共有の連絡場所的な役割しかありません」
「天使族は有名ですけど、生態は謎の種族ですから」
「一時は信仰の対象になってたんだっけ?」
「勝手に崇めてた人がいただけです。
こちらがお願いしたワケではありません」
「お布施を集めていたこともあると聞いていますが?」
「それはその……生活はしないといけませんから」
色々大変なようだ。
「ともかく、大体はわかった。
後は地名だな」
「そうですね。
頑張って覚えてください」
冬の間、勉強は続いた。
冬の間の特別なこと。
一人のドワーフが寒い中やってきた。
うん、やっぱり死の森って名前負けだと思う。
来ようと思ったら来られるし。
「ここに良い酒があると聞いてきた。
飲ませてくれないだろうか」
「対価を払うなら構いません」
応対したのはリア。
「悪いが金は無い。
しかし、技術はある」
「鍛冶ですか?」
「いや、酒造りだ」
「……良い酒を飲みに来た対価が酒造り?」
「聞いた話では、ここの酒はブドウから作った酒であろう。
ワシらはブドウ以外からも酒を作る技術を持っている」
ニヤリとするドワーフ。
「ここの酒が美味ければ、定住も考えてやろう」
「よろしい。
勝負です。
この方にお酒を!」
住民が一人増えた。
「あれ?
俺に一言も無し?」
「駄目でしたか?」
「いや、構わないが……」
「では、問題無しということで。
今年の冬は宿で寝泊りしてもらいます。
歓迎会は今夜。
準備は進んでおります。
村長には冒頭の挨拶をお願いします」
「……りょ、了解」
冬場はイベントが少なく、飲める機会を逃さない住民たちだった。
冬の間に始まったこと。
家の中は暖かいが、外は寒いのでなるべく出たくない。
なので、皆は室内で何かをしている。
黙々と。
流石にずっと続けるのは厳しいので、遊ぶ時は遊ぶ。
前に作ったリバーシとチェスが中心だ。
そこに、新たにミニボウリングが参加した。
「なかなかまっすぐ進まない」
「ピンまで届かない?」
「くっ……三本も残ってしまった」
正式なレーンサイズやピンのサイズは知らないし、室内で遊ぶにしても場所を取るので適当に小さくした。
大体、幅は一メートルで、長さは十メートルの木の板をそのままレーンとし、木の枝を適当に削って立てたピン。
「倒す意味は?」
と素朴なことを聞かれたので、ピンに顔を彫って悪人ということにしておいた。
全員が同じだとアレなので、適当に変化を付けて個性を出した。
ボールは石を丸く削っただけのもの。
指を入れる穴を作るのが難しいので、ソフトボールぐらいのサイズで転がしやすいようにした。
軽い運動ができるようにと思って作ってみたのだが、思いの他に村人たちの食いつきが良かった。
「あの一番右の殺人鬼がどうしても倒せないっ!」
「左の放火魔の方が難しくない?」
「なぜか私の時に限って、詐欺師(一番ピン)が残る」
冬の間にレーンが六つになるぐらいの人気だった。
「専用の建物を作るべきでしょう」
春になった時、遊技場の名目で新たな建物が作られることが決定された。
ちなみに、俺はいきなりミニボウリングを作ったワケではない。
最初にチャレンジしたのはダーツだった。
的があれば、後は投げて刺さる物があれば十分と考えたからだ。
で、的は木を切り、少し加工して完成。
投げる物はと考えて、普通にナイフになった。
ダーツというより、投げナイフという競技かな?
疑問に思いながら投げてみたが、周囲の壁を傷付けるだけだった。
多少、ムキになって続けたが、駄目だった。
休憩中、やらせてほしいと言ってきたハイエルフたちがスパスパと命中させた。
「もう少し距離があってもいいですね」
ま、まあ、彼女たちは森で生活をしていたワケだし、そういった技術が無ければ生きていけなかったのだろう。
アンたち、鬼人族たちもスパスパ命中させる。
「的を人型にしませんか?
良い練習になります」
……
リザードマンたちもスパスパと命中させた。
「ナイフよりもヤリの方が得意なのですが……ああ、中心から少し離れてしまいました」
……
確実に酔っ払っているドワーフが命中させたのを見て俺の心が折れた。
そうして作ったミニボウリングだが、決して逃避ではない。
その証拠に、ミニボウリングでの俺の成績は良いとは言えない。
「村長、ボール作って」
「今度のピンは山賊でお願いします」
「えー、魔物シリーズでしょ」
現在、俺は道具作りに精を出している。
多分、これが逃避だ。