酒を飲みながらの報告会と新しい住人
報告会という名の宴会。
ドライムが居るので、宿で行うことになった。
ティアとダガの話をメインにまとめるとこうだったらしい。
まず、ティアたちの行動に関して。
ドライムが竜の姿で村に行ったことでパニックになったらしい。
それをなんとか宥め、その日は荷物を降して宿泊。
向こうの村での食事は貧相で少なく、ティアとドライムの希望で非常用として持たせた食料を早々に消費した。
翌日、日の出と共に交換市が始まったが、しばらくは遠巻きにされるだけで誰も近寄らなかった。
なので試食を始めて、客を呼び込んだ。
気付けば全ての荷物の交換が終わっていた。
人気は果実系とワイン。
穀物関係も全部交換できたが、これはハウリン村の村長や名主などの大きな家がまとめて確保に来たので人気があるのかどうかは、この段階では判らなかったらしい。
こちらが交換で手に入れた物は、予定通りの塗料、鉄製品、銀製品、ガラス製品。
交換市は日が落ちる寸前まで続けられるのだが、半ばで交換が終わってしまったので、予定を早めてそのまま帰ろうかと考えていたら、ハウリン村の村長や名主に引き止められたので翌日まで居ることになったそうだ。
引き止められた理由は、今後も交換市へ参加してほしいとの要請と、市以外で穀物類の交換を頼めないかとの話があったため。
夜の食事は、こちらが交換した作物を使った料理やワインが出たので、それほど不満はなかったそうだ。
で、次の日、夜の話し合いの再確認を行い、昼ぐらいに荷物をまとめてドライムに運んでもらって帰ってきたと。
なるほど。
まとめた話し合いの結果は、別に聞くとしよう。
次に向こうの村の様子。
向こうの村は、寒村ほどではないが裕福な村という感じでもないらしい。
採掘場所が変わる度に村自体が引っ越しをするので、村は綺麗だそうだ。
子供が狩りと採取、大人が採掘といった感じで分担されているらしい。
ただ、これまでは採掘で得た鉱石やそれを使った製品を人間の村との交易で食料にしていたので、それが滞っている現状はかなり危ないとのことだ。
一応、食料の備蓄はあるし、遠方になるが他の村も交易に来てくれているのでなんとか凌いでいるとガルフの言。
大樹の村と食料の交易ができれば助かるが、行くのが至難なので頻繁には通えないし量を運べない。
だから、今後も今回のように来てもらえると助かる。
市以外でも、交易できると嬉しい。
欲しい物があるなら、できるだけ用意するから言ってほしい。
これが向こうの村の様子らしい。
なんだか最後は、向こうの方の懇願を聞いた気分だ。
ドライムが良い感じで酔って寝たので、報告会はお開き。
俺はハウリン村に行った者たちを労い、解散となった。
「旦那様。
よろしいですか?」
「報告会で言えなかったことか?」
「いえ、普通に報告忘れです」
「ん?」
「向こうの村長から、こちらの村に何人か移住できないかと打診されました。
即答せず、検討しますと返しています」
「移住?」
「はい。
ハウリン村の様子から、口減らしかと」
「あ、ああ。
そうか」
食料に困っている村が行う対策は二つ、食料を増やすか食べる者を減らすかだ。
「こっちは住人が増えるのは構わないが……ティアが向こうに即答しなかったのは何か問題があるのか?」
「移住希望者は、全員が若い女でしたから」
「……え?」
「男は労働力や戦力として手放せません。
老人は場所が変われば知恵や経験が活かせませんし、老人を押し付けられたと移住先の心証を悪くします」
残るのは若い女性と。
即答しなかったのはナイス判断だが……
これは引き受ける流れ。
大樹の村は、幸いにして余裕がある。
人手もあればあるだけ嬉しい。
……
困った時はお互い様。
助ける余裕があるなら、助けたい。
しかしだ。
「移住希望者は何人だ?」
「最大で二十二人です。
ただ、一人でも二人でも構わないので、受け入れてもらえればと」
「……条件付きで全員を引き受けよう」
「条件ですか?」
「ああ。
若い男を何人か加えるように言ってくれ」
助けるだけでは、良い関係とは言えない。
こっちの困っている部分を助けてほしい。
男不足。
「それが条件ですか?」
「そうだ。
若い男を少なくとも二人以上。
多ければ多いほど良い」
「承知しました」
「それと……一家で移住したいなら、受け入れると伝えてくれ」
「一家で移住ですか?」
「娘を見知らぬ場所に送るなら、一家でと考える家があっても変じゃないだろ」
「一般的な考え方ではないと思いますが……わかりました」
一般的じゃないのか?
前の世界の常識に引っ張られてしまっているのかな。
翌日、ティアは単独でハウリン村に行き、移住の話をまとめた。
十日ほど後、またドライムに頼んで運んでもらう。
竜への一頼み、ワイン一樽なのは高いのか安いのか……
村に新しい住人が来た。
獣人族が二十五名。
女性二十二名。
男性三名。
待望の男性。
男!
はははははは!
……
やってきた男性三名は、幼稚園児ぐらいだった。
「若い男性とのことでしたので」
「ワザとか?」
「いえ、そのようなことは」
まあ、言ってみて、上手くいけば良いなぁのノリだったけど……
いや、諦めるな。
今は駄目でも、何年か後なら防波堤になってくれるはず!
それに、若くても男が居るなら、種のためとかの理屈を避けることができる!
悪くない。
悪くないじゃないか!
後は、ゆっくりと鍛えていくだけだ。
頑張って、女を何人も養う男になってくれ!
「私はセナです。
この度は私たちの移住を受け入れてもらい、感謝しています」
移住者の代表はセナ。
やってきた者の中では最年長っぽく、タレた犬耳が特徴だ。
なんでもハウリン村の村長の娘らしい。
「どのような扱いにも耐えますので、どうかお見捨てにならないで下さい」
「あー……そう畏まらなくてもいい。
移住者だろ。
今後は大樹の村の民。
仲間だ」
「そう扱ってくださると……
ありがとうございます。
正直、奴隷以下で扱われる覚悟で参りました」
「悲愴な覚悟を無駄にして申し訳ない。
とりあえず、寝床は用意している。
全員、しばらくはそこで生活してくれ」
「しばらく?」
「ああ。
生活に慣れたら、色々と要望を聞くから。
何人かでこのあたりに住みたいとか、こんな感じの家が良いとか」
「わ、わかりました」
俺は鬼人族メイドの一人を呼ぶ。
「ラムリアスです。
貴女方の世話係に任命されました。
よろしくお願いします」
「わからないことがあれば、俺か彼女に聞いてほしい」
「はい。
よろしくお願いします」