マイホーム
基礎のしっかりした大きい家だった。
なんだろう。
これは。
俺の新しい家らしい。
……
え?
どうしてこのサイズに?
「個室、欲しいから」
「前々から小さいと思っていたんですよね」
「村長の家ですから、これぐらいでなければ」
押し切られたし、完成したのだから仕方が無い。
大きいとは言っても、基本はログハウスと同じような作りで、釘などを使っていない木組みの家だ。
だから、どうやっても大きさの限界がある。
また、明かりを取る構造から長方形の形が基本となる。
正方形の大きな家にすると、真ん中に光が入らないからだ。
中世とかの屋敷がコの字やロの字型なのは、そういった面が強い。
同じように、目の前にある家も東西に長い長方形。
出入り口の玄関部分だけ少し出っ張っている。
その出っ張っている部分がエントランスかと思ったら違った。
玄関を入ってすぐは、大きなホールだった。
大体、奥行きが十メートル。
部屋幅が……その三倍ぐらいなので三十メートルぐらい?
高さは二階部分をぶち抜いているので七~八メートルぐらいある。
さすがにこの広さの屋根を支えるのには柱がいくつか必要だが、それがまたデザインが施されて高級感を醸し出している。
「集会場所としても利用できるように考えました」
ラファが胸を張って答える。
ホールの奥に大きな扉があり、そこを開くとこれまで寝床にしていた場所が中庭のように現れる。
当然、目に入るのはザブトンが寝床にしている大きな木。
その存在感で、新しい家はその木を守る門のようにも感じる。
リアのログハウスと同じように、ホールの左右に扉と二階へ行くための階段がある。
一階の左側の扉の先が、俺のプライベートルームらしい。
右側の方が外のトイレに近いんじゃないかと思ったら、家の中にトイレを完備してました。
「スライムが居るのですから、上手く使わなければ」
トイレは一階に三箇所。
二箇所はホールの階段傍で、一箇所は俺のプライベートルーム内に設置されている。
俺のプライベートルームは、そのトイレと寝室、私室と倉庫で構成されている。
トイレ以外の部屋は、これまで寝ていた小屋よりも広いので少しビビる。
「カーテン、シーツ類は、ザブトン殿が用意してくれました」
寝室から窓の外を見ると、ザブトンが手を振っていたので振り返す。
ホールの右側が食堂用の部屋、そして室内でも簡単な調理ができるようなキッチン。
キッチンから外に出るための扉があり、その先は野外に設置された調理場だ。
野外の調理場やそこに行くまでの通路に屋根が取り付けられ、雨天にも対応できるようになっている。
さらに、キッチンの地下に地下室が作られ、食料庫として使用される予定だ。
ホールの左右の階段を上り、左側に向かうと個室が並んでいる。
ここにルーとティアが一室ずつキープするらしい。
まだまだ空いているのは、なぜだろう。
考えないようにしよう。
左側からホールの二階部分に設置された廊下を通り、右側へ行くと、こっちは個室よりも少し大きめに作られた部屋。
作業場や倉庫として使うことを考えているらしい。
どの部屋も同じ大きさの窓を付けられ、明かりは十分。
非常に良い家だ。
「あとは一冬過ごしていただいて、不満点などを改善できればと考えています」
まあ、大きい家と驚いたが、穴を掘れと言われたり、地下室を作れと言われたり、大きな柱を用意しろと言われていたので予感はあった。
考えないようにしていただけだ。
そういえば、この新しい家とこれまでの寝床の間にあった丸太柵は撤去され、堀は埋められた。
クロたちが軽々と飛び越えているのであまり役に立たないのは理解しているが、無くなるとそれはそれで寂しい。
なので埋めた堀の一部を花壇にした。
食べられる物以外も、育てられるかの実験も兼ねて。
何を育てるか悩んだが、とりあえずはメジャーな薔薇にしておいた。
さて、大きな家ができたが、この家作りで活躍したのはリアやラファ達だけではない。
誰が一番頑張ったかと言えば、ティアだろう。
ティアが魔法でゴーレムを作り、建設に大きく貢献していた。
作れるゴーレムは一体から三十体。
数が少ない方が大きくて力強く、細かい操作が可能らしい。
単純な作業なら数を出し、細かい作業の場合は数を絞るのが一般的な使い方らしい。
ちなみに、初めてココに来てクロに襲われた時にも使ったらしいが、ゴーレムを作る端から潰され、俺が来るまで保たなかったそうだ。
そして、新しい発見というか俺が自覚していなかった点が一つ。
それはこの辺りの森の木の強度。
かなり硬いらしい。
なので、建材として非常に優秀なのだが、伐採と加工が大変という欠点があるのだそうだ。
しかし、俺の【万能農具】があれば伐採に苦労はなく、また加工も同様。
リアたちがガツガツと木を削っていたから、それほどでもないかと思っていたが、家が早くできた理由に俺の存在があるらしい。
役に立っているようで良かった。
家の住み心地は悪くなかったので、すぐに引っ越した。
前の小屋は解体せず、倉庫として今後も活用していく。
家のホールの天井に、鳴子らしき物が設置された。
鳴子から糸が伸びており、その先はザブトンが寝床にしている大きな木の上だ。
これは家の中でも、ザブトンからの合図を聞くための工夫だ。
今後は、木を叩くと同時に、鳴子も鳴らしてくれるらしい。
ありがたい。
今年も子犬がたくさん増えた。
数えるのは不可能なレベルだ。
その中で二頭、フブキと同じような真っ白な子犬がいた。
一定の確率で産まれる隔世遺伝かなにかだろうか?
二頭の区別が付くようになったら、名前を付けてやろう。