クロ達の求婚とキノコ
今年もザブトンの子供たちが旅立っていく。
寂しい。
しかし、残ってくれる子供もいるし、新しい子供もいる。
ある程度の覚悟はしていたので、泣いたりはしない。
最初に生まれ、残っていたザブトンの子供の大きさが、ザブトンの1/4ぐらいの大きさになった。
かなりのサイズだが、ザブトンに追い付くのはまだまだ先になるだろう。
……
一瞬、どれぐらいから子供を産み始めるのだろうと考えてしまった。
北側の果実エリアの拡張を考えるべきか。
クロたちの角の生え変わりが始まり、角を拾い集めるのに少し苦労した。
飾ってやりたいが、スペース的に厳しくなりつつある。
仕方なく、まとめて食料用の地下室に収納しておく。
角が生えると、パートナー探しの旅に出るから、それまでに色々と遊んでやる。
フライングディスクは……投げると、激しい争奪戦が始まるので遠慮した。
そこで、球状に加工した木を獣の皮で包んだボールを用意した。
かなり評判が良かった。
俺が居なくても、それで十分に遊んでいる。
二~三十個ほど作って渡してやる。
置き場所を決めておけば、夜には戻っている。
賢い。
あと、狩りの練習用として太い木を猪の形に彫ってみたら、一日持たずにボロボロにされた。
足とか太めにしたんだがなぁ。
猪を作った後、クロが俺の前でなにやらアピールするので、どうしたことかと少し考えて答えを出した。
自分を彫れということだろう。
彫ってみた。
ちょっとワイルドさを強調して。
なかなかの出来。
クロも満足気味だ。
問題は……飾る場所だよな。
大きな木に作った社の近くに狛犬のように配置した。
狛犬ならペアだなと、ユキを彫ってみた。
なぜだろう。
普通に彫ったつもりなのに、クロよりもワイルドに感じる。
……
俺の腕が上がったからだろうな。
クロが自分の彫刻を見に来て、ユキの彫刻にビクッとしていたのには少し笑った。
水路を作りながら、食事に魚を利用できないか考える。
ドロ臭ささえなんとかなればと思っていたら、リアたちが解決策を知っていた。
なんでも、綺麗な水の中に数日置けばドロ臭さは無くなるそうだ。
貝の砂抜きみたいなものか?
ともかく、やってみた。
大きな岩を削って水槽を作る。
そこに川の水……
「川の水以外じゃないと駄目なのかな?」
川の水は飲めるが……
「川の水でいいですよ。
しばらく、何も食べさせないのが大事らしいですから」
「なるほど」
むう。
白身魚。
なかなか嬉しい味だった。
塩を手に入れていて良かった。
定期的に魚を捕まえて、水槽に放り込むことにしよう。
食事が豊かになるのは良いことだ。
クロの子供……孫、ひ孫かな?
パートナーを探す者達が、旅立っていく。
それなりの数が旅立ったが、予想した数よりも少ない。
去年生まれのうち、半分ぐらいが残った。
そして、旅立ちの少し前に、とうとう目撃してしまった。
メスによるオス確保の方法。
まず、求愛する。
駄目なら勝負して負かして従わせる。
メスが複数バッティングした時は、メス同士で話し合いか喧嘩が行われる。
メス同士の話し合いや喧嘩の最中も、オスを逃がさないように協力はしている。
どうも、メスの方が強い感じだ。
オスの方は、基本的に待ち姿勢。
と言っても寝ているだけではなく、狩りをして自分の強さをアピールする。
オスは気に入った相手からの求愛なら、そのままパートナーに。
気に入らなければ勝負となり、勝って別の相手を待つが……勝率はあまり良くないみたいだ。
稀にオスから求愛に行くこともあるが、その場合は断られても勝負しない。
なるほどなぁ。
しかし、見た感じ……戦っても死傷するレベルには達したりさせていない。
生え変わったばかりの角が折れることもない。
となると……クロとユキに初めて会った時の怪我はなんだ?
ユキのお腹が大きかったから、求愛の戦闘ではないということだろう。
パートナーとなり、励んだ後……クロとユキは何かに襲われたということか。
これまでクロとユキを見ているが、あの二頭はかなり強いと思う。
ここでの生活で強くなったということもあるだろうが、あの二頭の角を折るレベルで攻撃し、敗走させた生物が居るということだろうか。
……
クロやザブトンの子供たちに囲まれ、ずいぶんとゆったりした生活をしていたが、気を引き締め直そう。
用心はした方が良い。
キノコの話。
俺はこの森に足を踏み入れてから、触れなかった物がある。
それがキノコだ。
キノコ。
俺の中のイメージは二つ。
美味いと毒。
見知ったキノコでも、似たようなモドキがあるので注意しなければいけないのがキノコ。
森で見掛けるのは見知らぬ色と形のキノコ。
そんなキノコを食べる気にはなれず、普通に【万能農具】で耕していた。
つまり、キノコは諦めていた。
キノコって畑で作るものじゃないしな。
そんな俺が、唐突に閃いた。
きっかけは、木材用にと切り倒していた木に生えたキノコを見た時。
土を【万能農具】のクワで耕せば、畑になり、作物ができた。
ならば、木を【万能農具】で何かすれば、菌床になり、キノコ系の作物ができるのではないか?
マツタケとは言わない。
シイタケが欲しい。
俺は木を相手に色々とやり、シイタケを求めた。
結果。
多くの廃棄木材を生み出しながらも、成功した。
そして再確認した。
【万能農具】で大事なのはイメージと土台。
作りたい物を明確にイメージし、それに相応しい土台を用意してやればいい。
土台が、畑であり、菌床だ。
なので、欲張ってシメジもやってみた。
成功。
この時、俺のイメージは前の世界のスーパーでよく見かけるブナシメジ。
高級品らしいホンシメジは、見た事が無いのでイメージできなかった。
次は美味いキノコのイメージでやってみた。
ブナシメジができた。
駄目か。
マツタケができると思ったが……
と、ここで気付いた。
マツタケは木じゃなくて地面から生える。
地面を耕しながらマツタケをイメージしたが、失敗。
条件が揃ってないのだろう。
マツタケは、赤松の近くにできやすいと聞いたことがある。
マツタケの土台として、赤松を用意しなければいけないのかもしれない。
とりあえず、長くなるだろうけど赤松を数本育てることにした。
ふふふ。
マツタケ。
期待しよう。