蛮族?
俺は少女の前に出ると、クロたちを少し下がらせ、とりあえず身を隠す物をと自分の上着を脱いで纏わせようとした。
少女はそれで余裕を取り戻したのか、俺のもとに近付いてきた。
「安心しろ」
そう俺が言うと同時に、少女は俺の首筋に噛み付き、血を吸った。
少女の姿が、急速に成長する。
さっきまでは小学生低学年だったのが、高学年サイズに。
傷だらけの身体は、一気に回復してツヤツヤの肉体になっている。
「え? え? え?」
血を吸われていることや、目の前の少女の変化に俺が驚いて身動きを取れずにいると、クロが体当たりして俺と少女を引き離した。
その後、他の犬たちが少女をボコる。
「待って、違う。
攻撃じゃない、やめて」
フブキの突進で、少女の身体が空中に放り出され、落下する前に他の犬によってまた空中に放り出される。
少女が空中で体勢を整えようとすると、高くジャンプした他の犬が上から地面に叩きつける。
フルボッコだ。
その様子に、俺は冷静さを取り戻す。
「あー……待て待て」
俺はクロたちに待てをする。
クロたちは、素直に従ってくれるが、すぐに襲い掛かる体勢は崩さない。
クロたちによってボコボコにされた少女は、またもや傷だらけで身体のサイズは低学年ぐらいに戻っていた。
いや、最初に見た時より小さくなっている。
「お前は、俺の敵か?」
「ち、違う、違うからこいつらを下げてっ!」
「俺の血を吸ったのに敵じゃないと?」
目の前の少女は吸血鬼だろう。
人間の姿で血を吸う生物なんて、それ以外に思いつかない。
「血を吸ったのは謝るから。
あのままだと消滅するところだったのよ」
「血を吸って、回復すると?」
「そう」
だから、クロたちは組み付かなかったのか。
油断すれば、血を吸われるから。
「血を吸われた俺に、何か影響があるのか?」
吸血鬼に血を吸われたら、下級吸血鬼になるとか良く聞く話だが……
「……た、多少の魅了効果があるはずだけど……アンタには効いていない」
「俺も吸血鬼になったり……アンデッドになったりは?」
「しない。
血をもらう相手をそんな風にしたら、血がもらえなくなるじゃない」
「……なるほど。
つまり、現状……俺に何も問題は無いと」
「うん。
血を吸ったのは私の回復手段なだけだから。
こ、この地に来たことが罪ならそれも謝るわ。
だから見逃して」
……
…………
俺は考える。
「とりあえず、もう少し血を吸うか?」
俺の提案に、少女とクロたちが少し驚いたようだ。
「い、良いの?」
「構わない。
敵じゃないんだろ」
「あ、ああ……」
少女は遠慮しながら、俺の首筋に噛みついた。
チューチューと吸われている。
少女の身体が、小学生低学年から高学年、そして中学生ぐらいのサイズになる。
身体の傷も綺麗に消える。
不思議な光景だ。
「ふう……」
少女は満足気な表情を見せてくれる。
俺は自分の身体をチェックする。
それなりに吸われたと思うが、まるっきり影響が無い。
前の世界に居た時、血を抜かれた経験がそれなりにあり、ヤバイ状況は感覚的にわかるつもりだが……
血が減った気がしない。
「もう少し、どうだ?」
俺はさらに血を薦める。
「え?」
「いいから、いいから」
「う、うむ……感謝する」
少女はさらに血を吸う。
中学生ぐらいのサイズから、高校生ぐらいのサイズになる。
やはり、血が減った気がしない。
いけるか。
「もう少し飲めるか?」
「の、飲めるけど……」
少女はさらに血を吸う。
高校生から、大学生ぐらいの身体になった。
「ふう……さすがにこれ以上は……」
げふっといった感じで少女……いや、少女ではないな。
美しい女性が、俺の傍に居た。
血をそれなりに吸われて平気なのは、この世界に来る時に神様にもらった特典のお陰だろう。
【健康な肉体】
先ほど、彼女が言ってた俺に魅了が効かないとかも、それが原因かもしれない。
ともかくだ。
俺の目の前には、美しい女性が居る。
しかも、全裸で。
……
俺はクロたちに解散を伝え、彼女を俺の家に招待する事にした。
「え、え、え?
なに、ちょっと……え?」
俺の行為は蛮族だろうか。
同居人が増えた。
注)襲ってません。